2014年は2枚のEPと1枚のアルバムをリリースし、ワンマン公演3箇所を含むレコ発ツアーやフェスへの出演、2回目となる自主企画イベント“アイスクリーム・シアター 2”の開催など精力的に活動し、ライブのたびに目を見張る成長を遂げてきたDrop's。2015年発、3/13@札幌、3/20@大阪、3/27@東京で入場無料・完全招待制のDrop’s Presents “SHOWCASE LIVE TOUR”を開催して全国各地のファンを熱狂させたのもつかの間、つい先日3枚目のEP『未来』をリリースしたタイミングで、夏に待望のアルバムをリリースすることを発表した。今月号のJUNGLE☆LIFEでは、一瞬も立ち止まることなく進化を続ける彼女たちの“今”を体感すべく、3/27に東京で開催された “SHOWCASE LIVE”に潜入。20代・30代・40代という世代の違う3人のライターがそれぞれの視点からライブをレポートする。
Drop’s SHOWCASE LIVE 2015/3/27@東京キネマ倶楽部
【20代女性の視点】
オーティス・ラッシュの「So Many Roads,So Many Trains」のBGMにのせて登場したのは、北の国からやってきた5人の娘たち。ステージ下手から1人ずつ登場すると、フロアからは歓声が起こった。中野ミホ(Vo./G.)はマラカスを持ってクールな佇まいでマイクをとり、1曲目に「太陽」を。「SHOWCASE LIVEへようこそ!」そう言って「泥んこベイビー」へと繋ぐ。中野は、黒髪ボブにワンピース姿の可愛らしい小柄な21歳。想像を遥かに超えた渋みある歌声で「ベイベ〜♪」と歌うのは、なんだか素敵な違和感がある。仁王立ちでキリっとした目つきでプレイする小田満美子(Ba.)に女性のファンもうっとりするだろう。そして、荒谷朋美(G.)のギターソロが引き立つ「メトロ・ランデブー」は、これまでよりスピーディーなテンポとチカチカ輝く照明がマッチしていた。足でリズムをとりながら楽しげに歌う中野につられて、これまでムーディーな雰囲気が漂っていたフロアがパッと明るくなった。そのままタンバリンを手にとり「ダンス・ダンス・ブラックホール」。「ずっとキネマ倶楽部に憧れがあって。こんな素晴らしい場所が東京にあるのか…と感動しました。最後まで浸って行きましょう!」と、この会場が夢の舞台であったことを明かす中野。自身のモチベーションを上げてゆく中で、季節感溢れる「恋は春色」を披露した。
にっこり笑顔で舞う「カルーセル・ワルツ」で魅せる、しっとりと女性らしい華やかな三拍子は、Drop’sだからこそ生み出せるサウンドだ。「出来立ての曲やります」と未発表の新曲「天使の雲」は意外にもパンク・ナンバー。さらにその音楽性の幅を広げた次作を期待させられた。スポットライトを浴びる中野に視点が集中する。「ドラキュラ・サマー」をハスキー声で歌い上げ、「アイスクリーム・シアター」ではおちゃめにハーモニカを吹く。男前だけどガーリー、そんな両側面を兼ね備えたDrop’sのマルチなパワーは、もはや無敵である。
「みんなの顔を一人残らず見られて嬉しいです。ここで出会えて、嬉しいです」と告げ、メンバー同士アイコンタクトをとりながらラストの「コール・ミー」を全力で演奏して本編が終了。鳴り止まないアンコールに応えて、下手のテラスステージから中野が登場し、身振り手振りで表情豊かにパフォーマンスを繰り広げてゆく。ダブルアンコールでは、Drop’sの代表曲ともいえる「かもめのBaby」で聴く人全ての心を虜にし、幕は閉じた。「私とあなたの未来—」。新曲「未来」を前に中野が口にしたその言葉は、春風に背中を押されるような前向きな気持ちにさせた。
【30代男性の視点】
30代の代表として、Drop'sのライブを観覧させてもらった。とはいえ正直、音楽的な趣味としては50~60代な自分が代表してしまって良いものかとも思ったが、それゆえに響くところがあったのも事実だ。
初見ということもあり、あえて何の事前情報も入れずに先入観なく臨んだライブでまず印象的だったのはVo./G.中野ミホの歌声。愛らしい風貌とは裏腹に、その声の奥に感じるのは秘めたる太い芯の存在だ。「太陽」では凛とした強さを見せたかと思えば、「カルーセル・ワルツ」ではブルージーな悲哀を漂わせ、浅川マキのカヴァー「ちっちゃな時から」では艶っぽい女性の色香と同時にやさぐれた風情も匂わせる。
