2013年4月に1stミニアルバム『Get Started Toghether』、2014年4月に2ndミニアルバム『Never Let Go』をリリースし、着実に成長を遂げてきたENTH。既存の枠組みには収まりきらないその才能は、まるで春を迎えて花を咲かせる植物の如く、今作で大きく開花した。ギリギリまで研ぎ澄ませた感性と感覚から生み出された楽曲は、聴く者の感情を直感的に揺さぶり、ライブハウスに熱狂の渦を創り出す。名古屋で生まれた新たな才能は、遂に覚醒した。
●昨年春に2ndミニアルバム『Never Let Go』をリリースして全国ツアーをされましたが、今から振り返ってみると手応えはいかがでした?
daipon:前作は自分でもすごく聴きごたえがあるなと思いますね。
Ma-:普段聴きできる感じはあるよね。
daipon:うん。1stミニアルバム『Get Started Toghether』はストレートなメロディックパンクで、全部英語詞だったんですけど、2ndは日本語詞を入れたんです。もともと日本語詞の曲はデモ時代からあったんですけど、当時作った曲を再録して入れたのが2ndで。
●そうだったんですね。
daipon:だからお客さんのリアクションがどうなるだろう? って不安だったんです。エモーショナルな感じやスローな曲も入れたので、それがどう受け取られるかがすごく不安だったんです。でもツアーの反応もすごくよくて、最初に不安に思っていたようなことも全然なくて。1stから確実に一歩成長できた作品とツアーになったと思います。
●前身バンドから改名して約5年になりますけど、当初からメロディックだけじゃなくていろんな楽曲を表現したいという想いがあったんですか?
daipon:最初はしっかりとメロディックでやろうと思っていたんです。英語詞で、ストレートな2ビートで。でもやっていくウチに、自分の中でどんどんやりたいことが増えてきた感じですね。
●ということは、今回の『Entheogen』は2ndからの流れを汲んでいる作品ということですよね?
daipon:そうですね。
●今作を聴いてまず思ったのは、メロディックでは語れない作品だなと。
Ma-:ロックバンドですよね(笑)。
daipon:もはやそうですね(笑)。もう括りも意識しなくなりました。すごく勝手ではあるんですけど、例えば売れてるソロプロジェクトの人ってめっちゃいろんな曲をやるじゃないですか。めっちゃロックな曲もあれば、バラードもあったり、レゲエやサンバになってみたり。
●うんうん。
daipon:それって、代表曲以外はジャンルで括られてない“その人”っていう感じのイメージがあるんです。そう考えたらウチも別に何をやってもいいでしょ? っていう。それでENTHを好きな人が増えていけばいいなと思っていて。それも意識的にやってきたわけじゃなくて、新しいものができた上で、それを自己肯定してきたというか。もちろん自分たちが“いい”と思っていることが大前提なんですけど。
Naoki:今回のM-2「Bong! Cafe’ au lait! Acoustic guitar!」とかは今までと比べたらやり過ぎくらいの感じがあるよね。敢えてそうした曲だけど。
daipon:うん。かっこいいと思ったフレーズを無理矢理繋げまくったような曲。ウチは、基本的には僕が全部曲を作ってきて、それをメンバーで合わせるんです。
●繋ぎとか展開がすごく目まぐるしく変わる曲が多いですよね。“ストレートでは済ませない”という美学を感じる。
Ma-:ああ〜(笑)。
Naoki:daiponの性格が出てます(笑)。
●ひねくれてるんですか?
Ma- & Naoki:ひねくれてます(笑)。
daipon:真っ直ぐなところもあるんですけどね。
●それもわかります。すごく真っ直ぐで熱いことも歌っていますもんね。でも、“ただでは済ませない”という意地みたいなものが根底にある気がする。
daipon:ストレートなものよりも「うおっ!」みたいなものがかっこいいと感じるんですよね。驚きがあるというか、人と違うことをしつつ自分なりのラインを超えるもの。
Ma-:「これ誰もやってないでしょ?」っていう感じだよね。
daipon:うんうん。
Naoki:daiponが持ってくる曲はいつも新鮮なんです。もちろんメロディックな曲もありますけど、それ以外の曲を持ってきたときに“こういうのもあるのか!”って。“これをどうやって処理しようかな?”と思うときもあるくらい(笑)。
daipon:やったことがない土俵のものを持ってくるときもあるからね。
Ma-:でも、ENTHというバンドはdaiponの頭の中を再現する場所だと思っているので、僕はそれを表現するための背景や土台を作りたいんです。曲を作る上では“daiponの言うことはYesで間違いない”という確信があるので、そこに不安はない。
●彼のセンスを信じていると。
daipon:僕は人からどう思われているかをすごく気にするんです。自分たちの良さをわかってくれている人…メンバーやレーベルの人や仲間のバンドたち…は身近にいるけど、それを外から見たときに「あいつらどうせこんな感じでしょ?」と一括りに思われるのがイヤっていうか。そこに対しての反骨心じゃないですけど、ジャンルやシーンだけに収まらないものを作りたいという想いが強いんです。もちろんそれは、単に人と違うことをやりたいだけじゃなくて、バックグラウンドがしっかりとあった上で、大好きな音楽を貪欲に採り入れたいということなんですけど。取ってつけたようなものにはしたくない。
●なるほどね。
daipon:「Bong! Cafe’ au lait! Acoustic guitar!」とかは特にそういう意識で作ったんです。ただ、“これは誰もやってないでしょ?”っていうところで作ったM-6「Let it die(t)~まこっつ走れ~」みたいな曲もあるんですけど(笑)。
●“走れ走れまこっちゃん”と叫んでる曲ですけど…なにこれ?
