2014年、バンド結成10周年という節目を迎えた9mm Parabellum Bullet(以下9mm)。2004年3月に横浜で結成して以来、パンク・メタル・エモ・ハードコア・J-POPとあらゆるジャンルを独自に昇華した音楽性とその爆発的なライブパフォーマンスで現在のシーンをけん引する存在となったことは、音楽ファンなら誰もが知るところだろう。記念すべき1年はまず2月7日・8日、「10th Anniversary Live "O"/"E"」という日本武道館2daysの開催から始まった。5月にはその映像を収めたLIVE DVD & Blu-ray『act O』『act E』を発売したのに続いて、7月には初のベストアルバム『Greatest Hits』をリリース。その初回生産限定盤に付属のライブ音源ベスト「Selected Bullet Marks」と題したDisc.2を聴けば、改めて9mmというバンドの凄みを実感せずにはいられないはずだ。ワンマンツアーはもちろんのこと、現在も数々の対バンを重ねる中で研ぎ澄ましているライブ力は天井知らずに高まり続けている。9月7日から9月9日の3日間にわたって開催された自主企画「カオスの百年 vol.10」、その後に始まった「Next Bullet Marks Tour 2014」と今年も終盤に差し掛かってなおライブの勢いを止めない彼ら。10周年の締めくくりとも言えるようなタイミングで放たれる6thシングル『生命のワルツ』発売を機に、菅原卓郎(Vo./G.)にスペシャル・ロング・インタビューでじっくりと語ってもらった。
●今年は10周年イヤーだったわけですが、バンドを結成した時はこうやって続いていることを想像していた?
菅原:想像はしていないですね。
●きっぱり言いましたね(笑)。
菅原:毎回「次はどうしよう?」ということの繰り返しでやってきたから。「頑張れば何とかなるはずだ」とは考えていたと思うんですけど、そういう想像はしていなかったです。だから、そこはもう即答です(笑)。
●長く続けるイメージが最初からあったわけではない。
菅原:「バンドをやっていたら、何か良いことがあるんじゃないか?」っていう予感めいたものはありましたけどね。でもそれは(ここまで続くことを)想像していたというよりも、何となく良い予感があってワクワクしていたというだけかもしれないです。
●バンドをすることへのワクワク感はすごくあった。
菅原:そもそも自分は音楽がすごく好きで、ギターを14〜15歳の頃から弾いていたんです。他のメンバーも10代から楽器を始めていたし、音楽が自分たちにとって必要なものだったということですね。9mmのメンバーと出会った大学の軽音サークルは、他もそういう人たちばかりだったから。
●学生時代から同じ仲間たちと一緒にワクワクしながらやれているから、メンバーチェンジもなく活動を続けられているのかなと。
菅原:たとえば誰かが抜けてしまって新しいメンバーを入れたとしてもバンドのアイデンティティが変わらないというタイプと、1人でも抜けてしまうと他の誰かでは穴埋めできないというタイプのバンドがあると思うんですよ。今のところ、自分たちは後者のほうだと思います。1人でも抜けて他の人間に代わったら、もう違うものになっちゃうだろうなということを4人ともが感じているんじゃないかな。
●この4人でしかできないことをやっているという意識が強い。
菅原:仮に誰かが抜けてもバンド自体は続けられるかもしれないけど、それよりも今この4人でできているすごく素晴らしいものをもっと磨いていきたいとみんなが考えているんじゃないかなと思います。
●別に「売れたい」とか「有名になりたい」と思ってやっていたわけではなくて、自分たちのやりたいことを磨いていった結果が現状につながっているというか。
菅原:そうですね。「カッコ良いバンドになりたい」というのがまずあって。あとは「ステージ上で必死にライブしたい」というか。「ライブをして、すごく充実したい」という気持ちは最初からあったんじゃないかな。
●これまでにも相当な数のライブをやっていますが、ライブに対する情熱や新鮮な気持ちはなくなったりしない?
