全てを出し切った1stアルバム『NON SUGAR』、ライブを通じて感じたものを形にしたミニアルバム『彼女はゼロフィリア』を経て生まれた2ndアルバム『Brian the Sun』。初のセルフタイトル作品ということで、“これは一世一代の大勝負か!”と思いきや、どうも少し違うらしい。本インタビューでは、リリースに至るまでの動きや制作の模様、そして最近生まれた心境の変化を訊いた。
●ジャングルライフとしては『NON SUGAR』ぶりのインタビューとなりますが、その頃から今作リリースまでの間にどんなことがありました?
森:俺自身はその時点で出し切った感があって、正直反応を見る余裕もなかったんですよね。
白山:そういう“出し切ったぞ”みたいな雰囲気って、ボーカルからにじみ出てくるものがあるじゃないですか。なので『NON SUGAR』をリリースした後はガッツリとライブをしてみようということになって、3ヶ月に40本ほどライブをしてました。
●リリース後に、何か変化を感じることはありましたか?
白山:全国を回っていると、どこに行っても「Brian the Sunを観に来ました!」と言ってくれる方がいたんですよ。それが本当に嬉しくて。
森:初めて行った場所でもそうだったよな。本当に元気をもらえましたね。
白山:必ず待ってくれている人がいたから、アツさみたいなものを肌で感じられて。それが次に出したミニアルバム『彼女はゼロフィリア』に反映されているんじゃないかなと思います。ミニアルバムを出した時点で既に今作の話もあったので、そのまま止まらずに進んできた感じです。
●すごくいい流れで進んでいるんですね。
森:こうやって連続して出させてもらうのは、すごくありがたいですね。
白山:インディーズでやっている中で、すごくいいスパンで出せているなと思います。たくさんの人と関わるようになると希望を通すのが難しくなるものだと思っていたんですけど、思いのほかスムーズにイメージ通りできているのは本当にありがたいです。
●それもひとえに、一緒に取り組んでくれる人たちが同じ方向を向いてくれているからじゃないでしょうか。
森:そうですね。3年くらい前から一緒にやっていますが、最近“すごくいい関係性が作れたな”と感じていて。
白山:事務所の人たちはメジャーのフィールドでやっている方たちばかりなので、メジャーのいい所を取り入れつつ、インディーズだからできるやり方で勝負できるのが僕らの強みかなと思いますね。
●面白い立ち位置ですね。ちょっと珍しい気もします。
白山:だからかもしれないですけど、既にメジャーに行っていると勘違いされることも多くて(笑)。
森:それを詳しく説明すると2時間くらいかかるんで、なかなか説明する機会もないんですけど…打ち上げのときとかに話してみると「もっと嫌な奴やと思ってたわ。思いのほかええ奴やな」って言われたりして(笑)。やっぱりコミュニケーションって大事ですよ。
●アハハハ! 確かに、すごく大事なことです。
白山:そういえば、最近になって彼(森)も打ち上げでよくお酒を飲むようになって。すごく楽しそうに飲んでるよな。
●今までは打ち上げでもあまり飲まない方だった?
森:俺、お酒が嫌いやったんですよ。正確にはお酒を飲んで機嫌よくしゃべってるやつがめっちゃ嫌いで。
白山:まさか自分がそうなるとは思わなかったよね(笑)。
森:いざ自分がなってみると楽しいよな(笑)。
●楽しいですよね(笑)。でも、なんでそんなに変わったんですか?
森:俺はこだわりが強いうえに、とりあえず否定から入るタイプなんですよ。でもそれじゃあまり間口が広くならないから“もうちょいふわ〜っとしてみよう”と思ったんです。それでお酒もふわ〜っと飲んでたら、“案外楽しいし、いいかも”って思うようになってきて。こだわって拒んでようが受け入れようが、根本は変わらないなと。
●根本というのは?
