18歳のシンガーソングライター・タグチハナが、初の全国流通盤となる2ndミニアルバム『Orb』を3/11にリリースした。同日に高校を卒業したばかりという彼女だが、その音楽性の高さは年齢を全く感じさせない。NOTTV3で放送中の音楽情報番組「MUSIC にゅっと。」Season1で行なわれていたオーディション「ココでミラクル!」にて、満場一致でグランプリを獲得した「ビア」を筆頭に全てが名曲の輝きを放つ。その深みのある歌声は世代を超えたリスナーの心を奪い、一瞬でその場の空気すら変えてしまうほどの特別なものだ。底知れぬ可能性を秘めた新たな才能に迫る、ファーストインタビュー。
●ちょうど昨日(3/11)、高校を卒業したんですよね?
タグチ:昨日が卒業式でちょうどCDの発売日でもあったので、“終わって、始まった”みたいな感じでした。
●大学には進学せず音楽活動をされるとのことですが、最初からそういう決意でやっていた?
タグチ:去年から本格的に活動を始めたんですけど、元々は大学に進学するつもりだったんです。でもある時にちょっと大きなイベントに出させてもらう機会があって、たくさんの人の前でやったらメチャクチャ気持ち良くて…。その瞬間に受験をやめましたね(笑)。
●それはいつのこと?
タグチ:去年の2月ですね。そこから名前の表記も今の形に決めて、色々な場所に活動の幅を広げていくキッカケにもなったんです。その日に「CDを作りたい」と思ったので次の日からすぐ制作に入って、3月には自主制作盤(1stミニアルバム『夜へ』)を出しました。
●音楽自体は以前からやっていたんですか?
タグチ:音楽もやっていたし、ライブ活動もやってはいて。でも今思えば、その当時はまだ「これが私です!」という自信を持ってライブできているわけではなかったんですよ。「将来こういうことを続けていけたらいいな」とは思っていたんですけど「そのためにどうするか?」という具体的な考えもなく、ぼんやりとしていたというか。「ものを作っていかなきゃいけない」とか「もっと多くの人に知ってもらうために何かをしなきゃいけないんだ」というのに気付いたのが、その日だったんです。
●去年2月のイベント出演が本当に大きかったと。
タグチ:その日にもう、音楽しかやりたくなくなっちゃったんですよ(笑)。文章を書くのが好きだったので小説家になれたらいいなとか思ってはいたけど、それが一番にやりたいことかと言われたら違うなと。音楽をやめてまでやりたいことじゃないなと思ったから、(進学をやめようと)決めましたね。
●最初からソロで弾き語りをやっていたんですか?
タグチ:元々は高校1年の時に軽音部で友だちとガールズバンドを組んで、ライブハウスに出たのが最初なんです。チャットモンチーのコピーとかをしていたんですけど、それが本当に自分のやりたい音楽というわけではなくて。
●本当にやりたかった音楽とは?
タグチ:シューゲイザーとかが大好きなので、バンドだったらmy bloody valentineやRadioheadみたいな曲がやりたいなと思っていました。でも真似したところでダサくなってしまうし、それを自分で再現するのは難しいというのはわかっていて。バンドのメンバーを見つけるのも大変なので、それだったら自分の言葉で歌ってみようという感じでしたね。
●オリジナル曲も作っていた?
タグチ:中学生の頃から作ってはいたんですけど、ちゃんと「これが私です」という感じで表に発信できるような曲を作り始めたのは高校に入ってからですね。部活でコピーバンドをやっている時も自分のやりたい音楽は他にあるし、曲も作ってはいたんです。部活には期限もあるので、「そこからどうしよう…?」とは思っていて。そうやって思い悩んでいる時にお世話になっているライブハウスからたまたま誘ってもらって、ソロの弾き語りで出てみたんですよ。
●それがソロで歌うきっかけになったと。
タグチ:最初は曲も荒削りなものしかなかったんですけど、そこからどんどんライブをやっていくうちに定まっていった感じですね。
●洋楽の影響が強いと思うんですが、歌詞を日本語で書いているのは?