一同:アハハハハハ(笑)。
daipon:めっちゃデブのまこっちゃんという友達が居るんです。
Ma-:LUCCIというバンドのドラム(長崎慎)なんです。
●そうだったのか。
daipon:昔からの友達なんですけど、彼がインディーズレーベルを立ち上げて。そこからコンピレーション(V.A 『BASEMENT TAPES』/2014年9月)を出すことになって、僕たちもまこっちゃんのために新曲を作ったんです。コンピだから少しふざけた感じの曲でもいいかなと思ったんですけど、コンピのイベントで演ったらめちゃくちゃ盛り上がったんですよ。
●確かにライブ映えする曲ですね。
daipon:わかりやすくて、まわって、踊って、拳をあげて、シンガロングで。だから“これレギュラー化したいな”と思って、そのイベントだけじゃなくて自分たちのライブでも演るようになったんです。それから曲の知名度もどんどん拡がっていって、今はこの曲がいちばん盛り上がるみたいな状況なんです。
●あ、マジですか。
daipon:だから今回、アルバムバージョンに作り直して収録したんです。僕らはシリアスなだけじゃなくて、たまにどうしてもふざけた部分が出ちゃう性格なんですよね。その典型というか。
●確かに「Let it die(t)~まこっつ走れ~」がなかったら、今作はすごくストイックな印象になる。でもこの曲が入ることによって、バンドマンらしさが出るというか。
Ma-:人柄がわかりますよね。
●あと、今作で印象的だったのはM-1「Will」とM-8「Night」は対になっていること。
daipon:そうですね。歌っていることもメロディも一緒なんですけど、リンクしているっていうか、対象的というか。ウチはもともと、同じコード進行のままゆっくり始まって急にテンポが速くなるような展開の曲が多いんですよ。で、「Will」と「Night」はもともと1曲だったんです。
●あ、そういうことか。
Ma-:「Night」から始まって「Will」になる、というような展開で。
●ゆっくりした幕開けからガーッと盛り上がっていくような。
daipon:でもライブをイメージしたときに、1曲にしたらちょっとややこしくなるなと思って、トラックを分けたんです。だから言ってることとかは一緒なんですけど、違う表情っていうか。1つの物事に対しての多面的な見方というか。この曲は死ぬことに関して歌った曲なんです。輪廻っていうか。それに“Will”という言葉は一見ポジティブな印象を受けますけど“遺書”という意味があるし、“Night”も“死”という意味があるんです。
●深いな。
daipon:だから輪廻っていう。リピートしたら「Night」からまた「Will」になるし。
●本当だ!
Naoki & Ma-:僕ら今知りました。
一同:アハハハハハ(笑)。
daipon:本当は少し暗い曲なんですけど、それをボジティブに聴かせたいなと。僕はストレートな物事を深く考えるクセがあるんですよね。例えば今作では“夢”について歌っている曲がいくつかありますけど、「夢で逢えたら」ってよく聞く言葉じゃないですか。でも死ぬことを“永眠”と言いますよね? そこから膨らませて、死んだときに見る夢で逢えたらいいなっていう意味にもなるな、とか。
●ほう。
daipon:そういうことを考えていたのは、お花をリスペクトしている時期だったんです。お花ってすごいなって。
●ん? なんの話ですか?
daipon:僕は中3くらいのときにお花屋さんになりたいことがあったんです。お花って、ちゃんと全部に花言葉があるし、花言葉には裏というか別の意味もあったりして。しかも、お花を渡したら絶対に誰かが喜ぶ。完璧な仕事だと思うんですよね。お花屋さんにはみんな“誰かを喜ばせたい”とか“好きな子に告白したい”とか、ポジティブな想いの人しか来ないじゃないですか。そんな奴らが僕のところに来て、花束を作ってあげて、後日「告白成功しました!」って報告に来たり…そんなことばかり考えてたんです。
●さっきからずっと花のことを“お花”と言ってることからもリスペクト度合いは伝わってきますけど、ちょっと妄想が過ぎてますね(笑)。
daipon:そういうことを久々に思い出して、花言葉からインスピレーションを受けて「Night」や「Will」のようなタイトルの付け方をしたんです。
●なるほど。そういうことか。
daipon:だから今作は完全にお花のおかげです。
●「完全にお花のおかげ」だけ聞いたら、なんかヤバい人みたいな感じがするけど。
一同:ハハハ(笑)。
daipon:アルバムタイトルの“Entheogen”(エンセオジェン)も、植物の名前なんですよ。個別の花の名前じゃなくて総称なんですけど、古代のシャーマンとかが儀式とかで覚醒するときに使用していた神々の植物を称して“Entheogen”と呼んでいたらしいんです。
●ふむふむ。
daipon:ENTHというバンド名も“Enthusiast”(熱狂的な支持者)という言葉から付けていて。“Entheogen”も“Enthusiast”も語源が一緒なんですよね。だから“Entheogen”というタイトルをいつか作品に付けたいなと前から思っていたんです。
●なるほど。
daipon:でも今まで、そこまでの言葉に見合うような作品を作ったことがなかったんです。でも今作は、聴いてくれた人のネガティブな気持ちをポジティブにする作品になればいいなという想いも強かったので、このタイトルにしたんです。
●満足度が高い作品になったからこそ、満を持してこのタイトルにしたと。
daipon:そうです。ただ、「エンセオジェン」ってすごく言い辛いんです(笑)。
interview:Takeshi.Yamanaka