2014年夏にアルバム『Strangers In Heaven』をリリースし、ツアーではオーディエンスと共に更なる高みへと到達した唯一無二のバンド、Nothing's Carved In Stone。無機質かつ強固なアンサンブルと、熱を帯びた旋律、万物を受け入れるが如き無限の拡がりをみせる村松の歌を備え持つ最強のロックバンドが、2015年の幕開けとともに新たな一歩を踏み出すべく、ニューシングル『Gravity』をリリースする。バンド内の美学や力学を表現したという同シングル曲、及びカップリングの「GOD HAND GAME」は、バンドが持つポテンシャルをすべて注ぎ込んだが故に、オーディエンスの魂を瞬時に沸騰させるほどのエネルギーを放って鳴り響く。シングルリリース直前となる今月号では、2015年のNothing's Carved In Stoneを占うため、村松と生形に話を訊いた。
●拓さんとは連載で毎月会っているので、まずは生形さんに“Strangers In Heaven Tour”のことを訊きたいんです。アルバム『Strangers In Heaven』のインタビューのとき、生形さんは「ギターも歌と同じで、気持ちで表現が変わってくる」とおっしゃっていて。その言葉を記憶しつつ、ツアー初日のライブでは「Shimmer Song」の時の生形さんのソロとかで感情が溢れていて、グッときたんです。
生形:ああ〜。
●と思ったら、セミファイナルのZepp Tokyoでは全然違う方法論の、大きく魅せるライブというか。初日とセミファイナルの違いもびっくりしたんですよね。
生形:今回のツアーは、俺の中では今までのツアーの中でいちばん完成度が高くて、満足感がありました。
●お。
生形:曲間の作り方とか細かい部分もそうだし、全体の流れもそうだし。例えばZepp Tokyoだったら演出もそうだし、各地のライブハウスならではの見せ方だったり。そういう全部がうまく噛み合っていた気がしますね。
●確かに、1曲1曲というより、最初から最後まで通して1つの作品というか表現のような印象があったんです。そういう部分で、理想に近いものにできた?
生形:そうですね。特に最近は曲間をみんなで考えることが多くて。それによって次に演る曲の聴こえ方が全然違ったりするんですよね。例えば「Shimmer Song」にしても、ライブの頭で演るのと最後で演るのでは、ツアーでは両方やっているんですけど、全然違うと思うんですよね。
●違うでしょうね。
生形:その辺もうまくできたんじゃないかなって。その日の自分たちのテンションによって。手応えもそうなんだけど、今回のツアーは何よりも自分たちが演っていてアガるっていうか。もちろんお客さんは居るんだけど、それ以前にアガるものがありましたね。
●今までよりもよく考えたし、準備したということですか?
生形:よく考えたし、6年やってきて、バンドとしての成長もかなりしたんじゃないかなっていう気はしてますね。まだ先はありますけど、とりあえず今回のツアーに関しては、俺は“ライブ”という形ではいちばん理想に近かった。お客さんとのやり取りも含めて。
●もしかしたら、それはアルバムの完成度とも繋がっているのかもしれないですね。
生形:そうかもしれないです。いつもだったら、アルバムの曲って少し時間が経たないと観ている方には浸透しなかったりするんですよ。例えば今回だったら前アルバム『REVOLT』までの曲がすごく盛り上がるっていう。アルバム『Strangers In Heaven』の曲は、みんなまだどうノっていいかどうかわからない。
●はいはい。前アルバムまでの曲はみんな何度も聴いてるから。
生形:でもそれが今回はなかった気がします。みんな最初から連れて行けたっていうか。でもそれがなんでかはわかんないんですよね。
●別に『Strangers In Heaven』が今までよりもポップになったわけでもないし。
生形:そう。逆に難解な曲もあるし。“なんなんだろう?”とは思いますけどね。でもツアーは楽しかった。毎回ツアーは楽しいですけど、今回は「今日はダメだった」という日が無かった気がする。
●最高のツアーでしたね。
生形:最高でしたね。あ、でも、さっき言ってくれた「Shimmer Song」のソロなんですけど…この曲のソロは俺の中でかなり気に入っているソロなんですよ。もう、あのフレーズ自体がかなり感情的にできているというか。今まであまりやってこなかったことなんだけど。
●確かに生形さんのギターはもう少し乾いている印象があります。
生形:うん。だから実は、ソロを弾いているときは感情をさらけ出しているというより、ものすごく丁寧に弾いているんです。それが逆に、聴いている方は感情的に聴こえるという。楽器ってそういうもんなんですけど。
●あ、そうなんですか。
生形:感情が高まっているというより、忠実に表現したいっていう。他の曲だと、例えば「Crying Skull」のギターソロなんかは、正直ものすごくラウドに弾いていて。でも「Shimmer Song」はすごく細かく弾いている。
●なるほど。その場で感情をさらけ出すというより、感情が溢れるフレーズを忠実に表現したら、結果的に感情豊かに聴こえるという。
生形:熱さを向ける方向が違うだけなんですよね。
●「Shimmer Song」はアルバム『Strangers In Heaven』の中でも特別な曲のような印象があって。ツアーであの曲を聴いたときに毎回鳥肌が立つ感覚があるんですよね。
生形:ライブの後半に持ってきたときの方が俺たちの中ではアガったね。
村松:うん。「妙に感情が入る」って言ってた。
●拓さんの連載で「2014年でいちばん印象に残っている曲は?」という質問をしたら、拓さんは「Shimmer Song」とおっしゃっていたんですよ。生形さんはどうですか?
