有限会社ムーンシャインの代表取締役・鈴木 隆央氏と、同社が運営する音楽レーベル“54 Adventure”に所属するPANとの付き合いは16年になるという。今年結成20周年を迎えたPANを語るにあたり、同氏は絶対に外せない存在と言える。PANにとって初の単独表紙となる今月号では、PANのメンバーインタビューはもちろんのこと、鈴木氏にもインタビューを敢行。長年連れ添ってきた鈴木氏と、いちばん近い存在の鈴木氏から見たPANの実像を浮き彫りにして、その魅力に多方向から迫りまくりまっせ!!
有限会社ムーンシャインは2004年9月に設立。音楽レーベル“EVOL RECORDS”、“54 Adventure”を運営し、アーティストのマネジメントやグッズの制作などを行っている会社。
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●鈴木さんの出身はどこなんですか?
鈴木:東京都港区出身で、実家は今も三田にあります。
●もともと音楽業界に入るつもりだったんですか?
鈴木:いや、当時は本当に何も考えてなかったんです。ウチの親父はカフェをやる前にデザイナーをやっていたので、僕も“デザインとかいいな”と思ってて。
●ほう。
鈴木:両親はカフェをやっているんですが、そのカフェには慶応義塾大学のKALUAという軽音楽サークルの人たちがよく出入りしていたんです。そのサークル出身の1人が小学館に就職して編集の仕事をやっていて。二十歳くらいの当時、僕は将来のこととか全然考えてなくて、「小学館の人に相談しに行ったら?」と親に言われて行ったところ、その人の紹介でデザイン事務所に修行しに行くことになったんです。
●なるほど。全然音楽の話が出てこないですね。
鈴木:修行だから給料ももらえなくて、3〜4つくらいデザイン事務所で修行させてもらったあと、PANや鴨川をリリースした株式会社トライスという会社に入るんです。
●あ、なるほど。僕はその頃に鈴木さんと知り合ったんですね。
鈴木:そうです。僕は全然バンドとか詳しくなかったんですけど、トライスに入った時はちょうどトライスで音楽レーベルを始めた頃で、PANはもう所属していたんですよ。所属したてくらいの時期で。それが1999年ですね。
●ほう。
鈴木:トライスの社長に「PANっていうバンドが居て、今度やろうと思っているんだけどやってみる?」と言われて。当時はデザイナーになりたかったんですけど、いろんなことをやってみたいと思っていたから「やります」って。それでレコーディング時に社長と一緒にPANのメンバーに会いに行ったんです。
●ようやくPANと初対面ですね。
鈴木:僕らはエンジニアの人と一緒に車で行ったんですけど、待ち合わせ場所にPANは原付きに乗って来たんです。川端(川さん)と初代ドラムのクリキンの2人が。で、打ち合わせしようということで「先に行くからついてきてくれ」と。で、2人が乗った原付きについて行ったら、しゃぶしゃぶ屋さんに入っていったんですよ。「あれ?」って。「こいつら、打ち合わせなのにしゃぶしゃぶ食おうと思ってる」と。
●ハハハ(笑)。
鈴木:僕は内心“とんでもない奴ら”だと思って。結局はファミレスみたいなところで打ち合わせするんですけど、第一印象は“本当にひどい奴らだな”という感じ。初対面でしゃぶしゃぶ屋に連れて行こうとするって、なかなかじゃないですか。
●バカですね(笑)。それからトライスで鈴木さんがPANの担当になったんですね。
鈴木:でも僕もそうですけど、会社内で音楽業界のことを知っている人が全然居なかったんですよ。社長ももともとライブハウスに居た人でレーベルのこと全然わかってないし、当然メンバーも何も知らなくて。
●はい。
鈴木:誰も何も教えてくれない状況だったから、何でも手探りだったんです。PANのCDを売るためにすることがたくさんありすぎたんですけど、全部自分で調べて、プロモーションしたんです。あらゆる音楽雑誌に電話して、交渉して。
●貴重な経験ですね。
鈴木:今から考えたら貴重でしたね。でも当時、PANの反応はいまいちだったんですよ。だって、今から考えたら“なんでこのバンドをCDデビューさせようと思ったんだろう?”って客観的に思いますもん。
●ハハハ(笑)。
鈴木:ぶっちゃけ、僕もPANをまったくいいと思ってなかったですからね。というか“これなんだろう?”と思ってました。東京の人間ですから“大阪の人ってきっとこういう感じなんだろうな”っていう、理解し難い感じ。なんか疑問だったけど、会社がやっていることだから一生懸命売ろうとして。でも売れないじゃないですか。たぶん2000年にリリースした『がんばりまっせ』のイニシャルは2〜300枚じゃなかったかな。
●アハハハハ(笑)。
鈴木:だから他のバンドをやってみたらいいんじゃないかなと思ったんです。で、次にやったのが鴨川だったんです。
●おお!
