THE LOCAL ARTが1年半ぶりとなる、ニューアルバム『8日目の世界』を完成させた。リリース前の8月にはBa.稲垣学が脱退、今後は3人で活動を続けていくことが発表されているが、彼らは決して前進することを止めない。より純度を高めるために作詞作曲からミックス、マスタリング、ジャケット制作までの全てを自ら手がけ、今回の新境地的作品を生み出したVo./Dr.岡田悟志に訊く。
●Ba.(稲垣)学くんが脱退とのことで驚きましたが、THE LOCAL ARTは続いていくと。
岡田:もうやめようかな? って1日だけ悩みましたけど。冷静になって考えたら、やるしかないでしょって。
●今作『8日目の世界』は、また暑苦しい強烈なアルバムになりましたね。
岡田:結局、そうなっちゃいましたね。
●ここ3〜4作続いたドス黒い作風に比べたら、視野が広い感じがします。
岡田:大人になったのかもしれない。文句を言うのは凄く簡単だけど、伝えたい事を発信するためには文句ばかり言ってちゃいけない。そういう気持ちもあるけど、そこを出さないで本質を伝えたいし、もっと人間的なところを歌いたい。
●前のアルバム『人間失格』以降、昨年のシングル『青空』をリリースするまで煮詰まっていたようですが。
岡田:曲ができなかったですね。『人間失格』っぽいのができても感動しなくなって。今回もキツかったです(苦笑)。曲を産み出す事はどんどん辛くなってきてて、達成感はあるけどカラッとはしてない。自分の嫌な部分に向き合って書いてるんで、基本的にテンションは落ちますね。
●人の闇の部分をエグり出すわけですからね。
岡田:そこを心が痛むくらい自分の嫌なところを出していかないと、伝わらない。
●そして、やっと書けた曲がM-4「淡い夢」ですね。曲の爽やかな感じ、何か悟ったような歌詞が新境地だなと。
岡田:スッキリしてますよね。ドギツい事をドギツいサウンドに乗せる曲は散々やってきたんで、「淡い夢」のテーマは逆に軟らかいサウンドに熱い歌詞を詰め込んで、サビには季節感が出る単語を持ってきて、この曲調で本当に言いたいことを乗せたら、より響くと思って。――2011年に地震(東日本大震災)とか起きて、自分や歌の無力さを感じて。「絶対、大丈夫だ」とか綺麗事だと思ってるんで、本当に嫌な思いをした人って、歌とかムカつくと思うんですよ。僕は本当に嫌な思いをした時に、全てが嫌になったので、その気持ちを歌詞にしたかったんです。音楽は国境も何もかも越えるって言いますけど、そういうもどかしさも歌にしたいなと思って。
●ご自身が絶望した時に、歌に救われたことは無かったんですね。
岡田:無かったです。絶望した時に、人に話しても自分の辛い気持ちって伝わらないから。何かを与えたいですけど、僕は与えてもらえる音楽に出会わなかっただけで。だったらそういう音楽を作れるように一生懸命やろうって。そうなりたい。音楽ってどこでも、嫌でも流れてるじゃないですか。それにイライラしちゃって、もうブッ壊れた時期があるんですけど。それでも「これはきっと同じ経験をした人だ」って聴いてもらえるくらいの歌詞を書きたくて。なので「淡い夢」は、凄く大変な思いをした人に聴いてもらいたいです。
●思った以上に壮絶な背景があったんですね。
岡田:でもこうやって話して伝わるって事は、歌詞なんてもっと伝わらない。だから10%でも伝わればいいんですよ。
●M-1「消えない虹」は批判めいた歌でありつつ、何かを掴んだ後の心境なのかなと。
岡田:いろいろと考えた結果、結局、楽しく生きるのが一番良いと思うんですよね。だから、前向きな曲も書きたかった。僕は考えちゃうので、そうもいかないんですけど。
●「消えない虹」は確かに前向きですけど、M-2「生き残りゲーム」とのギャップがもう。
岡田:これ、ヤバいです。最悪な歌だとは思う(笑)けど、結局僕はこうなんで。でも、みんなそうだと思うんですよね。
●今回、より純度を高めるために作詞作曲、ミックス、マスタリング、ジャケット制作まで全部自分でやったそうですが。
岡田:そうです。PV以外全部やりました。
●それも作用したのか、例えば1曲目の後半部分とか、もう何を歌っているのか分からない。
岡田:分かんないと思う(笑)。
●これ、エンジニアさんとかいたら「録り直した方がいいんじゃない?」って。
岡田:言うかもしれない。でも、あれが一発テイクで、自分の本当の気持ちを出して歌えたテイクだったんで、絶対これだ! と思って。あとは歌詞読めよっていう(笑)。
●歌い方は昔からエモーショナルですが、自分でやった効果が出ているのかなぁと。
岡田:そうですね。やっぱ、歌っている奴がやってるんで。
●理想のサウンドに近づけるために。
岡田:これだ! って音にするためには自分でやるしかねぇなって。あと、予算が無いっていうのも(笑)。
●それにしても、ミックスからマスタリングまでやれるもんなんですね。
岡田:2年ぐらい本気で勉強したんで。これからのご時世、死ぬまで音楽やるんだったら、僕らみたいなバンドだと自分らでやっていくしかないから。結局、制作費とかネックじゃないですか。それが無かったら、自分の好きなタイミングでやれるし、もっとやれるし、ずっとやれるじゃないですか。本当に音楽が好きだったら、音までこだわりたいし。僕は凄く勉強して自分の好きな音で全部ミックスしたくて。2年間、こんなに努力した事は無いです。毎日、音楽の事しか考えてないから、これからもっと上手くなっていくだろうし。
●アルバム名、何の事だろう? と思いました。
岡田:神様は7日間で世界を作ったってことは、今が8日目って意味で『8日目の世界』。僕は宗教なんか信じてないですけど。僕らも今、新しい事をしようとしていてリンクしたので、僕らも8日目かなってことで凄く前向きなタイトルです。
Interview:田代洋一