音楽メディア・フリーマガジン

大森靖子

鮮やかで奇妙な衝撃が、観る者の心を掻きむしり奮い立たせる

大森靖子全国ツアー♥爆裂!ナナちゃんとイくラブラブ洗脳ツアー♥
〜ノスタルジック 中野サンプラザ〜
2015/4/26@中野サンプラザ

大森靖子メイン日曜日に訪れた中野の町。そこは渋谷や新宿と同じ東京でありながら、どこか異なる空気が漂っている。ノスタルジックで、昭和の匂いを残す独自の空気感。だからこそ、“大森靖子全国ツアー♥爆裂!ナナちゃんとイくラブラブ洗脳ツアー♥ 〜ノスタルジック 中野サンプラザ〜”公演の会場に選ばれたのかもしれない…などと1人思う。会場の受付には大行列が並び、少しずつ会場へと吸い込まれていく。徐々に高まる期待感と共にある不思議な緊張感は、普段よく行くライブハウスとの雰囲気の違いゆえだろうか。座席に座って開演を待つ間も、そんな感覚は消えなかった。

場内のBGMが止むと、自然と客席から拍手が沸き起こる。幕が下りた状態のままで音が鳴り始めて、大森靖子の歌声が聴こえてきた。幾重にも重なって聴こえる歌声は、聴く者の心をざわつかせるかのようだ。幕が徐々に上がっていくと、そこにはギターを抱えた大森が歌っていた。「PINK」から始まったライブは序盤、“気”に満ちたギターの弾き語りが続く。昔懐かしい“フォークソング”の一般的なイメージとは程遠いが、心を掻きむしるかのごとくギターを弾き、情念を撒き散らすように歌う姿もまた“フォーク”の正しい姿に違いない。「デートはやめよう」で起きた“エロいことをしよう”の合唱も、大森靖子のライブならではと言えるだろう。

「魔法が使えないなら」終盤での“もういいかい もういいの”という歌声に合わせて、バンドメンバーがステージに登場。バンド編成で演奏された「絶対絶望絶好調」から、一気に明るく弾けていく。ここで心の緊張感も少し解れてきた気がする。会場の雰囲気も静かに聴き入っていた先ほどまでとは一変、立ち上がってピンク色のサイリウムを振るオーディエンス。ギターを置いてピンボーカルになった大森もより自由自在に動きまわり、「きゅるきゅる」「イミテーションガール」「ノスタルジックJ-pop」とバンドサウンドと共に盛り上げていった。かと思えば「歌謡曲」や「さようなら」では、ピアノ弾き語りも披露。お色直しで衣装の変更も交えつつ、変幻自在な姿を見せてくれる。

「絶対彼女」でのポップで可愛らしい側面から、それとは真逆のごとく絶望的な仄暗さを感じさせる「春の公園(調布にて)」の朗読まで、起伏の激しい変化を見せる大森靖子。そのいずれもが彼女自身の隠さざる姿なのだろう。次にどんなことが起きるかわからないがゆえに、見る側のこちらも常に不思議な緊張感を抱かざるをえない。本編最後の「音楽を捨てよ、そして音楽へ」では客席に降りて、観客の間を練り歩きながら1人1人に向き合うように歌いあげた彼女。ステージを去った後も客席中央に残されたピンク色のマイクは、オーディエンスの心に刻まれた鮮やかで奇妙な衝撃を象徴していた。

アンコールでは7/15にリリースされるニューシングルから、新曲「マジックミラー」を演奏。“みんなの姿を映して、何倍にも増大して返すような鏡になりたい”と、大森はMCで語った。憧れの道重さゆみとの共演を「MUSIC JAPAN」で果たし、自らも通いつめたという中野サンプラザでのワンマンライブも実現。夢見ていたものを独自のやり方で次々と叶えていく姿は、彼女の歌と共振する部分を持つリスナーの心を今後も掻きむしり、奮い立たせていくのだろう。

TEXT:IMAI
PHOTO:Masayo

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