鈴木:こう言っちゃなんですけど、僕的には“競争してくれたらいいな”と思ってました。鴨川は実際に売れたんですよね。毎日毎日CDを出荷してて。その時にPANは…売れてなかったですね。
●ハハハ(笑)。
鈴木:それで鴨川だけじゃなくて他のバンドもやるようになっていったから、PANに割く時間が少なくなってきたんですよね。2001年に、PANはミニアルバム『なにはともあれ』を出すんですけど、それもあまり売れなくて。
●そうだったのか。
鈴木:でも付き合っていくと、おもしろい奴らだなって思うようになっていったんです。いい奴らだなと。それがなかったら…たぶんPANのリリースは続けていなかったんじゃなかったかな。売れてないから、お金の面だけで言ったら続けるべきじゃないし、でも人間的におもしろいから、なにか繋がっていたかったんですよね。
●その後、鈴木さんはトライスを辞めていくつか会社を移りますけど、ずっとPANと繋がっていますよね。
鈴木:なんだろうな? 僕が辞めたらついて来てくれるだろうなって思ってたんです。
●なんで?
鈴木:わかんないですけど、でも僕がCDをリリースしているという自負があったんでしょうね。それで移った会社でミニアルバム『そこに光る』(2003年5月)を出したんですけど、めっちゃ売れたんです。だからもう、天狗ですよね(笑)。曲も良かったし、今までと違うなっていう感触もあったし。まあそこにアーティストがどういう想いを込めて作ったかはわからなかったけど。
●え? わからなかったんですか?
鈴木:だってバンドが作ってきたものをこっちは売る立場だし、僕にはバンドの経験もないから。「これはできない」とか言える立場じゃないと思ってました。
●そういえば鈴木さんは音楽に対して、いいとか悪いとか言わないですよね。
鈴木:だっていいか悪いかは聴いた人が判断することですもん。例え僕がいいと思わない曲があがってきたとしても、それを売るのが僕らの立場だから、そのバンドと付き合っている以上、それを売らないと。作品を作るのはアーティストの仕事ですからね。
●それが鈴木さんの基本スタンスになっているのか。
鈴木:だから僕がずっとPANとやっているのは、いい奴だからです。人。とりあえず一緒に居ておもしろい。笑える。もちろん今はいい音楽だと思っていますよ。でも当時は音楽なんて二の次でした。あの人間像じゃなかったらたぶん付き合えてなかったです。
●おもろいな(笑)。
鈴木:いつからそういう関係になったのかはよく覚えてないですけどね。うーん…今思うと、2000年にアルバム『たこやき』を出したとき、初代ドラムのクリキンが脱退したんですけど、その時に川端が泣いたんですよ。
●ほう。
鈴木:その時に、“こいつそういう一面もある奴なんだな”って。いちばん最初の出会いがしゃぶしゃぶ屋さんに連れ込もうとしたりして悪ガキみたいな感じだったけど、気持ちがある奴なのかなって。それがすごく印象深くて。
●なるほど。
鈴木:それと『そこに光る』をリリースしたとき、メンバーから「ずっとリリースをしたかった」と言われたんですよ。その僕は“ああ〜”って。『なにはともあれ』を出した後に僕がトライスを辞めて、2年間くらいリリースが空いたんですよね。あいつらはライブばかりやっていた時期で。“もっと早くやってあげられることがあったんじゃないかな”って反省したことを覚えてます。
●ムーンシャインを立ち上げたのはどういうきっかけなんですか?
鈴木:『そこに光る』が売れて業績を上げたのに、給料が上がらなかったんですよ。もちろん会社だから自分以外のところで色々とあったから仕方がなかったのかもしれないけど、僕も若かったので社長に掛け合ったんです。でも「無理だね」と言われて。だったら自分で会社を興そうと。そこで会社に所属しながら、ムーンシャインではPANをマネジメントして。
●そういうことか。
鈴木:その後、会社を辞めたんですけど、ムーンシャインは会社としてうまくいくわけはなくて、ギリギリの状態だったんです。当時、PANもムーンシャインからリリースしたんですけど、なぜか思い付きでシングル2枚(『マウンテングッドスタイル』『夜明け前』)で、たいして売れなくて。
●ハハハ(笑)。
鈴木:そういう時に知り合いから「エキサイトがレーベルを設立するから手伝わないか?」と声をかけてもらって、PANもエキサイトとマネジメント契約したんですよ。プロデューサーの伊藤銀次さんと出会って、曲の作り方も変わったし。シングル『いっせーのせっ!!』(2009年3月)辺りですね。
●はい。
鈴木:その辺からバンドの意識もすごく変わった印象があるんです。“お客さんを増やすために何をすべきか”っていうことを考えるようになった。言ってみれば僕もそうで、それまではずっと運に恵まれていたんですよ。僕もPANも、色んな会社や人と出会って、それでうまくいっていた部分も多かった。でも原点に還って、“バンドとして何をやるべきか?”というところをキチンとやり始めたのは、伊藤銀次さんに出会って、エキサイトミュージックでいろいろと経験させてもらったことが大きかったんじゃないかな。
●なるほど。
鈴木:それでエキサイトミュージックを辞めたとき、“もう自分たちの力だけでやっていった方がいいな”と思えたんですよね。今から考えたら、それまでは何も考えてなかったし、誰かの脛をかじってやっていれば上手くいくんじゃないかなっていう程度でやっていたし。考えてなかったわけじゃなかったけど、深くなかったんでしょうね。だからやることすべてに重みがない。それはPANも同じだったと思います。
●ぶっちゃけると、昔のPANのライブは今のようにグッとくるものがなかったです。
鈴木:そうでしょうね。その頃までは「すごくライブが良かった」って、心の底から言ってもらった記憶がないですもん。で、15周年を迎えた2010年にDr.ハジオが辞めるんです。バンドにとってはその出来事も大きかったんですね。みんなで話し合って、ゴッチがちょっと心折れかけてましたけど、結局バンドを続けることになって。それでよこしんと出会い、今の体制に落ち着いたんです。
●ハジオ脱退からよこしん加入までの流れが、PANにとって大きかった?