森:基本的に人って、何かを始めた頃は尖っていてもどんどんユルくなっていくじゃないですか。何でも許せるようになっていって、それがなくなってしまうのがすごく嫌で。だから“これは嫌だ”とか“これは受け入れても大丈夫”っていうジャッジをするうえで、OKラインを広げていくのが怖かったんですよ。でも、たぶんどれだけ頑張って広げた所でシニカルな部分は残ると思うから。根付き過ぎていて取れない。
●“根本はブレないだろう”という確信が持てたから、受け入れられる間口が広くなった。
森:そうですね。それは曲に対しても一緒で、ポップなことや考えてもいないようなことを歌詞で書くのが嫌やったんですけど…やってみれば“そんなに自分からかけ離れることはないな”って感じでした。
●それで自分が悪い方に変わってしまうことはないと。以前の曲と比べると、最近の曲はよりわかりやすく伝わりやすい言葉になっているように感じます。
森:それは結構言われますね。すごく狭いテーマについて歌うときは、わかり難くぼかさないと、わかり過ぎて粋じゃない。でもめっちゃ広いテーマを歌うときって、逆にわかりやすくしないと結局誰のために歌っているかわからなくなるから、それも粋じゃない。
●以前は狭い範囲について歌うことが多かった?
森:そうですね。明確に“これについて歌いたい”っていうことがめちゃくちゃありました。最近はどんどん狭いテーマで歌いたいことがなくなってきて。今までアホほど曲を書いているし、まぁなくなりますよね。ずっと曲を書いていると、苦しむ段階って絶対にあるんですよ。それでスランプになったりするから、上手いこと整理をつけて書いていかないと先に進めない。運よくテーマがあるときばっかりじゃないし、アルバムなんて11曲もあるわけですよ。それを嘘を吐かずに書き続けていこうと思ったら、広いところから自分でテーマを決めてやるしかないっていう。
●テーマありきで書くのが得意なんですね。例えば今作で言うと、M-10「アブソリュートゼロ」は映画『ハッピーランディング』の主題歌ですが、これは映画の主題歌という想定で作られたんですか?
森:それは3年前くらいからずっと弾き語りでやっていた曲なんです。映画の話をもらったときに「この曲はどうですか?」って言ったら、気に入ってくださって。
白山:音源にはピアノVer.が入っているんですけど、映画ではバンドVer.にリアレンジしたものが使われているんですよ。
●あ、音源と映画版はまた違うんですね。
白山:そうですね。劇場だとバンドVer.が聴けるという。「ぜひ劇場でご覧ください」ってやつです(笑)。あと、実は僕らも映画にちょっとだけ出演しているんですよ。あのわずかなシーンをもしカットされたらどうしようって不安はあるんですけど…(笑)。もしカットされたとしても、曲は流れるはず!
森:それは絶対に流れるでしょ(笑)。
●アハハ(笑)。でも今作は比較的新しい曲が多い中、前々からあった曲も入っているんですね。
白山:そうですね。いちばん古い「13月の夜明け」は、高校生のときに作った曲です。このバンドとして3曲目くらいに作ったんちゃうかな? 「Sepia」も昔からあるけど、アレンジはかなり変わっていますね。
●何で今作に入れようと思ったんですか?
白山:新譜を作るときは、いつの曲でも平等に候補曲として並ぶんですよ。だから単純に、その中でもこの曲がいいなと思って入れたんです。
●当時作ったものを今でもいいと思えるのは、すごいことですね。
森:むしろ最近は、当時作ったもののよさに気付くことが多いですね。“あ、そういう発想があるんだ”って教えられることも結構あります。
白山:ただM-1「Intro」からM-2「13月の夜明け」の流れは割と最初から決まっていたんですけど、それ以外の選曲は少し悩みました。
森:一応アルバム全体のイメージとして“こういう風にしたい”というのはあったんですけど、1曲ずつ作っていくうちに“あれ? 思っていたのと違うな?”って感じになって。もっとパキッと明るいオーバーグラウンドなものを作りたかったんですけど、出揃ってみるとすごく濃い色が出ていたっていう。このメンバーに弾いてもらうと、どうしてもこうなっていくんですよね。
●自分たちのカラーがにじみ出ている。
白山:ただその中でも“前作より成長した姿を見せたい”というのはありました。
森:アルバムって化学反応を楽しめるだけのボリュームがあるじゃないですか。ミニアルバムだと、1曲予想外のことが起きると全体のバランスがシビアになってくるんですけど、アルバムだとチャレンジできることが多かったんで。
●環境的に、いろんな挑戦がしやすかった。
森:極端に無謀な挑戦はないですけど、4人でできる幅の広げ方をしたというか、バンドでできることを突き詰めた感じですね。例えば演奏にはそれぞれのクセみたいなものがあって、放っておいたら自然と手癖でやっちゃうところもあるんです。だから“クセとは違うことをやってみよう”っていう挑戦はありました。今までにはなかった音楽性というか。
●具体的に言うと?
