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ドレスコーズ

不可避な結論の先に紡ぎ出された音と言葉が寂しくもどこか幸福な響きを持つ稀有な傑作を生んだ

PH_dress_main9/24にリリースした1st E.P.『Hippies E.P.』の発売当日に、志磨遼平のソロプロジェクトになることが発表されたドレスコーズ。今年4月にはEVIL LINE RECORDSへと移籍を果たし、“ダンスミュージックの解放”というテーマと共に新章開幕を高らかに宣言していた彼らにいったい何が起こったというのか? 衝撃をもって迎えられたニュースの余波が収まらない中、そこからわずか2ヶ月あまりでニューアルバム『1(ワン)』がリリースされる。現体制では初となる今作には「この悪魔め」(M-4)、「もうがまんはやだ」(M-9)、「妄想でバンドをやる(Band in my own head」(M-10)など意味深な曲名が並び、メンバー脱退による志磨の心境を否が応でも想像せずにはいられない。だがここで鳴り響いている音はどれも寂しさを身にまといながらも、どこか幸福感のようなものも漂わせているのだ。今の状況下でしか出せない音と言葉を詰め込んだこのアルバムは、紛れもなく傑作と言えるだろう。このような作品を生み出すに至った経緯と、現在の心境へとディープに迫る長篇インタビュー。

「ここまで来てもまだ“死なばもろとも”くらいの感じでついてきてくれる人たちがいらっしゃるのならば、かける言葉は一言だけ“Don't Trust Ryohei Shima”…という感じですね」

●9/24のレーベル移籍第1弾『Hippies E.P.』リリースタイミングで4人体制での活動終了を発表したわけですが、そもそも4/1に移籍発表をした段階では「ぼくらのあたらしい季節の幕開けをここに宣言します。新しいテーマは“ダンスミュージックの解放”です」というすごくポジティブなコメントを出していて…。

志磨:本当にねぇ…耳が痛い話です(笑)。

●移籍発表した時点では、こうなると決まっていたわけではない?

志磨:もちろんです。この3枚目のアルバムを見据えての移籍でしたし、そこに向けての制作もしていました。『Hippies E.P.』は(本来なら)先行シングルという感じで、その先にあるアルバムで帰着するようなテーマが“ダンスミュージックの解放”だったんです。

●『Hippies E.P.』を作っていく中で4人ではなく、自分1人で制作したほうが良いという結論に至った?

志磨:いや、全く逆でそもそも「この4人で今、何をすべきか?」と考えた結果、ダンスミュージックというものを選んだんです。だからそれを追求するがあまりにメンバーが抜けたというわけではなく、この4人で「ダンスミュージックというものをちゃんと咀嚼して何か自分たちの作品に結びつけられないだろうか?」というのが当初のスローガンでしたね。

●それは『Hippies E.P.』で具現化できている?

志磨:リリース当初はアルバムが未完であるということが自分の中でまだ引っかかっていたんですけど、今思えばとても良くできた作品だと思います。あの短期間で…しかも僕ら4人とも混乱していた状況の中で、よくぞあそこまで見事なものが作れたなと思えるようにはなりましたね。

●当時「混乱していた」というのはどういう部分で?

志磨:「自分たちが何をすべきか?」というところですね。「このバンドは何をやって、どこへ向かうべきか?」、それに対して「自分はどうアクションするのか?」というのはすごく答えを探すのが難しい問題だったんですよ。そういったところが解決できないままレコーディングが進んで、〆切も近付いてくる中でさらに焦りが生まれて…。そのまま作業だけをどんどん急ぐような工程に差し掛かっていたので、本当はそうなる前に回避したかったし、何度も何度も4人で試みたんです。でももう受け流せないところまで来てしまっていたから。それぞれに答えが見つけられていないままでは、バンドとして存続するということはもう不可能だということで僕が(脱退の)話を切り出しました。

●“ダンスミュージックの解放”というテーマに対する個々の解釈が上手くいかずに混乱していた?

