2014年はメンバーの脱退という危機を乗り越えて、計4枚の会場限定シングルとミニアルバム『El Blanco 2』をリリースしてきたKidori Kidori。藤原寛(ex. andymori)をサポートに迎えてのライブ活動も精力的で、数々の大型フェスにも出演を果たす中で実力と人気をさらに高めてきた。止まることなき進化を続ける彼らが世に放つ次なる一撃は、なんと日本語詞の新曲3曲に洋楽カバー3曲を加えたコンセプトEPだ。既にライブでも披露され、盛り上がりを見せているリード曲「ホームパーティ」を筆頭に、いずれも“らしさ”溢れるキラーチューン揃いの日本語曲。そこに込められた変化を恐れぬ挑戦心からは、大いなる飛躍への可能性も感じられる。カバー曲の振り幅の広さが物語るように豊穣な音楽的ルーツを持つ彼らが、日本語ならではの親しみやすさを強力な武器の1つとして備えた今、その到達点はまさしく計り知れない。次なるアルバムへの期待を早くも高める新作EPについて、マッシュ(Vo./G.)に迫るスペシャル・ロングインタビュー。
●まず今回の1st EP『El Urbano』は新曲が全て日本語詞というのが驚きなんですが、こういう試みをしようと思ったのは何故なんですか?
マッシュ:“変化”を求めていて。僕らはずっと英詞メインでやってきたバンドなんですけど、時々は日本語詞の曲もやっていたんです。「ここらで一発、日本語詞でリード曲になるようなものを出してみたい」という“挑戦”というか。同じところで留まっているのは居心地も良いし、作業的にも自分の中にあるノウハウを繰り返すだけで曲ができるから楽なんですよ。でも「それじゃダメだろう」っていう。もっと健康的で労働的であるべきだから、こういう試みも必要なのかなというところでやることにしました。
●変化を求めていたと。これまでに発表された日本語詞の曲も良かったと思うんです。前作『El Blanco 2』(2014年)収録の「テキーラと熱帯夜」は、実際にライブでも盛り上がっていますよね。
マッシュ:「テキーラと熱帯夜」はみんな気に入ってくれたし、『El Blanco』(2013年)に入っていた「◯◯病院」も評判が良かったので、自分でも「変なものばかり作ってきたわけじゃないんだな」とは思います(笑)。でもやっぱり日本語詞の曲を出すのに、不安な部分はあって。YouTubeに上がっている僕らの曲は英詞ばかりだから、もしCDを買わない人たちからしたら完全に“英詞のバンド”という認識だと思うんですよ。そういう状況下で日本語詞のリード曲をやるというのは、わかりやすいセルアウトに見えてしまうのかな…と。自分の中にしっかりとした芯を1本持ってさえいれば良いとは思っているけど、外からはブレたようにも見えるんじゃないかとか、色んな恐怖はありましたね。
●でも実際に今回の3曲はどれもKidori Kidoriらしい曲になっていますし、変にシーンの流行を意識したものにはなっていないですよね。
マッシュ:そういうものはやりたくないんですよ。たとえば「Come Together」(『El Blanco 2』収録)あたりにそのまま日本語詞を乗せると、それなりのものになると思うんですけど、「それはちょっとつまらないな」と(笑)。だったらガラッと変えてしまおうということで、今までリード曲になっているような鋭い曲調のものではなく、僕らがやってきた日本語曲の路線をそのまま素直に出した感じですね。
●「テキーラと熱帯夜」もそうでしたが、今回のM-1「ホームパーティ」も独特な“ユルさ”があるのが良いなと。
マッシュ:ずっと鋭い感じの曲をやってきたけど、基本的には僕も川元(Dr./Cho.)もボケた人間やから(笑)。2人とも田舎で生まれ育ったのもあって、根本はとぼけているんです。そういうところもあるから、たまにボケた曲ができても違和感にならないというか。すごくクールに決めているヤツが急にボケたことをやるというのは、普通はあんまり共存できない二面性だと思うんですよ。でもそれが自分たちならできるんじゃないかなと思って。
●「ホームパーティ」は歌詞にもそういうユルさが出ていますよね。マッシュくんと川元くんが2人で住んでいる家の雰囲気も想像させるというか(笑)。
マッシュ:家の雰囲気も入ってはいますけど、ウチはベランダでタバコは吸わないんですよ。リアルと創作の入り混じった世界観ではありますね。妙なリアルさがあって、単なる作りものではないなと思います。「ホームパーティ」に関しては“頭韻”といって、各フレーズの頭で韻を踏むということを密かにやっているんですけど、そこでの文字合わせのために生まれる創作もあって。
●そう言われれば確かに「ホームパーティ」は、フレーズの頭で韻を踏んでいますね。
マッシュ:僕らが英詞でやる上で一番大事にしていたのが“韻”なので、ここだけは今までのフォーマットを残したくて。ひたすら韻を踏んでいる中でも外すところはあえて外すことで印象に残るようにしたり、逆に韻をやたらと連続させたりもしているんです。他人にはあんまり気付かれない言葉遊びなんですけどね(笑)。
●歌詞の内容はどんなイメージで書いたんですか?