菅原:全然なくならないし、少なくとも俺はいつも楽しいです。もちろんツアーを続けていく中で体調が悪い日や声の調子が良くない日は昔からあったけど、今でも「今日は調子が出ないな」という日はあって。でもそこはもう関係なくて、そういう日はそういう日というか。自分がライブに向けてコンディションをちゃんと調整していった結果的としてダメなんだったら、それはもうしょうがないなって思える。
●そこまではコントロールできないですよね。
菅原:自分の状態が悪くてもライブ全体の出来はすごく良いという時もあるし、仮に他のメンバーが「今日はダメだった」と言っていてもライブ自体は良かったりもするから。その場のステージでの空気をどう捉えるかっていうところが大事なんだと思うんですよ。「その日にどう演奏するかというだけだな」っていうことを今回のツアー中(※“Next Bullet Marks Tour 2014”)にもすごく強く感じていて。だからこそ、毎回楽しいですね。
●そういう感覚になったのはいつから?
菅原:今みたいなことを言えるようになったのは最近ですけど、ライブはずっと楽しいですね。もはや「ライブだけしていたい!」というくらいの感じもあって(笑)。
●制作よりもライブのほうが好き?
菅原:それはステージに立つほうが好きですよ。欲を言えば、新たに作った曲をすぐにステージでやりたいというくらいです。
●実際のステージに立っている時はどんな感覚なんですか?
菅原:いや、もう「最高だな」っていう(笑)。「俺が人生でやりたいと思っていることをやっているんだ」っていう感じですからね。
●日常の自分とはスイッチが切り替わっていたりする?
菅原:切り替わっていたりもするんでしょうけど、そこはあまり気にしていないですね。「ライブをするモードになるんだ!」という感じではなく、むしろその会場にいる人の中で自分が一番リラックスしているくらいでいたいというか。
●自分が一番リラックスしているという感覚なんですね。
菅原:去年くらいから、自分がリラックスしているほうが良いなというふうに考えるようになったんです。(ライブは)言ってみれば、自分の家にみんなが遊びに来たような感覚なんですよ。みんなに「楽にしてよ」と言っているその人自身が、自分の家だから一番くつろいでいるわけじゃないですか(笑)。そういう感じですね。ライブをするからには、「ようこそ!」って言えないとダメだから。
●大きな会場でのライブを重ねたりする中で、そういう感覚になっていったんでしょうか?
菅原:大きい場所でやったことよりも、ずっとライブをやってきたということのほうが大きいかなと思います。むしろ逆に色んな会場で場数を踏んできたことによって、大きな会場でたくさんの人たちを前にして演奏する時にも動じないというか。その場所その場所でのライブができるようになりましたね。
●規模というよりも、会場ごとの雰囲気に合わせたライブができるようになった。
菅原:場所が違えばライブも違うし、来る人ももちろん違うわけだから。ステージに出てから「今日はこういう感じなんだな」とわかるんです。(本番前から)何となく予感はできるんですけどね。その場のお客さんたちのエネルギーを何となく感じ取れるというか。大きい会場で意気込まないわけではないんだけど、「気にしてもしょうがない」っていう気持ちになれたんじゃないかなと思います。
●今年2月の武道館2daysでもこれまでの作品から「Odd=奇数」と「Even=偶数」の曲順に収録された曲をそれぞれの日で演奏するという試みをしたりと、節目になるライブは毎回何かしらの趣向が凝らしてありますよね。それは自分たち自身も楽しもうとしているからなのかなと。
菅原:そういう節目に大きい会場でやる時には、やっぱり何かしら面白い仕掛けがないといけないなと思っています。俺たちも観に来てくれる人たちも、お互いが楽しみたいということに尽きますね。ただ俺たち4人だけで集まって、偶数と奇数で曲を分けて演奏しようとはならないじゃないですか(笑)。「どういう場所でやるのか?」ということがアイデアを出す時にはすごく重要で、たとえば「武道館でやるならこうしないわけにはいかないでしょ?」っていう感じなんですよ。
●実際に今年2月の武道館2daysをやった時の感覚はどうでしたか?
