彼女 in the displayが2nd EP『ECHOES』をリリースしたのは、今年7月のこと。そこから各地の夏フェスに出演、さらにはギルガメッシュや空想委員会など様々なバンドのツアーサポートも務め、数多くのライブを通じて経験値を獲得し続けてきた。認知度と期待値も急激に高まっている彼らが12/3に、早くも新作となる1stミニアルバム『JAPANESE ORDER』をリリースする。現場で磨き上げたスキルは楽曲とサウンドを質・幅の両面でより向上させ、さらに広い層へと届くであろうポピュラリティを持った会心の一作へと結実した。
●今年7月に前作のEP『ECHOES』をリリース以降、活動の幅が広がった感覚はあるんじゃないですか?
海:色んなお誘いを頂くようになって、自然と幅が広がったんですよ。特に、空想委員会とGOOD ON THE REELと一緒にまわったツアーはデカかったですね。もっともっと色んな対バンをやりたいです。
亮介:新しいことが多いので、自分らとしても何かが見えてきた感覚はあって。
●そういうことを経て、自分たちの心境に変化があったりもした?
海:そこでかなり悩んでいたりもして…。今まではラウドのシーンでライブすることが多かったけど、フェスとかで一線級の人たちと一緒にやる中で「俺らって何なんだ?」ということを改めて考えるようになったんです。ライブの見せ方を気にするようになったり悩んでいたんですけど、昨日やっとスッキリしたところなんですよ。
●すごくタイムリーですね…。何があったんですか?
海:昨日(11/13)は北浦和KYARAでライブだったので、前日にRIDDLEのVo./G.TAKAHIROさんの家に泊めてもらったんですよ。そこで“TAKAHIROのハードロック塾”ということで、YouTubeで延々とハードロックの映像を見せてもらって(笑)。その後に俺らがツアー中に撮ったライブ映像を一緒に見ながら色んなアドバイスをもらった上でセットリストを一緒に考えて、本番前にゲネプロまでやったんです。
●みっちりと指導してもらったと。
海:そういうことを経て昨日のライブに臨んだら、終わった時のスッキリ感がもうヤバかったんです。
亮介:今まではひたすらお客さんの手が上がるようなライブを求めていたフシがあったんですけど、それとは違う楽しみ方を知って。手は上がらなくても、表情でお客さんの感覚が読み取れるようなライブだったんです。すごく冷静にできたし、楽しかったですね。自分でやっていても、余裕を感じられたんですよ。
●ライブに臨む感覚が変わった?
海:“良いライブ”っていうものの感覚がやっとわかったというか。手の上がるライブだけが良いわけじゃないんですよね。手は全く上がっていなくても、本当に伝わっているなというのがすごくわかるライブができたんです。それが本当に新鮮な感覚でした。
亮介:別に「手を上げろ!」と呼びかける必要はないんだなって。僕らが「手を上げたかったら、上げてくれても良いよ」というくらいに考えていたのが、何も言わなくても伝わっているのを感じられたから。今まではそれを言葉で発することで伝えていたけど、これだけでも十分なんだなと。
●無理に盛り上げようとしなくても、自分たちの音を鳴らしていれば必ず伝わる。
海:自分たちの“歌”の威力がわかったんですよ。俺らは1曲1曲ぶちかましていけば、それだけで最強なんだなと思って。メチャクチャすごい武器を持っていたのに、今まではそこに色んなオプションを付けすぎていて情報量が多すぎたんですよね。だから、ライブ中の動き方とかもすごくスッキリさせたんです。そうするとすごくライブが良くなったので、やっぱり歌の威力はデカいなと。
●自分たちの歌の威力を再認識できたと。
亮介:そうですね。「わかってよ」というライブじゃなくて、「わかるだろう?」みたいな柔らかいニュアンスのライブができたので、それが個人的には安心にもつながって。周りもしっかり見えていたので、「こんな感じでこのセクションを聴かせたらどうなるんだろう?」みたいなアイデアが自然と浮かんだりもして、メッチャ面白かったです。
●バンドとして良い方向に変わってきている。
亮介:ムダなものを削ぎ落とせましたよね。
海:今年は俺らの中で、変化の年だったと思っていて。メッチャ揉まれたおかげで固まってきたというか、1つの形が見えてきたなって思います。今回の『JAPANESE ORDER』では、作り方も新しい感じにしたんですよ。「マニア」「一般人」「暗い」「明るい」「優しい」「激しい」「オシャレ」「ちょっと古い」みたいな指標を全部グラフ化して、そこにプリプロで作った曲を当てはめていったんです。そこから1つずつの方向性に寄せて、曲を形にしていったりして。
●色んなタイプの曲を作ろうとしたと。どれも新たに作ったものなんですか?