マッシュ:落ち込んでいる友だちがいて、そいつを励ますパーティをするというイメージが近いかな。そこでなぜ“ホームパーティ”なのかというところに、“都市での生活”というものがあって。もし自分の地元やったら「俺んちに来いよ」っていう感じだと思うんですよ。そういう田舎者である自分と、都市との間を探して迎合しようとしているというか。背伸びしている感じですね。
●確かに“ホームパーティ”という言葉には、都市的(アーバン)な響きがありますよね。
マッシュ:そうなんですよ。でも“ホームパーティ”というものが実際にどういうものなのかはよくわかっていないというところにも、都市に迎合しようとしている感じが出ているというか(笑)。
●そういう意味ではシティポップ的なサウンドのM-2「記号の街」も、都市を感じさせるものですよね。
マッシュ:これも東京に馴染もうとする中で見えてきたものを形にしているというか。何でも「これはこうするのがカッコ良い」みたいなものが、東京にはすごく多いなと思って。そういうところから着想を得て、作っていった曲ですね。
●何でも記号的に消費されてしまう都市の特徴からの着想が元になっている。
マッシュ:あと、家が近いので渋谷によく行くんですけど、その時もやっぱり音楽を聴いているんですよね。僕は視界と音をマッチングさせる遊びが好きで、たとえば「山に行ったら、これ」みたいな音楽が自分の中にあるんです。でも渋谷に当てはまるBGMが最初は見つからなくて。ゆらゆら帝国の『空洞です』(アルバム/2007年)とかの感じが僕の中ではスポッとハマったんですけど、そこから“記号の街”と呼ぶのがちょうど良いんじゃないかなと。自分の中では“2010年代の渋谷で聴きたいもの”っていうテーマで作りました。
●今現在の渋谷で聴きたい音楽を作った。
マッシュ:最近の世の中は何かとリバイバルムードが高まっている気がしますけど、自分がいる東京は90年代でも2000年代でもなく、今の2010年代だから。そこに何とか合うようなものを作りたいなと思って、こういう曲を作ってみたんです。
●シティポップ的なサウンドになったのも、渋谷の街の雰囲気から?
マッシュ:そうですね。もし僕が池袋に住んでいたら、こういう曲はできていなかったと思います。まだそこまで語れるほど詳しくはないけど、たぶん全然違うんだろうなという気はしていて。やっぱり(渋谷は)自分の生活圏だから、リアルな日常なんでしょうね。
●シティポップは元々好きなんですか?
