「孤独の中にある美しさ」を音楽を通じて表現し、唯一無二の世界観を作り出す孤高のバンド、chouchou merged syrups.がメジャーデビューを果たす。残響recordから発表したミニアルバム2枚に続く、待望の1stフルアルバムとなるのが今回の『yesterday, 12 films later.』だ。カオティックで攻撃的なサウンドと、それに相反するような内省的な歌詞と透明感のある憂いを帯びた歌声という持ち味はそのままに、メロディのフックを増した今作。深化した世界観をこれまで以上に広い世界へと届ける力を持った渾身の1枚が完成した。
●chouchou merged syrups.が音楽を通じて表現するのは「孤独の中にある美しさ」ということですが、これは最初からあったテーマなんでしょうか?
川戸:最初からあったと思うんですけど、自分が何を表現したいのかというのを明確に言葉で表せていなかったんです。でも最近になって「自分が伝えたいことは何なんだろう?」と考えていたら、「孤独の中にある美しさ」なのかなと思って。
●「孤独の中にある美しさ」とはどういうイメージ?
川戸:私は自分のことをすごく孤独だと思っていて、こうやって仲間がいたりしても「孤独だな」と感じるんです。たとえば心の病気を持っている人がいたとして、リストカットをしている。その人がなぜリストカットをするのかというと「生きたい」からであって、そういう部分に私は魅力を感じるんですよね。みんなが言う「人の汚い部分」みたいなところにすごく魅力を感じるので、その「生きたい」という気持ちもすごく美しいなと思うんです。それが「孤独の中にある美しさ」ということで。
●孤独で心を病んでいる中でも「生きたい」と思う気持ちの美しさというか。
川戸:「自分はなぜ音楽をやっているのか?」と考えた時に、「音楽に救われたからなんだな」というのを最近すごく感じるんです。私自身、心の病気になったことがあって。それが音楽を始めて、夢中になっていく中で治ったんですよね。だから、今もバンドを続けているのかなと思います。
●最近になって、そういうことを考える機会があった?
川戸:音楽を一緒に始めた友だちがいるんですけど、その子も心の病気を持っていて。音楽を一緒にやっていく中で、お互いに病気が治ったんです。その頃のことを最近、よく思い出すというか。ずっと思っていたことではあるんですけど、やっぱりメジャーデビューというキッカケはあったのかな。その子と夢を語った時に「メジャーデビューしような!」みたいなことを言っていたので、それで思い出したんでしょうね。
●メジャーデビューをキッカケに思い出したと。
鳥石:僕もメジャーデビューというタイミングで思い返したことがあって。高校を卒業してから会社員をやっていた時期があるんですけど、当時はもう24時間営業くらいの勢いで働いていたんですよ。それによって何もしたいことができないような状況になって、「このままで良いのか?」と考えたんです。
●人生に対する自問自答があった。
鳥石:「自分は何が一番好きなのか? 何に夢中になれるのか?」ということを考えた時に、「音楽だな」となって。そこで地元から引っ越そうと思って、住むところよりも先にまずバンドを探したっていう(笑)。地元を離れる時も「音楽をやるために出る!」って啖呵を切るような感じだったので、メジャーデビューできたことで1つの夢は叶ったのかなと思います。もちろん、まだ続きはありますけどね。
●今作『yesterday, 12 films later.』はメジャーデビュー作ということで、何か特別なイメージはあったんでしょうか?
川戸:コンセプトはないんですけど、前作と比べると変わった点がいっぱいあって。これまでは、私がメロディや歌詞を考えることが多かったんです。でも今回はメロディをみんなで考えたり、歌詞も吉塚の書く量が増えたりして。あと、聴いてもらう人のことを前よりも意識した作品ではありますね。
●吉塚くんの歌詞を書く量が増えた理由とは?
吉塚:僕は学生時代に作詞作曲をしていたので、元々は自分で歌詞も書いていたんですよ。だから自分の作った曲に対しては「こういう想いがあったりするんだよな」と前から思っていて。それをちゃんと自分自身で表現できるように、歌詞を書いてみたいなというのがあって今回は挑戦してみた感じです。
●今まで吉塚くんは歌詞を書いていなかった?