生形:2014年で印象に残っている曲? 印象に残っているのは、単純に「Idols」なんですよ。ライブですごく盛り上がるなって(笑)。
村松:ハハハ(笑)。そうだね。
生形:予想以上だった。わかりやすいんですかね?
●わかりやすいし、ライブ映えする曲ですよね。
生形:“みんな楽しそうだな”って。客席を見ていていちばん思った曲です。まさにさっき言った、新しい曲なのにすごくみんなノってるっていう。その感覚は「Idols」がいちばん強かった。
●ツアーのセミファイナルで今回のシングル曲「Gravity」を少しだけ披露しましたけど、ツアー中に今作は作っていたんですか?
生形:ツアー中に作って、ツアーが終わった2日後にリズムを録り始めたんです。ツアー中の9月後半に少しだけ期間があいたんですけど、そこで曲を作って。年明け早々にシングルを出すということは決まっていたんです。
●「Gravity」はどういう経緯でできた曲なんですか?
生形:俺がすごく簡単なデモを持って行って、メンバーで完成させたっていう感じです。
●この曲は、繰り返されるアコギのリフが曲のキーになっていますよね。
生形:あ、そうです。まさにあのリフから作り始めたんですよ。あのリフを思いついて、手応えがあったんだけど、みんなに聴かせる前に自分の中でももちろんハードルがあって。正直に言うと、たくさん曲を作って自分なりに“これだ!”と思うものをバンドに持って行くんです。
●今回もたくさん作ったんですか?
生形:そうですね。毎回めっちゃ作りますよ。みんなに聴かせるのは未だに緊張するんですよね。今回持って行ったのは「Gravity」の1曲だけでしたけど、俺が作ったのは12曲くらい。
●アルバムができる!
生形:ワンコーラスだけのものもありますけどね。で、「Gravity」のデモを持って行ったらみんなが「いいじゃん」って言ってくれて。ただ、俺的には1つ気にいらないところがあったんですよ。
●気にいらないところ?
生形:アコギのリフから作ったと言いましたけど、やっぱり最初はアコギがメインになっていて、いわゆるオーガニックな感じだったんですよ。ちょっとパーカッシブでポップな雰囲気になっていて。そこだけが俺は気になっていたんです。
●ふむふむ。
生形:アレンジでもっと冷たくしたいと思っていて、そういうイメージを伝えながらみんなに聴いてもらって。そしたらひなっち(日向)があの「ヴーヴー」っていうベースを重ねたんですけど、そしたらすごく奥行きができたんですよ。イメージ通り冷たくなって、“これはかっこいい”と思って。そこからはアコギとベースの2つをメインに曲を構成していって、サビはひたすら突き抜けるっていう。
●なるほど。「Gravity」を聴いて感じたのは、初めて聴いたのに「あ! Nothing's Carved In Stoneだ!」と思ったんです。それは既聴感とは違っていて、どういうロジックかはわからないんですけど、4人の音と組み合わせ方のクセというか黄金率みたいなものを強烈に感じたんです。だから一聴しただけでアガる。
生形:ある意味、Nothing's Carved In Stoneしたかったのかな。まあでも、俺らがやればNothing's Carved In Stoneらしくなるんですけどね。さっき「冷たさ」と言いましたけど、それは昔から俺らにあるものだと思っていて。デモの段階ではそれが未だなくて、どうにか出したいなと思っていたんですけど、冷たさが入った途端にNothing's Carved In Stoneっぽくなったというか。ベースももちろんそうだけど、ドラムもAメロは淡々と冷たく聴こえるし、その後に出てくるエレキのリフも…その場で拓ちゃんが考えたんですけど…やっぱりあのリフも冷たさとか狂気のような雰囲気が出ていて。そういうものは、ウチのバンドの1つの要素かなと。
●それはすごく思う。無機質なものがあるからこその熱さというか。
生形:ただ明るいものとかただポップなものっていうのが、どうしても好きになれなくて。アルバムの中に1曲あるくらいだったらいいんですけど、ただ明るいものとかポップなものだと、別に俺らがやらなくてもいいんじゃないかっていう気がする。毒が欲しいというか。
●拓さんはこの曲、どういう感触でした?