タグチ:お父さんの影響で子どもの頃から、本ばかり読んでいたんですよ。そこから日本語が大好きになったというのはありますね。あと、私は読書感想文がすごく好きで。誰かの書いた文章について自分の言葉で書き換えるという作業が小さい頃から楽しくて、本を読みながら勝手に色々と解釈をしていたんです。それを発散する場所ができたので、学校では必要以上に何本も読書感想文を書いていました(笑)。
●そんなに好きだったんだ(笑)。
タグチ:でもコンクールに出すと佳作とか入賞はあっても、絶対に大賞は取れないんですよ。それが何故だろうと考えてみた時に、私の文章は読みやすいように美しい言葉で書くことを心がけていたのですごくきれいだったんです。でもそれだとクセや面白みがなくて、読んでいる人には引っかからないんですよね。優勝した人の作品を読んでみると、やっぱりすごく面白くて。言い回しがちょっと変だったりもするんですけど、人ってそういうところが好きだったりするじゃないですか。
●確かにスラスラ流れていくようなものより、クセがある文章のほうが印象に残りますよね。
タグチ:それが悔しくて、日本語の歌も聴くようになったんですよ。それこそeastern youthなんかは言葉選びが本当に素晴らしくて、人が魅力的だと思う文章っていうのはこういうものなんだなと。歌詞だけじゃなくて、そこに音も合わせて組み立てていって、どうやって人の気持ちに引っかかるかみたいなところが大事なんだなと思って。それをしつつ自分の思っていることを発信できるのは歌だから、やっぱり自分の言葉と自分の声で歌うというのがベストだなと思ったんです。
●今回の2ndミニアルバム『Orb』は初の全国流通盤となりますが、これまでのベストという感覚もあるのかなと。
タグチ:オーディション(でグランプリを獲得したこと)の結果として全国発売になったんですけど、それまでは前作同様に自主制作で作ろうと思っていたんです。だから『夜へ』の次ということでコンセプトもちょっと変えて、違う面を見せていけたらなと最初は思っていて。でも全国発売が決まって大々的に「こういうことをやっています」というのを発表できる場をもらったわけなので、やっぱり自分の中のベストじゃないといけないなということで本当に“オールスター”を集めた感じですね。
●だから『夜へ』に入っていた曲も再録しているわけですね。
タグチ:そうなんです。でもギターも歌も録り直してアレンジも変えているので、前作を持っている人にも新しい感じで楽しんでもらえるんじゃないかなとは思います。
●しかもギター以外の楽器も基本的には自分で全て演奏しているそうですが。
タグチ:下手くそなんですけど、頑張りました(笑)。普段サポートしてくれている人たちに弾いてもらったほうが技術もあるし、絶対に良いものになるという確信もあるんですよ。でもソロアルバムを作るにあたって、それじゃ意味がないなと思ってしまって。下手くそでも自分の手でやることによって、「私の最大限です」というものができるんじゃないかなと思って、無理矢理やらせてもらいましたね。
●弾き語りの曲でも、ギター以外に色んな音が入っていたりしますよね?
タグチ:それもギターで弾いた音をループさせて逆回転させたりして作っているので、そもそもは楽器で出している音なんです。私は空間的な雰囲気のある音だったり、ちょっと気持ちが悪い感じの音が大好きなので、そういうのは取り入れたいなと前作から言っていて。
●M-2「花のワルツ/1969」だけは、バンドアレンジで録音されています。
タグチ:これはバンドチューンが欲しくて作った曲だから。北欧のバンドの音楽には日本とは違う可愛さみたいなのがあるなと思っていて、大好きなんです。女性ボーカルのちょっと幼い感じの声とかもすごく好きで、そういうのを再現するのは難しいなと思いつつ、自分の中でのチャレンジというところで作った曲でした。ちょっとサイケデリックな部分を出したいなと考えた時に、弾き語りではないなと思ったんですよ。
●曲名の“1969”はどこから来ている?
タグチ:私はサイケデリックなものが好きで、ファッションとかも含めてヒッピー的なものが大好きなんです。ヒッピーたちの栄えた時代はデザインや絵、音楽や服も色んなものがトータルで時代背景とセットになっているイメージがすごくあって。そのヒッピーたちが栄えた時代というのが、1969年なんですよね。
●そこからだったんですね。
タグチ:ある写真展を観に行った時に、たくさんのヒッピーたちが迷彩服を着た人たちの銃に1本1本花を挿していっている写真があったんですよ。それが素晴らしいなと思って。その写真がすごく印象に残っていて、そこから色々とその時代のことを調べ始めたんですよね。その時代の雰囲気も取り入れられたらなと思って、サブタイトルにしました。
●その時に受けたインパクトが曲に表れていると。あと、M-3「魚に成る前に」とM-4「夜光虫」は新曲ということですが。
タグチ:「夜光虫」は去年の夏くらいに作ったんですけど、ほとんどライブでやっていなくて。「魚に成る前に」は2014年の一番最後に作った曲ですね。やっぱり(リード曲の)M-1「ビア」が今のところ一番みなさんに聴いてもらっていると思うんですけど、この曲は今作の中でも古めのものなので「ずっとこれに頼っているわけにもいかないぞ」と。やっぱり新しい曲を「良い」と言ってもらえるのが一番だと思うんですよ。
●今の自分もちゃんと詰まった作品になっている。
タグチ:前作が完成した時に初めてのCDだったからすごく嬉しかったし、「これ最高でしょ!」と思えたんです。でも今回の作品が完成した時に、それ以上に「今の私はこれですよ!」とすごく自信を持って言えるものができたなと思って。今一番聴いて欲しいものを作ることができたから、前回よりも自信を持って出せますね。
●ブログにも今回の作品によって“「わたし」が広がってゆく”と書かれていましたね。
タグチ:『夜へ』は基本的にライブ会場での手売りだったので、地方の人は私がその場所に行かないと買えなくて。常に私と共に移動しているものだったので、そういう意味で“名刺”だなと思っていたんです。でも今回の『Orb』は私が行ったことのない場所の人たちにも手に取ってもらえる。私の知らないところで私の曲たちが、知らない人の手元に渡っていくのが面白いなと思って。それこそ他の国の人たちにも聴いてもらいたいなっていう野望があるので、その始まりがこのアルバムからだったら良いなと。まずは日本の色んな場所で、ちょっとでも多くの人に聴いてもらえたら良いなっていう感じで、私がいっぱい分身していっている気分ですね。
Interview:IMAI