川戸:今までには「白昼夢は色彩の無い」(2ndミニアルバム『clepsydra』収録)という1曲だけで、他は私が全部書いていました。
吉塚:作詞が(川戸の)負担になっている部分もあるかなと思ったので、「僕も歌詞を書きます」と言って。それで今回は6曲、歌詞を書かせてもらいましたね。
●川戸さんは、他の人が書いた歌詞も自然に歌えたんでしょうか?
川戸:それが嫌だったり、感情が入らないということは意外となくて。(吉塚の)思っていることや言っていることがすごくわかるので歌詞もスッと入ってきたし、歌うのが楽しいですね。
●歌詞で伝えたいことや感覚に通じる部分がある?
吉塚:自分も歌詞の根本には“孤独”というものがあるみたいで、言っていることが似ているなと思うところはあります。僕は学生時代にずっと周りから見下されているような感覚があったんですよ。
●…ほう?
吉塚:単純に自分が人見知りで他人と喋れなくて輪に入れなかったからなんですけど、それでどんどん引きこもりになっていって…。でも引きこもりになってから、僕はギターを始めたんですよ。その時は自分が1人であることに対する不満やフラストレーション的なものをずっと音楽にしていたんです。表現の方法は違うんですけど、「孤独の中にある美しさ」というところにちょっと通じるものはあるのかなと。
川戸:似ている部分があったから、私も(吉塚の)センスに惹かれたのかもしれないなと思いますね。元々、別の3ピースバンドをやっていた時は自分で作詞作曲をしていたんですよ。でも吉塚と一緒にやり始めた時に、ギターのフレーズが良いなと思って。それで吉塚が作った曲を聴かせてもらったら、メチャクチャ良かったんです。そこから吉塚の曲が増えていきました。
●作曲のクレジットはバンド名義になっていますが、吉塚くんがメインで作っている?
吉塚:いや、僕が作るのはギターのコード進行と展開ぐらいで、他のパートはそれぞれに考えてもらっているんですよ。他のメンバーも曲を持ってきてくれることがあって、そこからみんなで作っていくので作曲は全部バンド名義にしていますね。
●今作で他のメンバーが持ってきた曲というと?
高垣:M-8「irony」とM-9「或る種の結論」は、最初の案を僕が持ってきました。
吉塚:あと、M-10「strobila」も元ネタを川戸が作ってきて、そこにギターを乗せてアレンジしていった感じですね。
●みんなで作っていく過程で、原曲とは変わったりもする?
高垣:変わりますね。結構ぶつかる時はぶつかったりもして…。お互いに「これが良い!」と思って意見を言うので、そこを上手くミックスしていくのに時間がかかったりはします。
吉塚:パッと決まる時は速いんですけどね…。作ってはやめてみたいなのを繰り返したりするので、それでなかなか出来上がらなかったりというのは今回のアルバムでもありました。
●今回は過去の作品よりも、歌やメロディが前面に出ている気がしました。
川戸:そこはメロディをみんなで考えたというのが大きいと思います。耳に残るメロディということを考えて、みんなで意見を出し合ったんです。
高垣:僕らも一緒に考えて、「こういうメロディのほうが良いんじゃない?」と鼻歌で歌ってみたりもして。
鳥石:スタジオでは演奏よりも、メロディについて話し合う時間のほうが長かったと思います。
●本当にみんなで作っていったというか。
川戸:でも最初から「みんなで作ろう!」と思って作ったわけじゃなくて。みんなでこうやって作ることができたのは、制作の時間が短かったからこそなのかなと。
●制作期間は短かったんですか?
