ゲストアーティストとのパフォーマンスが掛け算のように増幅され、凄まじい夜となったあの日。ヤセイコレクティブが実現させた夢の共演は、奇跡と呼んでいいくらい特別なものだった。結成5周年のアニバーサリーアルバムとして、11組のゲストアーティストを迎えて作られた『so far so good』。そのリリースツアーの最終公演として代官山UNITで行われたワンマンライブ“[ so far so good ]live tour Final”は、音源を限りなく再現する形で作品に参加した11組の中から8組ものゲストが参加し、熱演を繰り広げた。確かな実力が証明されたツアーファイナルを終え、次のステージへと駆け上がるヤセイコレクティブ。今度は何を仕掛けてくるのか? メンバーに今の心境とこれからについて語ってもらった。
●9月に結成5周年記念アルバム『so far so good』をリリースして、その後のツアーは2ヶ月に渡って30公演。かなり早いペースでまわられた印象で、“[ so far so good ]live tour Final”(以下ファイナル)のMCでは松下さんが「ツアーはもういい!」とおっしゃっていましたよね。実際まわってみてどうでしたか?
斎藤:本当にやって良かったです。良い対バンもさせていただいたし、良い刺激になりました。最後は少し嫌になっちゃいましたけどね(笑)。
松下:普通に生活していたら揉めなかったようなこともメンバーと揉められたというか。通過儀礼としてそういうところも経験できたのはすごく良かったです。大変だったけど、やって良かったですね。
●ツアー中に険悪になるときもあった?
松下:「ファイナルが終わったら、しばらくやらなくていいんじゃない?」くらいの雰囲気になった時もあったんですけど、活動が止まることはなかったんですよ。結果的に「そうじゃないだろう」っていうところにも行きつけたんですよね。逆に1回メンバーと揉めたから「新しいことをやろう!」っていう原動力にもなったというか。ツアー前と後の大きな違いといえばそこですね。ツアーであれだけ本数をこなさないと、あのファイナルはあり得なかっただろうなと。それだけは間違いないです。
●逆に揉めたからこそ変わったと。
松下:良い時ってリハもライブも楽しいんですよ。悪い時はどちらも中途半端になる。リハをしてライブをするって当たり前なんだけど、それがすごく無機質に感じられて「何のためにこれをやっているんだろう?」っていうところまで考えが及んじゃうんですよ。そうなるとダメなんですけど、この間のファイナルは、全てが“必然”みたいな。何の違和感もなかったし、協力してくれるいろんな人のことを考えながらできたって感じがしましたね。本当にあの日は、今までの人生の中で一番エモかった。
●たしかにファイナルのステージは本当に素晴らしかったです。MCでも松下さんが「感無量」のライブだとおっしゃっていましたね。
松下:「節目ってこれだ!」って思ったんです。次に進む原動力になって、そこが軸になるっていう。例えば学校の始業式とか、節目って思うことはないじゃないですか。そういうものじゃない「ちゃんとした節目って社会に出るとあるんだ! 」っていう感じですよ。
別所:ステージでも度々言っていたけど、感謝ですね。ゲストにも感謝だし、全てのテーマの中に感謝が入るというか。
●実際ファイナルを思い返してみて、一番印象に残っている場面はありますか?
別所:…なんだろう。全部?
松下:その曲だけっていうのは選べないかもしれないですね。
●とても印象的だったのが、ゲストのみなさん全員がプレイヤーとして純粋に楽しんでいる顔をしていたんですよね。例えば、ACIDMAN・浦山一悟(以下一悟)さんが一緒に演奏している最中、“ニヤッ"って笑うんです。そういうのを見て「あ、この人は純粋に楽しんでいるんだな」と思ったんですよ。
松下:それはすごく嬉しいですね。「Something」はイントロから(勢いが)ヤバかったですからね。
●「I Won't Forget」で本編を終えて、アンコールは新曲で締めくくりましたよね。あのあたりにヤセイの攻めの姿勢を感じました。
松下:そうですね。「新しいことをやるよ」っていうところを最後に見せたんです。
別所:ヤセイのこれからを想起させるような感じにしたかったんですよね。
●新曲は難易度が高くて複雑なことをやっているけど、聴いていて分かりやすという印象があったんですよね。
松下:まさしく。道くん(中西)の場合はシンセベースを弾きながら、タッピングでE・ベースを弾いたり、別所の場合は速弾きがあったり。「曲中に絶対自分にしかできないことを1ヵ所入れなきゃいけない」っていうミッションがあった上で、「ポップじゃなきゃいけない、エモくなきゃいけない」というテーマがあったんですよね。そういうコンセプトで曲ができたので「これを(ライブで)やってみるか」と。
中西:あのツアーの締めくくりのイベントに、あれだけゲストが出演したら「ありがとうございました!」って終わっちゃいがちじゃないですか。そうじゃなくて「次の動きを見ていますよ」と。そういう意味でも、あの日のセットリストはすごく良かったんです。
●次は、村上“PONTA”秀一さん率いるNEW PONTA BOXとのツアーが予定されていますよね。この“パラシュートセッションツアー”は同じステージに2バンドが同時に立つという特殊なイベントとのことですが。
松下:名古屋BLUE NOTE以外はフロア(客席)にステージを作って、俺とPONTAさんのドラムが向き合った状態で演奏するんです。だから、ずっと面接されている感じになるんですよね(笑)。
別所:圧迫面接だね(笑)。
●ははは(笑)。1曲ずつ交互に演奏されるステージと聞いていますが、どのように演奏されるんですか?
松下:一応(ステージの)流れがあるんですけど、それが突然ひっくり返ることもあります。1曲ずつやる時もあるし、突然(曲が)混ざったりとかして。あらかじめ「この曲はやりましょうね」っていう部分もあるし、突然混ざったりもするんです。
別所:曲中に自由に茶々を入れて良いっていうルールになっているんですよ。
●いわゆる対バン形式ではないと。
松下:予定調和が全くない恐ろしさがあって、本当に怖いんです。でもPONTAさんのバンドと対等に渡り合えるのはロックシーンでは多分俺たちだけなんですよ。そこで俺たちの得意とする“演奏”という、すごくシンプルなところでもう一度、どういうことができるのかを見直す。バンドを組み始めた頃に考えていた「そんなところをこだわってどうするの?」みたいな細かいところまで、目も耳もちゃんと通して、誰の音を聴いても「ヤセイだ!」って分かるようなヤセイ印がどこかにないといけない。来年、そういうことをPONTAさんという日本のドラマー界のドンと一緒にやれるっていうのは、めちゃくちゃ良いスタートだと思う。とにかく彼にぶつけてみてどんな化学反応が起こるか、すごく楽しみです。
Interview:馬渡司
Photo:Kana Tarumi
ゲストアーティスト
■在日ファンクホーンズ[後関好宏 (Ts.) ジェントル久保田 (Tb.) 村上基 (Tp.)] from 在日ファンク
■福田“TDC”忠章 (Dr.) from FRONTIER BACKYARD
■Shingo Suzuki (Ba.)from Ovall、mabanua (Dr./Vo.)、関口シンゴ (G.)
■類家心平(Tp.)
■沖メイ (Vo.)&田中“TAK”拓也 (G.) from Za FeeDo
■木下弦二 (G./Poetry.) from 東京ローカル・ホンク
■浦山一悟(Dr.) from ACIDMAN
■Anchorsong (MPC)
(アーティスト名順不同)
【ゲストDJ】
■大塚広子