ダークでスペイシーなエレクトロポップを奏でる、電子音楽家・清水良行(新宿ゲバルト)のソロプロジェクト“Cosmo-Shiki”。2013年10月にリリースした初の流通盤『BLEEP UFO』以来となる、新作『Alien Syndrome』が遂に完成した。ノスタルジックなメロディを優しく歌い上げる繊細な楽曲と、ハードなビートの踊れるサウンドが共存する全7曲の振り幅はまさしくCosmo-Shikiならでは。当初の予定から3ヶ月の延期を経て、苦悩と葛藤の末に生み出された名作の魅力に迫るスペシャル・インタビュー。
●今回は当初の予定から3ヶ月も発売延期になったそうですが、聞いたところによると本来の〆切日にはまだ1曲しかできていなかったとか…?
清水:えっ、いきなりそこを掘り下げるんですか(笑)!? …でも、そうなんですよ。完璧に心が折れた状態になってしまって…。
●曲を作ろうとしたけど、できなかった?
清水:曲は作っていたんですけど、どれも引っかからないというか…。
●自分の中でもグッとこなかったわけですね。
清水:このままだとヤバいと思って、とりあえず色んな曲の断片みたいなものはあったので同時並行で制作していきました。でも自分の中で「違う! 違う!」と思いながらやっているから、どんどん変わっていくんですよ。そうこうしているうちに曲数だけは増えてきて、「これは(予定どおりに)出せるんじゃないか…?」と。ラフはいっぱいできたので、「とりあえず今一番進んでいるものからやろう!」みたいな感じでやっていたんですけど………できなかったんです(笑)。
●結局、間に合わなかった(笑)。
清水:「何日までにどれだけ作らなきゃいけないのか?」とか基本的なところが、もうわかんなくなっちゃって…。そういう心のテクニカルトラブルもありつつ(笑)、(楽曲制作用の)マシン本体のトラブルも結構あったんですよね。「ラフは10曲以上あるから何とかなるはずだ!」と思う自分もいたんですけど、〆切が近付くにつれて「あれっ、…マジでヤバいんじゃないの?」と。「これを過ぎるとどうなるんだろう? 〆切の向こう側ってどうなっているんだろう?」みたいな。
●〆切を超えて、その向こう側を見てやろうと…(笑)。
清水:いや、超えたいとは思わなかったです。むしろタイムマシンで戻りたかった(笑)。それで色んな友だちに電話して「〆切って過ぎたらどうなるの?」って訊いたりとか…。
●いやいや、もっと他にやることがあったでしょ(笑)!
清水:とりあえず(新宿ゲバルト/FLOPPYの戸田)宏武くんに「ヤバいんだけど、どうしたらいい?」って打開案を訊いたら、「もうでっち上げるしかねぇ」と言われて。
●その打開案もどうかと思いますけどね(笑)。
清水:とにかく「やっているんだけど、全然できない!」っていう感じの、空回っている状態で。そうこうしているうちに、ようやく1曲できあがって。そこで取っ掛かりを掴んだので2曲目をやり始めていたんですけど、その時点で〆切まであと3日しかなかったんです。…もう本当に「死にたい」って思いましたね。
●ハハハ(笑)。そのくらい追い詰められていたと。
清水:「このラインを超えるともう一気に行ける」っていうところを超えられなかったんですよね。そこで心のモチベーションが底まで行ってしまいまして、「音楽をやめるかやめないか」みたいなところまで行ったんです。
●それは曲を作れない自分に対しての気持ちから?
清水:それもあるんですけど、自分の作った曲がものすごくダサく聞こえるという病気にかかってしまいまして…。何回も聴いていると慣れてくるので、「これは途方もなくダサいんじゃないか…?」とか思い始めてしまうんです。その妄想に囚われてしまうとなかなか抜け出せなくて、何を作っても「ダメだ!」みたいな。
●重症ですね…。
清水:あと、一番の原因はプレッシャーです。KIMONOから出す2枚目の作品ということで、ちゃんとしたものにしないといけない。しかも前作『BLEEP UFO』から1年経っているのもあって、色々と欲も出てきて…。「こういう作品にしたい!」というものが自分の中にあったので、それをクリアしたかったんです。それで三浦(俊一/レーベルオーナー/NESS)さんに泣きの電話を入れて、「延期させて下さい」と頼みました。
●そこで延期が決まったと。実際、今作でやりたかったこととは?
清水:“爽やかなポップソング“と“ノれる感じの盛り上がる曲”を作りたいということでした。そういう自分の不得意な分野をやっていかないと、これから先はないぞと思ったんです。だから時間はかかってしまったんですけど、1回目の〆切を超えたあたりから急激にスピードが上がったんですよね。
●何かキッカケがあったんですか?
清水:“火事場のクソ力”的なやつですね。
●それって普通は、〆切前のギリギリの時に発揮するものでは…?
