2012年のメンバーチェンジ以来、自主企画“MUD PUZZLE”などを精力的に行いつつ活動の幅を広げてきたdummy-xD。「相反する2曲を収録した」という新作『magiqlogic』は、ストイックなビートに弦楽器が絶妙に絡み合う緻密で巧みなサウンドだ。オルタナ/ポストロックを継承したソリッドな音に、憂いを湛えたVo./G.アンクーの歌声が乗る。その鋭い楽曲には一貫した“儚さ”が垣間見える。JUNGLE☆LIFEでは初となる今回のインタビュー。それは、フロントマン・アンクーの意外なルーツの話から始まった。
●Twitterを見ていて知ったんですが、アンクーさんはもともと名古屋出身?
アンクー:そうなんです。もともと名古屋でパンク/ニューウェーブのバンドをやっていました。
●ライブハウスはいつから行くようになったんですか?
アンクー:高校生の頃から通い始めました。初めて観に行ったライブで、シド・ヴィシャスみたいなファッションの人とプロレスラーみたいな人が流血沙汰の喧嘩を始めて…すごく怖い思いをしたんですよね。
●えぇ…!? いきなりすごい経験をされていますね。
アンクー:「まあ、でもそんな事件は何年かに1回のことだろう」と思ってもう1度ライブハウスに行ってみたら、またそういう喧嘩が起こったんですよね。通うようになってからもよく殴り合いが起きていて。「あ、(ライブハウスは)こういう世界なのか」と思いました。
●でも通ったっていうことは「怖いもの見たさ」みたいなところがあった?
アンクー:その頃は『シド・アンド・ナンシー』っていう映画とか、パンクバンドのライブ映像をよく観ていたんです。「それと似たような現実が身近なところにあるんだ」と思って、自分がスクリーンの中に入っていく感覚でライブハウスに通っていましたね。
●それがいつしかステージで演奏するようになった。
アンクー:最初にギタリストとして入ったバンドでは、演奏中に客席から缶ビールが飛んできたりして。「怖いなー」って思いながらバンドをやっていたんですけど。続けているうちに、少しずつ周りから認められるようになったんです。揉め事も減ってきて怖い人から格好いいって言われたりもするようにもなってきたりして。それからようやく「音楽が楽しい」と思えるようになりました。
●そういう体験があっても音楽はずっと離さなかったんですね。
アンクー:違う道もあったと思うし、「音楽がないと」っていうわけでもなかったけど…。単純に好きなんだと思います。
●そこから上京して、2010年にdummy-xDを結成したとのことですが、当初アンクーさん以外は別のメンバーだったそうですね。
市川:はい。dummy-xDの前のメンバーが脱退した時にちょうど僕がやっていたバンドが解散してーー。
アンクー:その時に(市川)憲人が「一緒にやろう」って言ってくれたんです。
市川:それからタイミング良くメンバーが集まってくれたんですよね。その後、前のドラムの脱退する時にShintaroが加入して今の形になったんです。
●なるほど。みなさん大人しい印象ですけど、普段どんな会話をするんですか?
高麗:う〜ん…だいたい漫画の話とか、昔の話? 音楽の話以外で盛り上がることが多いです(笑)。
アンクー:お笑いだとダウンタウンの話とか。あと、Shintaroとはヒップホップの話で盛り上がったりします。この間も「K DUB(SHINE)が…」とか、ラッパーの話。
●それは意外ですね。
Shintaro:もともと僕もパンクが好きで聴いていたんですけど、ヒップホップはパンクが好きになる前によく聴いていて、アンクーにオススメされてから、また聴くようになりました。
アンクー:自分で歌詞を書くようになって、より好きになりましたね。ヒップホップって「本当のことしか歌っちゃいけない」っていう縛りがあったりするんです。だから面白い人生を生きている人が面白いリリックを書くことが多い。そういうところが好きなんですよね。だから、僕も極力嘘がないように思っていることを歌詞に込めようとするんです。
●なるほど。歌詞に関して言うと、前作『dummy-xD』よりも歌詞の世界観が具体的になっている気がしたんです。前作から今作を作るまでの間で何か変化はありましたか?
アンクー:『dummy-xD』の時よりも「自分にしか分からないような言葉」を減らそうと思って作りました。最近、歌詞は自分の為だけに書いているわけではないのかもしれないって思うんですよね。意味のあることしか歌っちゃいけないわけではないけど、誰にも分からない言葉の組み合わせだったらスキャットと変わらないと思うし。だから、歌詞はこれからも突き詰めていくと思います。
●作詞のスタイルは変わってきていると。曲に関しても聞きたいんですが、普段どうやって作曲しているんですか?
高麗:まず、僕とアンクーがデモを持ち寄って曲の原型を作ります。それを足し引きして、できた曲をリズム隊の2人に投げて、その反応をもらうっていう作業を繰り返したら、いつの間にか曲が完成しているんです。
●楽曲はパズルを組むように緻密に作られている印象がありますが、打ち込みは一切使っていないそうですね。
高麗:僕たちは「4人の音だけで、安易に打ち込みに頼らない」ことをしたいって始めたバンドなんです。だから、そういう部分をもっと突き詰めれたらと思っています。打ち込みを入れるメリットもあるんですけど、楽曲の時間を機械に合わせていくことになってしまう。あくまで僕らが主導で音を出していきたいんです。
●4人でバンドサウンドを鳴らしたいと。
高麗:例えば好きなアーティストのライブを観に行った時に、音源と違うことをやってくれたりすると観ていて嬉しかったりする。そういうことが好きなんですよ。だから、「その時だけの体験」っていうものが好きなんだと思います。
●なるほど。
アンクー:ライブで面白いって思うかどうかは、エネルギーの変化する様の違いだと思うんですよね。プログラムされた音を鳴らすと、たとえ素晴らしい音楽だとしても温度やエネルギーの変化すらやっぱりプログラムの範疇なわけで。もちろんそういう音楽で大好きなものもあります。でも人力(の演奏)だと、その時の微妙なニュアンスが全て出るはずだから、自分でやるなら今はそっちの方が面白いって事なんだと思います。
Interview:馬渡司