菅原:「武道館でまたやりたい」と思いました。1回目に2009年の9月9日にやった時よりも、今回のほうがまた「武道館でまたやりたい」と思いましたね。
●それはなぜ?
菅原:すごく良かったからですね。もちろん前回も最高だったんですよ。でも今回やってみて「武道館って、やっぱり特別な場所なんだな」というのを感じられたので、「またやりたいな」っていう気持ちが自然と湧いてきました。
●最初の武道館は今思えば、どんな感覚だった?
菅原:あの時は「2009年の9月9日に9mmというバンドがそこでライブをやる」という面白さを実現したいという気持ちが第一だったんです。武道館という場所自体というよりも、そこを舞台にして“9”という数字が並んでいる日に面白いことをするぞっていう部分が大事だったから。
●今年は“カオスの百年 vol.10”と題して9月7日から9月9日にかけて渋谷TSUTAYA O- EASTで対バン形式での3daysを行ったわけですが、あれも面白さを意識してのことなのかなと。
菅原:やっぱり、節目節目のイベントは面白さが大事っていうところですね。武道館は自分たちで10周年を祝ったから、9月の3daysは対バンのみなさんに祝ってもらおうという感じかな(笑)。
●あの時の対バンはどういう基準で選んだんですか?
菅原:単純に、自分たちが対バンしたいバンドという感じですね。結果的にはもちろん観てくれた人たちにも面白いと思ってもらえたでしょうけど、何よりもまず「あの人たちと対バンしたい」という気持ちのほうが強くて。たとえばストレイテナーとはずっと対バンしたいと言っていたのが実現していなくて、4〜5年ぶりくらいだったのかな。10-FEETとも久しく対バンしていなかったし、ACIDMANなんかは初めてじゃないかなっていう。フェスで一緒に出ることは何度もあったんですけど、3マンといった形でやることはなかなかないから。
●久しぶりにやる相手も多かった。
菅原:たまたまなんですけど、今回のツアーで対バンしてくれている人たちは“命ノゼンマイ大巡業”(2010年)というツアーの時とほとんどメンツが一緒なんですよ。OGRE YOU ASSHOLE以外はそのツアーにも出てくれた人たちばかりで、気付いたら「あ、こんなことになってる!」っていう(笑)。
●対バンする中で刺激を受けることも当然あるわけですよね?
菅原:そういうことばかりですね。やっぱり対バンは、刺激を受けたいからやるっていうところがあります。対バンでライブをするのは当たり前のことだと思うし、ライブハウスのバンドっていうのはそういうものだから。
●バンドの規模が大きくなった今でもライブハウスでツアーを続けているのは、そういう意識があるからこそなのかなと。
菅原:むしろ規模が大きくなっているということをあまり気にしていないというか、「ツアーをやるならライブハウスだろう」っていう感じですね。前にホールでツアーをやった時もすごく良かったんですけど、そういうことよりも「どこでやってもカッコ良いライブができるバンドでいたい」っていうのが一番にあるんですよ。どんな場所でもやりたいし、ライブハウスでやることがことさら珍しいとは思わないです。だから武道館でもやるし、Zeppでもやるし、La.mamaでもやるし、club Lizardでもやるっていう。
●「カッコ良いライブができるバンドでいたい」というのは、結成当初からずっと変わっていない。
菅原:「必死でいたい」というか。ライブすることやバンドをやることに真摯でいたいと思うんですよ。「命が燃えているな」と思える状態でいたいんです。そういうことを感じていたいから、色んな工夫をしてライブをやっているんです。
●今年7月にリリースしたベスト盤『Greatest Hits 〜Special Edition〜』では「Selected Bullet Marks」と題したDisc.2に過去のライブから選りすぐりの音源を収録していたわけですが、選曲するにあたっては自分たちで全て聴き直したんでしょうか?
菅原:全てを聴いているとキリがないので、まず選択基準を3つくらい出してスタッフに洗い出してもらったんです。そこで50曲くらいに絞った中から、自分たちで改めて選んでいきました。
●基準とは?