清水:僕の場合は超えてからなんです(笑)。あとは、機材を変えたのが一番大きかったですね。自分に活を入れなきゃと思ったのでパソコンを買い換えて、ソフトも全て最新のものに変えたんですよ。
●制作する機材が新しくなったのも大きかった。
清水:新しいソフトを使うと、音が最初から良いんですよ。前のソフトだとシンセの原音がザラザラしていたりして、それをいちいちトリートメントするのに時間がかかっていたんです。でも今回は初めから音が良かったので、その作業は置いておいて曲作りに専念できた。だから作業効率も上がって、曲を作るのが楽しくなったんですよね。
●ちなみに最初の〆切の時点で唯一できていた曲というのは?
清水:M-3「Theta in the sky」ですね。その後にM-7「星屑リフレイン」ができて、「よし! クリアした!」と思って。最初に自分のやりたいことができたので、3曲目以降はすごくスムーズに行ったんですよ。あとは“クラブでノれる感じの曲を”という感じで作っていきました。
●もう1つのテーマに移行したわけですね。それはM-1「Division」あたりの曲でしょうか?
清水:今までならこういう感じの曲ができても、出していなかったと思うんです。今回はドラムンベースが勇気を与えてくれましたね。
●というのは?
清水:最初は激しめのギターが鳴っていて、打ち込みが入っているんだけど…“結局、何が言いたいの?”みたいな感じで、芯がない状態だったんですよ。そこで打ち込みのキックの場所をちょっと変えてみて。昔パソコンを買ったばかりの頃はそういう曲ばかり作っていたので、懐かしいなと思いつつ「今、ドラムンベースをやっている人っているのかな?」と思ったんです。僕にとっては青春だったので、あえて今やってみようと。そしたら上手い具合にハマって、ものすごく良いテンションで作れましたね。
●自分の中でのラインを超えられたことで、吹っ切れた部分もあったのでは?
清水:ありましたね。今回は手応えを感じられる曲がたくさんできたから。あとは、人様の手も借りながらでしたけど…。
●M-2「posi」は三浦さんとの共作ですが。
清水:三浦さんが得意なボキョボキョベースラインがものすごくカッコ良くて。「こういうのを作りたい!」と思って、自分でもやってみたんですよ。やり方を教えてもらったんですけど自分でやったら“何か違う…”となっていた時に、三浦さんが自分で作ったベースラインをデータで送ってくれたんです。そこに色々とくっつけて、この曲を作りました。
●タイトルは歌詞にある“positronic brain”から?
清水:“陽電子頭脳”という意味で、SF小説に出てくる言葉なんです。要はロボットの脳みそのことですね。“ロボット三原則”というのがあって、それを曲名にしようというところで作ったのがM-5「Vector」で。
●…ん? 「ロボット三原則」という曲名では…?
清水:後で考えたら、「ないな」と思って(笑)。「Vector」は90年代にあった、クリックハウスのはしりみたいなイメージで作って。クリックハウス自体はわりと最近のものなんですけど、そういうふうにテクノのジャンルが細分化される前の90年代的な雰囲気が出せればなという感じでした。
●M-6「ソラリス」は小林写楽さんとの共作ですね。
清水:これは写楽さんがトラックを作ってくれて、僕が歌詞を乗せたんです。歌詞に一番、時間がかかるんですよね…。
●前作に引き続き、今回の歌詞も宇宙的なイメージを想起させるものが多いかなと。
清水:結局、そこに落ち着いてしまいまして…。自分の中でも「また宇宙かいっ!?」という気持ちがあるんですけどね(笑)。
●そもそも“Cosmo-Shiki”という名前でやっているわけだから、そこは気にしなくてもいいのでは…?
清水:逆にそれがあるゆえに、殻を破りたい自分もいて。今回の歌詞は“Cosmo-Shiki”ワールド全開ですけど、その殻を楽曲の力で破れたんじゃないかなと。もちろん歌詞も気に入っているんですけど、次のネタを探さないとなとは思っていて。最近はもっと日常のことを歌いたいなと思っているんです。
●実は今回の歌詞にも、普段思っていることが反映されていたりもする?
清水:わりと歌詞には、その時の心情的なものが反映されていますよ。特に「Theta in the sky」や「星屑リフレイン」には“逃げ出したい!”っていう想いが出ていると思います(笑)。
●ハハハ(笑)。それくらい制作が辛かったと。
清水:だから、どっちの歌詞でも空を飛んでいるんですよ(笑)。
●ちなみにM-4「Night of Aliens」の歌詞中で“Are you ready? Oh! year!!!!!!!!!!”とありますが、これって“year”じゃなくて“yeah”の間違いですよね?
清水:あぁあ! 本当だ…。
●でも今日のお話を聞いてみると、この歌詞って実は「〆切だけど、もうできた? うん、あと1年!」みたいな意味なんじゃないかと思えてきました。
清水:それ、頂きました!
一同:ハハハハハ(爆笑)。
Interview:IMAI