2004年の結成以来、国内だけにとどまらないリリース/ライブ活動と、確かな実力と研鑽に裏打ちされたサウンドでその名を海外にまで轟かせてきたポストロック/インストゥルメンタルバンド、te'。Ba.masaが2010年末に脱退するという窮地も、新メンバーとしてBa.matsuda(WRENCH、strobo)を迎え、さらに強力無比なグルーヴとアンサンブルを手に入れることで乗り越えてきた。そんな彼らに、また新たな転機が訪れる。Dr.tachibanaが今年3月のライブをもって、一時脱退することが決定したのだ。今回のニューアルバム『其れは、繙かれた『結晶』の断片。或いは赫奕たる日輪の残照。』は現時点でtachibanaが参加する最後のスタジオ作品ということもあり、te'の今までの活動を振り返るストーリー作品にもなっているという。また、これまで以上に“POP”を意識しつつ、シンセやアコギを取り入れるなど新たな試みにも取り組んだ今作。結果的に現メンバーでの集大成でありながらも、次なる次元へと向かう進化の第一歩的な作品が完成した。リリースを記念してG.kono・Ba.matsuda・G.hiroの3人へのロングインタビューに加えて、Dr.tachibanaへのメールインタビューも合わせた巻頭大特集が実現!
「録り終えた時は“最高だ!”という感じだったんですけど、今は既にもう次の作品を作りたくてしょうがない。集大成的なものを作ろうと思っていたつもりが、次の段階へと進むための階段みたいな感じになって」
●今年3月の渋谷CLUB QUATTRO公演を最後にDr.tachibanaさんが一時的に脱退したわけですが、これはいつ頃に決まっていた話なんでしょうか?
kono:去年の12月くらいですね。当初は今年の6月くらいにレコーディングしようという予定だったんですよ。だから去年の12月頃には曲もある程度はできていて。…というところで急に、(tachibanaから)「4月から参加できなくなる」という話が出たんですよね。そこで急遽、レコーディングをやらなきゃいけないということになったんです。
matsuda:曲も全体の3分の2くらいはできていて、そこから残り3分の1を急いで作った感じでしたね。
●作る準備はしていたけど、レコーディングが予定よりも早まったんですね。
kono:そう、早まったんですよ。
hiro:でもそのおかげでバタバタと良い感じで進んでいって。あと、tachibanaが一時脱退するということで、「最後になるかもしれない」という特別な想いで取り組んだところはありますね。
●「最後になるかもしれない」というくらいの覚悟があった。
kono:一時脱退とはいえ、必ず帰ってくるという保証はないじゃないですか。だから「最後になるかもしれない」という気持ちで、今作までは彼(tachibana)と一緒に録りたいなっていう気持ちはありました。
matsuda:tachibanaが一時的に脱退するという話を聞いた時に「今後どうしようか?」というところで、活動を一度止めるというくらいの話にまでなったんですよ。とりあえず(脱退の期間が)3年間という1つの区切りがあったので、そこまで活動休止しようかということを最初は言っていて。スタジオでは1回「休止しよう」という話になったんですけど、家に帰ってから「やっぱり止めちゃいけないな」と思ったんです。
●思い直したのはなぜだったんですか?
matsuda:やっぱり3年間も活動が止まったら、みんなに忘れられちゃうと思うんですよ。それに戻ってきてまたやれるかと言ったら、できないと思うし。3年後にまた(tachibanaが)できる場所を残しておくっていう選択のほうが良いんじゃないかなと。だから「止めないで、やり続けたほうが良いんじゃないの?」と言って。
●それで続けることになったと。
hiro:ひょっとしたら活動休止になっていたかもしれないんです。でもmatsudaさんが言い出してくれたことで、俺らもハッとなって。
matsuda:スタジオで活動休止と決めて家に帰ってきたけれど、よく考えたら「3年って長いな…」と思って。
kono:ちょうどmatsudaさんが入ってから3年くらいなんですよね。だから、3年の長さというのはmatsudaさんが一番よくわかっているというか。俺らは(結成してからの)10年もあっという間だったという意識があるので、「3年と言っても意外とすぐなんじゃないかな」という感覚があって。
●matsudaさんは3年前に加入されたわけですが、今ではte'のイズムを共有できている?