村松:「Gravity」は歌詞を歌えるものにしたかったんです。メロディはそもそも真一が作ってきたんですけど、すごくいいメロディだなと思って。たぶん弾き語りで演ったらサラッと歌えるようなメロディだと思うんです。
●うんうん。
村松:だから歌えるものにしたくて。英語詞ですけど言葉がバーッと入ってきてイメージが膨らむようなものっていうか、口ずさめるようなものっていうか。まずはそこにこだわったんですよね。だから節回しとかもちょっと変えたりして。
●なるほど。
村松:日本人が日本語で歌う理由って、当たり前っていうか、歌としていちばん成立する形だと思うんですよ。やっぱり歌だから、感情が伝わるものの方がいいし、聴いた人が歌えるものだったり、人に刺さるものの方がいいと思うんです。それを、英語でもやりたいなと。そういうことは今までもずっと試みてきたことですけど、年々そういう気持ちが強くなってきていて。簡単な言葉というか、メロディのここにしかハマんない言葉っていうのがたぶんあって、それをちゃんと探すことができたときはメロディがすごく際立つんですよね。
●ああ〜、それは今回感じました。今回は2曲ともそういう感触があった。
村松:そういうところがうまくいったかな。
●もう1曲の「GOD HAND GAME」はどういう経緯でできた曲なんですか?
生形:これは拓ちゃんがデモを持ってきたんです。
●あ、そうなんですね。
村松:作る経緯は「Gravity」や今までと同じで、「ダカダカダカダカダッ!」っていうフレーズを最初に思いついたんです。
●うん。「GOD HAND GAME」はバンド全体が「ダカダカダカダカダッ!」を奏でている感じが強いですよね。
村松:そうそう。あれを元にして作り上げていったんです。
●曲を聴いたらなんとなく曲の生い立ちがわかりますね。バンドが曲の中でどこに軸足を置いているかが、感触として伝わってくる。それぞれの曲で軸足の位置は全然違うけど、でも聴いたら感覚的にその違いがわかるというか。
生形:そうですね。
●それに「GOD HAND GAME」は曲の展開がめまぐるしくて、場面展開がすごい。狂気のギターソロがあったかと思えば、シンセですごく神々しい雰囲気になったり。表現のバラエイティが富んでいるというか。
村松:もともとデモの段階ではそういう展開まではなかったんですよ。ワンコーラス程度で。
生形:シンセも最後に入れたんですよ。最初はギターだけだったんですけど、最後にひなっちが「ここ、ちょっとストリングスを入れたい」と言って。間奏のところも「割と平熱で曲が進行していく中でギターだけが暴れる感じがおもしろい」というアイディアが出て、それをその場でやってみて。だから展開の部分はその場その場のアイディアで作ったんです。こういうロックっぽい曲だからこそ、遊びじゃないけど展開がどんどん変わっていくとおもしろいですよね。
●しかもその展開も、全部本気で全力でやっているという。
生形:そうそう。本気でそれっぽくするという。おもしろい曲だと思います。
●あと、今回の2曲を聴いて思ったのは、拓さんの歌がうまくなった感じがするんです。なんか上から目線で申し訳ないですけど(笑)。
村松:俺も、歌がうまくなったと思ってます(笑)。
●思い切り声を張るとか、感情を込めるというだけじゃない、ちょっとした部分…ブレスや言葉の崩し方とか、そういうものも含めて表現になっている。それはアルバム『Strangers In Heaven』でも感じたことなんですけど。
村松:俺は歌1本聴いても成り立つような曲でありたいと思って、そういうアプローチをずっとしてきたので、その結果だと思うんです。ただ、“歌を聴かせる=アレンジ”っていうところが、よりバンドの中で明確になってきている気がするんです。
●ああ〜。
村松:「歌があって、それを聴かせるのがアレンジですよね」っていうのは当然の考え方なんですけど、各々がNothing's Carved In Stoneに於ける引き出しの出し方…音色の出し方やインスピレーションの出し方…がわかってきたんじゃないかなと俺は思っていて。
●ただ、Nothing's Carved In Stoneの場合はその出し方が、他のバンドとはちょっと違う気がするんですよね。歌を聴かせるアレンジって、一般的に言うと「音を抜く」とか「メロディに当たらないようにする」という方法が多いじゃないですか。でもNothing's Carved In Stoneの場合は全然そんなこと考えていない。
村松:ウチはオブリガードとか、裏で鳴っている音がメロディの隙間から聴こえてくるからこそメロディが際立つ、みたいな方法論なんです。そういうものの抜き差しの違いは、例えば3rdアルバム『echo』(2011年6月)を聴いてから『Strangers In Heaven』を聴くとよくわかるんですよ。全然うまくなっている。
●なるほど〜。
村松:作品を重ねる毎にバンドがビルドアップされてきて、アレンジがうまくなってきていることだと思うんです。Nothing's Carved In Stoneというバンドのミュージシャンとしての成長している部分というか。
●きっとこの4人にしかわからないことがたくさんあるんでしょうね。
生形:うんうん。
村松:本当に絶妙ですよ。アレンジの段階で、例えば俺がメロディを持ってきた曲とかだと、「メロディとドラムのリズムが絡まないね」ってなると、すぐにメロディと絡むようなリズムに変えたりとか。機微がわかるというか、ポイントのズレがすぐに合うというか。
●曲作り、めちゃくちゃ楽しいでしょ?