鈴木:はい。1人辞めることによって3人の気持ちが固まったきっかけにもなったし、よこしんはもともとすごくやる気がある奴だったから、それが加わってすごくいいグルーヴになったんですよね。すごく良かったと思います。
●よこしんっていいキャラですよね。1人年下で後から入ったメンバーなのに、すごく自然な感じ。
鈴木:すごく特殊なキャラクターだと思います。合わせるタイプの人間だけど、今はあいつが引っ張っていくこともあるんです。そのバランスがいいっていうか。
●客観的に見ると、その頃からPANのライブが変わったイメージがあるんですよね。主体的にPANをやっていこうという気持ちがステージに出ているというか。よこしんが入ったタイミングくらいを前後に、バンドがガラッと変わった印象があるんです。
鈴木:その通りでしょうね。よこしんが加入したということが、PANというバンドの歴史の中でターニングポイントになっていると思います。他3人は先輩なんだけど、先輩風を吹かせるような感じもないんですよ。お互いがお互いに合わせてるというか。だから今の4人の感じを見てると、最初から一緒にやっていても全然おかしくないように思えるんです。
●うんうん。
鈴木:それでアルバム『Positive And Negative』を出したんです。実はそのときは、ムーンシャインはPANとマネジメント契約をしていなかったんですよ。さっき言っていたように、僕はいろいろと会社を移ってきたので、マネジメントをやっている時期もあれば、やっていない時期もあって。レーベルという括りで見るとずっと一緒にやっているんですけど。
●はい。
鈴木:『Positive And Negative』をリリースした時、マネジメントはバンド自身がやっていたんです。それで、『バッカーゲッター』をリリースする前にバンドのボランティアスタッフが1人辞めたんですよ。そこで「ムーンシャインともう一度マネジメント契約をして、これから一緒にやっていかないか」とメンバーに言ったんです。それはミニアルバム『バッカーゲッター』を出すタイミングだったから2013年なんですけど、その時にどこを目標にするかというと「とりあえず20周年を目標にがんばろう」と。
●お!
鈴木:そこに向かうために、もっとガッチリ一緒にやっていこうと。もう1人居たボランティアスタッフを会社に入れて、みんなでやっていこうと。
●おおっ!
鈴木:そういう打ち合わせがあったんですけど、そこでまたすごく変わりました。もっとガッチリ行こうって。僕自身もそう思ったし、ここまで一緒にやっているなんて奇跡的な話だし、なんで一緒にやっているのかよくわかんなかったけど、ようやく意味のあるやり方になってきたなと思います。今まで自分なりに経験してきて、ようやく自分で会社をできるようになって。だったら今、ずっとやってきたバンドをドーン! といかせないと、今まで僕がやってきたことの意味がないって。
●いい話だ。
鈴木:ずっと一緒にやってきましたけど、そう思えたのは2年前なんですよね。だから僕たちには目標もあるし、その目標をクリアした先にやりたいこともあるんですよね。目的があるから、みんなおもしろい。メンバーもおもしろいと思っているし、僕自身もすごくおもしろいんです。売れてるか売れてないかで言うとまだ売れてないけど、一丸となってやっている感じがしますね。
2015年、結成20周年を迎えるPAN。川さん、ゴッチ、ダイスケの幼なじみの3人と、2011年に加入したよこしんが四身一体となって突き進む彼らのステージは、観る者の心をガシガシと鷲掴みにするパワーとエネルギーに溢れまくっている。ここ2〜3年、そのステージはより強さと勢いを増し、“楽しませよう”という貪欲なまでにアグレッシブな精神性は鋭さを右肩上がりで増しているのだが、初の単独表紙となる今月号ではバンドの歴史と心境の変化を暴くべく、メンバー4人のインタビューを敢行した。
●年末は結成20周年を目の前にして初のワンマンツアー“PANマンツアー”がありましたが(取材はファイナル前の12月中旬に敢行)、ワンマンツアーは楽しかったですか?
川さん:うん。楽しかったで。
●ツレか!
川さん:いろんなことができるし。
●そうですよね。ご当地バージョンの「がんばりまっせ」をレコーディングしてその会場のみでCD配ったり…これは褒め言葉ですけど、無駄なことに労力を使いますね。
川さん:ワンマン1本だけじゃなくてツアーやし何本もあるから、期待度も高いと思うんですよ。だから毎回内容を変えてるんです。
ゴッチ:ライブ前に僕と川さんのしゃべりを会場で流しているんですけど、そのしゃべりの内容も各地に合わせて録って。
●今までとのツアーと比べて、感触は違います?
