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南壽あさ子

新たな試みから生まれた12色と、 そこから見える彼女の「らしさ」。

PHOTO_南壽あさ子“南壽あさ子 × アリオト 弾き唄いワンマン tour2014『七つ星』”や、自身初の海外公演を終え、ついに待望の1stフルアルバム『Panorama』をリリースする南壽あさ子。サウンドプロデューサーにTK(凛として時雨)を迎えて制作された「みるいろの星」や、「トイレの神様」の作詞を手がけた作詞家・山田ひろしが父と娘の絆を綴ったリード曲「かたむすび」などが収録された本作。どこまでも濁りのない透明感のある歌を軸にしつつも、彼女のあらゆる可能性を引き出すようなバラエティ豊かな12色は、聴く者の感覚をあらゆる色に塗り替えていくことだろう。リリース後には再び“47都道府県ツアー”を行い、全国に真心を届けようと前に進む南壽あさ子。その純粋な想いは、人々の心を強く惹きつける。

 

 「自分の中でも今はまだ“旅の途中”みたいなところがあって、可能性を最初から閉じてしまいたくないと思うんです」

■去年は“南壽あさ子 × アリオト 弾き唄いワンマン tour2014『七つ星』”やプラネタリウムでのライブがありつつ、ツアーの一環で台湾でも2日間ライブをやったんですよね。

南壽:6月にM-5『みるいろの星』をリリースしてから『七つ星』が決まって。7ヵ所に場所を絞って、プラネタリウムのような変わった場所も入れながらやっていたので、このツアーの中で、何か乗り越えなきゃいけない課題があった方が良いと思ったんです。あと、新たな挑戦という意味では“47都道府県ツアー”で日本一周をしたので、今度は外の世界を見てみようと。

■“47都道府県ツアー”の先へ行ってみようと。台湾はどうでしたか?

南壽:台湾ではCDをリリースしていなくて、最初は知っている人もいるのかな? っていう不安がありました。でも、向こうの会場となるカフェの方たちがすごく宣伝してくれたり、あとはYouTubeやFacebookを観てくれた方たちがたくさん来てくれて。1日目はソールドアウトして、2日目もツアーの締めくくりとして良い感じでライブができたんですよ。

■ライブでは向こうの言葉で歌うんですか?

南壽:基本的に自分の歌は日本語で歌って、自分の詞に英語をあてて作ったりもしていたので、ところどころ英語の曲にして歌いました。あとは台湾の曲もカバーしましたね。向こうに行く前は「言葉を北京語にしないと(ライブが)もたないんじゃないか?」と思っていたんです。でも、その日のライブが終わった後にお客さんが「北京語の歌も、英語の歌もとても素晴らしかった。でも、日本語の歌が一番良かったです」と言ってくれたんですよね。それに感動したし、「ちょっと考えすぎていたな」と思ったんです。

■言葉は問題じゃないと。

南壽:海外の人が日本に来たとしても、全部英語だって良いじゃないですか。外国語の音楽が始まっても、言葉を気にせずに聴く。「それと同じなんだな」って、そういう当たり前のことに気付いたんですよね。普通に(観光で)行っていたら現地の人に話しかけたりするようなタイプじゃないんです。でも、音楽でコミュニケーションが取れて、歌だけで通じ合えた瞬間が分かったので、改めて「音楽をやっていて良かった」と思いましたね。

■前作『みるいろの星』のリリースから1年が経ちますが、ミュージシャンとしての南壽あさ子の考え方は変わりましたか?