志磨:まず「なぜダンスミュージックなのか?」というところにメンバーそれぞれが必要性を感じないと、前に進めないじゃないですか。そもそも「ダンスミュージックというものをやるべきだ」というのは、僕がメンバーに提案したんです。でも僕自身もそこは感覚でしかないわけで、評論家ではないので「ダンスミュージックとは何か?」を突き止めたいわけでもない。それを咀嚼しながら同時に曲にもしていかなければいけないっていうのは、やっぱり難しい作業だったんだなっていう…。

●志磨くんがダンスミュージックをやろうと考えた理由は何だったんですか?

志磨:いわゆるロック的なものやポップス的なものを作るのは僕自身、得意なんですよ。でも(これまでに)アルバム2枚を作ってきて、そこにちょっと違和感を抱いていたんです。歌やそこに乗せる言葉よりも、バンドのグルーヴや音楽の解釈や構築の仕方というものにもっとフォーカスを当てた作品を作ってみたかった。そういうものを何と呼ぶのが的確かと考えたら、「ダンスミュージック」というのが何となく浮かんで。

●そこから生まれたのが『Hippies E.P.』だったと。その先に予定していたアルバムも作りかけてはいた?

志磨:そうですね。だから当初はシングルの予定だったところに、作りかけていたものを全部押し込んで5曲入りのEPという形にさせてもらったんです。

●結果的にEPになったと。

志磨:メンバーと話し合った後、そのタイミングでレーベルとも話をしたんですよ。「移籍してきたばかりで本当に申し訳ない! でもここまでに録った曲をどうか1枚の作品として出して、4人での活動を終えたいです」ということを伝えて。(レーベルには)「嘘でしょ!?」と言われましたけど、そこで僕が「でも大丈夫です。3枚目は1人で作りますから。期日には間に合わせるし、ツアーも予定通りやりましょう」と言った…というのが、今回の『1』に至るまでの大まかな内情ですね。

●限られた期間で、1人でゼロからアルバムを作るのは大変だったのでは?

志磨:でもそれ以外にはもう生きる希望がなかったんですよ。バンドがなくなったら、自分が何をしたら良いのかもわからなくて…。「10月中に3枚目のアルバムを完成させよう。10月いっぱいはそれを糧に生きよう」という感じでした(笑)。

●ソロプロジェクトにすると決めた時は不安だった?

志磨:だから、不安に襲われるよりも早く制作にのめり込んでいったんです。やることがあって、本当に良かったですよ…。何も予定が入っていなかったら、僕はもう死んでしまいそうだったから(笑)。

●1人でアルバムを作るとなった時に、何かビジョンはあったんですか?

志磨:「1ヶ月でアルバムを完成させるには?」ということを考えたら、「僕にできることはこれだけです」というような内容になるというのは自然に弾き出される答えというか。「こういうふうなアプローチも試そうかな」とか「今までやってこなかったことにもチャレンジしてみよう」なんて考える余裕はなかったんです。1ヶ月でアルバムを作るということだけを目指して毎日スタジオに入っていると、こういうものができあがりましたね。

●楽曲のバラエティが豊かなのは幅を広げようとしたわけではなくて、志磨くんが持っている色んな引き出しを全て開けたからなのかなと。

志磨:僕が今持てる力だけで音楽を作るという感じでしたね。結果的に何の作為も入っていない音楽になったと思うし、1人で音楽をやっている人の作品としてはすごく真っ当というか。「僕以外の何者でもない」っていう、現状のレポートのような作品だと思います。

●曲名や歌詞からはメンバー脱退に関する心境が出ているのかなと想像してしまうんですが、書いている時はそういったことも考えていた?