川さん:うん。違いますね。いつものワンマンは、そこに照準を合わせて進んでいく感じですけど、1回ワンマンが終わってもまだ(別の都市でのワンマンが)あるから。そこで“じゃあまた違うことやれるな”って。ワンマンって1本のライブに向けて色々と準備するけど、それを連続で何回もするから大変やけど、でも大変さよりは全然楽しい。
ダイスケ:今まではツアーでワンマンをやろうという話にもなったことがなくて。「できへんやろう」って。でも今回、ワンマンツアーをやって、いっぱいの人が来てくれて。「こんなにおるんや」ってほんまに嬉しかった。
●ワンマンは東京で観させてもらいましたけど、すごく盛り上がっていてお客さんが全力で楽しんでいましたよね。しかも、新旧のファンが入り交じっている感じもよかった。
ダイスケ:そうそう。だから古い曲をやってもめっちゃ盛り上がるし。すごくいいツアーでした。
川さん:バンドが強くなりますよね。ワンマンだから1回のライブで35曲くらいやるんですけど、「ここはこうせなあかんな」とか色々と考えるし、自然と話しますよね。そこに時間をかけることが多くなるから、バンドが強くなるし、やって悪いことは全然ない。
ダイスケ:うん。成長したな。
●ここ2〜3年くらいでPANはライブがすごく良くなったという印象があって。単に楽しいだけじゃなくて、気持ちがグッと伝わる度合いが強くなったような気がするんです。ライブにメリハリが出るようになったというか。鈴木さんから聞いたところによると、現事務所のムーンシャインとバンドの売上をかすめられる契約(マネジメント契約)をして、スタッフも含めて体制もモチベーションも整ったのが2〜3年前らしいですけど、その時期とPANのライブが変わった時期がなんとなく符合するんですよね。
ダイスケ:それまでと比べたら本気度が足らなかったんでしょうね。
川さん:「やるしかないな」っていう心境になったんかもしれへん。
●やるしかない?
川さん:ここまでバンドを続けてきて、このまま現状維持していくのもおもろくないし。「いくならドーン! といくまでやっていこうや」って。ドラムが変わったりとか、プロデューサーが入ったこともあったし…そういうことが結構近い時期だったから、ドラムが変わって、バンドの売上をかすめられる契約(マネジメント契約)をして、それでやってみたら拡がりを感じてきたから。
ダイスケ:反応がよくなった。
●あ、そうなんだ。
川さん:「あ、俺らのこと知らへん人ってまだまだおるねんな」っていうことをすごく感じたんです。ここ何年かで音楽性だけじゃなくて活動自体も拡がってきたから、“もっといろんなところでPANは勝負できるんちゃうか”っていう気持ちになったかな。
●そういう意味では、それまではもう少し狭い範囲で考えていた?
川さん:うん。一緒に仲良くやってきたバンド界隈っていうか。そこで育ってきた誇りみたいなものはあるけど、その誇りを持って違うところでやってみたら俺らのこと知らん人まだまだいっぱいおるし。そこでも、俺らのライブやったら楽しませることができるんちゃうかって。そういう機会を(売上をかすめる契約をした)事務所は与えてくれたから、とりあえずがむしゃらにやってみようって。「そのためにはもっとこういうことせなあかんのちゃうか」っていうようなこともメンバーでよく話すようになったし。
●そういう意識の変化がライブに影響しているのか。
よこしん:ライブが変わったというのは、自分たち的には徐々にかなっていう感覚で。
●今のPANのライブ、めっちゃええで?
ゴッチ:アハハハハハハ(笑)。
川さん:ワンマンやったら2時間以上あるからいいけど、30分のライブで初めて観る人にどれだけインパクトを与えることができるか? って考えると、チャンスってあまりないやん?
●確かに。
川さん:30分のライブだったらしゃべれても1回か2回やし。やっぱり俺らもうベテランやから、30分に収めたいやん。40分使ってベテラン感は出したくないっていうか、「え? あんなにいいライブやったのに30分で終わってますやん」って思わせたいし。
●ハハハ(笑)。
川さん:そのために「ライブの出だしの雰囲気どうしようか?」とか、「今日はこういうイベントやからこんな風にやろうか」とか「最終的にはこういう風に持っていこう」とかを話すようになったし、考えるようになった。流れみたいなものをいつも意識して。
●1本のライブの爆発点を意識するというか。
ダイスケ:うんうん。
川さん:使える武器はいっぱいあるから、その中で何を使うかはその時々の雰囲気によって変える。
ダイスケ:だからライブによって結構変えますね。誰からのツアーのサポートとかやったら、そのバンドのコピーをしたり、コピーだけやったらおもしろくないから何かネタを入れてみたり。
●目的意識が高くなったんでしょうね。
川さん:うん。1本1本のライブで何かを残したいなっていう。
●PANの周りにはたくさん仲間が居る印象があるんですけど、そういう仲間から刺激や影響を受けたことも多いと思うんです。具体的に、刺激や影響を受けたバンドを挙げるとするなら誰ですか?
ダイスケ:俺はSTOMPIN' BIRDかな〜。
川さん:俺らの周りにはおもしろいバンドがいっぱいいるんですよ。四星球みたいなおもしろいバンドもいれば、NUBOみたいなおもしろいバンドもいるし、STOMPIN' BIRDみたいなおもしろいバンドもいて、ガガガSPみたいなおもしろいバンドもいる。そういうバンドって、“おもしろい”が“かっこいい”にも繋がるんですよね。STOMPIN' BIRDとかライブは毎回観たいし、やっぱり気になる。そういうバンドになりたいって思いますよね。「こいつら今日は何するんやろ?」って。
ダイスケ:うん。ワクワクさせるバンドになりたいよな。
●共通点は、その人たちにしかできないライブですよね。突き抜けてる。
ゴッチ:そうそう。
川さん:「なに言うんやろう?」っていう。「たぶんこんなこと言うんやろうな」だったらおもしろくないですよね。そういうワクワク感は与えたいな。
●そういう部分で、“悔しい”という感情はないんですか? 「こいつらすげぇ! 悔しい!」みたいな。
川さん:全然ありますよ。負けず嫌いっていうところから始まっているので。
●PANが?
