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藍坊主

表現の濃度と純度を高くしたからこそより浮き彫りになった“自分たちらしさ”

PHOTO_藍坊主昨年12月にアルバム『ココーノ』をリリースし、リリースツアーを3月の渋谷公会堂公演で見事締め括った藍坊主。自らの人間としての成長とともに、その表現とスタイルをまるで羽化を遂げる蝶の如く目まぐるしく進化させてきた彼らが、音楽に込めた熱量と純度をより高いまま届けるために自主レーベル・Luno Recordsを立ち上げ、待望のシングルをリリースする。ライブで表現することに主眼を置き、歌詞とアンサンブルを今まで以上に洗練させた今作は、彼らの“らしさ”が浮き彫りになった作品。表題曲「降車ボタンを押さなかったら」そのままに、彼らは“その先”へと向かって力強い一歩を踏み出した。

 

「今までやってきたことのエキスみたいなものを凝縮したような作品ですよね。俺も思いました。“すげぇ藍坊主っぽいな”って」

●7月にリリースしたライブDVD『aobozu TOUR 2015~時計仕掛けのミシン~at渋谷公会堂』は、3月の渋谷公会堂でのライブが収録されていますが、自身2回目となる渋谷公会堂でのライブの感触はどうだったんですか?

hozzy:すごく良かったです。ツアーでだんだん調子が上がってきた中で迎えることができたというか。当然のことなんですけど、ツアースタッフも含めてバンドがガッチリまとまっていくと、やっぱりライブも良くなるんだなっていうことを改めて実感しましたね。

●なるほど。

hozzy:俺らメンバーだけじゃなくて、PAさんもそうだし、ギターテックの人も、バスのドライバーの人も含めて、参加してくれている人が全員本気で“1本1本良くしよう”とサポートしてくれたんです。そういうことも含めて大事だなって思いました。

藤森:去年の年末くらいに、自分たちでやっていこうということで自主レーベル・Luno Recordsを発足することを決めたんですよ。その頃からリハーサルに入るようになって、1月からツアーが始まって。だからみんなが一丸となって“新しく始めよう”という心境でツアーに臨めたんです。

●はい。

藤森:hozzyが言ったように、スタッフも藍坊主のことを本当に理解してくれている人たちで。そういうチームでやってきたツアーの集大成が渋谷公会堂だったんです。とにかく一致団結感がすごくて、“なにか驚かせてやろう”ということで、ツアーの途中ではやってこなかった照明の演出をその日にいきなり採用したり、hozzyも気持ちがアガって2007年のC.C.Lemonホール(当時の渋谷公会堂の名称)のライブと同じように客席に降りて(笑)。

●また降りたんですか(笑)。

hozzy:なんか“降りなきゃダメだ”って思ったんです。

藤森:そういう雰囲気も伝わりつつみんなで作ったライブだったので、めちゃくちゃ良かったんです。

●なるほど。純粋にライブを楽しめたんですね。

hozzy:うん。“楽しいな”と思える瞬間が今まで以上に増えている感じですね。

●8/5にLuno Recordsからリリースするシングル『降車ボタンを押さなかったら』にはその渋谷公会堂のライブテイクM-3「エチカ」も収録されていますが、新曲2曲M-1「降車ボタンを押さなかったら」とM-2「マタウ」はどういう経緯で作ったんですか?

hozzy:ツアーが終わってからあまり時間を空けたくなかったので、とりあえずシングルを出そうかということになったんです。それで俺と藤森で曲を持ち寄って。

●hozzyが作った「降車ボタンを押さなかったら」は、肩の力が抜けているというか、日常を切り取ったような牧歌的な雰囲気のある曲調ですが、でも歌詞にはhozzyらしさが詰まっていると感じたんです。“人生の生き辛さ”みたいなものが根底にある。

hozzy:ハハハハハ(笑)。

●その上で前に進もうとする、静かな力強さを感じる曲で。

hozzy:改めて“スタート”っていう今の心境がそのまま出てますよね。「もう1回」、例え何回目でも「もう1回」みたいな。

●うんうん。

hozzy:今回は音楽的にどうこうじゃなくて、歌詞を大事にして、歌詞を活かすような曲にしたいっていう気持ちが強かったんです。ツアーが終わった後に作った、本当に最近出来た曲なんですけど。

●なるほど。

hozzy:ただ、歌詞を中心に曲を書くということを俺は最近あまりやっていなくて。去年とかは別の方法で…2年くらい、音楽的な方向からずっと曲を作っていたんです。でも今回、もう1回藍坊主の良さ…お客さんがいいと思ってくれているところ…を冷静になって考えてみて。

●ほう。

hozzy:と言っても別に難しく考えたわけじゃなくて、改めてふと思ったらやっぱり歌詞を聴いてくれている人が多いなと。最近作った曲も別に歌詞で手を抜いているわけじゃないんですけど、歌詞の方向から書くということを全然やってなかったなって。だから最初は不安だったんですよ。“俺は歌詞を大切にする方向で書けるのかな?”って。“もしかしたらそういう感覚が消えちゃってるかもしれない”って(笑)。

●ハハハ(笑)。

hozzy:でも書こうと思って始めたら、今の心境がすっと出てきて「降車ボタンを押さなかったら」が書けたんです。“まだ書けるぞ!”と。自分で自分を分析したところによると、あまり邪気を感じない曲になったので、いい傾向じゃないかなと(笑)。