マッシュ:元々、山下達郎やシュガーベイブが好きなんですよ。僕は細野晴臣“信者”なので、その周辺のものも色々と好きで。歪んだギターの音は「ホームパーティ」でも使っていないんですけど、ちょうど自分の中で(そういう音が)時代と合わなくなってきている気がしたんですよね。そうなった時にクリーンなギターの音でどう弾くのがカッコ良いのかなと思って、シュガーベイブとかを改めて聴き直したりもしたんです。
●正直、「記号の街」は細野晴臣さんっぽいところがあるなと思ったんですが…。
マッシュ:ああ〜、ありがとうございます。それは僕の中で、密かなテーマだったんですよ。“記号の街”という題材で、そういう(シティポップ的な)サウンドというのがまずあって。でも自分は田舎者だというところで、田舎的な音楽の象徴としてのカントリーやニューオリンズがある。そして、そういった音楽に影響された細野晴臣さんがいて…というところで上手くフェードが合ったらすごいんじゃないかと思って、一生懸命作ったものがこれなんです。
●それが結果的にこういう形になったんですね。
マッシュ:メロディはフォーキーな感じで、バックのサウンドはファンキーなところが面白いんじゃないかなと。
●続くM-3「PJ状態」は今回の新曲の中では最も今までのKidori Kidoriらしい、エッジの鋭い曲かなと思います。
マッシュ:これだけは(他の2曲よりも)ちょっと前に作った曲なんですよ。自分としてはこれをリード曲にしたかったんですけど、歌詞に開けていないところがあるというか、“自分”が前に出すぎている感じがあって。変な曲だし、面白いものにはなっているので良いなと思うんですけどね…。
●確かに“変”ですよね(笑)。そもそも“「PJ状態」って何やねん?”っていう…。
マッシュ:そこがネックだったんですよ。説明しないといけない部分が多いというか。この“PJ”というのは“Pearl Jam”(アメリカのバンド)のことで、“Pearl Jam状態”ということなんです。
●“Pearl Jam状態”とは?
マッシュ:Pearl Jamって、日本ではあまり知られていなくて。音楽が好きな人でも名前は知っているけど、ちゃんと聴いたことはなかったりする。そういう感じで名前だけが先行していて、実際にはどんなものかわからないっていう状態のことですね。それは自分たちについても言えることで、わかってもらえていないところもあるだろうなと思うんですよ。
●名前やイメージが先に立って、本質が理解されないというか。
マッシュ:人だって、そういうものですよね。伝わらない愛想笑いをしていても、実際はどうなのか誰にもわからない。サビの“伝わらない 愛想笑い”っていうのは、そういうところからで。この曲はわりとサウンドのほうが重視されている曲というか。そこがKidori Kidoriらしい所以なんですけど、言葉という意味では「ホームパーティ」や「記号の街」のほうが見えやすいんですよ。でも「PJ状態」は内面の話なので、見えづらいところがあって。ただ、田舎者の自分が新しい環境に溶け込めないというのもそういう状態に当てはまるのかなと思ったので、今作に収録することにしたんです。
●どの曲も自分たちの境遇に当てはまる。
マッシュ:今回は“田舎者が都会に上手く馴染もうとする”というのが1つのテーマになっていて。「ホームパーティ」はその“生き方”で、「記号の街」はそこで“見えているもの”、そして「PJ状態」はその“内心”っていう作りになっているんですよ。
●そこまでの3曲が今回の『El Urbano』の本編で、後半のカバー3曲はボーナストラック的な意味合いもあるのかなと思ったんですが。
マッシュ:そういう面もあるんですけど、実はボーナストラック的な後半の3曲にもつながるテーマがあって。M-4「Take Me Home, Country Roads」(John Denver)の“Country”って、田舎のことじゃないですか。直訳すると“田舎道、俺を家に連れて帰ってくれよ”という意味で、要は“郷愁”なんですよ。その“郷愁”も今回の大きなテーマになっているんです。
●実は前半の3曲にもつながるテーマがあると。
マッシュ:その次のM-5「There is a light that never goes out」(THE SMITHS)も1行目から“Take me out tonight”(今夜、連れ出してくれよ)と歌っていて。まだ環境に馴染めていない自分が、他者に委ねるように「なんとかならないかな…」と思っている感じがする。THE SMITHSの曲は、大体がイケていないヤツらの目線で描かれているんですよね。そういう周りに馴染めていないヤツが「ホームパーティをしよう」と言う感じがまさに重なるなと。だから、この曲は特に「入れたい!」と思ったんです。
●M-6「Why Does It Hurt When I Pee?」(Frank Zappa)も同じテーマでつながっている?