海:実は最初から1枚の作品をイメージして、曲を作っていくのは今回が初めてなんですよ。完全にゼロからのスタートだったので、今回はジャンルレスでやってきた俺らにしかできない色んなタイプの曲をあえて全て日本語でやろうと思って。だから自分たちにとっても、挑戦的な作品というか。
●音楽性的には、もう“ラウド”のシーンだけでは括れないものになっていますよね。
海:俺たちはもう完全に自分たちのことをポップスだと思っています。
●確かにM-8「Heart break」あたりはもはや完全なポップス感が…。
海:あの曲はヤバいですね(笑)。たとえばバーとかに呑みに行った時に、曲調があまり激しいと(店内で)かけてもらいにくいじゃないですか。そういう場所でもかけられるような曲も欲しいなと思って。
亮介:バランスの1つとしてやってみた感じですね。これは謎のセッションみたいなものから生まれた曲なんですよ。僕が適当に思い付いた鼻歌を歌っていたら、「良いじゃん。やろうぜ」という話になって。みんなでセッションしながら曲にして、とりあえず録ってみたんです。それで録ったものを聴いてみたら良かったので、「じゃあ、入れようか」となりました(笑)。
●結果的に良いものになった。この曲もそうですが、今回は鍵盤の音が今まで以上に目立つ気がします。
海:この曲には逸見(Key.)くんがエレピ(エレクトリック・ピアノ)を入れていて。ピアノはかなり色んな音を使っているんですよ。サステインがキレイに伸びる音もあれば、ハイファイな感じの音も使っていたりしていますね。今回はギターとピアノが前面に出る曲が多くて、逆にドラムとベースは今までよりも後ろに引っ込んでいるんです。
●そのせいか、ゴリゴリなヘヴィ感はあまりないかなと。
亮介:サウンドとコード感も、そっちには寄せていないんですよ。前はあれもこれもしたい気持ちがあったんですけど、ここまでやってきて今ようやく自分のしたいことがわかってきた気がしていて。それをしっかり形にできたかなと思います。(自分たちに対する)捉えられ方はたぶん変わると思うんですけど、これでしっかりと勝負したいなという気持ちはありますね。
●方向性が定まった?
亮介:今はメロディをしっかり聴かせて、日本語詞でちゃんと伝わるような楽曲を作りたいなと思っていて。たとえば暗い気持ちの人に寄り添えるような曲があったり、現実逃避したい人には違う世界を見せてあげられたりとか、色んなものを言葉とメロディを通して感じ取ってもらえたらなと。そして音源を聴いてくれた人がライブに足を運んでくれたなら、そこでは音源とはまた違った形のものを見せたいと思っているんです。だから、捉え方はもう「お任せします」という感じですね。
●歌詞に関しても色んな捉え方を許容するものになっている?