●確かに邪気がない(笑)。「降車ボタンを押さなかったら」は説得力があるというか、込められた気持ちの純粋さが伝わってくるのがいいし、気持ちをすごく感じるんです。

藤森:そうですよね。これはhozzyの作詞/作曲ですけど、僕たち的には“バンド全員の歌”という感じなんです。

●ああ〜。

藤森:バンドみんなの気持ちをまとめて代弁してくれているような感覚があるんです。今回の新曲2曲は最後の最後までどっちを表題曲にするか悩んでいたんですよ。最終的には、マネージャー含めた5人による投票で決めたんですけど、僕も含めて「降車ボタンを押さなかったら」が1曲目にふさわしいんじゃないかという結論になったんです。

●こういう曲が区切りのタイミングでシングルになるということ自体がいいですよね。目の前が明るくなる感じがある。

hozzy:「肩の力が抜けている」って言われましたけど、それがいいなと思います。

●うん。肩の力が抜けているけど、力強さも感じる。無理に背伸びしてないというか。

hozzy:もうこれからは無理に背伸びしないと思います(笑)。無理に背伸びすることがない年齢にもなってきたし。俺の中の感覚なんですけど、“ロック”って難しいと思うんです。若い人たちの迸る何かを表現する、みたいな。定説ですけど。

●はいはい。

hozzy:だから“俺は30歳過ぎてもそんな高い熱量でできるのかな?”と思っていたんです。他のバンドのことはわかんないですけど、“自分がそうなったときにできるのかな?”って。でも今は、別にそんなこと自体を考えることがナンセンスだなと思って。

●うんうん。

hozzy:今作もそうですけど、今は何を書いてもいいのかなって。楽になりましたよね。

●“自分を表現する”ということでいいんだと。

hozzy:そうそう。別に俺たちそこまでロックな感じのこともやってこなかったし(笑)。

●それと藤森くんによる「マタウ」ですけど…“マタウ”という言葉はどういう意味なんですか? 調べても全然わからなかったんですけど。

藤森:造語です。イメージがあって、それを言葉にしたら“マタウ”で、音楽にしたらこういう曲ができたんです。

●イメージ?

藤森:冷蔵庫があって、その中に凍らせてしまった想いがある。その凍った想いを溶かす太陽が“マタウ”だと僕の中で思ったんです。あくまでイメージを歌った曲なんですけど。

●太陽みたいなもの。

藤森:曲を作るきっかけは、ライブでグッとくる曲がほしいなと思ったことなんです。だから藍坊主のライブを考えて、シンプルなアンサンブルと、なによりhozzyの声がいちばんかっこよく響くところを突き詰めていったんです。

●なるほど。その上で歌詞で歌っているイメージを重ね合わせたと。

藤森:そうです。

●さっき藤森くんは「シンプルなアンサンブル」とおっしゃいましたけど、決して一般的な“シンプル”ではないと思うんです。あくまで表現というか、藍坊主的にはシンプルなのかもしれないけど、情景が見えるようなアンサンブルで。今回は2曲ともそういう印象を受けたんですが、キーボードや電子音も含めて、アンサンブルの完成度が今まで以上に高くなっている気がしたんです。

hozzy:あ、そうですか。前回のアルバムとかそうなんですけど、スタジオに入る前にアレンジを練っていたんです。アレンジはユウイチと拓郎が中心になって進めるんですけど、彼らはパソコンで作るんですよ。それをレコーディングで合わせるっていう。

●はい。

hozzy:でも今回は、レコーディングをする前にスタジオに入って合わせてみて、テンポ感も変えてみたりして、実際にライブで演るときの感覚に近い方がいいんじゃないかと思って。そういう作業をやったからこそ、俺らの中では“シンプルなアンサンブル”という認識だったんですよね。

●なるほど。必要最小限なものしか入れていないと。

hozzy:それと実際にライブで人間が無理なくできるもの。たぶんこの2曲はライブで演った方がより表現できるんじゃないかなって思ってます。

●確かに。この2曲は人間の生命力みたいなものを感じさせるところが共通項としてあると思うんですけど、聴きながら思ったのは、結局藍坊主はずーっと前から人間のことしか歌ってないなということで。

hozzy:ハハハ(笑)。そうですね。そこはあまり意識しなかったですけど、今までやってきたことのエキスみたいなものを凝縮したような作品ですよね。俺も思いました。“すげぇ藍坊主っぽいな”って。

●そうそう。

hozzy:「藍坊主らしさってどういうことですか?」って、今までいろんなインタビュアーの人に訊かれてきましたけど、言葉ではなかなか説明しづらいんですよね。「歌詞を大事にしてます」とか「サウンドでちょっとひねくれたことしてます」みたいな、言葉で言うと誰でもやっているような事でしか説明できないんですよ。でも今作が出来上がってみて聴いたときに“すげぇ藍坊主っぽいな”って。いっぱい曲を作ってきたからこそ、ここに来てバンドのカラーみたいなものがすごくわかりやすくなってきたのかなって。

●このタイミングでシングルになるべき2曲が形になったんですね。

hozzy:うん、まさにそうですね。

●今後はどんな曲ができそうですか?

hozzy:ライブで演っていいかどうかっていうところをもう1回考えて、ライブでキチンと伝えられるような、歌詞を相手に届けられるようにメロディやアンサンブルも含めて考えながら作りたいと思ってます。

●なるほど。藤森くんは?

藤森:たぶんこれからもまたhozzyと一緒にスタジオに入って作ると思うんですけど、より藍坊主らしい曲ができるんじゃないかなっていう予感はしています。

●1人1人の作業というよりも?

藤森:そうですね。1人でやるとどうしても限界があるっていうか、1人でやることは過去に散々やってきたんですよね。それでは超えられないところを今後はより突き詰めていこうと思っています。

interview:Takeshi.Yamanaka

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