菅原:たとえば「あのライブが良かったはず」といったことですね。あとは時代ごとに並べたかったので、できればその時期に旬な曲というか。「(収録している)アルバムがリリースされた当時のライブでやったテイクを入れたい」といった要望を出して選んでもらったんです。その50曲の中から選ぶのもなかなか大変でしたけどね。
●収録されている中で一番古いのは「(teenage)Disaster」 (2007.02.25 "機械の遺伝子" at 渋谷 O-nest)なわけですが。
菅原:実は初ワンマンの1曲目から始まっているんですよ。そこから一番新しい日本武道館の音源まで入っているっていうところで、区切りが良いというのもあって。1枚の中で10年間の歴史を辿れているので、ライブベストとしてすごく良い1枚だと思います。
●実際のライブでのセットリスト的な流れにもなっていますよね。
菅原:俺たちのワンマンが20曲くらいなんですよ。だから、何となくセットリストのように感じられるようなものも意識していて。あとは曲順が進むにつれて、時代がだんだん進んでいくようにというところも意識しましたね。
●各ライブ音源を聴いていると、その時のことを思い出したりもする?
菅原:もちろん覚えているライブのほうが多いんですけど、中には思い出せないものもあって。「このライブって、こんな感じだったのか?」とか「あの時は上手くいかなくてヘコんでいたけど、(今聴くと)結構良いな」ということもありましたね。
●当時の印象とは違うものもあった。
菅原:聴き返してみると、「結構やるじゃん、俺たち」って思うことはたくさんありましたね。あと、最初の4〜5曲くらいは「すごいな! テンションしかないな…」っていう(笑)。
●それもその時にしか出せないものというか。
菅原:そうなんですよ。考えられないミスをしているテイクも入っているんですけど、その時のライブの空気でしか生まれないものも録音されているからそのまま入れるしかないというか。ライブでやったものを後から直す気は全く起きないので、そうするしかないんですけど(笑)。
●直す気が起きないのは、それはそれとしての良さを認めているからでは?
菅原:そうですね。「この人たち、ハミ出しているな〜」っていうのを自分たちで感じながら作れたので、すごく良い1枚だと思いました。あと、音の洗練もすごくよくわかるというか。「演奏や歌が上手くなっている」とよく言われるんですけど、そうじゃなくて「出ている音が良いんだ!」っていうことをまず言いたいんですよ。
●演奏面よりも、音の洗練を感じて欲しい。
菅原:もちろん上手くはなっているんですけど、それよりも「バンドの音が1つの塊になっているんだ」っていう、音のデザインが進んで、洗練されていっているんです。かといって、おとなしくなっているわけではない。そういうところが両立されているので、自分たちでも「良い進み方をしてきたんだな」と感じています。
●洗練されたとはいえ、ハミ出さなくなったわけではないんですよね?
菅原:今もハミ出していますね。ハミ出しまくっています(笑)。
●ハハハ(笑)。
菅原:それがやりたいんですよ。1つの曲として成立させる前提があった上で、ハミ出すっていう。楽譜に則って“正しい”かどうかじゃなくて、きっちり演奏しているのにハミ出しているっていうのが大事で。そこは抽象的な話なので体験してもらうしかないんですけど、学生の頃に友だちのライブを観ている頃から俺はそういうものがカッコ良いと思ってきたんです。それを自分たちでもやりたいっていうことが、バンドをやっている理由ですね。
●かといって、意図的にハミ出そうとしているわけでもない。
菅原:「ハミ出すぞ!」っていうふうに、気合を入れていることが大事なんじゃないかな。「結果的にハミ出すぞ!」っていう変な決意ですね(笑)。
●それは音源を制作している時も同じ感覚なんでしょうか?
