音楽メディア・フリーマガジン

Crack6

破壊と再生の輪廻。その中に在る生命の輝きを 色鮮やかに描き出すコンセプト・ミニアルバム

PH_Crack6PENICILLINのギタリスト・千聖(チサト)率いるソロプロジェクト、Crack6がニューミニアルバムをリリースする。本プロジェクトではMSTR(ミスター)と名乗る彼が中心となり新たに完成させたのは、かつてないほどにコンセプチュアルな作品だ。「生命はどこから来て、どこへ向かっていくのだろう?」というテーマを掲げて、制作されたという今作。激しくもメロディアスなサウンドの中で描かれる破壊と再生の輪廻は、この地球という舞台に登場する生命たちの輝きとエナジーを色鮮やかに力強く表現している。

 

 

 

 

●今回の4thミニアルバム『Change the World』はすごくコンセプチュアルな作品になっていますが、最初からイメージがあったんでしょうか?

MSTR:ぶっちゃけ言うと、最初はそういうつもりはなかったんですよ。だから、自分でも「こんなにコンセプトがしっかりしたものを作れるんだ」ということに正直、ビックリしていますね。

●制作を始める前から明確なコンセプトがあったわけではない?

MSTR:制作当初は本当に「ごめんなさい」っていうくらいアイデアが湧かない感じで(笑)、先月(4月)くらいにやっと構想が固まったんです。作品自体が完成したのは、先週(※取材の数日前)なんですけど…。

●最初に資料を頂いた時点では、曲名もタイトルも何も決まっていなかったですからね(笑)。

MSTR:JUNGLE☆LIFEさんからインタビューのお話を頂いた時点では、まだできていなかった曲もあるくらいですからね(笑)。作り始めた当初は全然思い浮かばなくて…、3月下旬くらいにやっと頭が回転し始めた感じですね。でもバンッと(スイッチが)入った瞬間に、すごくなっちゃって。

●曲作りのスイッチが入ってから、一気に進んだ?

MSTR:出てき始めたらもうとんでもなくて、面白くなっちゃいました。本当は曲数も今より少ない予定だったんですけど、「頼むからもう1曲ブチ込みたい」ということで増やさせてもらったんです。だから本当にギリギリで、作曲と作詞が同時進行くらいの勢いでやらせて頂きましたね(笑)。

●最終的に曲が出揃ったのはいつ頃?

MSTR:全部揃ったのは4月でした。…でも今考えてみると、去年くらいから曲順や構成は浮かんでいたみたいですね。

●“みたいですね”って(笑)。

MSTR:今振り返ると、「そういえばあの時からあったな」と(笑)。去年の暮れくらいから「こういうのをやってみたいな」というのは頭にあって、それを具現化しただけなんでしょうね。だから、バババババッと(曲が)一気に出始めてからは速かったんですよ。

●4月に曲が揃って、そのままレコーディングに入った感じでしょうか?

MSTR:プリプロをやりながら、そのままレコーディングでしたね。「これは絶対に勝てる」というか、「良いものができる」と思えるスピード感だったから。こういうギリギリスケジュールだと、ちょっとでも間違えたら終わりなんですけどね(笑)。たとえば身体を壊したり、何か事故が起きたりしても終わりという中で、最終的にはきれいに仕上がりました。

●スケジュールはタイトでも、作り込めている。

MSTR:やっつけ感は全くなかったですね。やっつけにするのが嫌で1曲諦めかけていたんですけど、「これはイケる!」と思った瞬間にダダッと一気にできました。

●それはどの曲?

