2015年、Poet-type.Mが新たな動きを開始する。公式サイトで既に明らかにされているように“A Place,Dark&Dark”というタイトルを掲げて、まずは1/31に県民共済 みらいホール(横浜・みなとみらい)でのライブを発表。ふと思い返せば2014年はBURGER NUDSの10年ぶりの復活という大きなトピックはあったが、Poet-type.Mとしてのリリースはなかった。ライブ活動は継続的に行っていたものの、作品は2013年10月の1stアルバム『White White White』以来、発表していないのだ。1年以上もの期間を経て、門田匡陽が世の中に放とうとしているものはいったい何なのか? その構想から現在の心境にまで迫る、スペシャルインタビュー。
●2015年は“A Place,Dark&Dark”というものを軸に活動されていくんですよね?
門田:まず何故こんなことをやろうと思ったかというと、今の音楽業界ってみんながまず認知されることや売れること、ニュースになること先行で音楽に接してるなというのをここ何年も感じていて。でも俺はそういうのがクソつまんねぇなって思ってるんです。音楽ってもっと夢のあるものだし、聴いてる人の想像力を喚起するものだと思うから。だから、わかりやすく音楽でそれをやりたいなという気持ちがまずあった。それをやるにあたって自分が一番得意というか、一番好きなやり方が架空の世界を1つ創って、そこに生きている人たちの生活を歌うっていう方法なんだよね。Good Dog Happy Men(以下GDHM)を知っている人は『the GOLDENBELLCITY』(2枚のEPと1枚のフルアルバムからなる3部作/2007年)で想像がつくと思うんだけど、あの時は自分の中でやりきれなかった感覚があって…。
●あんな大作を作ったのに?
門田:音楽的には今聴くと色々と「甘いな」と思うところがあるし、当時からそれは思っていて。思っていたことの半分はやれたけど、半分はやりきれなかった。だから、いつか絶対にまたやりたいと思っていたんだよね。GDHMではなくなってしまったけれど、今はそれができるスキルと感性が揃ったというか。だったら…面倒くさいけど、やろうかなと。
●面倒くさいんだ(笑)。
門田:うん(笑)。でも『the GOLDENBELLCITY』の時と1つ違うのは、あの時は“過去”のお話だったというところで。GDHMの時間軸としては『Most beautiful in the world』(2ndミニアルバム/2006年)が一番最後にあたるもので、そこに至るまでを(リリースの順番的には)逆にやっていくというバンドだった。だから『the GOLDENBELLCITY』は入り口で、『Most〜』がGDHMのゴールだったんだよね。でも今回の“A Place,Dark&Dark”というのは、どちらかと言えば“未来”のお話になっていて。
●“A Place,Dark&Dark”の世界観は、『Most〜』や『the GOLDENBELLCITY』とつながっている?
門田:つながってる。だから『the GOLDENBELLCITY』にいた人が「その後、こうなっているんだ」みたいなこともあったりするし、一種の群像劇になってるんだよね。
●“A Place,Dark&Dark”というのは“夜しかない街”の名前なわけですが、ちょっとネガティブなイメージもするかなと。
門田:俺の中では“アンチ・Hope”というか、“アンチ・希望”や“アンチ・光”みたいなところがすごく強いんだよね。音楽というのは現状にすごくコミットするものだから、2015年の日本でバカ騒ぎだけしてるようなヤツに俺はなりたくない。それって、現実を見てないだけだから。今の日本の状況でバカ騒ぎしてるヤツは、本当にただのバカかヤク中しかいないからさ。
●ハハハ(笑)。挑戦的な発言ですね!
