札幌の秘密兵器と言える3ピースバンド、Jake stone garageが約3年半ぶりとなる新作をリリースする。札幌を拠点に活動を始め、2011年に現編成となった彼ら。同年2月に発表した1stフルアルバム『ROCKS』が話題となり、“RISING SUN ROCK FESTIVAL”にも出演を果たすなど、着実に支持と評価を高めてきた。そんな彼らが2015年夏よりレーベル移籍を機に東京へと活動拠点を移し、遂に全国のロックシーンへ衝撃をもたらすべく動き始める。これまでの作品にも関わってきた深沼元昭(Mellowhead/PLAGUES/GHEEE)をプロデュースに迎え、その楽曲とサウンドに磨きをかけた今作。ブルース/ガレージ/オルタナティブを独自に昇華したダイナミックで衝動感溢れるバンドサウンドと、鋭いエッジと強烈なフックを持った歌はさらなる進化を遂げ、セルフタイトルにふさわしい自信と覚悟に満ちた傑作を生んだ。
●フルアルバムとしては2011年の1stフルアルバム『ROCKS』以来となりますが、現メンバーになったのもその年なんですよね?
ワタナベ:この3人になったのは、2011年ですね。
西:僕は『ROCKS』を出した後に入ったんです。
●現メンバーになる前から、3ピースで今の音楽性だった?
ワタナベ:そこはずっと変わっていないですね。僕がこのバンドでやろうと思っているのは、生身の人間がぶつかり合うようなもので。仲良く協力して音を鳴らすというよりは、それぞれが主張してぶつかり合うような音がやりたかったんです。やっぱり人間同士なので、お互いに不完全で曖昧なところも見えるものじゃないですか。でもそれが面白いし、潔くて美しいなと思うんですよ。そこに僕は一番の魅力を感じていたので、自分のバンドも最少人数でそういうことをやりたいなというところで始めました。
●そうするには、メンバーの個性も重要というか…。
岩中:そこはバッチリです。
●自分で言っちゃった(笑)。
ワタナベ:いや、でもプレイは信頼していますよ。司(西)も若いけど、しっかりとしているし、ちゃんと考えてくるから。英明(岩中)は野性味溢れる感じで、プレイはとても信頼しているけど…。
●“プレイは”って(笑)。
ワタナベ:プライベートで会って喋ったりはしないですけど、プレイはすごく信頼しています。
岩中:“セフレ”みたいなもんですよ(笑)。
一同:ハハハハハ(笑)。
●プライベートでの付き合いはない?
ワタナベ:彼ら(岩中と西)はたまに呑みに行っていますね。2人はお酒が好きなんですけど、僕はお酒を呑まないので…。(岩中は)酔っぱらうと、すごく面倒くさいんですよ。
岩中:俺は呑んだらドラムが叩けなくなるんですよ。だから逆に叩いていない時は、だいたい呑んでいたいっていう(笑)。
●そういうところが人間的にアレなんでしょうね(笑)。西くんは?
西:基本的にこの2人(ワタナベと岩中)がこういう感じで、真面目とバカっていう…。
岩中:おいっ! (笑)。
●「バカ」って言い切った(笑)。
西:僕はその間くらいですね。
ワタナベ:僕は考えすぎちゃうほうなんですけど、英明はその真逆だからバンドとしては上手くいっているのかなと。3人全員が僕みたいな感じだったり、逆に全員が英明みたいな感じだったら、おかしくなっちゃうと思うんですよ。
●このメンバーになったことで、バンドとして固まったところもある?
ワタナベ:僕がやっていることは正直あまり変わらないんですけど、洗練されたかな。意見が多く出る人たちなので、より洗練されて成長している感じはありますね。そういう意味では、今が一番良いと思います。
●実際、どういったところに成長を感じますか?
ワタナベ:あえて作品化はしていないんですけど、4〜5年前からずっとライブでやっている「DEEP IN」という曲があって。その曲の中盤で、フリーな場所があるんですよ。たとえばベースだけ5拍子のままで、ドラムは8ビートに変わって、僕も全く違うコードを弾いたりとか…。そういうアドリブみたいなものが一緒にやっていて、すごく面白いんです。「そう来るか!?」っていうものが毎回あるというか。
●即興でもやれるし、面白いアイデアも出てくる。
ワタナベ:そういう“遊び”が、このメンバーになる前は少なかったんですよね。以前は「決められたことをやってナンボ」みたいなところだったんですけど、今は曲順をライブ中に変えたりもしているんです。
岩中:急に1曲追加したりしますね。
●それでも全員、対応できると。
ワタナベ:そういう余裕とか“遊び”みたいなことが、このメンバーになってからできるようになってきたんですよね。そこが自分としては、とても成長できている部分なのかなと思います。
●曲作りも3人でやっているんでしょうか?
