1996年に結成されて以来、老若男女国境問わず多くの人たちに愛されているロックバンド、おかん。2013年にはインディーズバンドとしては異例の大阪城ホール単独公演を成し遂げ、幼い頃に描いた大きな夢を形にしてきた。そんな彼らが、遂に初のフルアルバム『loved one』をリリースする。現メンバーになって10年、初期メンバーに至っては18年という長い月日を重ねてきた中には、喜びもあれば苦難もあっただろう。だがそんなときも、そばにはいつも支えてくれる家族のような仲間たちがいた。この作品は大切な人たちと共に歩んだ18年間の軌跡であり、新たなスタートラインに立った証明である。
●初のフルアルバムということで、今までの歴史を振り返りつつ、時系列に沿ってお話を伺いたいと思います。まず結成についてですが、おかんって実はすごく活動歴の長いバンドなんですよね。
YOU:1996年に結成したから、もう18年になるんですよね。中学2年生のときに、同じクラスだった2人(DAI、本東地)ともうひとり別のドラムと一緒にフォークソング部に入ったのがキッカケでした。
●そこでおかんの原型ができた。
本東地:そうですね。実はその頃に大阪城ホール(以下城ホール)でB'zを観て“このステージに立ちたい”と思ったんです。初めてオリジナル曲をやり始めたのは、高校生の頃だったかな。その時に作った曲の中で、M-4「向日葵」は今でも歌っている曲ですね。
成:僕はこのバンドに入ってもう10年目になるんですけど、今作に入っている中で唯一加入前からある曲ですね。10年って言ったら、普通のバンドなら結成当時からいるメンバーくらいの長さですからね(笑)。
YOU:ライブのときにはファンのみんなが向日葵を持ってきてくれて、会場が花畑みたいになるんですよ。向日葵がおかんを象徴する花になった由来でもある曲です。
●この曲ができるのには、何かキッカケがあったんでしょうか?
DAI:僕は親父がいなくて、ずっとおじいちゃんが父親代わりに育ててくれたんです。でもある日、おじいちゃんが亡くなる夢を見て。目を覚ましたときにおじいちゃんのイビキが聞こえて、“生きていてくれてよかった”って心から安心したんですよ。そのときに“今伝えたいことを、ちゃんと伝えなあかん”という想いで書いた曲ですね。大切な人へのメッセージソングを作ったのはそれが初めてで、ここから“俺たちがやりたいのは、元気になってもらえたり家族を繋ぐような歌を歌うことなのかな”って思い始めました。
●まさに、今のおかんの原点ですね。
DAI:家族との時間がたった1分増えるだけでも、すごく大きなことだと思うんです。「おかんの曲がキッカケで、家族に会いに行って最後の瞬間に立ち会えました」と言ってくださる方も多いんですよ。亡くなる瞬間に大好きな人が目の前にいてくれるって、何にも代え難い宝物じゃないですか。それを自分たちの歌で届けられることが、活動のエネルギーでもあり喜びでもあります。
●ファンとの距離感が近いからこそ、よりメッセージも伝わるんじゃないでしょうか。
YOU:そうですね。バンドが大きくなればなるほど“遠くに行ってしまうんじゃないか”って思われがちなんですけど、僕たちはより近くに行きたい。大きくなればなるほどに、家族のように応援してくれている全国のみんなと“よりワクワクしたい”と思うんです。
●ファンにとって、すごく嬉しい言葉だと思います。2番目に古い曲はどれですか?
本東地:M-8「道-the way-」ですね。これまでとはまったく違うアレンジになっているから、知っている人が聴いたらきっとビックリすると思います(笑)。ある意味、古くもあり新しくもある曲。
●元々は、廃盤になったデモCDに収録されていた曲ですよね。
本東地:収録曲はすべて既存のものなので、そのまま発表してしまえばすぐに済む話なんですけど…今回アルバムを作る上で、いろんなことにチャレンジしたいと思っていて。だから今までのものを、より新しくして発表したかったんです。「道-the way-」に関してはスノーボードやスケートボードのようなスポーツのBGMとしても使ってもらいやすいような曲をイメージして、僕たちなりに新しくお洒落にというのを意識しました。ちょっとした遊び心です。
YOU:日本だけじゃなく世界という場で活動していきたいという想いがあったから、レコーディングも外国の方に付いてもらって録りました。
●チャレンジ精神と遊び心によって、ワールドワイドな1曲ができたんですね。その次にできたのは?
