平出夏生と鴨志田智愛の“ギタ女”2人組によるユニット、シェアー。結成以来、ライブを中心に活動してきた彼女たちに転機が訪れたのは、2014年のことだ。世界最大規模の気象情報会社“ウェザーニューズ”が「空で繋がる」をテーマにアーティストとコラボレーションし、楽曲制作・無料配信を行ってきた“ソラウタ”プロジェクトの“ソラウタシンガー”に選ばれ、2014年の五季(四季+梅雨)の“ソラウタ”を担当。そこから「浪漫飛行」のカバーをキッカケに、石井竜也からの楽曲提供も実現した。“空”をコンセプトに作られた初のフルアルバム『Share the Sky』は、大きな成長を遂げた2人にとって、この1年間の集大成的作品と言えるだろう。
●元々、お2人の出会いは?
鴨志田:同じ音楽系の専門学校に通っていて、2年間クラスが一緒だったんですよ。
平出:それぞれに活動していた時もあったし、全く音楽をやっていなかった時期もあったんですけど、卒業して1年後くらいにシェアーを結成しました。
●音楽をやっていなかった時期もあるんですね。
鴨志田:私はバンドでボーカルをやっていたんですけど、1年半でやめることになって。その後は、しばらく音楽をやっていない時期があったんです。その頃にちょうど(平出に)会って、「一緒にやりたいな」っていうことになりましたね。
平出:学生の頃から、お互いの歌を聴いて“いいな”とは思っていたんですよ。一緒にやってみたいという話もあったんですけど、当時はそれぞれ別でやっていたこともあったので実現しなくて。卒業して2人とも何もやっていない時期にちょうど出会ったことで、一緒にやってみようということになりました。
●昔からお互いに魅力を感じていた?
鴨志田:そうですね。お互いに持っていないものを持っていたので、授業でも向上し合えるような仲でした。
●曲作りはそれぞれ昔からやっていたんですか?
平出:私は元々ただ歌うことが好きだったので、あまり自分で曲を作るというのは考えていなかったんです。
鴨志田:私も曲作りは全くしていなかったですね。だからバンドをやめた時は、自分自身に何も残っていなくて。“自分の曲が欲しいな”という気持ちになったので、この2人でやるようになってからは“自分たちが書いた曲を歌いたい”という想いで作ってきました。
●2人とも作曲を始めたのは、シェアーを結成してからなんですね。
平出:私たちが専門学校で選択していたのはボーカルコースだったので、歌しかやってこなかったんですよ。
鴨志田:2人ともギターを弾いたこともなかったんです。2回目のライブで初めてギターを弾いたんですけど、もう顔を真っ青にしながらで…(笑)。だから最初は弾けるコードで、曲を作ることが多かったですね。
●まずはギターを弾くところからだったと(笑)。
平出:結成して一番最初に作った曲が、M-5「前を向いて」なんです。当時はまだどうやって曲を作っていけばいいのかもわからなかったので、“こういう曲にしたい”というよりは“できあがったらこの形だった”という感覚のほうが強くて。
●それを今作『Share the Sky』にも入れたのは、最初に作った思い入れのある曲だから?
平出:色んな曲を作ってきた中で今でも歌っているくらいなので、本当に大切な曲ですね。
●お互いが作ってくる曲はタイプが違ったりもする?
鴨志田:それぞれで作ってきた曲は全く別物な感じだったりもするので、“こんなにも色が違う2人が一緒にやっているんだな”っていう気持ちにはなりますね。
平出:(鴨志田は)視点が面白いなって思います。同じものを見ていても、私とはちょっと違う角度から表現していたりして。“そういうところは気にしていなかったな”って私が思うようなことが歌詞に入っていたりして、言葉の選び方が面白いなと思いますね。
●ちなみに、どういう歌詞が面白いと感じますか?
平出:たとえばM-10「リアルレイン」の中では“彼がタバコを吸っている間、自分が待っているのは嫌だ”というようなことも歌っているんですけど、私はそういうふうに思ったことがなかったんですよ(笑)。あと、“こんなんじゃ私 むくわれないじゃない”みたいな強い言葉も私は歌詞に入れないから。自分の意思が出ているというか、“そういう言葉もちゃんと入れるんだな”って思うことがあります。
●曲調的にもこの曲は強い感じがしますよね。
鴨志田:この曲だけ、ちょっと色が違う(笑)。イライラしている時って、ガチャガチャした音楽を聴きたくなるんですよ。私はロックな感じの曲も好きなので、そういう曲も作れたらいいなと思って。
●曲調にもお互いの性格が出るというか。
平出:(鴨志田は)曲がボーイッシュな感じがしますね。女の子的なかわいらしい曲というよりは、男性アーティストが作りそうな曲調やメロディラインが多いかなって思います。
鴨志田:逆に(平出は)女の子らしい感じで、歌詞がまっすぐで女の子の弱さが見え隠れするものが多くて。あとは80年代の音楽も好きだから、そういう懐かしい感じも曲調にあったりしますね。
●作る曲のタイプが違うから、一緒にやることで生まれる面白さもあるのでは?
平出:そうですね。自分からは絶対に出てこないようなものでも、一緒に歌うと“いい感じになったね”っていうことも結構あるんですよ。
●そんなお2人が2014年は“ソラウタシンガー”に選ばれて、五季(四季+梅雨)の“ソラウタ”を担当したんですよね。その経験は大きかったのでは?