菅原:音源に関しては、「うわっ! 良いな…」って思える状態にしたいという表現のほうが正しいですね。他人ごとのように「良い曲だな」と思えるようにしたいんです。あと、「この人たちは何てことをしているんだ!」って思うくらい凶暴な音や演奏を入れたりもしていて。「ハミ出したい」っていうところは同じだし、切り離せない部分なんですけど、作品を作る上ではちょっと感覚が違いますね。
●「他人ごとのように」というのは?
菅原:知らないものだと思って聴きたいというか、自分で聴いてもビックリしたいんですよね。LIVE DVD & Blu-ray『act O+E』を編集している時もそうだったんですけど、最初は自分たちのライブだから厳しくチェックしようと思っていたんですよ。でも見ているうちに、だんだん「わ〜、良いライブだなぁ…」と思うようになって(笑)。その時に「このバンドはすごく良いライブをしているな」と思ったように、レコーディング作業をしている時もそういう感覚になりたいんです。やっぱり「完成したな」ってなるのはそういう時だと思うから。「1つになっている」というか。
●1つになったと感じられた時が完成ということ?
菅原:曲ができあがった時に、ちゃんと「1曲になったな」と思えるということですね。「これはこういう曲なんだ」とわかるというか、自分で納得した時に「できたぞ!」と思います。
●作品を重ねたり、色んな音楽を聴いたりしていると自分の中でのハードルがどんどん上がっていくと思うんですが、毎回それを超えられているという実感はある?
菅原:逆にアンテナが鋭くなっているがゆえに、シンプルなものがすごく良いと思うこともあるんですよね。複雑だから良いというわけでもないじゃないですか。「良い」と思えるものはむしろ広がっているので、それをもっと鋭くキャッチしたいです。
●9mmらしさはありつつ、幅の広がりも感じられるのはそういうところからでしょうね。
菅原:自分たちらしさというのは、バンドを構成している4人のメンバーが演奏しているということが一番大きいと思うんですよ。たとえば街中のボロいスピーカーから流れてきた時にどんな音階やフレーズかはわからなくても、音だけで「あ、9mmだ!」ってわかるのが個性なんだなと思っています。
●この4人が演奏していれば、9mmになる。
菅原:そもそも最初は色んなことを面白がりたいから、色んな曲をやりたいっていう感じで進んできたんです。そういうことをやるためにどんどん自分たちの演奏力を高めていった結果として、それぞれの演奏の仕方が個性になっているんだろうなって思います。
●自分自身の歌い方や弾き方も広がっている感覚がある?
菅原:やりたいと思ったことをやれているという感じですね。必要なことがちゃんとやれるし、できないことがあれば頑張るっていう。
●そこで頑張れるのが大きいのかなと。「自分はこういうものだから」ということで諦めてしまわないというか。
菅原:そこは良い湯加減でやっていますね。「俺はこれしかできないからしょうがない」という部分ももちろんあるんですけど、結果が良ければそれで良い。ただ、追求しないのはナシだなって。到達した結果「これは頑張らないほうが良い」となれば、それで良いんですよ。何が良いかは状況によって違いますけど、まずは到達することが大事っていうか。
●とにかく1回やり切ることが大事だと。
菅原:ダメならダメでしょうがないし、「じゃあ、次」っていうだけですから。何でもそうだと思いますけど、やる前に諦めないということですね。
●曲を作る時は何か方向性や指針があって始めるんですか?
菅原:そういうのはなくて、みんなで持ち寄ってきた曲をまず聴いて「これとこれをやろうぜ」という感じで選んでいきます。まずは見通しがあって、イメージが湧くものからやるんです。ずっと形になっていなかった曲が後から形になるっていうことは10年やっている間に何度もあったから、一度やってみたものをしばらく寝かせたりもしていて。本当に良いものはみんな覚えているんですよね。
●今回の6thシングル『生命のワルツ』収録のM-2「オマツリサワギニ」とM-3「EQ」はそれぞれ武道館の2daysでやったわけですが、どちらもそこに向けて作った曲なんですか?