YOU:「ヒカリ」ですね。これは僕が書いた曲なんですが、5年前くらいにすごく落ち込んだことがあって。そのときに“このままじゃあかん”と思って、苦しい気持ちを言葉として書き出していったんです。
●ヘコんでいるときに書いたということですが、曲からはただただ暗い感じではなくて、すごく前向きなエネルギーを感じました。
YOU:曲を書くことで、自分も励まされたというか。眩しいステージに立った自分や、そこに向かっていくことをイメージしたので、ギターのフレーズにもそういった描写が入っていますね。
成:上ものがキラキラしている分、リズムは土台をしっかりさせようという意識になりました。今回のアルバムは全体を通して“4つ打ちをベーシックに置く”というテーマがあったんです。僕らのライブには年配の方から子どもまで幅広い年齢層の方が来てくださるので、誰でもノリやすく、それでいて歌詞がしっかりと伝わるようにということを根本に置いてリズムを作っていきました。
●全体を通してそういう意識があったと。そうなると、リズム隊同士の意思の疎通も大事なのでは?
本東地:基本的にリズム隊は同じタイミングで録ることが多くて。まずドラムのOKが出たらそれにベースを合わせて、最後に気になる所を直していく、みたいな流れで。
成:最近は簡単に音が編集できるけど、それをやりすぎると作り物めいた嘘っぽいものになっちゃうと思っていて。できるだけ編集せずに、バンド感やリアルな熱感を大事にしています。例えばM-3「road to my road」のベースも、初めはすごく綺麗に録れていたんですけど、それが逆に曲が持っている勢いを損ねているような気がしてしまって。僕の独断と偏見で「上手すぎるからボツで」みたいなこともありました(笑)。
●上手いからダメって(笑)。
成:リアルな質感というか、多少ミスがあっても勢いの方が大事だと思ったんです。それがいい効果を生むことも絶対にあるんですよ。
本東地:現場で生まれるグルーヴは、ライブもレコーディングも一緒ですね。
DAI:3週間という短い期間で録ったので、大変すぎて本当に気が狂いそうになりましたけどね(笑)。ただM-6「人として」は2006年頃にできたものなんですけど、アレンジは珍しく当時からほとんど変わっていないんです。
YOU:僕たちの曲って続けていく中でアレンジが変わっていくから、すごく珍しいケースですね。
●なぜこの曲はそうしようと思ったんですか?
DAI:今までこの曲を通じていろんな景色を見てきたので、これ以外のアレンジは考えられなかったんです。一度違うアレンジも試してみたんですけど、そのうえでいちばん響いてくるのがこの形だった。この曲だけそのままでいくのは正直怖くもあったんですけど…今まで何万人という人たちに届いてきた曲なので“18年間の自分たちを信じてみよう”という強い想いが詰め込まれています。しかも今回、MVもこの曲で録っているんですよ。
●アルバムの中でもリード曲的存在だと。MVは今回新しく録ったんですよね。
YOU:監督さんが嵐やRADWIMPSといった方たちのMVを手掛けられている方なので、第一線の現場を体感させてもらいました。
DAI:城ホール公演の前からメンバーとは「これから物作りをするにあたって、必ず第一線のプロの人たちと一緒にクリエイティブしていきたい」という話をしていたんです。今までは自分でプロデュースをしていたんですけど、今回は“一度プロの人たちに任せきろう”と思ったんですよね。だから「こんな風に録ってほしい」ということはほぼ伝えず、「多くの人たちに愛され寄り添ってきた曲なので、愛が伝わるものにしてもらえれば後はお任せします」っていうことだけ言ったんですよ。そしたら「おかんはこれから世界に発信していくバンドだから、言葉だけでなく知覚的にも世界に訴えかけられる映像を作りたい」と言ってくださって。だから今回のMVは、“侍・筆文字・アニメーション”という日本の文化を意識したものになっているんです。
●日本が世界に誇れる要素が含まれているんですね。
本東地:MVの背景に書かれている筆文字は、僕らがずっとお世話になっているてんつくマンさんという路上詩人をされている方に字を書いて頂いて。MVは既に公開されているんですけど、日本以外の国の方も見てくださっているんですよ。
●今回新しく関わる人と、今までお世話になってきた人たちが協力してくださっているのは、何だか感慨深いというか。
DAI:それもコンセプトのひとつだったんですよ。アルバムのタイトルである『loved one』なんですけど、“loved”が過去形なのは今まで活動してきた18年間の過去を表しているからで、oneには“新しいスタートの1歩目”という意味もあって。過去と未来が混じり合っている言葉なんです。
●今までの集大成であり、新しいスタートでもあると。「人として」の次にできた曲は?