鴨志田:かなり大きかったです。当初はライブのペースも月1回でゆっくり活動していたんですけど、ソラウタシンガーに選ばれてからは自分たちのペースだけじゃ動けなくなったので、それについていくのも必死で…。でもそれによって今までにないものを身につけられたというのも、この1年ではすごく感じられました。
●五季のソラウタの中には、自分たち以外に作ってもらった曲もあるんですよね?
鴨志田:元々は「全曲シェアーの曲にできたらいいね」という話もあったんです。でも去年の3月に選ばれて、いきなり4月に曲を出すという状況だったので、最初の曲(M-1「サクラサク」)は作って頂いて。梅雨(M-4「紫陽花咲くこの道で」)と夏(M-6「sun sun days」)は私たちが書いたんですけど、その後からアルバム制作が始まったのもあって、秋(M-8「小さい秋」)と冬(M-11「冬の奇跡」)は書いて頂いたという感じですね。
平出:自分で作ったものだけじゃなくて人に作ってもらったものもあったから、歌っていても1曲1曲で新しい発見があったんです。だから、この1年間はずっと新鮮な気持ちでいられましたね。
●他にも米米CLUBのカバーM-2「浪漫飛行」や、石井竜也さんの作曲によるM-3「Share the Sky」も入っていますが、これはどういう経緯で?
鴨志田:元々は“ソラウタ”プロジェクトの中で「浪漫飛行」をカバーするという話になって、その時に石井竜也さんとご挨拶させて頂いたんです。その時に石井さんから「曲作る?」と言って頂いて。
●「Share the Sky」は作曲が石井さんで、歌詞はシェアーが書いていますね。
鴨志田:今までのソラウタは季節のことを歌っていたんですけど、“空を見上げた時、どんな気持ちで見上げているんだろうか?”というのを歌にできたらと思って作った歌詞なんです。
平出:今まではあまりテーマを決めて書くことがなかったので、“これを伝えなきゃいけない”っていうところからスタートするのは難しかったですね。そういう部分でもこの1年間で何曲か作らせて頂いた中で、すごく勉強になりました。
●ソラウタを通して、自分たちも成長できた?
平出:夏はバンドっぽい感じだったり、秋・冬はバラードだったりと、曲ごとに歌詞も違えば世界観も変わるから、自分の持っている引き出しの中でどう表現するかで悩むこともあるんですよ。どうしてもわからない時は色んな人の曲を聴いて“こういうふうに表現するんだな”と知ったり、作曲者の方から「こういうものを想像して歌ってみて欲しい」というアドバイスを頂いたりもして。そういう中でできあがった、一番いいものが今回の音源になっているんです。1曲1曲に私たちの表情も出せたかなと思うし、そういう面では成長できたんじゃないかなと思います。
鴨志田:全ての曲にすごく思い入れがあるから、“この曲を聴くとあの頃のことを思い出すな”というものが1曲1曲にあって。CDを聴いていても“濃い1年だったな”って感じます(笑)。
●今回のアルバムは、そのソラウタを軸に作られているんですよね?
鴨志田:ソラウタの曲に加えて、「他の曲も全部、空つながりだったら面白いね」という話をしていて。
平出:基本的には、“空”をコンセプトにしたアルバムという前提で作った曲が入っています。「前を向いて」だけが唯一、昔の曲ですね。
●この曲には元々、空の要素が入っていたりもした?
鴨志田:歌詞は今の自分から見て“直したい”と思ったところを少し変えたんですけど、空っぽさもちょっと取り入れましたね。
平出:他の曲に比べたら空の要素は少なめではあるんですけど、“どうしても入れたい!”ということで今作に入れさせて頂きました。
●どの曲もどこか空に関するアルバムになっていると。
平出:空って誰もが見ているものだし、みんな空の下にいるわけじゃないですか。だけど、見方によってはそれぞれで違う空に見えたりもする。だから日常の気持ちと空を上手くリンクして、“こういう気持ちってあるよね”というのを私たちは大切にしたくて。聴いている人が元気がない時にそっと寄り添える曲だったり、一緒に楽しい気持ちになれる曲だったり、そういう色んな気持ちをシェアーしたいっていうコンセプトで作りました。
鴨志田:基本的にはきれいな空の曲が多いんですけど、空だって荒れている時もあるし、曇っている時もある。そういう時にも寄り添えるものがあったらいいなと思って書いたのが、「リアルレイン」だったりしますね。
●このアルバムをリリースして、今後はライブもやっていくんですよね?
鴨志田:今後はツアーに出る予定です。前に“ソラウタ全国ツアー2014 〜Share the Sky〜”をまわったことはあるんですけど、今度は私たちだけで行きます。新しい方々と出会えるのが楽しみですね。
平出:私たちのことを偶然初めて観て下さったという方は、もしかしたら私たちのことをその時しか観ないかもしれないじゃないですか。だから1回1回のライブを大切にして、1人1人との出会いを大切にしていきたい。自分たちの一生懸命作ったアルバムを、1人でも多くの人に聴いてもらえるようなツアーにしたいです。
Interview:IMAI
Assistant:森下恭子