川さん:PANもそうやし、俺自身がそう。俺はなんでもそう。基本が負けず嫌い。
●ああ〜、しかも川さんは“悔しい”と思っていることも言わないタイプのような気がする。
川さん:だって負けるん嫌やもん。
一同:アハハハハハ(笑)。
川さん:あとはすり替えて「でもこっちでは勝ってるで」と言うタイプ。だから対バンしたバンドがすごくいいライブをしたら「超えたろう」とも思うし、自分らがいちばん最初の出番やったら「めっちゃやりにくくしたろう」みたいな。対バンにはそうしてもらいたいし、俺らが2番目やったら、1番目のバンドがいろいろやってくれた方が、すごくやりやすい。
●あ、そうなんだ。前のバンドがぐっちゃぐちゃに盛り上げた方がやりやすい?
川さん:うん。「だったら俺らはこうやったるで」みたいな。
●ガチの負けず嫌いだな。そういうモチベーションの方が真価を発揮できると。
川さん:そう。だから人のライブは観たいんですよ。
ダイスケ:四星球とか結構かき回すタイプやから、燃えますよね。あいつらは“やるな”って思う。
川さん:うん。いいと思う。かっこいい。
ダイスケ:その辺はいちばん近いSABOTENにもめっちゃ感じてたし。SABOTENがインディーズでめちゃくちゃ売れて、メジャーデビューしてパーン! といって。
●あ、そうだ。
ダイスケ:アニメ『NARUTO』のタイアップ付いて…やっぱり近いバンドにあれだけいかれたら、やっぱり悔しかったな。
川さん:「一歩先におるな」っていう感覚で見てたかな。
ダイスケ:動員にも出るからな。悔しかった。「とりあえずくっついていこう」と思ってたけど。
●ハハハ(笑)。
川さん:マキシマム ザ ホルモンもそうやし。昔はお互いの家に泊まってましたからね。いつからかドーン! といって。だからいいお手本ですよね。
ダイスケ:dustboxもそうやしな。
川さん:とにかくいいバンドが周りに多いっていう。それが救いでしたね。
●そんないい仲間に恵まれつつ、来年結成20周年を迎えますけど、20年やるなんて想像してました?
ゴッチ:全然。10年すら思ってなかった。
●よこしんは後から入ったメンバーだから感覚が違うでしょうけど、ずっと一緒にいて飽きないんですか?
川さん:バンドとしては、一周まわっていい感じの20年を迎えてるっていう感じ。『がんばりまっせ』(2000年リリースの1stシングル)からいろいろあったけど、一周まわって今またアホみたいなことやっているっていう。でもメンバーとの付き合いからすると“もう何周まわったんやろ?”みたいな。
●ハハハ(笑)。幼なじみですからね。兄弟みたいな感じ?
川さん:いや〜、全然兄弟じゃない。
ゴッチ:誰よりも一緒におるしな。
●ゴッチは5年以上彼女も居ないですからね。
ゴッチ:おい! 言うなよ!
ダイスケ:でもそういう意味では家族みたいな関係なんかな〜。
川さん:ステージでおもしろいことしたいんですよ。普段からおもしろいことしてたら、ステージでは出てこなくなるやないですか。
●ステージの上でいちばんおもしろいことがしたいと。
川さん:そう。そこにいちばん新鮮な素材を出したい。採れたてのものを出したいやん。
●じゃあMCでふざけた話をよくしていますけど、あれも初めてしゃべることが多い?
川さん:そうそう。
ダイスケ:共通で知っている出来事であることもありますけどね。
川さん:でもステージでどういう風に言うかはお互い知らんし、言うかどうかもその場になってみないとわからんし。そこの打ち合わせはしない。
ゴッチ:ライブの冒頭でなんとなくその日はどういうことを言うかがわかるから、そこでアンテナを張っておくっていう。
●よこしんは今4年目ということですが、よこしんから3人を見てどう思いますか?