南壽:この1年で、というか最初の頃からいろいろ変わったのかもしれないです。

■あの頑固な南壽あさ子が変わったと。

南壽:フフフ(笑)。「ピアノと歌をメインにする」ということにこだわる部分は根本的に変わっていないんです。でも、そもそも歌が好きだったから、それがどういう形であっても気持ちが込もっていれば相手に届くんじゃないかって。自分の中でも今はまだ“旅の途中”みたいなところがあって、可能性を最初から閉じてしまいたくないと思うんです。もしかしたら80歳くらいになったら、ピアノと歌でシンプルにやっているかもしれない。でも、それはその前の蓄積があったからそうなっているわけで。何もせずにそうなっているのと、挑戦しながらそういう風になっていくのは違うかなと思うんです。

■その話は今作に直接繋がることだと思うんですけど、きっとミュージシャンとしてやっていく上で、いろいろと葛藤があったと思うんですよね。今作を見ると、ビジュアル的なイメージも今まで以上にポピュラリティがあるように変わっているし、「あの南壽あさ子が今作まで来た」ということが、この1年のかなりの変化なんじゃないかと想像したんです。

南壽:そうですね(笑)。でも、もっと辛いかと思ったんですけど「意外と気持よくここまで来た」というか。

■作詞に関しても、M-6「それがいいな」とM-8「かたむすび」は他の人に書いてもらった歌詞で。自分の想いや感覚や妄想を歌にして、まるでその中に身をすっぽり沈めるかのごとく歌ってきた南壽さんからすると、かなり勇気が要ることだったと思うんですが。

南壽:そこが一番のチャレンジでした。普通だったら「歌詞を違う人が書く」と言われると嫌だったかもしれないです。でも今回新しくなったディレクターさんが、私のシンプルな歌の魅力を分かってくださった上で「より声を届けたい。そのために自分では書けない言葉を歌にして、より多くの人の耳に入ったら、それをきっかけに南壽あさ子の世界を見てもらえるんじゃないか」と言ってくださったんです。

■提案があったんですね。

南壽:作詞家の方は、いわば作詞の世界のプロなので、「その仕事を見てみたい」という気持ちもありました。そういう方たちと自分の歌が掛け合わさったら、良い形で歌が届くんじゃないかなって。それもコラボレーションだと思ったんです。

■そもそも今回の『Panorama』は、「他の方に歌詞をお願いする」というところがスタートではないと。

南壽:そうではなかったです。前回リリースした3作(M-2「わたしのノスタルジア」、M-4「どんぐりと花の空」、「みるいろの星」)がアルバムに入るじゃないですか。既にその3作がバラエティー豊かなので、残りの曲を12色のパレットのように「いろんな色があって、みんな全部違うんだけど、聴いた時に統一感がある」みたいな感覚になれるアルバムが良いと思って。それで、思い切っていろんなチャレンジをしてみようと思えたんです。

■なるほど。

南壽:その中で弾き唄いをして「芯は忘れていない」っていう部分は出しつつも、いろんな音を入れてみたり、バンドでやってみたり。アプローチの仕方を何通りも作ってみたんです。そうしたら、結果的に何故か“私らしいアルバム”になったなと思っていて。それは、すごく奇跡みたいな感じで。

■確かに“らしい”アルバムですよね。

南壽:そうなんです。例え人が書いたものでも、私の中でちゃんと消化した上で歌えば、自分の歌になるんだなっていうのがよく分かったんですよ。

■M-8「かたむすび」は山田ひろしさんが歌詞を書かれていますが、どういう経緯で作詞をお願いしたんですか?

南壽:ディレクターさんが以前お仕事をしたことがあるというつながりもあって、選んでくださったんです。山田さんは「トイレの神様」を書いた方で。この曲の作詞をするにあたって、山田さんに私の3〜5歳くらいまでの写真やビデオを観てもらいました。そこで、「他人とは思えない」って言われたんですよね(笑)。

■え? どういうこと?

