2011年に結成し、ライブハウス・渋谷La.mamaを拠点に活動するZaien Lily。2014年には自らのレーベル“モノクロレコード”を立ち上げ、1stミニアルバム『蝿ト百合』をリリースした。そして5/27には2ndミニ アルバム 『ずいのそこ』を発売。自らの足で確実に前に進んでいる。今回はZaien Lilyと渋谷La.mamaのブッキング・プロデューサーである河野太輔氏を迎え取材を敢行。Zaien Lily結成前から活動を応援し、時に辛辣な言葉も交えて彼らの成長を支えてきた河野氏。そんな付き合いの長い関係ならではのトークを繰り広げてもらっ た。
「熱量の高いライブをすることで、すごく良い顔で楽しんでくれている方が増えてきました」(飛松 直美)
●Zaien Lilyは2011年に結成して以来、渋谷La.mamaを拠点に活動しているそうですが、河野さんと出会ったのはいつ頃なんですか?
原田:中村と飛松と俺で前身のバンドをやっていた時からですね。友達のバンドマンから渋谷La.mamaを紹介してもらったのがきっかけなんです。
河野:最初は音源を持ってきてくれたよね。
原田:そうです。それがきっかけでオーディションライブに出演することになったんです。でも、そのライブの後にボッコボコに言われて。
中村:バンドの全てを否定されたよね(笑)。
●渋谷La.mamaでやった初めてのライブで?
中村:「これはもう次(の出演)はないんだろうな」ってメンバーと話していたら、河野さんから「次はどうする?」って言われたという。「あ、大丈夫なんだ」って(笑)。
●ちなみに河野さんはどんなことを言ったんですか?
河野:「バンド辞めた方がいいよ」はよく言いましたね。僕も当時は若かったですし、今よりだいぶ刺があったと思います。Zaien Lilyに限らずいろんなバンドに言っていましたから。もちろんバンドを応援するつもりですけど、基本的には「1バンド1バンド叩き直していく」っていうスタンスです。良いバンドと出会いたいのはもちろんですけど、ライブハウスとして「バンドの底上げをしなくちゃいけない」と思っているんです。
●なるほど。
河野:彼らとは長い付き合いですから、なるべく具体的に感想を言うようしていますね。でも、基本的にバンド自身で考えて答えを出してもらいたいんです。そう促したいので、こちらから答えは言いたくないというか。
●Zaien Lilyは去年、自主レーベル「モノクロレコード」を立ち上げましたよね。それは河野さんと話をしていく中で、バンドで考えて決めたことなんですか?
原田:そうです。だから最初は河野さんに「どうしたらいいんですか?」って電話をしまくっていましたね(笑)。
●立ち上げて1年経ちましたが、やってみてどうです?
原田:実際にレーベルを立ち上げて、すごく充実している気はしますね。立ち上げる前に比べれば、より音楽活動がやれている感覚があります。
●河野さんから見て、彼らは変わりましたか?
河野:バンドの動かし方を考えるようになったんだなと思います。スケジュールの組み方やリリースに合わせたバンドの動き。あとはライブの意識も変わっていると思いますね。ライブの見せ方もそうですし、細かい部分だと、その日のメンバーの立ち居振る舞いも変わってきたと思います。
●ライブでは飛松さんがMCの前にポエトリーリーディングをしていたり、語りかけるように歌っていて。熱量の高さに正直驚いたんですよね。
飛松:ああいうステージになったのは本当にここ最近のことなんですよ。熱量の高いライブをすることで、すごく良い顔で楽しんでくれている方が増えてきましたね。
●良い変化が起こっているんですね。
河野:お客さんの顔や雰囲気がその日のライブの答えなんですよね。バンドは「自分たちが音楽をやっている」っていう意識があるから、どうしても内に向いちゃいがちじゃないですか。でもライブは、その音楽を共有する日だと思うんですよ。
●Zaien Lilyは5/27に2ndミニアルバム『ずいのそこ』をリリースしましたが、河野さんが聴いた印象は前作に比べてどうでした?
河野:前作より曲自体がお客さんに寄っている。そこが一番変わったところじゃないかと思います。普段のライブで「今日のピークはどこなのか?」っていうことを話すんです。そういうポイントになるところをしっかり作れている。お客さんにもそう思ってもらえるような曲順になっているのかなと思います。
鈴木:お、意外と聴いてくれてる(笑)。
●では、今作のピークにしているのはどの曲ですか?