マッシュ:この曲は歌詞を読んでも(意図が)見えてこないので補足が必要なんですけど、ちゃんとテーマがつながっているんですよ。『ジョーのガレージ』(1979年)というアルバムに入っている曲で、簡単に言うと主人公のジョーが都会に行って遊ぶという話なんです。その中で調子に乗ったジョーが娼婦を買って、病気をもらったっていう話で(笑)。これも都会に馴染もうとして失敗したという歌だから入れることにしました。
●そもそもカバーを入れるというのは、どういうアイデアからだったんですか?
マッシュ:カバーを入れるというのも、シングルらしいのかなというところがあって。たとえばレッチリ(Red Hot Chili Peppers)もシングルにカバーが入っていたりするし、そういうマナーや文脈に則ったというか。日本語詞の新曲が入っている前半では今までとは違うベクトルを見てもらいたかったし、カバーに関しては今までやったことのないことをやりたかったというのもありましたね。日本語詞の3曲から見えるものとカバー3曲から見えるものを合わせたら、色んなビジョンが見えるんじゃないかな。色々な“面白い”と色々な“やりたい”を複合させた結果、こういうものになったと思います。
●今回のEPは、次のアルバムを想像させるものにもなっているんでしょうか?
マッシュ:今ちょうど作っている段階なので変動するところはあると思うんですけど、現状ではそうですね。アルバムではまたビックリさせたいので、多くは語れないところがあって…。ただ、今作でピックアップしているテーマはそのままで行くつもりなんですよ。「どうなることやら?」っていう感じはあるけど…、きっと面白くなると思います。
●ちなみに前作のインタビューでは自分たちは“らっきょ”であると話していましたが、今回は…?
マッシュ:今回はカレーじゃないですかね。
●あ、一気にメインになった!
マッシュ:カバー曲も「〜Country Roads」はフライドチキンみたいなものですからね。「There is〜」は好きな人は好きっていう感じだからキッシュ的なもので、…最後の「Why Does〜」は世界一臭い缶詰(※シュールストレミング)かな(笑)。でも日本語の曲についてはグラタンやハンバーグ、カレーライスくらいのものになっているんじゃないかなって思うんです。
●その心境の変化はどこから?
マッシュ:自分はヒネくれている人間なので素直な気持ちを言うのが照れくさかったんですけど、本当に衝撃的なことが去年あって。12月にandymoriのラストライブを武道館へ観に行った時、素直に感動したんですよ。「武道館でやるのって、こんなことなんだ!」と知ったし、そこで初めて自分たちも「武道館でライブがしたい!」と思ったんです。そうなった時に「珍味じゃ、ちょっと無理じゃない?」と…。
●無理でしょうね(笑)。
マッシュ:「武道館でやりたいな」と素直に思った時に、もっと開けた意識じゃないとダメだなって思えたんです。今回で垣間見えたと思うんですけど、「あれ? Kidori Kidoriって珍味じゃなくなってきてない?」という感じは正直あると思うんですよ。そもそも別に珍味を求めて聴くような音楽でもなかったと思うし(笑)、本来はポピュラーなほうのシーンにいたバンドだから。ポピュラーな中での“らっきょ”から、少しずつメインストリームな方向に移り変わっていきたいなっていう想いがありますね。…まあ、巨大な“らっきょ”になっていくのか、カレーライスになっていくのかはまだわからないですけど(笑)。
●リスナーがどう受け止めてくれるかにもよりますからね。その第一歩が今作というか。
マッシュ:なにせ初めてのことですからね。でもきっと受け入れてくれるんじゃないかなっていう自信はあるので、「聴いてくれよ」って思います。
Interview:IMAI