MSTR:M-1「Catastrophe 666」ですね。

●もし1曲目がこれじゃなかったら、作品全体のイメージも大きく違ったような…。

MSTR:ちょっと退廃的で、破滅感の漂う感じというか。(Crack6は)そういうことが表現しやすいアーティスト像ではあると思うから。ここ最近は自分の中でも、色々と考えることがあって。今の日本は比較的、すごく安全な国だと思うんですよ。でもちょっと(日本の)外に出たら、命がすごく軽く扱われる場所もある。ちょっと昔は日本でもどこでも、生きるか死ぬかのサバイバルだったわけでね。だけど今の自分たちはなぜか非常に安全で命の保証をされているような気分でいて、“永遠に(今の状況が)続いちゃうんじゃないか”というくらいの感覚で生活していると思うんです。

●ある意味、麻痺しているというか。

MSTR:そういう中で「自分はどこから来て、どこに向かって行くんだろう?」ということを考えるようになったんです。生物学上で考えたら自分が死んだら最終的に骨になって、土に帰っていく。土に帰って養分となって、植物の栄養素になって。それを食べた草食動物をまた肉食動物が食べて…という意味では、次の世代につながる生態系を担っているわけじゃないですか。次の世代にバトンタッチできるというか。それを“輪廻”と言うのだとしたら、科学的にも確実にある話だなと。そういうことを色々と考え始めて。

●それが今作のテーマにつながった。

MSTR:植物も動物も一生懸命に生きるじゃないですか。たとえば花はどんなに届かなくても、太陽のほうに向かって伸びていく。そのたくましい生命力というのをすごく表現したくなったんです。だから、今回はどの曲の歌詞にもだいたい花が入っているんですよ。

●たくましい生命力を描くために、今作はまずカタストロフィー(破壊)から始まっていく?

MSTR:自然の力がものすごい勢いで、全てを壊してしまうことってあるじゃないですか。まずはカタストロフィーで1回すごく破壊されて、そんな状況でも今度は再生するというのがM-2「Re-Born」なんです。そして再生した世界がだんだん変化していくというのが、M-3「Change the World」で。“同じ間違いはしない”という志(こころざし)で色んなドラマがあって、それがM-4「飛桜花」やM-5「白い百合の咲く丘で」だったりして。でも最終的には人間という種の本能なのか、破滅にどうしても向かってしまうというのがM-6「THE END OF THE WORLD」ですね。

●破壊から始まって、再び破滅へと向かってしまう流れを6曲で描いている。

MSTR:でも“次の世代につなげる”という意味で、最初のカタストロフィーによる破滅とは違う表現をしたくて。「Catastrophe 666」の最初のアルペジオと「THE END OF THE WORLD」のアルペジオはフレーズが一緒なんですけど、キーが違うんですよ。キーを変えることで、同じ終わりでも違うんだということを表現しています。

●新しい始まりへとつながる終わりというか。

MSTR:だから「RISING SUN」という曲が、通常盤のボーナストラックには入っていて。また日が昇る(再生)っていう、そういう流れもきれいに表現できたなと思います。この短期間で1つの音源として、そういう世界観をちゃんと形にできたんです。それこそ「2年くらいかけたのかな?」と思うような感覚になるものが作れましたね。

●きちんと世界観に沿って作り込まれた作品になっているわけですよね。

MSTR:偶然も重なったんですけど、すごいですね。クリティカルヒットだなと自分でも思いました。

●曲が出揃うまでには苦戦したけれども、結果的には素晴らしいものができた。

MSTR:そこはやっぱり去年くらいから少しずつ考え始めていたことが具現化したからなのかもしれないですね。アーティストというものには、やっぱり考える時間が必要なんでしょうね。別に「次のアルバムではこうしよう」とかコンセプトを考えたりするわけではなくて、本を読んだり映画を観たりして「なるほど、こういうことか」と感じたものが次につながるというか。たとえば僕は去年(サルバドール・)ダリの絵をよく観ていたんですけど、ダリは死をすごく恐れていて。小さい時から抱いている恐怖感を、大人になってからもずっと描いているという。そういうものも、もしかしたら刺激になっているのかもしれませんね。