YOU:その次はM-1「幸せのカタチ」、M-7「ゴールラインはスタートライン」がほぼ同時期にできました。当時“1ヶ月に1曲作る”という目標にチャレンジしていて、その中で特に多くの人に愛される曲となったのがこの2曲だったので今作に入れました。その次がM-11「Independent」かな。
DAI:元々マネージャーをしてくれていた方がずっと続けていたイベントがあるんですけど、参加させてもらったツアーのタイトルが“Independent”だったんですよ。そのときに「イベントに向けての歌を作ってくれないか」とお話を頂いて。「共演者はただ仲良しなだけでなく、お互いが独立していて交わったときに力を合わせる。そういう曲を書いてほしい」と言われたんです。それについて考えた結果、行き着いたのが“自分の人生をやりきる”っていうことで。
●というと?
DAI:例えば、その瞬間は大切な人のために選んだ道でも、10年後に“本当はこんなことがしたいんじゃないのに”って思うようになってしまって苦しんでしまうことがある。でも“大切な人は、10年後にその姿を見て喜ぶだろうか?”って考えたら、きっと喜ばないですよね。やりたいように生きて、その先にある毎日が充実している姿こそがいちばんの贈り物になると思うので、“1人の人間として自分の人生を生きよう”っていうことに行き着いたんです。バンドという独立者を通じて、個人として考えた独立者の姿に行き着いたというか。
●“ちゃんと納得できる道を進め”という考えに至ったんですね。
成:それを自分勝手なことと思うんじゃなくて、自分のために生きることが誰かのためになると信じていこうという曲です。
●この曲もまた、おかんを代表する曲として欠かせないものになっているように感じます。
DAI:「人として」が人と人を繋ぎ、「Independent」が自分を繋ぐ曲だと想うんです。本当の自分と出会えて、自分らしく歩いていける。だからどちらかがメインというわけではなく、どちらもメインだと言えますね。
●自分を見つめ直すキッカケになる曲かもしれませんね。その後にできたのがM-5「君の代わりはいない」だそうですが、これは奈良まちセンターにて行われた、介護師のためのイベント“介護からkaigoへ”のために書き下ろした曲ですよね。
DAI:“介護士にエールを送るような曲”になるように考えました。これはイベントの主催者である若野さんから伺ったんですが、介護士の世界って、20~30代で辞めていく人たちがすごく多いんですよ。そこでみんなが口々に「私が辞めても私の代わりはたくさんいる」と言って辞めていくという話を訊いたんです。絶対にそんなはずはないんだけど、ただ単に「君の代わりはいない」なんてありふれた言葉を伝えてもきっと響かない。僕が曲を書くときは、その先の答えを提示してあげたくて。
●それによって、説得力も生まれる。
DAI:その答えというのが“君とあの人に流れてた時間(とき)を 埋められる人はいないから”という歌詞なんです。介護士さんは“代わりはいくらでもいる”と思って辞めていくけど、介護を受けていた利用者さんは次の日から「昨日まで一緒にいてくれていた、あの子はどこにいったの? あの人といっぱい思い出があるのに」って、毎日のように言われるそうなんですよ。これが答えだと思ったんです。“あなたがいなくなったら、家族や友達はどう思う? その穴を埋められる人はいないから、悲しみに包まれる人生になるんだよ”ということを伝えたかった。それは自分の身内が亡くなったときにも体感していたから。
●また、ちょうどこの後の時期から大阪城ホールワンマンを視野に入れた活動を始められていますよね。2011年の7月に、“Road to 大阪城ホール第一章~ありがとう~”と称して東京・大阪でワンマンライブをやった際、2013年に大阪城のステージに立つことを明確に宣言したそうですが、周りの人たちはビックリしたんじゃないですか?