ワタナベ:原曲は全部、僕が作ってきます。基本的には僕がメロディとざっくりとした構成を作って、スタジオでメンバーに口頭で伝えるんです。
●口頭なんですね。
ワタナベ:ウチのバンドは基本的にデモを作らないんですよ。「このリフから始まって、Aメロのメロディはこうで…」みたいなものを口で伝えてから、だいたい1時間で1曲くらいできますね。それを録音したものを各々が持ち帰って、メンバーから「ここはこう変えてみない?」みたいな意見をもらいつつ練っていく感じです。
●練っていく過程で、原曲とは変わったりもする?
ワタナベ:すごく変わりますね。僕が考えてきたものを尊重してくれるので、最初はそのままやってくれるんですよね。その後で「ここはこうしたい」とか「リズムを変えたい」とか色々なアイデアを出してくれるので、音楽的にはすごく助かっています。英明はたまに「全部やめたら?」とか言って全く違うドラムを入れてきたりするので、僕は「あああ…」ってなりますけど(笑)。
●そういうアイデアも試してみるんですか?
ワタナベ:1回は受け入れます。やっぱり、一度やってみないとわからないところはあるから。やっている時は「イマイチかな?」と思っていても、録音したものを後で聴き直したら「良いね!」となることも結構あるんですよ。曲はとにかく色々と試してみる感じですね。
●そこは柔軟性がある。
ワタナベ:僕は良いものなら何でも受け入れられるんですよ。だから、良ければバラードもやるわけで。今作でゆったりめの曲はM-5「幻」とM-8「雨にとける」だけですけど、もっと遅い曲を作っても良いと思っていて。人の琴線に触れられれば良いというか。やってみて人の心が振動してくれるのであれば、激しい曲でもインストでも弾き語りでも何でも良いんですよね。とにかく共鳴するようなものが作りたい。
●人の心を揺らすものというか。
ワタナベ:そうですね。でも自分たちが絶対的に良いと思ったものが、もちろん最初にあって。
●そこの感覚はメンバーで共有している?
ワタナベ:共有している部分があるというか。その3人が重なっている部分を狙って、曲を作るようには意識しています。でも重なっていない部分も尊重したいので、2人には他でのサポート活動もどんどんやって欲しいし、僕自身もソロでのライブをやっていて。その中で重なる部分が少しずつ変わってきても面白いし、そういう関係で良いんじゃないかと思うんですよね。
●バンドとしても変化を恐れていない?
岩中:俺らが同期を使わないのは、それに縛られる感じが嫌だからという理由があって。たとえば同じ曲をやっていても、その日のノリとかメンバーのテンションによっては(演奏のテンポが)走っていたほうが良いこともあると思うんです。カチッとしすぎていると、つまらなくなっちゃうんですよね。だから同じ曲をずっとやっていても、自分なりの変化というか面白みを出したいというか。出ている音から気持ちみたいなものを汲み取って、その日一番良い音を出すことに力を注ぎたいから。
●変化というところでは、バンドの活動拠点を東京に移したそうですが。
ワタナベ:はい。今後はバンドとしての拠点が東京になります。レーベルも移籍したので、心機一転というところがあって。今までとは違う見せ方をするべきだと思ったし、本気でやっているという覚悟を見せたほうが良いなと。
●今回の作品は上京することが決まってから作ったんでしょうか?