kono:共有できているというか、人が変われば新しくなるのは当然だと思うんですよ。それが良くなるか悪くなるか、或いは別のものになるかというところで、明らかに良くはなりましたよね。そうじゃなければ、たぶん辞めていると思うから。
●matsudaさん自身は、te'の一員になれているという実感がある?
matsuda:それはすごくあります。
kono:matsudaさんが入ったことは正直、すごく大きいんですよ。表現の幅も広がったし、ベーシストとしての面白さという部分でも広がったと思いますね。
hiro:やっぱりmasa(前Ba.)は、te'の中で占める割合が大きかったんですよ。タイトルも決めていたし、ライブでもセンターに立っていたので、masaが脱退した時ばかりは「te'を続けられないな」とも思ったんです。気持ち的にも一番落ちている時で「無理だろうな」と思っていて。でもmatsudaさんになった時に「これでイケるな!」となって、テンションがまた上がったんですよね。
●matsudaさんの加入で前進できたわけですね。
hiro:でも「タイトルをどうしようか?」となって。タイトルはやっぱり、te'にとって、軸の部分じゃないですか。そこでダメ元でmatsudaさんに「タイトルとか書けます?」と訊いてみたら、「書いてみたい」と言ってくれたんです。
matsuda:te'に入るという話をしていた時に、もう「これはタイトルも書かなきゃダメなんだろうな…」と思っていたんですよ(笑)。
●そこはセットだと(笑)。
kono:俺らも、タイトルはどうして良いかわからなかったんですよね。
hiro:もしmatsudaさんが書いてくれなかったら、もうte'じゃなくなっていたというか。たとえば小説家とか、誰か別の人に頼もうかと思っていたくらいだったんです。でもmatsudaさんはすごく本を読まれるというのもあって「やってみたい」と言ってくれたので、「キター!」っていう感じでしたね(笑)。
matsuda:タイトルを考えるのは別に構わないと思っていたんですけど、MCは絶対にできないから(hiroに)「MCは頑張って」と。
●MCはhiroさんが担当することになった。
kono:そこまではmasaがバンドのボーカル的な立ち位置だったんだけど、今はhiroがボーカル的な立ち位置に変わったというのはありますね。
hiro:俺も人前で喋るのとかは元々あまり得意じゃなくて。だからMCはいつもmasaに任せていたんですけど、matsudaさんに「MCは絶対に無理」と言われたので、これは自分が頑張るしかないなと。
●バンド内のメンバーの立ち位置も変わった?
kono:役割的にはそこが変わっただけですね。
hiro:でも続けられているというのがすごいことですよね。本当に奇跡だなって思います。
●matsudaさんが入って最初に出したのが、前作の5thアルバム『ゆえに、密度の幻想は綻び、蹌踉めく世界は明日を『忘却』す。』(2012年)なわけですが。
matsuda:自分は、前作を作る前に入って。masaくんが抜けるっていう一番大きな転機の時に入ったので、その直後に作る作品がショボかったりしたら絶対にいけないというところですごくプレッシャーがあったんですよ。しかも「全曲シングルみたいな感じで」というコンセプトで作ったので、前作の制作にはだいぶ心血を注ぎましたね。ジャケットも作って、タイトルも考えて…。完成した時にはすごく達成感があったんですけど、「でもこれ、ちょっと自分が踏み入りすぎていないか?」っていう(笑)。
hiro:確かに。半分以上、matsudaさんのものが出ている(笑)。
●必死にやった結果、matsudaさん色がやや強くなったと。
kono:確かに必死でしたね。
matsuda:やっぱり倒れかけたものを起こそうとしているので、みんながそこに心血を注いでいたというか。でも自分のカラーを注ぎ込みすぎているんじゃないかという想いがあったので、今回は自分が一歩引いて「みんなのカラーがもっと入ったほうが良いんじゃないか」というのは考えていました。
●前作は、ある意味で非常事態の中で作ったわけですよね。
matsuda:そういう中に入っていったから、「立て直さなきゃ」という意識をすごく持っていて。
hiro:それは全員にありましたね。だから濃すぎるものができちゃったんですよ。
●濃すぎたんだ(笑)。
kono:前作は濃かったですね。そこで詰めすぎた感があったので、その次のシングルでちょっと抜こうという方向に向かって。それがM-6とM-11(※正式な曲名はリリース情報の収録曲を参照)なんですけど、あれがあったから今があるという流れにはやっぱりなっていますよね。
matsuda:ライブのレパートリーが熱い曲ばかりになっちゃうんですよ。ライブをやるためにはもう少しユルい曲も必要だなというところがあっての、今回のアルバムだったのかなと。
●M-6とM-11は昨年6月に発表した5thシングルにも収録されていましたが、この2曲はバンドとしても転機になったそうですね。
kono:バンドとして、今までとちょっと方向性を変えようとした2曲ですね。
●そのシングルを作った時点で、今回のアルバムのビジョンもあったんでしょうか?