門田:俺は今回の“A Place,Dark&Dark”で、ものすごく色んな人にケンカを売ってるからね。クソだと思ってる人たちみんなに対して、ケンカを売ってる。いまだに中学生でも作れるような曲を作り続けてるヤツらが多いじゃん? あいつらは俺が19才の時から、ずっと何も変わってない。でも俺はBURGER NUDSとGDHMでも違うことをやったし、GDHMとPoet-type.M(以下PtM)でも違うことをやってるわけで。そうじゃないと、自分の気が済まないんだよ。
●同じことをずっとやりたくない。
門田:そういった意味で、この道の歩き方は売れない歩き方だったかもしれないけど良かったなと思う。だって、やりたいと思った時にそれをすぐやれるんだから。「BURGER NUDSをやろうぜ」となったらやれば良いし、「GDHMをやろうぜ」となればやれる。だから、それをPtMで背負わなくて済むんだよね。PtMはPtMで突っ走れば良い。そういった意味ではすごく楽だし、常に更新していけるというか。
●過去にやってきたバンドに囚われない自由さがPtMにはあると。
門田:俺は音楽的な好奇心が強いから、正直言って“バンド”というものが足かせになることもあるんだよね。BURGER NUDSはBURGER NUDS(のメンバー)でやれる曲をやっているし、GDHMはGDHM(のメンバー)でやれる曲を俺はやっているわけで。PtMにはそういうものがないから、今作っているものも1曲1曲で全部ジャンルが違ったりもする。まず何かを「やらない」という選択肢がないから。BURGER NUDSやGDHMでは(メンバーの個性や技術的に)できなかったことも、PtMだったら「じゃあ全部、自分でやればいいや」という話になるし、もしできなければ誰かできる人に頼めばいいだけで。
●それはソロプロジェクトの強みですよね。
門田:そう。だからPtMの立ち位置っていうのは、今までの俺のキャリアの中でも次元が全然違うところにいる。そういう意味では、PtMは“総括”なんだよね。今回のプロジェクト(“A Place,Dark&Dark”)は、そういう色合いが特に強くて。色んな音楽をぶち込んでいるし、音楽的なスケールで言ったら『the GOLDENBELLCITY』よりも全然広い世界になっていると思う。
●1/31の“A Place,Dark&Dark-prologue-”では新曲も演奏するんでしょうか?
門田:新曲が多いから、みんなの知らないものがすごく多いと思う。それと、既存の曲も全部アレンジを変えたものをやる。既存の曲に関しては、有機的に音楽が変わっていっている様を見せたいから。
●逆に昔の曲もやったりする?
門田:GDHMの曲はいくつかやる予定ですね。GDHMの曲は非常に良いモチーフになるんじゃないかな。というのはアコースティックな曲が多いから、今のアレンジに変換しがいがあるんですよ。
●ところで、今回の会場を県民共済 みらいホールにしたのには何か理由があるんですか?
門田:この“A Place,Dark&Dark”の世界観を表現する場所を考えた時に、ライブハウスじゃないっていうことだけはハッキリしてたんだよね。(ライブハウスだと)みんなが突っ立っていて、その前のステージで演奏するわけじゃない? そういう世界観で表現する音楽ではないから。ちゃんと聴いてもらいたいから、じっくりと席に座って観て欲しい。
●横浜に何か縁があるわけでもない?
門田:全くないね(笑)。ただ、海が近いというのはちょっとあるかな。“A Place,Dark&Dark”の中には、夜の港のイメージを感じさせる曲がいくつかあって。そういう意味で、最初のキッカケとして楽しいかなと思ったんだよね。
●“夜しかない街”という設定ですが、物語が進む中で朝が来たりもするんですか?