よこしん:仲良いなって思いますね。前のバンドをやっているとき、そのバンドはメンバーの仲があまり良くなかったから。
一同:ハハハハハ(笑)。
よこしん:ちょっと距離を置いたりも普通だったらあると思うんですよ。そういうのが3人からはまったく見えてこない。いつでもしゃべってる感じ。
●そうなんだ。
よこしん:機材車の中でもそうやし、移動中もそうやし、基本的にはずっとしゃべってる。「俺ちょっと行くところあるから」みたいなのが全然ない。オフとかはそれぞれ別のバンド仲間と会ったりしてますけど、でもオフでも「みんなで飯食おうか」みたいなこともあるんですよ。
●それを内心「キモいな」と思っていたと。
よこしん:はい。「30代のおっさんらが何しとんねん」と思って見てます。
●そういえばこないだ渋谷の街中で偶然会ったときも、みんなでラーメン食べに行く途中でしたよね。
ゴッチ:あったあった(笑)。
よこしん:しかも幼なじみですからね。よく一緒におれるなって思います。
川さん:でももはや、幼なじみであることの武器をライブで使ってますからね。それは他のバンドにはないものっていうか。昔話もできるし。そういうのは今になってすごくデカいと思います。
●それと、よこしんは6歳年下ですけど、伸び伸びとやってる感じがあるんですよね。
よこしん:最初は探り探りだった部分もありますけど、今は伸び伸びやらせてもらってますね。
川さん:最初は餌を与えて伸び伸びとやらせて、「ライブ手伝ったらただで飯が食える」っていうのを刷り込んだんですよ。だから「ライブ」って聞いたらよだれ垂らしてましたからね。
●アハハハハハハ(笑)。
川さん:でもよこしんは音楽的な部分だけじゃなくて、ライブでの空気が変わったとか、しゃべりの雰囲気とか、流れとか、そういう部分で苦労したんちゃうかな。
●客観的に見たら、3人幼なじみのところに1人入るって大変なことだと思うんですけど。
川さん:俺やったら嫌や。絶対に嫌や。
よこしん:たまにスタジオとかで同窓会の話とかしよるんですよ。「こいつら!」って思う。
●でもよこしんは自然に見えるんですよね。違和感なく「4人でPAN」っていう空気が出てる。
ダイスケ:いいタイミングでいい人材が入ったんですよね。
ゴッチ:ほんまにそうやな。
よこしん:間違いないです。
●2015年は20周年ということで、1/21にベストアルバム『ベスト盤゜』がリリースとなりますけど、新曲は作っているんですか?
川さん:いや、全然。
●全然なのか。
川さん:今はやることもいっぱいあるもん。
ダイスケ:アイドルの曲やゲームの曲を作ったりとかもしてるんですよ。最近バンドの売上をかすめる契約(マネジメント契約)をした事務所がいろいろと動いてくれて、俺らを広めてくれるためにいろんな話を持ってきてくれていて。
●ということは、そういう活動が次の新作の肥やしになると。
ダイスケ:そうですね。
ゴッチ:そういうこと。肥やしになる。
●今後、PANの音楽性は広くなっていくんでしょうか?
川さん:広くなっていくと思う。昔はバーッ! と勢いでグチャグチャにしたいっていう感じがあったけど、途中から大きいリズムで盛り上がることが楽しくなってきたんですよ。そこで“速い曲じゃなくてもこんなに盛り上がれるんか”とか“一体感が出るんか”みたいなことに気づいたというか、覚えたんです。だからそうなったらもうなんでもいいんちゃうんかっていう。
よこしん:興味のあるジャンルやったら自分たちからどんどんやっていきたいですよね。
●HIP HOPでもラブソングでも全然アリだと。
川さん:うん。自分たちが納得できたら全然いい。
ダイスケ:結局は歌詞やと思うんですよ。PANらしさっていうのは。音だけじゃあ伝わらない部分もあるし。だから音楽性が広がっても、芯さえしっかり持っていれば全然問題ないと思ってます。
●今後の目標みたいなものはあるんですか?
ダイスケ:売れたい。それは負けず嫌いにも繋がるんですけど。
川さん:たくさんの人数のお客さんの前でやりたいですよね。人数が多いっていうだけでもうおもしろいし、「ここでそれするんや?」って驚かるようなやりたいことはいっぱいあるんです。だからそういうチャンスにもっと巡り会えるようなバンドになりたいかな。
●簡単に言うと、楽しくてドキドキすることを、たくさんの人に見せたいと。
川さん:今までいっぱいやってきたから、それを知らん人に見せたい。おもろいことを、もっとデカいところでやったら絶対におもろいやろうなって。例えば今年の“MASTER COLISEUM'”ではパン投げマシーンを導入しましたけど、あれを知らない人っていっぱいおるから。
●そうですね。あれ知ってる人ってのべ6000人ですもんね。
川さん:そう。北海道の野外とかでやったら知らん人ばっかりじゃないですか。そういうことをやりたい。やりたいことがいっぱいあるから、それをもっと大きなところでやったら、いろんなところで勝てるんちゃうかって思うんです。もちろん音楽もやるけど、PANがやりたいことは“音楽を伝えたい”っていうよりも、“こんなにアホな奴もおるんやで”っていう。
●存在証明ですね。
川さん:生きるって大変やと思うし辛いことやけど、その中でおもろくて楽しいことしていこうやって。楽になったらええかな。勢いついたらええかな。
●お、かっこいい。
ダイスケ:そのためにはもっと売れないとあかんなって。
●それと“MASTER COLISEUM”は2015年で10年目ですが、あのフェスはPANにとってすごく重要なものになりましたよね。
川さん:うん。なった。
ゴッチ:確かに。
川さん:最初はいっぱいいっぱいのところで始まったんですけど、だんだん広まっていって「出たい」とか言ってもらえると、認知されたんやなっていう実感があって。いつからかデカくなった感じがあるから、バンドがそれに負けんようにせなあかんなって思います。
●結果論かもしれないけど、“MASTER COLISEUM”から今のPANに還ってきているものも多いと思うし、“MASTER COLISEUM'”のお客さんは他のフェスのお客さんとも違う雰囲気があるんですよね。キラキラしているというか、“暴れたい”じゃなくて“楽しみたい”っていう想いが強いというか。
川さん:それはやっぱりPANとSABOTENのカラーが出ているからかもしれない。今まで9回やってきて、そういう意図でやっているっていうことが浸透しているというか。いろんなバンドに出てもらっているけど、自分らの手から離さないようにこれからもやっていきたいですね。
●今年感動したんですけど、通路でお客さんがサークルモッシュを始めたんですよ。小さいモッシュだったんですけど、アルバイトのスタッフの人が止めようとしたんです。
ゴッチ:はいはい。
●そしたら隣にいた岸本さん(マスコロ主要スタッフ)がスタッフに「止めなくていいよ」って。もう素晴らしいなって。“MASTER COLISEUM”チームの想いがその出来事に集約されている気がしたんです。
川さん:それは今までずっと一緒にやってきたからこそですよね。もちろんその時の岸本さんの判断やったと思うんです。「問題ない」っていう。そういう意味ではすごく信頼しているし、任せて決めてもらっていることもあるし、こっちはこっちでPANとSABOTENのカラーを出していく部分で任せてもらっているし。そうやって一緒にやってきたからこそ、2015年に10回目を迎えることができるんやろうなって。
●“MASTER COLISEUM”も大きくしていきたい?