志磨:もちろんそうですね。僕が今歌うことなんて、それを置いて他にないから。僕が今歌うべきメロディ、僕が今できるアレンジ、僕が今歌うべき言葉…そういう感じで全てに理由があるから素晴らしいんですよ。タイトルの『1』もそうだし、ジャケット写真1つとっても、その全てに的確な理由がある。

●ジャケット写真だけ見るとすごく孤独感に包まれているようでいて、今作にはそれだけではない不思議な感覚があるというか。物悲しいのにどこか明るいという“ハッピーサッド”的な感覚がすごく良いなと思います。

志磨:たとえばものすごく悲しい出来事が自分の身に降りかかったとして、それを誰かに上手く伝えることは困難なんですよ。自分の大切な人を亡くした時に「今どんな気分?」と言われても、「いやいや、それはちょっと…」ってなるじゃないですか(笑)。言葉だけでは伝えにくい、すごく複雑な気分なわけで。でもそういう言葉にはしづらい感覚も、こうやって音楽にするとすごく上手く伝えられるんです。だから僕は9月から、こういう気分の中にいるんだっていうか。

●志磨くんの気分が音に表れている。

志磨:今の僕は、今回の曲を聴いてもらったままの気分ですね。避けがたい結論に至ったけど、「ご愁傷さまと言われる筋合いもないよ」と言っているような音楽で。大事な荷物が自分の手から離れてしまって、でも少し身軽になったような感覚がこのアルバムにはあります。

●大事な荷物を失った喪失感はありつつ、それによって得た身軽さも感じている。

志磨:そうですね。でもそれはもちろん僕だけで持っていたものではないんですよ。自分にとっては宝物というべきものを2年半くらい持ち続けていたけど、それをいったん下に置いて今は首をポキポキ鳴らしているような感じで(笑)。

●メンバー脱退となった時に、解散するという発想にはならなかった?

志磨:やっぱり「ドレスコーズの3枚目のアルバムを作る」というのが自分たちの向かっている先だったし、ドレスコーズとしてやるべきことを全うしたとはまだ思っていないから。…だから、解散する時はまた4人で話し合おうかなと思っています(笑)。

●あくまでも、あの4人でドレスコーズというのがある?

志磨:う〜ん…。だから僕はまだそれ(メンバー脱退)について受け止められていないんですよね。まるで何もなかったように振る舞って、何とか音楽がやれるだけの気分を保っている。そしたらこんなに良いアルバムができて「イェイイェイ!」と言っているような…なう(笑)。

●今はそういう心境だと(笑)。前向きにはなれているわけですよね?

志磨:そうですね。音楽はやっぱり素晴らしいもので、いつも自分をそういうふうにしてくれるんです。

●そして今作はそういう心境の今でないと作れない音になっていると思うんです。

志磨:自分でも「今作らないなんてアホや」と思ったし、「今すぐスタジオに入って録らないと」っていう感じでしたね。だから急いだことにも理由はあるし、やっぱり全てに理由があるんです。

●今の気持ちを一刻も早く作品にしたいという「急いだ」だから、すごく前向きというか。

志磨:だから急ぐことって全然、罪ではないんです。「急いだ時に何が出るのか」っていうところが、ものを作る人の真骨頂だから。あとは「いつもキレッキレでいる」ということですね。いつもキレッキレでいるということは、いつでもものを生み出せる状態にあるということで…いや、あんまり言わんとこう。いっぱい仕事させられそうやから(笑)。

●このくらいの短期間でもアルバム1枚作れるということを実証してしまったわけですからね(笑)。

志磨:いやいや、今回だけですよ。毎回は無理無理! 1ヶ月って、そんなアホな!

●ハハハ(笑)。楽曲制作はスムーズだったとはいえ、単純にそれだけ短期間に作業するのはつらくはなかったんですか?

志磨:全然つらくなったし、本当に楽しかったですね。僕にとって、音楽というのはずっと「現実逃避」なんですよ。受験の時も勉強をするのが嫌だから、ギターを弾いたりしていて。バイトに行くよりも、スタジオに入っているほうが楽しかった。だから今もつらい現実と直面するよりは、レコーディングしていたい…。とてもじゃないけど現実に向き合えないんです(笑)。

●でもずっと音楽がそういう存在であり続けるというのは、なかなか稀なことなのかなと。

志磨:ここまで来るともう、“業”みたいなものを感じずにはいられないですよね。もっとソフトに音楽と関わることもできるだろうに、常にハードな感じになってしまうというのは…「“業”なんだなぁ」というふうに諦めております(笑)。

●歌詞はそういう自分自身の“業”に向き合って書いている感じですよね?