ワタナベ:今回はそういう話を深沼さん(※深沼元昭:Mellowhead/PLAGUES/GHEEE)としてから、制作に入りましたね。
●今回は深沼さん主宰のLAVAFLOW RECORDSに移籍してのリリースなんですよね。
ワタナベ:今までは外部から深沼さんに頼んでいた形だったので、“サウンドプロデュース”というイメージが近かったんですよね。だから、深沼さんも基本的にはバンドと(前所属の)事務所がやりたいことを尊重してくれていたんです。でも今回は僕から最初に「深沼さんのレーベルでやらせてもらえるなら、もう一歩踏み込んだ形で一緒にやりたいです」という話をして。
●今までよりも深く作品に関わっている。
ワタナベ:選曲から曲の構成、歌詞の言葉選びまで「もうちょっとこうしたほうが良いんじゃない?」ということをたくさん言って頂きました。「そこまで深く聴いているのか!?」とか「確かに全体で見たら、こっちだな…」と思うことがとても多くて、すごく面白かったですね。やっぱり自分で作って演奏していると、どれだけ客観的に見ようとしても結局は主観になってしまうんですよ。
●そこは避けがたいですよね。
ワタナベ:深沼さんは自分で3ピースバンドもやりつつ、サポートミュージシャンとしても活動していて、色んなプロデュースやミックスもやられているので、色んな立場から見られているんですよ。バンドの気持ちをすごくわかってくれるので「サトシくんの立場ならそう思うのはわかるよ」と言いながら、「でもこっちから見たらこうじゃないかな?」という言い方をしてくれて。「確かにそうだな」と思うし、新しい発見がすごくあるので楽しかったですね。
●これまでの作品でもプロデュースはしてもらっていたわけですが、また新たな発見や楽しさがあった。
ワタナベ:毎回、一緒にやらせて頂く度に新しい発見がありますね。あと、やっぱり今回は深沼さんも一歩踏み込んでやってくれているので面白かったんですよ。すぐまた次の作品を作りたいくらいです(笑)。
●今回は9曲入りですが、曲のストック自体はもっとあったのでは?
ワタナベ:これも深沼さんからのアイデアで、「あまり長々と聴かせないほうが良い」と言われたんですよね。スッと聴き終わって「気持ち良かったな。もう1回聴きたいな」と思えるくらいのサイズにまとめたほうが良いと。「今回は東京に進出して1枚目のアルバムで初めて聴く人もたくさんいるので、そういう人にスッと聴いてもらえるようなボリュームにしたほうが良いと思うよ」というアドバイスを頂きました。
●初めて聴く人が入りやすいようにというか。
ワタナベ:あまり曲数が多く入っていたら、聴く側も大変だと思うんですよ。「もう一度聴きたいな」と思うくらいがちょうど良いんだなと。こうやって1枚の盤になってみて、深沼さんが言っていたのはこういうことだったのかとわかりましたね。
●自分たちの成長も感じられる一枚になったのでは?
ワタナベ:それぞれがここ1年くらいで外仕事をやり始めたんですよ。メンバーは色んなサポート仕事をしたり、僕自身もソロではハンドマイクで歌ってみたりもして。そういうことをやってきた上での今作なので、それぞれにスキルアップはしているし、精神的にも成長していると思うんですよね。だから何も考えずにやっても、きっと成長したものにはなるだろうなと思っていました。
●そこは作る前から予感していたと。
ワタナベ:やっぱりライブや曲作りをやっている中でもちょっとずつ成長しているなという感覚がいつもあるし、新しい発見もあるから。そういうものを積み重ねた結果、3人の交わっているところがより濃くなって、面白い作品になるだろうなとは思っていましたね。
●それぞれがバンド外で活動してきた成果も今作に出せている。
岩中:すごく出ていると思います。最近はすごくシンプルになってきたんですよ。加入したての頃は手数で埋めていた時期もあったんですけど、より少ない音数でノセるというのが最近は気持ち良くなってきて。だから今作でもそんなに難しいことはしていなくて、シンプルな感じになっているんです。そういう感覚も、サポート仕事をやる中でわかってきましたね。
西:僕も外で吸収したものをJakeで出せているなと思います。元々は目で見ても楽しめるような華のあるプレイヤーに僕は惹かれるんですけど、サポートしているのは歌もの系の方が多くて。そういう場合だと自分が見せるというよりも、ちゃんと音でお客さんをノせるということのほうが重要なんです。最近はそれを意識して、Jakeでもできているかなと思いますね。
●個々に進化を実感できているわけですね。
ワタナベ:進化していると思います。自分で言うのも何ですけど(笑)、僕は単純に歌が上手くなったと思うんですよ。
●それは技術的な部分で?