南壽:「ホームビデオを見過ぎて、自分の子供のように思えてしょうがない」と言っていただけたんですよ。すごく楽しそうにアルバムを見てくださって。その中で、私とお父さんがピアノの発表会で連弾をしている写真が山田さんの目に留まったんです。お父さんも趣味でピアノを弾くんですけど、一度だけ一緒に発表会に出たことがあって。その時の写真なんですけど。

■ほう。

南壽:そこで「父と娘の関係を描きたい」と言ってくださったんです。普通は私が女なので、娘の視点で歌詞を書きそうなところなんですけど。

■でも、この曲はお父さん視点の歌詞ですよね。

南壽:それがすごく斬新だと思いました。思いっきり父親目線で、しかも熱を出した日のこととか、具体的な要所も出てくる。逆に私の世界観を壊さないように歌詞を書かれても、あまり意味がないというか…チャレンジではないので。違う誰かの言葉で書かれているものだからこそ、面白い効果が生み出せたんじゃないかと思います。

■自分が書いた曲と「かたむすび」では、歌う感覚は違いますか?

南壽:そうですね。妄想で作った「誰かの歌」でも、結局は自分が考えたことなので、ビジョンが見えているんです。でもそれとは違って人が書いた詞。そして「本当に父親の気持ちを理解しないと」っていう。

■なるほど。

南壽:だから歌うことで、自分が父親じゃないから分からなかった気持ちを、年々感じていけるような気がしています。今は自分の家のことしか思い浮かばないんですけど、例えば自分が親になることで分かることもあるし、いろんな家族を見ていくと、どんどん私の中で見えてくるものがあるんじゃないかなって。

■確かにそうですね。聴いた人の環境や年齢、経験によっても聴こえ方が違うでしょうし。

南壽:今までの私の歌詞とは全く別のアプローチで人の心に届けようとしている歌詞の書き方なんですよね。自分には書けない歌詞で、だから歌っていて「こういうものが人に明快に届くものなんだな」って。

■ポピュラリティを考えるきっかけになったと。今作の全体的なイメージとして、今までの南壽さんのイメージよりも明るくて、ストレートな印象があるんです。

南壽:初夏にリリースされるアルバムなので、「爽やかに聴けるアルバムが良い」という理想があったんです。ストレートで分かりやすくて、ちょっとオープンな感じ。(収録曲が)12曲もあるっていうのが、私にとってすごく楽しくて。ストレートな曲を作っても差し込める場所があるし「こういう曲もあるんだな」っていろいろ聴いてもらえる。今までアルバムを作ったことがなかったので、その楽しさがすごく分かったんです。

■「かたむすび」は、このアルバムのために作った曲で、まだライブでは歌っていないですよね。他にもそういう曲はありますか?

南壽:「わたしのノスタルジア」、「どんぐりと花の空」、「みるいろの星」はずっとライブで歌っているし、M-7「パノラマライン」とM-12「やり過ごされた時間たち」も歌ってきた曲なんですけど、実はそれ以外はライブで歌っていなかったです。だから、『Panorama』で初披露する曲はけっこう多いんです。

■『Panorama』のリリース後には、2度目となる“47都道府県ツアー”が決まっているそうですね。また行っちゃうんですか?

南壽:そうです(笑)。日本全国、たくさんの場所でライブをします。でも47ヵ所をまわっても、結局その場所には1回しか行っていないという話ことになるんですよね。自分は動いていて、すごく大きいことをしているように見えるけど、待っている側からしたら1回きり。そこに行けない人もいるし、気づいていない人もたくさんいるから。そこで少しでも思ってくれている人がいたり、知ってもらえる人と出会えると思うと、行くしかないと思うんです。

■歌を聴いてもらうことが幸せなんですか?

南壽:歌う機会を与えてもらえるだけでも幸せだし、自分ひとりでは行けない場所にスタッフさんの力を借りて、遠くに辿り着くだけでも幸せです。

■いろんなところで歌えることが幸せだと。

南壽:だから、お客さんにはいつも本当に感謝をしているんです。ライブやイベントで機会を与えてもらったり、その場所に足を運んでもらうというのは、本当にすごいことだと思います。

■前回のツアーの移動距離はたしか…。

南壽:38,446.5kmですね(笑)。地球一周にはギリギリ及ばず。

■次はきっと地球一周に届くでしょうね。

南壽:フフフ(笑)。がんばります(笑)。

Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:馬渡司

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