亮介:今作では言いまわし自体はオブラートに包んだものが多くて、メッセージ性を前面に押し出しているのはM-1「PLATINUM」とM-2「Paradise Lost」くらいなんですよ。その2曲に関しては、メッセージ性が強いですね。
●「PLATINUM」は疾走感があって、すごくストレートな曲ですよね。
海:かなりストレートですね。これを作った時は「最強の曲ができた」と思ったんです。仲間について歌った曲なんですけど、ちょうど稲木くんが悩んでいた時期に書いたもので。
亮介:(夜明けが来て)太陽の光に照らされて星がスッと消えていくという情景の中でも、最後までめげずに輝く星になりたいということを歌っていて。「そしたらおまえも気付いてくれるだろう? だから、見ておいてよ」という気持ちで、近しい仲間とかに向けて書きましたね。歌詞にも“たまには電話してこいよ”というフレーズが出てきますけど、先輩や仲間に悩みを相談した時に「たまには飲みに行こうぜ」と言ってくれたその一言に救われることもあるじゃないですか。そういった日常の中で僕が思うことをストレートに歌いたかったんです。
●ちなみに「PLATINUM」の由来は…?
海:これは完全に『ジョジョの奇妙な冒険』の“スタープラチナ”(※スタンド名)からですね。
亮介:だから歌詞には“星”という言葉も入っていて。僕らはアニメが好きなんですけど、今回はそういうものから題材をもらったものも入っているんです。
●M-2「Paradise Lost」も何か題材がある?
海:この曲は『交響詩篇エウレカセブン』からですね。アニメの第24話のタイトルが「パラダイス・ロスト」で。
亮介:この曲はまずタイトルから決まったんですよ。それで家に帰ってから実際にアニメの「パラダイス・ロスト」を見てみたら、僕が思い描いているイメージとは違うなと思って(笑)。僕の中では「忘れていた童心を思いだせよ」みたいなイメージで作ったんです。その頃に抱いていたワクワク感みたいなものを「パラダイス」と捉えて、歌詞を書きましたね。
●他にそういう元ネタがあるものは?
海:M-4「JUSTICE」は幕末の歌なんですよ。
亮介:その時ちょうど読んでいたのが『るろうに剣心』で(笑)。昔からバトルもののマンガが好きなんですよね。でも自分の性格的にはバトルできるタイプじゃないので、そういう人間の視点からバトルもの的な世界観を歌ってみようかなと思って書きました。
●題材はあっても、それを自分なりの視点で昇華して歌詞にしている。M-3「early summer rain」も何か元ネタがあるんですか?
海:これは文字通り“五月雨”のことで、あの時期のドヨンとした空の感じを曲にしたいなと。俺らはこれまでポジティブな面が出ている曲が多かったんですけど、今回はネガティブな要素も入れようと思って、ちょっと暗い感じにしてみたんです。
亮介:今回は自分のことではない物語を歌詞で書いてみようというのがあって、「early summer rain」と「JUSTICE」ではそれに挑戦してみました。個々のスキルは以前よりも上がっているので、それによって曲の捉え方も変わってきて。だから、こういう曲もできるようになったのかなと思いますね。
●音楽的な幅もさらに広がって、自分たちの進化を実感しているのでは?
亮介:今まで出した作品の中で、自分でも一番聴いていますね。曲の雰囲気も色々あるので、聴いていて楽しいんです。その人のその時々の気持ちに1曲1曲が寄り添えたら良いなと思っていて。1曲目から最後まで通して聴いてもらっても良いし、捉え方が1つだけにはならないアルバムにできたと思います。
●タイトルの『JAPANESE ORDER』はどこから?
海:“WORLD ORDER”という言葉から来ているんですけど、“日本人が日本人のために作ったもの”という意味ですね。
●それは日本語詞を軸にやるようになったからというのも関係している?
亮介:それもありますね。僕は英語が話せるわけではないから。自分が一番理解している言語を使って、自分の言葉で言いたいんですよ。
海:今は海外よりも、日本の中でやりたいという気持ちが強くて。俺らは今の日本のポップシーンの中で勝負したいんです。
Interview:IMAI