驚異的な熱量を放つ狂気的なライブパフォーマンスで注目を集めてきた生粋の3ピースバンド、The cold tommyがメジャーデビューを果たす。東京スカパラダイスオーケストラ主宰のJUSTA RECORDからリリースされる、今回のミニアルバム『FLASHBACK BUG』。プロデュースに深沼元昭(Mellowhead/GHEEE/PLAGUES)を迎え、さらなる独自進化を遂げたサウンドが理解不能な快感を覚醒させる…。
●M-1「シロサイは穴掘り」というタイトルが何よりまず気になったんですが…。この歌詞は夢の中での情景を描いているんでしょうか?
研井:そこもちょっとよくわからないんですよね…。自分でも意味がわからないタイミングで、急にシロサイが穴掘りを始めるイメージが浮かんで「何でや?」ってなったんです。
●自分でもよくわからない…?
榊原:名古屋への遠征の帰りに研井がすごく車酔いしちゃって、その時に「シロサイが…」みたいなことを言っていましたね。当時は私も意味がわからなくて、「何で急にシロサイが出てきたんだろう?」と思ったんですけど。
研井:(車酔いで)気分が悪いことに集中したいのに、余計なことを考えてしまうというか…。気分が悪いことにも集中できないみたいな感じが嫌だなっていう気持ちを歌詞に書いています。
●要は、車酔いがひどかった時に浮かんだイメージや気分を歌詞にしていると。
研井:だから、ぼんやりした感じなんですよね。詩とかが好きなのもあって。表現力が足りなくてぼんやりさせてしまっているところもあると思うんですけど、一定の美意識みたいなものに基づいて書いているところはあります。自分の歌詞がすごく好きなんですけど、他の人から良いと言われたことはあんまりないんですよね…。
榊原:そんなことないって。私はカッコ良いと思うよ。
●メンバーがフォローした(笑)。
松原:ぼんやりしているからこそ何かのメタファーだと捉えられたり、別の何かが入ってくる余地があるというか。だから「俺もわかる!」っていう共感を引き出すものになっていると思っているんですよね。ぼんやりしているだけじゃなくて、ちゃんと芯みたいなのがあるから。
●自分の抱いた感覚を言語化して、歌詞で伝えている感じでしょうか?
研井:感覚というより“気分”で、それに共感して欲しい。
松原:だから、サビの“帰る”という部分をライブではみんなに言って欲しいんですよね。ライブに来たお客さんと一緒に「帰る!」と叫ぶような曲は他にないと思うんですよ(笑)。
●確かに(笑)。リード曲はM-2「リュカの黒髪」ですが、“リュカ”というのは?
研井:子どもの頃に、兄と同じ部屋に住んでいて。兄が買ってきたドラマCDとかを聴きながら寝ていたりしたんですけど、その時の気分を急に思い出したりすることがあるんですよ。それって理解不能じゃないですか。「シロサイは穴掘り」と同じなんですけど、「何で急にその気分が湧いてきたのかな?」っていう。その気分に名前を付けたら、“リュカ”かなと。要するに自分の中の“理解不能”と会話をしているような歌詞なんです。
●自分の中の言いようがない気分を歌詞にしている?
研井:「何でだろうね?」みたいな。だからライブだと「何でだと思う?」と観客に呼びかけるようなコミュニケーションが取れたら良いなと思っているんです。俺は「何でこういう気分になるんや〜!?」っていう気持ちでライブをやって、お客さんも「私も何でなのかわからない!」と返すというか。そのわからないことに対して祈るような気持ちで「ウォォォ!」ってなれたら、あとはもう幸せな気分が残る…みたいな感じになれたら良いですね。
●衝動が湧き上がる感じというか。
研井:それをそのまま音楽にして、お客さんにもちゃんと届くというライブを目指したいです。「うわ〜!」みたいな気分になれる音楽やライブを取り戻したいというか。そういうものが自分にとっては、どんどん遠くなるような感覚がこの何年かはあって。ライブでそれをちゃんと取り戻すというのが、目指すところですね。
●ライブで初めて聴いた人はなかなか歌詞の意味まで理解できないと思うんですが、単純に音を聴いて「カッコ良い!」となっても良い?
研井:それも良いと思うんですよ。音でブッ飛べたら、「何でや〜?」で「ウォォォ!」ってなるのと一緒だと思うから。でも今までは音が未熟で、バランスが悪かったんですよね。これからはそれを目指していきたい。歌詞をちゃんと理解して来てくれる人が増えたらそういう場所も別で作っていきたいし、初めて聴く人にも単純にカッコ良いなと思ってもらえる音楽をやりたいですね。
●今作をプロデュースした深沼元昭さんとは感覚を共有できていたんでしょうか?
松原:バイリンガルみたいな感じで、言語の違うものも深沼さんを通すと訳されて伝えてくれるので「なるほど」となることが多くて。やっぱり深沼さんもギタリストだから、ギターについて今までわからなかったこともわかったりして。研井も満足そうな顔をしていたので、良かったなと思います(笑)。
●研井くんの頭の中で鳴っている音を具現化するのを手助けしてくれた?
研井:何も言わなくても「この曲ってこうかな?」みたいな感じでやってくれて、それが「あ〜、そうそう!」ってなることがすごく多かったです。
松原:バンドに入り込んで、一緒に考えてくれたのが良かったですね。
榊原:同じ方向を見ている感覚でずっと話ができていたので、こっちが何も言わなくとも(欲しい答えが)返ってくるみたいな感じで。
●メジャーデビューして、今は良い環境でやれている。
榊原:自分たちの気持ちを伝えるのにあんまり言葉がいらない感じがするんです。言葉で伝えなくても、「それそれ!」みたいなのがパッと出てくるから。本当に同じ方向を向いてくれているんだなと感じました。
研井:今は本当に自分たちを理解してくれる人たちばかりが周りにいて、すごく感謝しています。自分たちの作品について、もっと反響がないとおかしいと俺は思っているんですよね。自分が良いなと思った「これ!」というものを初めて聴く人にもっとわかってもらえるようにするにはどうしたら良いかという研究に今回は向き合ったので、今後もそれを続けていきたいと思っています。
Interview:IMAI