原田:M-4「ゴールデンタイム」ですね。この曲は分かりやすさを追求しました。もう一つのピークにM-7「遠い日の光」を持ってきたんですけど。「ゴールデンタイム」をフックにして、よりZaien Lilyを知りたければ「遠い日の光」を聴いてもらう。そうしたら、バンドの深い部分も分かってもらえるんじゃないかなっていう。
河野:僕も同じような気持ちで聴けましたね。彼らのライブに来ることによって、その意味がより分かる気がします。
●確かに「ゴールデンタイム」はキャッチーで分かりやすいサウンドですね。歌詞は独特な表現が多い印象ですが、どんなメッセージが込められているんですか?
原田:簡単に言うと「自分の個性を見つけろ」っていうことですね。
鈴木:俺の妄想している物語があって、それを場面に分けて歌詞をつけているんです。直接的な表現をしている曲って分かりやすくて良いんですけど、あまり好きじゃないんですよ。曲の世界観がそれぞれあると思うので、そこにオリジナリティを持たせたいんですよね。
「面白い人間が音を出しているから面白い音楽になる。つまらない人が音を出してもつまらないですから」(河野太輔)
●飛松さんもM-1「うたかたの月夜に酔いしれど、」、M-2「水面に浮かぶ」、M-5「底なしに」、M-7「遠い日の光」の4曲を作詞作曲をしていますよね。
飛松:私は曲を作ろうと思って作曲をすることはあまりないんです。日常生活で「あ、こういうことが言いたい」っていうことがメロディと言葉で重なって出てくることがあって、その時に思ったことを曲にしているんです。だから好きなように、思ったことをそのまま曲にしている感じですね。
●じゃあ、今作の中で特に「言いたいことが言えた!」と感じる曲はどれですか?
飛松:どの曲も「言いたいことが言えた」と思っていますけど、「遠い日の光」は本当に自分の中でもよく書けたと思います。
●この曲はライブで演奏する時、特に熱量が高くなる印象がありますね。
飛松:歌う時は当時のいろんな情景を思い出します。それが嘘だと伝わらないので、本当にそう思いながらぶつけて、吐き出している感じですね。「遠い日の光」は特にそういう気持ちでやっているかもしれません。
●熱量の話で思い出したんですが、先日僕が原田さんと話している時に「普段の生活のテンションが低かったら、ライブをやっても熱量はたいして上がらない。だから、普段から生活の熱量を高く持って、ライブでそれ以上のものを出す」ということを河野さんから教わったと原田さんが言っていて。それが印象的だったんですよね。
河野:「観てくれている人がいる」っていう場所でテンションが上がるのは当たり前なんだけど、じゃあそこで「うわ、楽しい!」って盛り上がって良い演奏ができるかと言ったらそうでもない。だから「伸び縮みを感じながら生活してほしい」と思っているんですよね。
●伸び縮みですか?
河野:曲を作ったり、自分のアレンジを詰める時はグッと自分のことに集中していると思うんですけど、それだけずっとやっていても人間ダメになる。だからといって周りを見渡してばかりでも成長しない。そういう伸びたり縮んだりっていうことを感じながら生活してほしいと思っています。
鈴木:河野さんはそういう人間的な部分を言うことが多いよね。
河野:面白い人間が音を出しているから面白い音楽になる。つまらない人が音を出してもつまらないですから。
●特にロックは生き様に直結していますもんね。
河野:物だったり人だったり、何に対してもピュアな感情で生活していれば、より多くのことを吸収できると思うんです。
●河野さんが今後Zaien Lilyに期待することは何かありますか?
河野:「ムーブメントを起こして欲しい」と思っています。だから、それを起こそうと思って表現活動をしてほしいですね。自分たちの音楽が売れることで変わることもたくさんあるんですけど、それだけでなく「自分たちの音楽に関わる人をどういう風にしたいか」という意識を持ってくれたら嬉しいですね。
●Zaien Lilyとしては、今後の展望はありますか?
原田: 『ずいのそこ』をリリースしたので、あとは自分たちの音楽を伝えていくだけですね。正直『蝿ト百合』の時は、リリースすることがどんなものか分からなかったので、ただやるしかなかったんです。今回はだいぶ慣れてきたので、Zaien Lilyを知らない人に対して、自分たちの音楽を届けるためにしっかり活動したいです。
Interview:馬渡司