2012年に結成したThe Very Goodは、最近の音楽シーンにおいて希少種となったグルーヴィーな“ど直球ファンク”を打ち出す大阪のバンドだ。日本のトッププレイヤー伊藤広規という強力なサポートを得た彼らは、山下達郎や大滝詠一などのレコーディング・エンジニアを担当した吉田保を迎えて、初の全国流通盤『Nice!!!!!!!』をリリース。その見た目からは想像できないグルーヴィーで強力なサウンドは、日本のファンク・シーンの新たな潮流を生み出そうとしている。自ら“ゆとり世代”と称しつつも、若いながら芯のある活動を展開するThe Very Good。今作を手掛けた伊藤広規とともに掘り下げたの彼らの魅力は、本人たちも新たな発見のある内容であった。
●結成は2012年6月とのことですが、きっかけは何だったんですか?
安藤:元々3人とも別々のバンドでリーダーをやっていたんですよね。それがちょうど同じタイミングでそれぞれのバンドが解散して。当時、僕はギターボーカルをやっていたんですけど、寺坂と話した結果、僕がベースボーカルに転向してバンドを組むことになったんです。
●それぞれのルーツはやっぱりファンクにある?
安藤:実はメンバー全員、本格的にファンクを聴き始めたのはThe Very Goodをやり始めた後なんです。
寺坂:3人でファンクにハマり出して、全員が同じスタート地点だったので「一緒にバンドを組みたい!」っていう話になったんですよね。
●伊藤広規(以下広規)さんに出会ったのはいつなんですか?
安藤:寺坂と水野は前のバンドの頃から広規さんと一緒にやっていたりしたんです。
広規:まずジャックミュージックスクール(※1)のセミナーで知り合ったんだよね。その後にセッションに行った時にオープニングアクトとして出演してくれて。その時からすごく良かったんだよ。The Very Goodを結成してすぐに札幌の伊藤広規 with SPYCEのライブにも出てもらって。伊藤広規 with SPYCEも先鋭揃いなんだけど「お前ら、ヤバいよ! この音の後に演奏して大丈夫かよ!?」って言っていたね(笑)。
●そうやって共演していく中で、自分たちが変わったと思うところはある?
安藤:昔はもっとライブの仕方がラフだったと感じますね。良い意味で言うとラフなんですけど、何も考えていなかったというか。今は趣味の延長線上ではなく「やるぞ!!」っていう意気込みでライブをやっているっていう実感があります。
水野:結成当時は物販も何もなかったので、ただ単に「ライブに来てくださ〜い」みたいな感じだったんです(笑)。
寺坂:単純に、活動していく中で関わってくれる人が多くなっていくにつれて「しっかりしないとダメなんだな」っていうのを感じたんですよね。
●それは広規さんと出会ってから変わった部分も大きいんですかね?
寺坂:そうですね。高校生の頃に広規さんの演奏を観たことがあったんですけど、ただ「すごい人だな」っていう感じだったんです。距離が近くなって同じステージに立つようになったら「あぁ、全然違うな」って思ったり。いろんなことを教えてくださるので「僕らも頑張ろう!」っていう気持ちになります。
●しかし、結成当初から一流の人たちと同じステージに立つってすごいプレッシャーな気がするんですけど。
安藤:いやあ、すごいプレッシャーですね…。
広規:でも俺がベースを始めてから、坂本龍一や村上"PONTA"秀一、山下達郎のセッションに初めて出た時「なんてやりやすいんだ!!」って、あの時はビックリした。すごく分かりやすいんだよね。コミュニケーションも取りやすいし、乗りやすいし、やりやすい。何の悩みもなくできるっていうのが俺が初めて一流の人間とやった時の印象なんだよね。
水野:確かにそうですね。上手い人とやると勝手にリズムが出てきちゃうんですよ。何か勝手に持っていかれるような「あれ〜? こんなに叩けちゃう?」みたいな。
寺坂:そうそう! じゃあ、あの時は誰がリードしているんだろうね?
水野:分からない! でも、そういう空気になるんです。
広規:“第3のメンバー”っているのよ。バンドメンバーが3人だとすると4人、もう1人いる、神様が。
安藤:…神様ですか?
広規:そう。バンドっていうのは3人でも4人でも、もう1人メンバーが必ずいる。その人が現れてくれると助かるんだよね。常にメンバーともう1人がいて、その人に引っ張られるようになると、もう最高なのよ。
●良いライブをした日って「あまり内容を覚えていない」とよく聞くんですけど、それはもしかして神様に勝手に引っ張られているというか。
寺坂:あぁ…そういうことかもしれない!
広規:良い時は覚えていないし、悪い時は「自分のせいだ!」って思って、ほとんど自分が弾いているって実感しちゃうんだよ。
安藤:なるほど…。そんな合点の行く話があったんですね。
●じゃあセッションをやっていて、自然と引き出されることは多い?
寺坂:1回セッションをやっただけで「あ、この感じなんだ!」ってすごく参考になります。セッションに参加したら、次のリハーサルで3人だけの演奏でも勝手に良いグルーヴが生まれたりすることもあるので、すごく不思議ですね。
●そうやって活動する中で、12/3に『Nice!!!!!!!』をリリースされましたが、制作は順調にいきましたか?
安藤:M-12「One,Two,Three」は難産だったんですけど、他は「曲を作らないと…!」っていう意識もあまりなく作れたんですよね。
広規:彼らが制作に燃えている時期があってね。「最近ノリノリなんですよ! 曲がバンバンできるんです!」って言っていたので「調子が良くなっているな!! 頑張れよ!」って連絡を取りあって。そういう調子にも助けられて、上手くできたと思うんだよね。当時はまだ最初にできた数曲しか聴いていなかったから、後はどういう曲ができてくるのか楽しみだった。全体的にファンク色が強くなって、より「良い!」と思ったね。
●The Very Goodとして、今作はファンク色を押し出していこうと思った?
