1/28に2ndアルバム『VERSATILE』をリリースしたFar apart Daily life。2004年、結成当初のオルタナ色が強かったバンドサウンドは、メンバーチェンジを経てメタル/プログレの要素が加わり、より多面的な魅力を手に入れた。「今のメンバーになったことで化学反応が生まれ、方向性が見えてきた」。そのVo./G.今井の言葉からは、確実に進化しているという手応えが伝わってくる。そんな彼らの、エモーショナルとテクニックが高次の融合を果たしたサウンドはどこから生まれたのか?
●Far apart Daily life(以下FaDl)の結成は2004年とのことですが、音楽性は変わらずに続けているんですか?
今井:昔は、今よりピクシーズみたいなオルタナ(ティブロック)が好きそうなバンドだったんですよ。
●オルタナ色が強かったと。
石川:もともとFaDlは、リズム隊の2人が違うメンバーだったんです。ドラムが安藤に変わったことがきっかけで、(ヘヴィ)メタルの要素が入ってきたんですよね。
安藤:僕がそういう要素を隠し切れなかったというか…(笑)。
●どうしても出ちゃった。
今井:安藤が加入した当初は、完全なメタラーでしたからね(笑)。友人の紹介でスタジオで初めて合わせた時、まだどんな人間か知らなくてーー。
石川:スタジオの外で待っていた時に「何か髪の長い、厳つい人が来たな〜」って今井と2人でしゃべっていたんですよ。
今井:「まあ、この人じゃないだろうな〜」と思っていたら、それが本人だった(笑)。
●ははは(笑)。今のメンバーになったのは、2009年なんですよね。
安藤:そうですね。
今井:初期メンバーとは温度差があって、アレンジに口を出すのは僕とG.石川だけだったんです。安藤とBa.早田が入ってからようやく、「自分のやりたいプレイ」みたいなものが化学反応的に生まれて、今の方向性が見えてきました。
石川:昔はジャム(セッション)をして曲を作っていたんですけど、最近は全員が意見を出して作れるようにもなったんですよね。
●メンバー全員で作れるようになったと。FaDlの音楽は、複雑な構成をしているけど、聴きやすい楽曲が多いですよね。
石川:メンバー全員、聴きやすい曲が好きなんです。やっぱり「メロディが中心」っていうところが大きいですね。
早田:メロディが良くないと、自分たちのやりたい音楽にならないんです。アイデアはできるけど、曲にならないこともあって。そうやって残ったのが、今作の10曲なんです。
●じゃあ、今作の楽曲は練り上げて作ったものが多い?
石川:それが、だいたいすんなり作れたんですよね。「メンバー全員の意見が出てくる」っていうところが大きいかもしれないです。それを受け入れながら作れたから、意外とあっさりできたのかもなと。
●今作『VERSATILE』の中でM-6「unleash」がMVになっていますよね。
早田:タイトルは「束縛からの解放」という意味なんですけどーー。
今井:この曲は、引きこもりがちな人間が前に進もうとする話なんです。それは今作全体のテーマにもなっていますね。
●それが“放て”というワードになったと。
今井:今までの僕の歌詞は内側を向いていて、救いがないものばかりだったんです。でも、今作はもっと外に“放つ”ことをテーマにしたくて、救いのある歌詞を書きたいと思った。それが自分の成長でもあるし、バンドの成長でもあるので、“扉を開けて、一歩前に進みたい”っていう表現で書きました。
●歌詞にも新しい方向が生まれたんですね。そもそも今井さんは、何がきっかけで音楽を始めたんですか?
今井:中学生の頃はもう、モテたい一心でしたね(笑)。
●お!
今井:でも、高校生になって、すぐにオリジナルの楽曲を作り始めたんですよ。その頃から“自分たちの音楽を作りたい”っていう方向に変わっていました。
●それからは、作りたい音楽を作り続けてきた?
石川:目標はずっとそこにありますね。作りたいものと言っても個人的なものじゃなく、メンバー全員が活きた曲っていう意味で。昔は、自分の中で「こうあるべきだ」っていうものがあった上で、そこに寄せて音楽を作っていく感じでした。ある時から「これは良くない」と感じるようになったんです。
●こだわり過ぎている部分があったと。
石川:だから、まずそれを取り払うことから始めたんです。それによって各メンバーがどういうものが好きで、どういう癖があるっていうことをだんだん意識するようになりました。メンバーから、いろんな曲を聴かせてもらって「こういう音楽も良いじゃん!」って思えるようになったのが大きいですね。
●具体的にどんな音楽を聴くようになったんですか?
石川:メタルとプログレ(ッシヴロック)ですね。昔は、パンクやオルタナを聴いていて、「技術って、別にいらなくない?」って思っていたんですよ。でも、楽器を演奏するにあたって、「もっとテクニックの引き出しを増やして、表現したい」っていう意識に変わっていったんです。
●互いに影響し合っているんですね。
安藤:僕は、逆にオルタナが分からなかったんですよ。今井と石川から教えてもらう音楽もいろいろあったので、勉強になりましたね。
●ライブに関してはどうですか?
今井:最近ライブがやけに楽しいんですね。ただただ楽しい時間が過ごせるというか。昔は客席しか見ないで1ステージが終わったりしていたんですけど。メンバーとも目が合うようになったりして、ライブの楽しみ方自体が変わった気がしますね。
石川:特に目的があって見ているわけではないんですよね。ふと見ると目があっていて「お!」みたいな。
早田:それを繰り返していくうちに、パターンができたりして。
●アイコンタクトができるようになった?
早田:そういう訳ではないんですけど、眼があった時に変顔をしたりします。
安藤:それ、気持ち悪いバンドだねえ(笑)。
一同:ははは(笑)。
●今回のリリースを終えて、次回作の構想はありますか?
石川:もっとプログレ的な、尺が長い曲に挑戦したいと思っています。今は「聴きやすくしたい」っていう気持ちが強いんですよね。でも、キャッチーにするためには削ぎ落として作っていくしかない。それを1曲だけでも取り払ってみたらどうなるんだろう? って考えていますね。
今井:今度は、あえて引き算をしないっていう。「ピンクフロイドだって30分くらいの曲をやっているんだから、良いんじゃない?」って(笑)。
安藤:「ただやりたいことだけを考えて作る曲は、どんなものなんだろう?」って、楽しみですね。ワクワクします。
Interview:馬渡司