hiro:シングルを作った時点で、「アルバムが作れそうだな」という感覚があったんですよ。2曲で大体の方向性が見えたし…、“何か”が見えたんですよね。
●見通しが立ったというか。
hiro:「激しいだけがte'じゃないぜ」ということだったり、もっと特別な感情がその2曲にはあったので「これを軸にして考えれば良いんじゃないか」ということでアルバムを作り始めたというか。最初からアルバムの構想みたいなものがあったんです。「こういうものを作りたいね」みたいなことを移動中に車の中で話していて。
●どういう構想があったんですか?
hiro:移動中はいつも眠くならないように、色んなCDを車の中で流しているんですよ。俺らはTM NETWORKが大好きで、その中でも特に『CAROL 〜A DAY IN A GIRL'S LIFE 1991〜』(以下『CAROL』/1988年)というアルバムは擦り切れるくらい聴いている名盤なんです。それを車の中で聴いている時に、(konoと)2人で「ヤバいね、これ!」となって。最初の流れからもう構成がすごくて、全ての曲に意味があるし、1枚を通してすごく良い作品というか。
●『CAROL』は、すごくコンセプチュアルな作品なんですよね。
hiro:「そういうコンセプチュアルなものをte'でも作ってみたらどうだろうか?」というところから始まって。『CAROL』を目指そうというところから始まったアルバムなんですよね。
●自分たちもコンセプチュアルなものを目指そうと。
hiro:今までのte'は「1曲1曲、最高のものを作ろう」と言って、1曲ずつにグッと集中して取り組んでいたんですよ。でも今回はそういうものも踏まえつつ、アルバムの全体像や流れを先に描こうと。te'の曲は元々1曲1曲に集中して作っているぶん、重いんですよね。俺らが想いを込めすぎているというのもあって。だからアルバムという形でまとめて出すと、まるで“焼肉”のような重たいものができあがるんです。
●“焼肉”だったんだ(笑)。
hiro:今回はそこにサンチュも挟みながらというか。ずっと肉だと、やっぱり疲れるんですよ。実際に焼肉屋に行った時も、カルビばかり頼んだりしないじゃないですか。最初はネギタン塩あたりから始めて、サンチュも挟みながら色々と肉を食べていって、最後に「ごちそうさま」というのが今回のアルバムですね。その“サンチュ”的な部分が、今回はキーになっているのかなと。
●それが今作の合間に入っているインターリュード的なM-1・5・8・10ですよね。
hiro:そうですね。「te'では絶対にやらないだろうな」というシンセの音とかが入っていて。
●インターリュードを入れるというアイデアはどこから?
kono:元々te'の音源に関しては重くて聴くのに決心がいるという印象が自分たちの中にもあったんですけど、マスタリングエンジニアの宮本(茂男)さんという方に「te'は3曲でもうアルバム1枚分くらい聴いた感じがある」と言われて。「たとえば間に軽めのインターリュードや女性ボーカルなんかを挟んでみたら、すごく良いアルバムができるんじゃない?」というアドバイスを頂いたんですよ。そこからメンバーの意見も聞きつつ、今回はそれを参考に作ってみたというのもあるんです。
●エンジニアさんの助言が大きかったと。
kono:そこでアドバイスを頂けていなかったら、ここには辿り着けていなかったかもしれないですね。te'って良くも悪くもキャリアがあるし、今さら他人から何かを言われる立ち位置でもないじゃないですか。te'に対して、そういうことを言ってくれる人がいたことで今回はすごく助かったというか。
●外から見た意見を率直に言ってくれる存在が重要だったんですね。
kono:やっぱりキャリアを重ねると、ものを言ってくれる人って少なくなってくるから。アドバイスとかを気軽に言いにくいというか、te'にもそういうイメージがあると思うんですよ。
matsuda:完成されているからね。
●te'というイメージができあがっている。
kono:そこを今回はちょっと崩せたのがすごく良かったと思います。
●そういう意味でも、今回はシンセを導入したというのが大きいのでは?