川さん:うん。
ダイスケ:会場だけの話じゃなくて、イベントとしても大きくしていきたいですね。
●関西ってバンド主催のイベントが多くなってきましたよね。
ダイスケ:そうですよね。すごく勉強になります。
川さん:“京都大作戦”も去年初めて出させてもらいましたけど、すごく勉強になった。
ダイスケ:細部にも気をまわしているし。
ゴッチ:10-FEETのメンバーもちゃんと声をかけてくれて、気持ちがしっかり届いてきて。そういうところもすごいなって思います。
●バンドの売上をかすめられる契約(マネジメント契約)をした事務所の社長・鈴木さんは、PANとはかれこれ16年来の付き合いということですが、鈴木さんは昔からPANのマネジメントをやっていたわけではなく、色々と会社を変わってきましたよね。ということは、ずっとPANに給料を払っていたわけでもなく、でもPANはずっと鈴木さんとやってきていて。その関係性がなんか不思議なんです。普通はもう少しドライだと思うんですが。
ダイスケ:自分らでも「あそこのレーベルに行きたい」とかがなかったんですよね。もちろんメジャーでやりたいとか思っていましたし、今でもアニメのテーマ曲やりたいとかは思っていますけど、でも自分らで動くまではしてこなかったというか。
●自分たちでレーベルに売り込むとかの発想がなかったんですか?
ゴッチ:うん。発想がなかった。
川さん:なんでやろうな〜? 俺らは別にめっちゃ音楽が詳しくてバンドを始めたわけでもないし、最初はミュージシャンになりたいと思っていたわけでもなくて。で、バンドをやっていく中で、新しい人と何かするのって大変やん。
●うん。大変。
川さん:そこをあいつ(鈴木氏)はいろいろとしてくれてたし、悪い奴じゃないよなと思ってて。いろんなことを包み隠さずに言ってくれるし、バンド4人とあいつ含めた5人…「この5人でなんとかせなあかんやろう」っていう感覚なんかな。
●ああ〜、メンバーに近い感覚。
ゴッチ:うん。メンバーに近いかな。
川さん:チームでドーン! といかないとおもしろくないやろって。それに「誰が今までレコーディング代出してくれてたんか?」っていうたらあいつやったし、他に「レコーディング代出したるわ」って言う人いなかったし。「いいバンドやな」って言われることはあっても、そこまで言ってくれる人はあいつだけやったかな。
ダイスケ:俺らにそこまで魅力がなかったんかな…。
●ハハハハ(笑)。端から見ていて、目に見えないもので繋がっている感じがあるんですよね。
ゴッチ:ヒロ(鈴木氏)が会社を転々としているときも、「次にそこ行くんやったら俺らもついていこう」みたいな。当たり前になってた。
ダイスケ:「じゃあ俺らも行くわ」って。
川さん:信用してるからな。
●やっぱりバンドのメンバーと同じ感覚なんでしょうね。そこを任せているというか。
川さん:うん。バンドのパートじゃないけど、そこは信用して任せてるっていう。俺らはあまり業界のことに詳しくなかったし。
ダイスケ:どこの会社に移っても絶対に声をかけてくれるもんな。それは嬉しかったですよね。だってそもそも、ムーンシャインは俺らとは全然違うようなオシャレなバンドばかりリリースしているじゃないですか。俺らみたいなバンド1組もおらへん。
●あ、そうですね。確かに。
ダイスケ:そう。だいたいレーベルってジャンルというか毛色がかたまるじゃないですか。でも俺らからしたら、繋がるようなバンドが全然おらへん。毎回ツアー呼べるバンドが居ないんですよ。
●ハハハハハハ(笑)。
川さん:あいつが長くやっているwinnieとVELTPUNCHって通じる雰囲気があるじゃないですか。でも俺らとは明らかに違う。
●鈴木さんにとってもPANは特別な存在なんでしょうね。
ダイスケ:たぶんそう思ってくれてるんでしょうね。めっちゃ感謝してます。
ゴッチ:うん。感謝してる。
●ところで今年は6月末までツアーがあって、その後はフェスとかありつつ、秋には10回目を迎える“MASTER COLISEUM”が控えていて。「新曲いつ作るんだろう?」と心配になるくらい楽しみな1年になりそうですね。
ダイスケ:そうですね。2014年もめっちゃ忙しかったし、新しいバンドとやる機会も多くて、すごく刺激的だったんですよ。
ゴッチ:うん。忙しかったな。夏ぐらいからずっと2014年は忙しかったイメージしかない。
ダイスケ:だから今年は更にヤバい。めちゃくちゃええことですけどね。PANの4人とスタッフ一丸となってがんばっていこうと思ってます。
●ではそろそろ最後に、新年の挨拶をお願いします。
ゴッチ:それなに?