吉塚:前作から1年4ヶ月あったんですけど、その中で最初の1年くらいは曲を作ってもボツになるというのを繰り返していて…。ボツになったものは20〜30曲くらいあると思います。今回はその期間に作った中から厳選したものと、急遽作ったものを組み合わせた感じですね。時間がなかったからこそお互いに本気で言い合えたし、そういう関係になれたのは良かったんじゃないかなと思います。
川戸:時間がなかったわけじゃなくて、OKラインが高かったのかな…。
●曲を選ぶ上での基準が高かった?
吉塚:何曲も出したんですけど、スタッフから「もう一声!」みたいな感じで言われ続けて。僕ら自身も「どうなんだろうな…?」と半信半疑で出していたので、しかるべき反応だったとは思うんですけどね。でも今回は最終的にそこから選りすぐった曲が集まったので、すごく濃いアルバムになったと思います。
●曲が出揃ったのはいつ頃?
川戸:レコーディング当日に歌詞とメロディができた曲もありますね。それがリード曲のM-2「ラストダンサー」なんですけど、この曲は歌入れの直前にできたんです。リード曲にしたいなとは思っていたので、ギリギリまでずっと考えていて。最終的にはすごく良い曲になったと思います。
●この曲をリード曲にしたいと思ったのは、自分たちらしい曲だから?
川戸:自分たちらしいですね。
高垣:曲をたくさん作ってもどれもボツになる中で、「じゃあ、どんな曲を作ったら良いんだ?」みたいな感じになった時もあって。でもそこから1周まわって戻ってきて、(自分たちらしさの)精度をより高めたのが「ラストダンサー」だったという感じがしています。
●色々と考えた結果、1周して自分たちらしいものに戻ってきた。
川戸:考えすぎてわからなくなっていた時に、「結局、自分たちがカッコ良いと思えるのは何だろう?」と考えたんです。
鳥石:1周まわって、初期衝動に戻ったような感じですね。
吉塚:色んなことを言われていたんですけど、1回全部忘れて「やりたいことをやろう」となった時にできた曲だと思うんですよ。だから自分たち的にも、この曲をやっているとすごく気持ち良いというか。「これはカッコ良いな!」と思えたので、そういう意味でメンバー全員の思い入れも一番強かったし、自信を持って「ラストダンサー」をリード曲に選びました。
●1周する中で、自信も増したんでしょうね。
吉塚:その1周がすごく大事だったと思うんですよ。1周していなかったら自分たち的に「どうなのかな…?」と今でも思っていたと思うんですけど、色々と考えた結果として「自由にやるのが一番良いんだ」という感じで思い切れたというか。
川戸:今回のアルバムを作れたことがかなり大きいですね。
●タイトルの『yesterday, 12 films later.』には、どんな意味を込めているんですか?
吉塚:これは僕が考えたんですけど、“昨日、12本の映画を観た後で”みたいな意味なんです。今回は曲を作っている段階から「映画みたいな感じだな」と思うことが多くて。本当に衝撃的な映画を観た時って、言葉では上手く説明できないんですよ。今作を聴いて、そういう感覚になって欲しいということですね。言葉で伝えられる以上の体験をして欲しいと思います。
●ちなみに映像といえば今回、「ラストダンサー」のMVでは川戸さんが踊っているんですよね?
川戸:私は昔、クラシックバレエをやっていたんです。元々はバレリーナになりたいという夢があったんですけど、それができなくなってから音楽を始めて。いつかバレエとバンドのコラボをしたいなと思っていた夢が今回叶ったので、ぜひMVも観て欲しいですね。
●リリース後にはツアーも予定されていますが。
高垣:生じゃないと伝わらないところがたくさんあると思うんですよ。ライブを観たくなる作品を作れたと思うので、ツアーにはぜひたくさんの人に来て欲しいです。
鳥石:夏も終わって、もぎたてフレッシュな僕たちを感じに来て下さい(笑)。
川戸:今回のツアーは11ヶ所なんですけど、自分たちのリリースツアーでこれだけまわるのは初めてなので、絶対に観て欲しいです。
吉塚:普通のライブではやらないようなことも実現できたらなと思っているので、楽しみにしていて下さい。僕らの世界観を感じに来て欲しいですね。
Interview:IMAI