hiro:シンセやアコギを今回は入れたけど、元々はバンド以外の音を入れることが俺は本当に嫌でずっと反対していたんですよね。「そんなの誰でもできるものになっちゃうじゃん」と思っていたんです。でも「その先に行くためには」ということを自分で考えていた時に、ギターの他に何かないかなと思って。ちょっとそこから離れてみようかなと思って、シンセを弾くようになったんですよ。
●それが今作につながった?
hiro:最初はレコーディングでちょろっと弾けたら良いかなと思っていたんですけど、ライブでもできるようになってきて。2人もギターがいるわけだし、そのほうが住み分けもできるかなと。そこでバンド以外の音を入れることに対して、だんだん抵抗がなくなってきたというか。ちゃんとしたロックをしているという感覚が自分たちの中にあるので、「そういう出し方もあるんだな」って今は思えるんですよね。
kono:この前、hiroが良いことを言っていたんですよ。「ギタリストから、メロディストに変わった」っていう。
●メロディスト?
hiro:ギターのメロディを考える時って、頭の中でずっと考えているんですよ。それを実際にスタジオでやってみて録ったものを家に持ち帰って、またさらに頭の中で考える。…という作業をするんですけど、やっぱり自分が鳴らしている音はギターなので、頭の中でもギターの音で考えちゃうんですよね。でもそれだとまた同じことの繰り返しで、自分でも「またかよ!」ってなったんです。そこで「もうメロディを極めてみよう」と思って。
●それでメロディストになったと。
hiro:(メインで)弾いている楽器はギターなんですけど、シンセも使ったりして、ギタリストからメロディストになれたかなと。…いや、まだ今回は途中で気付いたので、完全にメロディストにはなれていないですね。その完全体は次回作から出していこうと思っています。
kono:考え方が面白いですよね。メロディストっていうカテゴリーになれば、「楽器は何でも良い」っていうところに向かえるじゃないですか。だからミュージシャンとして、新しいものになれるというのがすごく良くて。その反面、俺はギタリストなんですよ。ギターがメチャクチャ好きなんです。木が好きだし、ペンタトニック(・スケール)が好きだし、機材とかも好きで(笑)。それはそれで2人の役割が上手く住み分けできていて良いのかなと。
●ギタリスト2人の役割分担もより上手くできるようになってきている。
hiro:でも今回は(konoに)めちゃブリもしたんですけどね。いつもはバッキングみたいなプレイしかしないので「お前も(リードを)やってみろよ」って振ってみたら、結果的に良かったりもしたんです。そういうところも甘やかさないで、これからはどんどんやらせようかなと(笑)。
●M-8はアコースティックギターを使っていますが、これも新しい挑戦ですよね。
kono:スタジオにtachibanaと俺の2人だけ先に来ていて、あと2人が来るのを待っていた時があって。暇だったので、その間にアコギとドラムでインタリュード的な曲を作ってみようということになったんです。それで作ってみたらわりと良い感じになって、ベースを加えたらさらに良くなったんですよね。この曲に関してはあえてhiroのギターを入れていないんですけど、それはそれで1曲として成立しているなということで収録することになりました。そこでhiroが自分のギターを入れないと決断したのは、すごく意外でしたね。
hiro:いつもは俺の悪いクセで全曲、弾き倒しちゃうんですよ。今回は抜く勇気を持つというのを最初から決めていたから。
matsuda:アルバムを通して1曲だと考えたら、(hiroが弾かないのも)全然アリだと思う。1曲の中だと1部分でギターを全く弾かないということは、よくあるわけじゃないですか。そういう感覚で言ったら、アルバムで1曲弾いていないくらいは全然アリだと思うんですよ。
●必ずしも全曲でギター2人が弾かなくてはいけないわけではない。
kono:M-10なんて、ギターが入っていないですからね。これは声とシンセとベースとドラムで作ったんですよ。女性の声で入れたいイメージのものがあって、それをそのまま再現できたという感じです。今までも若い女性の声を楽器的に使うということはやってきたんですけど、そうじゃない使い方を全面に押し出したものを作りたいなと思って。
●確かに、この曲の声はもはや“歌”っぽいですよね。
kono:そうなんですよね。ある意味、作曲という作業は自分が弾いていなくてもできるじゃないですか。だから今回は「こういうメロディで、こういう感じのものを」というのをRumbというアレンジャーさんにお願いして作ってもらったりもしたんですけど、それも作曲の1つかなと思って。そういうことは今まで考えたことがなかったんですよ。それも自分たちの中で新しい考え方として、すごく良かったなと思います。