村松:超楽しいです(笑)。
生形:そういう瞬間はたくさんありますね。「あ、それ!」って。
●『Strangers In Heaven』やツアーの満足度、今作に関する話などから察するに、バンドの状態がすごくいいんですね。
村松:そうですね。純粋にいいバンドだと思う。今回、シングル曲のタイトルを「Gravity」にした理由にも関係するんですけど、今言っていたようなバンド内の力学的なところを歌詞にしようと思ったんです。
●あ、そうなんですね。
村松:“Gravity”は“引力”という意味ですけど、シングルとして世の中に出して、刺さるものにしようと考えたとき、俺らの美学や力学を言葉にするのがいいかなと思って。いちばん自信が持てるところだから。
●はい。
村松:自分以外の他人と何かを生み出す時って、イメージを交換し合って、それをうまくミックスして出すわけじゃないですか。だから相手を受け入れなきゃいけないんですよね、自分の話ばかりじゃなくて。結局、自分の頭で描いているものって、よほど微細に書き出して見せてあげないとわからないっていうか、それでもたぶん表現しきれないと思うんです。
●そうでしょうね。
村松:頭の中にあるものと、それをアーティストとして主張したい気持ちと、だからこそ相手を受け入れないといけない気持ちと…そういうものが常にあって。でも、よくわからないけど惹かれる部分ってあるじゃないですか。そういう引力ってあると思うんですよ。
●ありますね。
村松:だからわからない部分とか伝えきれない部分があったとしても反発せずに、裸になって受け入れていくことで、よりクリエイティブになれると思うんです。その繰り返しでしか人間も成長できないし。俺たちはそういう生き方なんですよね。
●今のNothing's Carved In Stoneの生き方だと。
村松:それはものを作っている人や、若い人には絶対にわかる感覚だと思うんですよね。こんなに前向きなエネルギーは他にないし。今のNothing's Carved In Stoneが世の中に示すことができるいちばん強烈なメッセージはこれなんじゃないかなと思って、歌詞にしたんです。そういうメッセージがこの曲と相まって響くんじゃないかなって。
●なるほど。バンドのことを歌ったのはいつぶりですか?
村松:うーん、いつだろう? バンドからは常にインスピレーションを受けているんですけど、バンドのことを歌ったのは「ツバメクリムゾン」以来かな? まあ「ツバメクリムゾン」はバンドに於ける自分の決意表明みたいなことだったんだけど。
●バンドは生き物みたいなものだから、きっと今後も定期的にバンドを歌う曲ができるんでしょうね。
村松:でしょうね。Nothing's Carved In Stoneは生き方や気持ちを表現できるバンドだと思っていて。そうでありたいとも思っているし。ロックバンドってそうじゃないですか。俺たちには冷たいサウンドもあるけど、たぶん俺たちがおもしろくなる要素って、たぶん泥臭さとか体温だと思うんです。
●うんうん。冷たい中にあるからこそでしょうけどね。
村松:それをうまく表現していくことをしたいなと。人間の息遣いがこもっているところ。俺1人が掲げているメッセージにフィーチャーする…少し前まではそうすべきかなと思っていたんですけど、そういうことじゃなくて、やっぱり4人でバンドをやっていること自体をメッセージに変えていくことの方が、俺たちにとってはいいと思うんです。
interview:Takeshi.Yamanaka