門田:ずっと夜ですね。もしずっと空が暗いままだと想像したら、社会は全体主義的になると思うんですよ。ジョージ・オーウェルの『1984年』という小説の中では、全体的な管理社会の中で自由もなく、与えられた均一の価値観の中でみんなが生きている。それに気付かないまま人生をすごく楽しんでいる人もいれば、「こんな社会は絶対に間違っている。どこかに朝があるはずだ」と思って探している人もいて。そういった意味では、(“A Place,Dark&Dark”の舞台でも)光を探している人もいるし、光なんて必要ないなと思ってる人もいるんだよね。そもそも、そういったことに関知していない人たちもいるわけだから。
●「これが普通だから」と思っている人たちは、その社会の前提になっているものを疑問視したりもしない。
門田:それって裏返すと、今の日本っぽいんだよ。突っ込みどころは満載なんだけど、そこでどう生きるかは人によって違うわけで。ハッキリ言うと、“合わせ鏡”なんだよね。今の日本を表現するには、その舞台が一番やりやすいから。東京とか固有名詞は出さずに「架空の世界にこういう話があるんだってよ」ということにして、「でもよく考えてみなよ。これ、今の日本のことを歌っていない?」っていう。
●そういう裏テーマもあると。既にYouTube上で公開されているトレーラー動画は、今回の世界観を匂わせるものなんでしょうか?
門田:ちょっと退廃的な感じというか。2015年はあの世界観が通底和音として、1年間流れるだろうという感じですね。(映像の中に登場する)ああいう格好をしているチームというかギャング団みたいなものが、“A Place,Dark&Dark”の街にはいくつかいるんだよっていうことも見せていて。夜な夜な同じ服を着たメンバーがランタンを持って集まって、遊んでいるという。『時計じかけのオレンジ』(映画)の夜版みたいな感じかな。
●まだ“A Place,Dark&Dark”のストーリーは、完全に定まっているわけではない?
門田:まだ、大枠しか決まってないね。今のところは『the GOLDENBELLCITY』から続く世界観の未来形みたいな感じだけど、ひょっとしたらそこにBURGER NUDSも入ってくるかもしれないから。そのへんの余地は実はまだ残しているんだよね。
●ちなみに、BURGER NUDSの復活がPtMに与えた影響もあったりする?
門田:あるんだけど、それは音楽的なものじゃなくて、俺の意識的な部分かな。「俺、日和ってたな」と思って。昔のほうがもっと言いたいことを言ってたと思うんですよ。BURGER NUDSの3人で集まって話をしてると、それを思い出すというか。「俺って誰にも気を遣ってなかったな」と。大人になると「こんなことを言ったら、こういうことになりそうだな」とか余計なことを考えるようになっちゃうんだけど、昔は「そうなった時にまた考えればいいや」と思ってたなって。そういった意味で、意識的な“日和り”というものをなくしてくれたよね。単に「今思ってることを言えばいいや」っていう。
●BURGER NUDSやGDHMのメンバーは中高からの同級生で、何でも言い合える仲だからというのもあるのでは?
門田:それもあるし、やっぱり「自分たちが一番良い」と思ってるヤツらだから。そういう感覚の中で俺は生きてきたから、やっぱりそっちのほうが良いんだろうなと思った。人に気を遣っていないほうが結果的に、人に嫌な思いもさせないんだろうなって。本当に今年は、色々と立ち返ったよね。たぶん去年の今頃とはマインドがかなり違うと思う。そういった意味では突き抜けてるから、売れる気がする(笑)。
●おおっ! でも確かに作った人自身くらいは、心の中で「これは絶対に良いものだから売れるはずだ」と信じていて欲しいなとは思います。
門田:『White White White』も良いものが創れたと思ってるけど、その時の俺に一番足りてなかったのは、そこ。あの時の俺は正直、日和ってたなって。ある程度はポップだなと思ったけど、じゃあこれを小室哲哉や小沢健二を昔聴いてた人たちや、サカナクションやSEKAI NO OWARIを今聴いてる子たちが聴くと想像してたかといえば、全然してなかったから。でも今回の“A Place,Dark&Dark”は初っ端から、そういう人たちを排除しない。聴き手の想像力を信じる。そこに迎合するわけじゃなく、俺の流儀でそういう人たちに聴かせようと思ってるんだよね。
Interview:IMAI