●今回はこれまで以上に“POP”ということも意識されたそうですが。
hiro:“POP”やキャッチーということは意識しましたね。インストをやっていると、どんどんマニアックな方向に行きがちなんですよ。でも今作はよく聴けばマニアックなこともいっぱい入っているんですけど、それは個のレベルとしてあるもので、パッと聴いた感じではすごくスーッと入ってくるものになっていて。しかも順番をちゃんと考えて並べられているので、食べやすい作品になっていると思うんです。老若男女、色んな方に召し上がって頂ける素晴らしいコース料理になっていると思います。
●焼肉じゃないんだ(笑)。
hiro:焼肉の高級コースです(笑)。今回は焼肉のコースの“お品書き”から、考えていったんですよ。たとえるなら最初にネギタン塩とか、網目を汚さないような塩ものから始めて。最後のほうはドロっとタレが粘つくような重いもの…かと思えば、軽い箸休め的なものも間にあったりとか。そういうイメージが頭の中にあったのでまずお品書きから作って、食べてもらうっていうアルバムになりましたね。
●結局、焼肉のたとえに戻すのか…。今回のアルバムはte'の今までの活動を振り返るストーリー作品にもなっているということですが、それを焼肉を使わずに説明してもらっても良いですか? (笑)。
kono:俺のイメージとしては、まず1曲目はte'の新しさみたいなものがすごく出ているんですよ。そこから始まって、一番最後の12曲目は従来のte'になっていると思うんです。ところどころに新しさや今までに見せていない部分も入っているんだけど、最終的には従来のte'に戻っていくという流れになっていて。最後にメンバー4人の声が入った曲で、tachibanaを見送るという流れになっていますね。
●新しい要素もありつつ、最終的には従来のte'に戻っていく。
kono:基本的に曲としては従来のものを並べてはいるんですけど、今回は抜いた感じのものがすごく多いというか。それによって今まではできなかった表現方法みたいなものが少しできるようになったし、柔軟になった感じはありますね。でも根底のものは変わっていないんですよ。そういう意味では集大成でもあり、新しくもあるというものが1つできたなって思います。
hiro:やっぱりte'はロックバンドだから、本当にメンバー1人1人の我が強いんですよ。1曲作ろうとなったら自分の持てるスキルみたいなものを一気に1つの塊のような感じで入れるということを、今まではしてきたのかなと。でも今回は曲の並べ方を意識したことで、抜き方というかマイナス方向のアプローチを覚えて。…結局、焼肉の話に戻りますけど(笑)、先にお品書きができていることで「ここにメインが来るから、俺はここで抜いても良いや」という判断ができたんです。
●だからhiroさんがギターを弾いていない曲もあったりすると。
hiro:グワッと全部を1曲に詰め込むんじゃなくて、全体像をちゃんと考えながらやれたというのが自分にとっては進歩だし、te'としても進化できたんじゃないかなと思っていたんですよ…、その時は。
●…その時は?
hiro:今は「もっとやれるな」っていう気持ちでいっぱいなんです。反省点がすごく出てきたんですよね。録り終えた時は「最高だ!」という感じだったんですけど、今は既にもう次の作品を作りたくてしょうがない。そういう気持ちに今はなってきていますね。集大成的なものを作ろうと思っていたつもりが、次の段階へと進むための階段みたいな感じになって。
kono:今までは出し切った感が結構あったんですよ。「もう出し切った! 次を作るにはかなりインプットがないとできないな」という感があって。でも今回はそんなことがなくて、ちょっとミュージシャンとしての余裕もできた感じというか。今までやってきたことがあって、その次が見えてきたかなっていう感覚はありますね。
●今までの作品を作り終えた時とは違う感覚がある。
kono:今まではいっぱいいっぱいだったから。「やっとできた!」みたいな感じで、いつも難産だったんですよ。
hiro:1曲作るのにすごく時間をかけたりしていたのも、全体像が見えていなかったからで。目の前にあるものだけしか見えていなかったというのがあって。
●全体像が見えていたから、今回は抜いたところも作れた。
hiro:やっと大人になれた感じですね。
kono:だから、やっぱり『CAROL』を目指して正解だったんですよ。
●あ、今度はそこに戻ってきましたか(笑)。自分たちでも満足できる作品になったわけですよね?