その声は年齢を感じさせず、逆に言えばいくつになっても変わらないんだろうなと思わせるものだ。エヴァーグリーンな“蒼さ”も感じさせつつ、いつの時代も人の心を打つであろうタイムレスな響きも兼ね備えている。フロアを見渡してみると若い男女から年配の男性まで世代を超えた観客が集まっているのは、彼女の声が持つ普遍的な魅力も大いなる要因だろう。この客層の広さも、Drop'sの大きな可能性を示しているのかもしれない。
5人の女子たちが一体となって奏でるバンドサウンドも、同じく世代を超えた表現力を魅せつけてくれる。ガレージ~ロックンロール的な演奏をベースにしながらも、時に軽やかにしなやかに音を奏でる様は女性ならでは。ロックンロールのダイナミズムを発揮した「ダンス・ダンス・ブラックホール」やダーティーなギターが炸裂する「ドラキュラ・サマー」から、一転して軽やかでダンサブルな「かもめのBaby」まで、特定のジャンルや世代だけではない幅広い層に訴えかけられるDrop's独自のサウンドが立て続けに奏でられていく。
プロコル・ハルムの名曲「青い影」のイントロを思わせるオルガンの響きが聞こえたかと思えば、その曲名は「さらば青春」…。偉大なる先達へのリスペクトも感じさせつつ、それでもなおこの曲の際立ったオリジナリティを保たせている一番のポイントは、やはり中野ミホの歌声だろう。どんなに優れた作詞や作曲、演奏の技術があろうとも時代に名を残せない人は腐るほどいる。日本語にしてしまうとなぜか陳腐な言葉にも聞こえてしまうのだが、“個性”や“才能”というものに“技術”は永遠に敵わない。そんなことをこの夜、Drop'sのライブを観て改めて感じた。
論理や理屈を超えて響くものこそが永遠である。その一端に彼女たちは手をかけているように見えた。というのは50~60代なマインドを持つ30代の個人的な意見であって、あとはあなたが観てどう思うか…それだけだ。
【40代男性の視点】
Drop'sと私とは親と子ほど年齢が離れている。彼女らに初めてインタビューした2年前は全員まだ10代で(私は2年前も40代)、5人は当然のことながらインタビューに慣れているわけでもなく、初々しくたどたどしいが故になかなか深いところまで踏み込めず、「我ながらおっさんになったな」と年齢の差を実感したことを覚えている。
しかし、当時から彼女たちの音楽は年齢を感じさせなかった。ロックンロールやブルースをルーツにしているそのサウンドは、インタビューの際に受けた“幼さ”を微塵も感じさせず、インタビュー直後に観たライブのヒリヒリとした緊張感に衝撃を受けた。「なんだこの子たち?」と思った。
彼女たちが持つ“ギャップ”に対する衝撃は、たくさんのリリースとライブを重ねた現在も存在する。確かに存在するのだが、当時と今では衝撃の種類が違う。誤解を恐れずに言うならば、デビュー当時のDrop'sは「憧れを追い続けているバンドマン」で、今のDrop'sは「自分の道を走っている表現者」。彼女たちは覚醒したのだ。
自分の道を信じて走り続けている者の姿は、観る者の心を打つ。この日のDrop’sのライブもそうだった。「ずっとここでライブがしたかった」と言う中野の目はキラキラと輝き、5人が楽しそうに音をぶつけ合う。まるでファッションのようにロックンロールを着ているバンドは数あれど、Drop'sのロックンロールは内面から滲み出たもの。時に音で火花を散らせて痺れさせたかと思えば、時には少女らしさを感じさせ、そして時にはとてつもない“歌”で魅了する。曲ごとに異なった表現をする様は、知らず知らずのうちに夢中になってしまう。
例えばこういうことだ。「恋は春色」「カルーセル・ワルツ」では女の子らしさで魅せ、カヴァー「ちっちゃな時から」の世代を超えた奥深い表現力で舌を巻かせた直後、疾走感のあるエネルギッシュな新曲「天使の雲」でオーディエンスを沸かせ、「アイスクリームシアター」「JET SPARK」というキラーチューンで会場が興奮の坩堝と化す。くるくると表情を変えるステージは、観る者を飽きさせないのはもちろんのこと、底知れぬ魔性の可能性を感じさせる。おそらく今後、彼女たちはどんどん幅を広げるだろう。更なる成長を感じさせるワンマンだ。
Drop'sのライブに夢中になりつつも、ふと自分の隣を見ると、10代であろう女の子が、一生懸命手拍子をしながら中野と一緒に歌っていた。ステージ最前ではロックキッズがモッシュし、その遥か後方では初めてライブハウスに来たような観客が一緒に歌っている光景に、Drop'sというバンドが世代を超えて支持される理由を見たような気がした。