安藤:僕は『The Very Good』(1stミニアルバム)ではピックでガッと弾くようなロックな曲とかもあったんですけど、ライブでロックな曲からファンキーな曲を演奏しようとすると、体がついていかなくて。全体的に軸として「ファンキーなものをやっていこう!」っていう風になった時だったんですよね。
●それは広規さんと一緒にコンセプトを決めていったんですか?
広規:そこは彼ら独自にやっていましたね。
水野:前までパンク系の激しく動きまわっているバンドをずっとやっていたんです。その中でやっとファンクっていうジャンルを開拓して「あ、こんな落ち着いて、楽しい音楽があるんだ!」って気付いたんですよね。
寺坂:激しい曲がしんどくなってきたんです…(笑)。
広規:「このままじゃ年取ったら(体が)持たないぞ!」みたいな(笑)。
●その話で言うとM-2「宇宙でドライブ」とか「ファンクが大好きすぎる!」っていう歌詞ですもんね。
広規:“宇宙”じゃなくて、せめて「府中へドライブ」くらいにしておけば?
一同:ははは(笑)。
●もっと大人になったらタイトルがそっちになっていそうですね(笑)。でも、なんでまた宇宙なんですか?
安藤:宇宙がワード的に良い感じで。Parliament的に「ファンクと宇宙の関わり」みたいなものが書きたかったんです(笑)。
●ファンクって何故か宇宙と相性良い気がしますね。今作は作品を通して歌詞がユルい雰囲気の曲が多い気がするんですが。
安藤:僕はちょっと面倒臭がりというか…。だから歌詞を書く時は大変で。ババッと書けないので「う〜ん…」って悩みながら書くんですよね。
●そんな歌詞の中で、ちょいちょい良いことを言っていますよね。
安藤:そうなんです。ちょいちょい良いことを言いたがるんです(笑)。
一同:ははは(笑)。
●じゃあ今作の中で一番言いたいことが言えた曲はどれですか?
安藤:M-10「セブンスにのせて」ですね。この曲を作ったのはThe Very Goodを結成してすぐの頃なんですけど、元々曲のアイデアは僕がやっていた前のバンドの時からあったんです。でもその頃は爆音ロックバンドをやっていて、ああいうニュアンスの曲ができなかったんです。今そういうこともできるバンドを組んで、改めて作り直してみたら当時の名残で歌詞が尖っちゃったんですよね。
●確かに歌詞の内容はパンクに近い感じがしますね。こういう歌詞を見て、広規さんは何か思われることはありますか?
広規:やっぱり時代もあるし人それぞれだから、そこが詞の面白いところで。普通、詞を考える時って、人生を考えちゃうらしいんだけど、彼の詞は全然自分を考えている歌詞じゃないから、そこがまた新しい世界だなと。
安藤:僕が人生のことを考えて歌詞を書くと、たぶん鬱っぽくなると思う(笑)。それより、もうちょっとギミックを凝らしたことを書く方が楽なので。
●「セブンスにのせて」以外で言いたいことが出ている曲はありますか?
安藤:自分たちに向けて、という意味では「One,Two,Three」という曲ですね。この曲は言わば僕らのスタートの曲なので。
●確かに始まりを感じさせる曲ですね。今作はM-1「Wake Me Up」で目覚めて作品が始まって、最後の曲「One,Two,Three」で次のステージに進む、みたいな印象があったんですよね。
水野:あ、もうドンピシャです。その感じ。
安藤:実は作った時はそんなことを考えていなかったんですけど。
広規:「結果的にそうなったよな」って。ついこの間の宴会で話していたんだよね。
●その前の曲、M-11「シンプルイズベスト」で「いろいろあったけどシンプルが良いね」ときて「One,Two,Three」で「次に行こう」っていうメッセージなのかなと。
安藤:あぁ…確かに。
広規:たまたまそうなったんじゃなくて「まさにその通りなんですよ!」って言うといいよ(笑)。
水野:まさにその通り! 計画通りなんですよ(笑)。
●ははは(笑)。でも、無意識のうちにやっていることがバンドにとって最適な答えになることってありますもんね。
安藤:そうなって良かったです。
●次回作はどんなものを作りたいとか、アイデアはあるんですか?
水野:細かく言ったらいろいろあるけど、大きな路線は変わらないですね。個人的にはセッションをもっと増やしたいと思っています。
安藤:バンドとしては変わらずファンクをやっていきたいですね。
広規:もうすでにジジイのような遅いファンクをやっているんでね。それで一生続けられると思うんですよ。あとは、自分たちが楽しんでできるようなパターンを作ったら良いと思います。遊びで、うんと遅いファンクとか、速いファンクとかやれたら良いよね。
水野:ああ〜良いですね!
Interview:馬渡司
※1
ジャックミュージックスクール:茨木JACKLIONの主催する現役ミュージシャンによるミュージックスクール。
伊藤広規
プロフィール:ベーシストとして山下達郎、竹内まりや、美空ひばり、斉藤和義、松任谷由実などのレコーディングに携わり、現在までレコーディングを依頼された楽曲の数は2000曲以上、ツアーライブサポートのステージも3000本を有に超える。2009年にはレーベル・BASS&SONGSを設立。The Very Goodを含む3組のアーティストをプロデュースしており、日本屈指のベーシストでありながら、作曲/編曲/プロデューサーとしての活動も精力的に行っている。