kono:このアルバムに関しては、俺は初めて何回も聴いているかもしれない。移動中とかにも聴いていて。今までのte'って、聴くのに1つ決心がいったんですよ。自分らで作っておいて言うのもアレなんですけど(笑)。
hiro:自分の体調とか心境も関係するよね(笑)。今までの作品は、本当に「よし聴くぞ!」という決心が必要で。でも今回は身を委ねるだけでスーッと導いてくれる感じがするんですよ。
●身構えなくても聴けるというか。すごく聴きやすいですよね。
kono:そういう意味では、間口を広げたかったという狙いに関しては成功したのかなっていう気はします。
hiro:ジャケットも今回はすごく明るい感じになって。
●これは今作の“POP”さみたいなところから来ているんですか?
kono:まさにそうですね。
matsuda:みんなにどういう感じが良いか聞きつつ、デザインしてみました。
●今までのアルバム同様に横縞模様というのは維持しつつ、新しさも見えるものになっているかなと。
matsuda:(既存のイメージから)どこまで外して良いのか、どこまで守るべきなのかという加減が難しかったですけどね。
kono:変わらない部分もあれば、変わっていく部分もあるというのをmatsudaさんが表現して下さったんです。メチャクチャ良いジャケットになったと思うし、僕らもお気に入りですね。
●顔のシルエットが入っている理由とは?
kono:これは2Dを3Dにしたかったからですね。今までのte'のジャケットは全て平面だったので、今回は立体感を出したかったんですよ。「立体になる=奥行きが出る」という意味を持たせたくて、matsudaさんに注文しました。tachibanaがいなくなることも変化だし、バンドとして変化したっていうところを一番に見せたいというのがあって。今回のテーマとして、「今までのものがありつつも変化している」というのがわかりやすく見えるようにという感じでした。
●現在は既に新たなドラマーとして、初期メンバーだったyokoさんと一緒にライブもしているんですよね。
kono:一緒にやるんだったら、彼女じゃないと嫌だなと俺は思っていて。tachibanaと同じくらいの技術もあって、te'の考え方もわかっている人というのは彼女しかいないと思っていたんです。他のメンバーも「彼女だったらぜひ」という感じだったので、すぐ決まりましたね。
hiro:元々、te'でやっていた人だから。やっぱり不純物をあまり入れたくなくて。お客さんに対しても、変なところから引っ張ってきたようなお肉を出すわけにはいかないというか…。やっぱり和牛じゃないとっていう(笑)。
●そこは国産にこだわると(笑)。ライブの印象もだいぶ変わるんでしょうか?
kono:そこは変わりますね。まず男だったのが、女に変わりますから(笑)。
hiro:今まではライブ中に横にいるtachibanaのほうを見ると、暑苦しかったんですよ。まさに「働く男」みたいな感じで(笑)。でもこの前のライブでyokoのほうを見た時に、まるでもう草原のような…。
matsuda:清涼感がある(笑)。
●爽やかだと(笑)。
hiro:すごく良かったんですよ。もちろんtachibanaの時もまた別の良さはあったんですけど、yokoの場合は他の楽器がイキイキするんですよね。ライブをやっていて、全パートの音がすごく喜んでいる感じがするというか。アンサンブルがしやすい。tachibanaは良い意味でリードのドラマーだったんですけど、やっぱり女性ならではの母性なのか包み込むようなプレイをyokoはやってくれるんです。本当に包み込まれるような…、優しい気持ちになれますね。
●そこでバンドも活性化されて、また新しい方向性が生まれるかもしれないですよね。
hiro:本当にそうで、同じメンバーで長年やってくるともう部屋の中がどんよりしてくるんですよね。それがyokoになった時に、窓をガラガラッと開けて、今まで溜まっていた男臭い部室の匂いのようなものがサーッと出て行ったんですよね。
●今までは男だらけの部室の中で、焼肉をやっていたようなものですからね。
一同:ハハハハハ(笑)。
kono:部室にファブリーズをかけた時みたいに、何か良い匂いがするっていう(笑)。
hiro:だから今はスタジオに入るのが本当に楽しいんですよね。「音楽しているな」っていう感じがしています。
Interview:IMAI
「ここが今の最高だし、これを超えるものを生み出していかなければならない。そういう意味では“縹渺たる虚体”になってみるのも悪くないかなと思います」
●3月の東京と大阪で行われたワンマンライブをもってバンドを一時的に脱退することになりましたが、そのことが決まった時の心境はどういうものでしたか?