●いや、今回新年号ですし、PANは単独では初の表紙ですから。
ゴッチ:それは、あけましておめでと…っていうこと?
●この人、大丈夫か(笑)。
川さん:すごいでしょ。俺らこのハンデキャップをずっと背負ってるんです。
●尊敬します。では川さんお願いします。
川さん:2015年は狙っていたわけじゃないけど、いろんなものが集約している年なんですよ。バンドは20周年やし、“MASTER COLISEUM”は10周年やし。今までいろんなところでやってきたものが、ここに1つ固まってきているような感じがしているんです。ベスト盤もまだ出してなかったし。だからいいスタートが切れる気もしてるし、20周年のイベントを1年間やりながら、1年後にいい感じで2015年を締め括れたらいいなと思いますね。
●なるほど。
川さん:今までいろんなもんを温めてきたし、ここで解放するときかなって。だから20周年、やります。
interview:Takeshi.Yamanaka
2014/12/19@心斎橋BIGCAT
「本日は、“もうすぐ20周年やでぇっ!! PAN 初のワンマンツアー”にお越し下さいまして、ありがとうございます」。突然、Vo.川さんがボクシングのリングアナウンサー風に挨拶をしたかと思うと、すかさずG.ゴッチとの息の合ったコントが行われる(笑)。ツアーの最終日であるこのライブは、なんともPANらしい掛け合いで始まった。
「関西〜電気」「保〜安協会!」、「ホテルニュ〜」「あ〜わ〜じ〜」と、関西の人しかわからないようなCMソングのコール&レスポンスを交えつつ、1曲目は「今夜はバーベキュー」! そのまま「完全な命」「ムサンソ」と間髪を入れずに繋げていく。のっけからBa.ダイスケがベースを鳴らしながら飛び跳ね、Dr.よこしんはズシンと腹に響く音をブチかます。すると負けじとオーディエンスも騒ぎ出し、Aメロで体を揺らして、Bメロで腕を突き上げ、サビではダイバーが続出! さらに間奏ではオイコールが巻き起こりるなど、高揚感は一瞬たりとも途切れることがない。
4人の美しいアカペラから始まる「こめかみ」、独特な雰囲気のイントロが印象的な「悲しきアナコンダ〜俺ほんまは、優しいのに〜」、PANらしいわちゃわちゃ感満載の「今日だけ祭り」など、序盤から中盤にかけて様々なカラーを織り交ぜながら展開していく。川さんの「この光景は、お金で買えない価値がある」という言葉から「金なんていらない」が披露されたときは少しグッときたが、その10分後に「金くれ!!」が演奏されたときには、彼ららしい演出に思わず笑ってしまった。
どこかセンチメンタルな「夜明け前」や懐かしさを感じる「悪魔塔」など、しみじみと聴き入るような楽曲が続いた後、「そこに光る」へ。「みんなで歌おうか!」という川さんの一言で、数百人の歌声が重なってとてつもない一体感が生まれる。そして「Z好調」「天国ミュージック」「直感ベイベー」とすさまじいキラーチューンラッシュで本編を駆け抜けた!
だが今夜はツアーファイナル、当然ここで終わるはずがない。アンコールではスペシャルゲストにFM802の人気DJ・MARK'E氏を招いて、コラボユニット“谷口パン”の楽曲を披露! さらに森高千里の「ジンジンジングルベル」カバーや、自身の楽曲をセルフアレンジした「がんばりまっせ言うてー」など、ワンマンならではの特別な演出が盛りだくさん。アンコール最後の曲「心のバッティングセンター」が終わったあとには、客席から「ありがとう!」という声が飛び交う最高の夜となった…が、まだまだ夜は終わらない! ダブルアンコールに応えて三度PANのメンバーが帰ってくる! 「「0」」「虹にみた」とちょっと懐かしい曲の後は、最新アルバムから「WA WA WA」。オーディエンスがフロアの中央に輪を作り、合図に合わせてモッシュする姿は本当に壮観だ。アツアツのステージングで会場を湧かせた「人生の湯」、フロアが揺れるほどに盛り上がった「TシャツGパン」、最後は大定番の「オアシス」でフィニッシュ!
「20年続けてきて、今がいちばん楽しいわ。またライブハウスで会いましょう!」。そう語ってステージを後にした川さん。20年も続けていれば、当然変わってきたこともたくさんあることと思う。それでもPANにとって、また彼らのライブを観に来た人たちにとって、ライブハウスが最高に楽しい場所であることはこれからもずっと変わらないだろう。今日の光景は、そう確信させるほどの力を持っていた。
TEXT:森下恭子
PHOTO:rockey