DAI:夢自体は前々から語っていたんで、逆に「そんなに先なの?」っていう感じでした(笑)。実はこのイベントのとき、お世話になっている方に「このワンマンで300人集まらないようなら、城ホールは諦めろ」と言われていて、悔しくてつい「400人集めます!」って言っちゃったんですよね(笑)。そして東京会場の代官山UNITでは401名、大阪会場のumeda AKASOでは754名集まってくださって最高のスタートが切れたんです。
●まさに有言実行ですね! その後、ライブ以外にも様々な活動をされていたそうですが。
本東地:被災地に足を運んで仲間たちと除染作業をしたり、震災直後にみんなからCDや音楽プレーヤーを集めて、布団等の物資と一緒に贈ったり…音楽を通じてちょっとでも元気になってもらいたい、という想いで活動していました。福島は3ヶ月に1回は足を運ぶ場所でしたね。
DAI:M-9「SAMURAI」や「road to my road」ができたのもこの時期ですね。「SAMURAI」は被災地の方へ向けたメッセージでもありますが、それ以上に街に起きている現状と戦う人たちの心情をリアルに感じて、それを全国に発信するべきだと思って書きました。実は福島支援チームのひとりである方が言った言葉がそのまま歌詞にも入っているんです。だから、被災地から全国に向けてのメッセージソングなんですよ。「road to my road」は、まさに自分たちが大阪城ホールへ向かうにあたって生まれたテーマソングですね。ポケットに1万枚のチケットを突っ込んで、全国に1枚1枚手売りで売ってきたけど、どうしても結果がでない時期もあって。そんなとき“「できるかでけへん」やない 「やる」か「やり切る」かや”という言葉で自分を奮い立たせていました。
●すごいバイタリティですね。最初から、全国を回ってチケットを手売りしようという案があったんですか?
成:自然に、という感じですね。僕らが今までやってきたように“目の前にいる人の心に火を点けていって、1万人に火を点ければやれる”って信じていたから。
●実際にやりきっちゃうところがすごいです。そしてラストがM-11「人間だから」。
DAI:城ホールの直前にできた、収録曲の中でもいちばん新しい曲です。僕は自分が人にもらって元気が出た言葉を歌詞にすることが多いんですが、これもまさにそうですね。曲ができなくてスランプに陥ったときに、母親に悩みを打ち明けたことがあって。そのときに「毎回いい曲なんて書けるわけがない。人間やねんから当たり前や」と言ってくれたんです。その言葉を聞いて、すごく安心できて。
●話を訊くと、おかんの周りには本当にいい人たちがたくさん集まっていますね。
DAI:それが僕らの救われているところというか。つくづく人に支えられていると思います。そんな人たちとの関わりで気付いたのが「幸せのカタチ」の歌詞にもある“愛される事からじゃなくて 愛する事から始めよう”っていうことなんですよ。愛することで、愛される自分たちになっていく。人生はその繰り返しかなと思うんですよね。
●先ほど“気付いた”とおっしゃいましたが、おかんの曲は“気付き”のキッカケになるような曲が多いように感じたんです。普段から当たり前に近くにあるんだけど、いつもは見えていなかった素晴らしさに気付かせてくれる。
DAI:まさにそうですね。僕らは幸せを届けるんじゃなくて、幸せに気付いてもらうキッカケになりたいんですよ。“幸せは掴むものではなく、気付くものなんだ”という思いで、僕らも日々“気付き”を見つけながらやっています。
●大切なものは、案外すぐ近くにあったりすると。
DAI:『loved one』は“最愛の人”という意味なんですが、タイトル通り僕らが最愛の人たちにプレゼントしてもらってきたものを、作品として形にしたものなんです。だからこの1枚が、大切な人にプレゼントしてもらえるようなCDになってほしいなと思います。“どうすれば喜んでもらえるのか”っていうことを考えて作っているので、ぜひ大切な人に送ってもらえたら嬉しいですね。人から人に渡り歩いてくれるような作品になってほしい。
●大事な人に“あなたを大事に思っています”と伝えたいとき、このCDをプレゼントしたいと思いました。
Interview:森下恭子