志磨:そうですね。「新章の幕開けです」とか言った直後に1人になってしまったヤツが次に口を開いた時に何を言うのかって、誰でも気になるじゃないですか。だから今、僕が口を開いたら何を言ったって面白いはずなんですよ。…という感じで、歌詞も書けましたね(笑)。

●自分の状況すら面白がっている(笑)。自分自身の“業”に向き合うという意味では、初回限定盤に付属のドキュメンタリービデオ「ワン・マイナス・ワン」もそういうものなのかなと。

志磨:今所属しているEVIL LINE RECORDSというのは非常に面白いチームで、僕がこうやって1人になったのをいいことに「今回、志磨さんには素っ裸になってもらいます」と言ってきたんです。しかも「それで志磨さんが傷つくことも多少あると思うんですけど、そういうのはもういいんで」って言われて(笑)。

●ハハハハハ(爆笑)。ヒドいですね(笑)。

志磨:「とりあえず今回はとことんやりますんで」と言われたので、僕は「もちろん(その話に)乗ります!」と。色んなアイデアを出してくれる度に「それ、メッチャおもろいやん!」ってなるんですけど、提案がどれもこれもヘヴィなんですよ(笑)。実際、今も僕は手がぐらんぐらんになっているんですけど…。

●特典用で、大量にサインしたんですよね。Twitterでは「手首がデュランデュラン」というダジャレをつぶやいていましたが…。

志磨:浮かんだ瞬間は「世界一面白いギャグができたー!」って思ったんですけどね…(笑)。要求はいちいちヘヴィなんですけど、「メッチャ面白いやん」と思いながら今はレーベルと一緒になってやっている感じです。

●その一環としての「ワン・マイナス・ワン」だと。映像には志磨くんの過去と現在を知る周囲の人物へのインタビューが収録される予定ですが。

志磨:他の人が志磨遼平をどう見ているかを自分でも直視したほうが良いだろうということで、この映像に関しては本人チェックがないんです。

●自分では事前にチェックできなかったと。

志磨:だから、僕はできあがったものしか見ていないんですよ。できあがった映像を見ている時は、自分の葬式を見ているような感覚でしたけどね(笑)。生前葬を見ている感じで、自分がもう死んだかのように「こういう人でした」と語られているのが面白かったです。

●そういう感じで一緒になって面白がれているのは、レーベル移籍して良かったことでしょうね。

志磨:たまに「頭がおかしいんじゃないの?」っていうような提案もされるんですけど、やっぱり「メッチャ面白いな、それ!」ってなるんですよ。環境がここまで音楽に影響するとは、自分でもちょっと予想外でしたね。

●ちなみに今回の“Don't Trust Ryohei Shima”というツアータイトルには、どんな意味を込めている?

志磨:ここまで来てもまだ“死なばもろとも”くらいの感じでついてきてくれる人たちがいらっしゃるのならば、かける言葉は一言だけ“Don't Trust Ryohei Shima”…という感じですね。いっそライブの当日まで、どういうライブをするかも明かさないでおこうかと思っていて。

●事前に「弾き語りでやる」と告知しておいて、実際はバンドでやったりしても面白いですよね。

志磨:もう僕が何を言っても信じてもらえないと思うんです。オオカミ少年…いや、オオカミおっさんですよ。少年は「手首がデュランデュラン」とか言わない(笑)。

●ただのオヤジギャグですからね(笑)。

志磨:あれをツイートするボタンを押した瞬間に「20代やったら、思いついてもがまんしてたな…」って思いましたもんね(笑)。

●だから「もうがまんはやだ」(M-9)と。

志磨:メッチャ、おっさんオチじゃないですか! 最悪や…(笑)。

一同:ハハハハハ(爆笑)。

Interview:IMAI

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