ワタナベ:技術面もありますし、あとは昔よりも耳が良くなったと思います。よく聴くようになったというか、そこも意識の問題だと思うんですよね。昔は勢いが一番大事なのかなと思っていたんですけど、最近は緊張もしないし、変に興奮しすぎたりもしないんですよ。ちゃんと音を聴いて心地よく演奏しつつ、振りきれるところは振りきってというところが自分の中で消化できているなと思います。
●自分たちの演奏に対する意識も変わった。
ワタナベ:勢いだけじゃなくなって「もっと良い演奏を」と考えると、周りの音や自分の音をもっと聴くようになるんです。ライブハウスの空気やイベント全体の流れを見るようにもなって。最近はそういうことも考える余裕が出てきたというのは、きっと精神的に成長しているからだろうなと。精神が成長すると、音も技術も含めて全部が成長すると思うんですよ。
●精神的な成長が大きい。
ワタナベ:リリースできなかった時期は悶々としていたんですけど、それも成長につながったのかなと。リリースできない気持ちがわかった上で、音源を出すというのは今までと感覚が全然違っていて。すごく大事な作品だからこそ、今回はすごくこだわったんですよね。マスタリングも1回仕上がったものがどうしても納得いかなくて、やり直しさせてもらったんですよ。それで完成が少し遅れちゃったりもしたんですけど、どうしてもやりたかった。もしかしたらこれがバンドとしても、自分の人生としても最後の1枚になるかもしれないわけだから。
●それくらいの覚悟で挑んでいたんですね。
ワタナベ:他人に「聴いて下さい」という前に、自分の気持ちに澱みがない状態にしたかったんです。後で振り返れば歌詞や演奏で「もっとこうすれば良かった」という部分はもちろんあるんですけど、そこに関してもその時のベストは尽くしたつもりだから。「今やれる最高のものができたので聴いて下さい」と言えるものにしたかったんですよ。
西:本当に今のJakeの良さが全部詰まっていると思います。
●ちなみに、曲順にも何かイメージがあったんでしょうか?
ワタナベ:曲順はライブを想定しています。基本的に、頭から“ドン!”といくライブが好きなんですよ。それで中盤はちょっと聴かせる感じで、最後はもう1回“ドン!”という感じの流れになっていて。そういうライブが僕は好きなので、音源もそうしているつもりですね。
●確かにM-1「Alice on edge」はイントロから、すごくインパクトがありますよね。
ワタナベ:この曲は主人公の女性が現状に不満を抱いていて、もっと理想に近付きたくてもがいているという歌詞になっていて。“現状に満足せず、もがきながら前に進んでいく”という内容なんですよね。
●自分たちの心境にも重なるところがあるのでは?
ワタナベ:バンドもそうですけど、「もっと先に進みたい」という想いがあって。「自分たちの音楽は良いはずだから、もっとたくさんの人にもっと深く聴いて欲しい」という想いもあるし、「世の中には良くないところがたくさんあるよな」という想いも含めて、色んな意味での“現状否定”ですね。
●現状を変えたいという想いがあるから、上京もしてきたわけですよね。
ワタナベ:そこにもつながりますね。やっぱり自分から何か行動を起こすべきなんですよ。そして損得とかじゃなくて、純粋な気持ちを持って行動を起こすべきだと僕は思うんです。
●というのは?
ワタナベ:僕らの音楽は人の心に届くものを目指しているし、僕自身も音楽に救われてきたところがたくさんあって。悲しい時には悲しい曲が聴きたくなるし、楽しい時には楽しい曲が聴きたくなるものじゃないですか。音楽はそういうふうに、人の気持ちや人生に寄り添うものだと思うんですよね。僕らの音楽もそうやって、みんなの1ページになってくれたら良いなと思いながらやっているんです。
●リリース後にはツアーも予定されていますが、ファイナルの渋谷CLUB QUATTRO(以下クアトロ)は過去最大キャパですよね?
ワタナベ:最大です。バンドにとっては正直、挑戦ですね。深沼さんから「クアトロというのは東京でもロックバンドが必ず通る登竜門的なハコだから、東京に出てきてアルバムを出して一発目のワンマンは絶対にクアトロでやるべきだよ」と言ってもらって。バンドがそのくらいの覚悟で今回臨んでいるというところを周りにもちゃんと見せるべきだと思ったので、メンバーと相談して決めました。
●ファイナルに向けて気合も入っているのでは?
西:もう気合しか入っていないですね。僕たちはライブバンドだと思っているから。もちろん音源にも自信はあるけれど、やっぱり一番はライブに来て欲しいという気持ちが強いんです。
岩中:僕は別のバンドで1回、クアトロのステージに立ったことがあるんですよ。その時にJakeでも出たいなと感じていて、自分の中では憧れのハコだったんです。それが東京に出てきて1枚目のアルバムのリリースツアーファイナルでやれるということで、本当に願ったり叶ったりというか。不安もありますけど、「やってやるぞ!」という気持ちですね。
Interview:IMAI