●絵画からもインスピレーションを受けている。

MSTR:去年リリースしたPENICILLINのオリジナルアルバム『瑠璃色のプロヴィデンス』でも、ダリの作品を観たところから歌詞を書いてみたりしたんです。20代の頃は絵画なんて全く興味がなかったんですけど、最近はすごく面白いなと思うようになって。その時代ごとのテーマだったり、“死”や“生きる”ということに対して(画家たちが)自分たちなりに表現していて、アーティストによって表現の仕方も違う。特に近年は思うんですけど、偉大なアーティストたちの作品を見ているだけで触発されるというか。突き動かされる力があるんですよ。

●元々はあまり音楽以外の芸術に興味があったわけではない。

MSTR:目から来る刺激を感じるようになったのは、40代になってからかな。20代や30代の時は、音以外の刺激はないと思っていたんですよね。でもそうじゃなくて、視覚からの、特に「絵画」のような静止画からの刺激もあるんだなとわかりました。やっぱり長くやっていると色んな発見があるんだなと。今回のジャケットのCGを制作してくれたグラフィックデザイナーと話している時も、発見があって。彼は僕ら(PENICILLIN)の作った音楽を聴いてきた世代の人なんですよ。僕らの音楽から影響を受けてきた人と今こうやって僕が話しているということも、輪廻しているような感覚ですごく面白い。

●そこでも輪廻を感じられる。ジャケットのアートワークにもこだわっているんですよね。

MSTR:大げさなことは言いたくないんですけど、やっぱり音楽もジャケットも全てアートだと思いたいから。芸術というとごく一部の人間の特権みたいな感じがして昔はエリートっぽくて嫌だったんですけど、偉大なアーティストたちの作品を見てみると、ものすごく交差するエナジーを持っているなと。そのエナジーはすごく大事だと思うんですよ。

●必死に生きている人間だからこそのエナジーを感じられるというか。

MSTR:やっぱり生きているから音楽をするわけで、生きているから音楽を聴くこともできるわけじゃないですか。生きているからライブに来て楽しめるし、僕らもライブをやれる。ライブをやることで、“生きている”って実感したいんですよね。この時点を必死に生きることで何か面白いことができるんだったら、限られた時間をみんなで楽しんでいきたいなというのが願いなんです。虚無的になっちゃうと、進む気そのものが起きなくなるから。前に向かって進んでいる“躍動感”というのがあって、そこは感じて欲しいなと。

●生きているというのが当たり前になってしまうと、その喜びを感じられない。

MSTR:もしもこの瞬間がすごく幸せなんだと気付いていないとしたら、それはすごく悲劇だなと思うんです。でもこの国って幸せなはずなのに「自分は幸せじゃない」と思っている人がたくさんいるわけで、それっておかしいと思うんですよね。そういう人は、どこに行っても悲劇になっちゃうんですよ。

●生きている実感がないから、危険な戦場に自ら進んで参加しに行く人もいたりもするわけで。

MSTR:おかしいですよね。50年前に(太平洋戦争で)あんなにも酷い目にあったにもかかわらず、やっぱり「人間って変な生き物なんですね」っていう…。以前も同じことをやっているのに、なぜ最終的にまた破滅へ向かっていってしまうのか。種の本能なのかどうかはわからないですけど、もし終わるにしても違う終わり方にしないといけないなっていう気持ちは今作を通してありましたね。

●リリース後のツアーも、今作の世界観を体感できるものになるのでは?

MSTR:音楽にものすごく浸れる時間なんて、普段はそんなにないじゃないですか。だから、ライブではどんどん浸って頂きたいですね。死ぬほど浸ってくれても良いし、大声で歌ったりしても良い。それこそ魂の解放ができる場所だと思うんですよ。Crack6のライブはすごくアゲアゲで盛り上がる曲が多いので、みんな飛び跳ねたり騒いだりしてくれていて。もちろん今回のツアーでも昔の曲も混ぜてやるので、盛り上がることは間違いないんですよね。

Interview:IMAI

  • new_umbro
  • banner-umbloi•ÒW—pj