森:M-4「早鐘」とかM-8「パワーポップ」、M-11「忘却のすゝめ」がそうですね。逆に僕らの持ち味が表に見えているのはM-3「神曲」やM-5「Sepia」だと思います。“8ビートで速い曲”って感じ。
白山:それはなぜ『Brian the Sun』というタイトルになったかというところにも繋がるんですけど、元々は今までの僕たちっぽくないことをしようと思って作り始めたんですよ。でもどんなジャンルでも、結局は4人のフィルターを通して仕上げたときにBrian the Sunらしくなったから。
●最初からセルフタイトルのつもりで作っていたわけじゃなかったんですね!
白山:正直に言うと、全然違います(笑)。よくも悪くもBrian the Sunから逸脱したような作品ではないから、ちょっと振り幅が広がったかなっていう感じです。結果的にはよかったと思いますけどね。
●逆に言えば最初からそのつもりではなかったのに、セルフタイトルをつけれちゃうくらいの作品ができたってことですよね。そして今作のリード曲であるM-3「神曲」ですが、タイトルからしてヤバいと巷で評判ですね。
森:そうですね、むしろタイトルがヤバい(笑)。
白山:あとPVがヤバい。誰もが「スケボーに乗ってたね」と言うインパクトの強さ(笑)。
森:でも「あのスケボーの曲」って言えるのはいいよね。それだけでどの曲かわかるキャッチ—さはある。
●最初から映像のイメージは決まっていたんですか?
白山:いや、僕らも絵コンテを見てビックリしました。一発目の打ち合わせのときにいきなり「どれぐらい滑れるの? 飛べるの?」って訊かれたんですけど、正直映像の着地点が全然わからなった(笑)。
●アハハハ! その分、疾走感のある映像になっていますよね。
森:文字通りそうです(笑)。あと、今回もジャケットは菅野麻衣子さんが書いて下さったんですよ。これがまたアルバムを象徴しているいい絵なんです。2頭のフクロウがひとつの胴体に繋がっているのが、物事の二面性を象徴しているんですが、それは俺がすごく大事にしているテーマと一緒で。
●バンドの意志を汲んでくれているんですね。
森:そうなんです。すごく聴きこんで頂いていて。“一見しただけではわからない二面性”っていうのは、歌詞を読んでもらえれば伝わると思います。
白山:そうですね、今回はわかると思います。
●「今回は」って(笑)。
白山:前回は「彼女はゼロフィリア」ってタイトルを見たときに、みんな「ゼロフィリアってどういう意味ですか?」って聞きかえしましたからね。
森:今までよりはわかりやすいし、そういうのって案外ライブで気付くものなんですよ。形に残るものだからきっちり完結させるというのも好きですけど、CDになった時点ではまだ未完で、その後にライブがあるから完結するっていうのも好きなんですよね。
白山:だから今回、タワーレコードさんでCDを買うと初回盤には引換券が入っていて、ツアーライブに来て頂いたときに違うVer.のジャケットサイズステッカーと交換できるようになっているんですよ。
●ライブハウスに来てくれたとき、作品ができあがる。
白山:今回のツアーはワンマンも決まっていて。大阪は梅田CLUB QUATTROで、しかも翌日に東京で渋谷CLUB QUATTROというワンマンとしては過去最大規模なんです。それも今回の挑戦ですね。
Interview:森下恭子