tachibana:まず僕のほうの予定が急遽変わってしまったので、メンバーやスタッフのみんなには、迷惑をかけて申し訳なく思いました。それに加え、脱退のために、ワンマンを企画してくれたみんなに感謝しています。おかげで、現時点でのte’を考えることにもなったし、自分自身のこれまでを見直すきっかけにもなりました。
●実際にライブを終えてみて、どんなことを感じたんでしょうか?
tachibana:今ある全てを出し切るためにはまだまだ研鑽が必要だと思ったし、新しいものを自分の中に取り入れる必要性を感じました。それから、Tシャツが売れて良かったです。ライブ終了後、物販に立ったのですが、たくさんの人に励ましの言葉を頂いて、本当にうれしかったです。
●今回のニューアルバムのレコーディングに臨まれる際は、いつも以上の意気込みや思い入れもあったのでは?
tachibana:いつも以上の意気込みや思い入れは、それほどなかったかと思います。ただ、今できることの最大限をパッケージングするということでしたね。あまり気負うと、作品として良いものができないような気がしていたので、できるだけシンプルに仕上げるように心がけました。
●今作ではシンセやアコギを用いるなど新たな試みもされていますが、ドラムとしての新たな挑戦は何かありましたか?
tachibana:同期を多用しました。これまでクリックは無しでのRECがほとんどでしたが、今回は作品のコンセプチュアルなところを重視して、あえてクリックを使っています。クリックを使うことで、各楽器の表現の幅が広がったような気がしますね。あとは聴き手を意識したプレイに仕上げられていると思います。それからこれまでに無かった「音」からのインスピレーションはかなり受けました。「音」から「記憶」を読み込み「表現」として表出する楽しさがありましたね。
●今作をレコーディングする上で、何か心がけたことがありましたら教えて下さい。
tachibana:作品のコンセプトです。もっと聴きやすい音を目指したいですね。聴いていて心地いい音。そういうのを今も模索している最中です。
●ラストのM-12「私は舞う枯葉。風任せな躍動を自律と『錯誤』する縹渺たる虚体。」はtachibanaさんへの想いが込められた楽曲ということですが、ご自身が演奏される際はどういったことを考えましたか?
tachibana:え、そうなんですか。私は「縹渺たる虚体」ではありますが、「舞う枯葉」ではありません。
●収録曲の中でとりわけ思い入れが強い曲、または気に入っている曲というと?
tachibana:全曲絞りに絞り出して作りましたからね。やはり、M-2「夜は光を掩蔽し、幾多の秘密を酌み、さかしまな『夢想』を育む」は押したいですね。あとはkonoくんと2人で録ったものなんかも良いですね。今回はそういうコンセプチュアルな曲が録っていて面白かったです。
●レコーディングを終えた時は、どのような心境でしたか?
tachibana:やっと録り終えた。と、今回に限らずいつもそんな感じですね。そして、いつも課題が残る。自分が完全に納得のいく作品はこれまでにもありません。これからもあるのか疑問にすら思います。でもいつか自分の納得のいく作品を作ってみたい。
●今作を作り終えてみて、どのような作品になったと思いますか?
tachibana:今作は「今」のパッケージングなので、これからどのようにもなっていく作品じゃないかなと思います。個人的には、やはり大きな転機の時期に作った作品ですので、今の指針になっています。ここが今の最高だし、これを超えるものを生み出していかなければならない。そういう意味では「縹渺たる虚体」になってみるのも悪くないかなと思います。
●一時脱退からの復帰を待っている人も多いと思いますが、最後にファンへのメッセージをお願いします!
tachibana:励ましの言葉。忘れません。これからのte’も目が離せません。「tachibanaは、果たして“Get Back”できるのか。」も、楽しみにしていてください。
Interview:IMAI