菅原:これは候補が何曲かあった中から選んだという感じですね。だから武道館に合わせて作ったというより、そこに合わせて仕上げたというか。「武道館でやるのに良い曲はどれだろう?」という部分では試行錯誤しました。
●この2曲のタイトルは、それぞれの日に付けられた「O」と「E」にかかっているわけですよね?
菅原:そうですね。でもタイトルは後付けなんですよ。タイトルが決まってから、歌詞は書いていきました。
●この2曲が武道館に合うと思ったのはなぜだったんですか?
菅原:「EQ」はギターのリフがすごく変わった音じゃないですか。やっぱり新曲を武道館でやるんだったら、一発で「何だ、この曲!?」って思わせられるような武器があるほうがいいなと。曲の個性がわかりやすいものをということで、「EQ」のほうを選んで。そこから「EQ」と対になるものということで、「オマツリサワギニ」を選びました。
●「オマツリサワギニ」も独特なメロディですよね。
菅原:「土着的な感じにしたい」とG.滝(善充)が言っていたんです。だから、各パートがパーカッシブなプレイをしていて。そういう面白みも追求している曲ですね。
●武道館をお祭り騒ぎにしようという意味もあるのかなと。
菅原:でも思ったほど、どんちゃん騒ぎをしているような曲ではないなって(笑)。そういう情景を歌詞で描いているだけですね。
●M-1「生命のワルツ」も含めてのことですが、今回はどの曲にも“生きる”という言葉が出てくるなと。
菅原:意識したわけではないんですけど、そうなっていますね。「生命のワルツ」は、「オマツリサワギニ」と「EQ」の歌詞を書いた後で歌詞を書いたんですよ。その2曲はその2曲でカッコ良いなと思っているんですけど、そこからもう一歩踏み越えた歌詞にしたいなと思いながら「生命のワルツ」は書いていったんです。だから、どの曲にも通じるものはあったんでしょうね。そういうモードだったというか。
●“生きる”ということについて書きたいというモードだった。
菅原:これまでもそういうことを歌詞に入れてはいたけど、もっと物語の中で登場させている感じだったんですよね。でも今回はわりと直接的に言っているというか、メッセージにしてやろうという気持ちで書きました。
●「生命のワルツ」は、最初からシングルとしてリリースする前提で作っていったんでしょうか?
菅原:そうですね。10周年というところで、自分たちの次に出す新曲が「どういうものだったら面白いかな? 良い意味で裏切れるかな?」というのを考えたんです。そこで選んだのが、「生命のワルツ」でした。イントロはリッチな感じでアコースティックギターの何重奏かになっているんですけど、そこから激しくスラッシュな感じになるというのは本当にスラッシュメタルのマナーというか。メタリカとか、そういうバンドがよくやる感じなんですよね。
●スラッシュメタルの王道的展開というか。
菅原:滝がデモを持ってきた段階から、既にそういう展開だったんです。滝自身も、もちろんそういう狙いはあったと思いますね。あと、この曲は8分の6拍子のスラッシュメタルなんですけど、そういう曲はたぶん世界的にも珍しいぞということは強く言っておきたいなと(笑)。
●そこも独自性になっている。
菅原:たまたま、そうなっちゃったんですよ。カッコ良ければ何でも良いんですけど、自分たちとしてはそういう面白味も感じているというところですね。
●結果的に今回の3曲はどれも、自分たち自身でカッコ良いと思えるものになっているのでは?
菅原:そこはいつもクリアしたいなと思いながらやっています。とはいえ、すぐに「この曲をライブで演奏するんだ」というモードに切り替わっちゃうので、あんまり自分で聴き返したりはしないんですよ。でも『Greatest Hits』も今回の『生命のワルツ』もふと家で聴いてみたら、「ああ、良いな…」と思えるようなものにはなっていると思います。
●「生命のワルツ」も既にライブでやっている?
菅原:「生命のワルツ」は今年の夏フェスあたりからやり始めました。逆に「オマツリサワギニ」と「EQ」は2月の武道館以来やっていなかったから、ブランクがちょっとある感じです。今回のツアーでは、もう3曲ともやっているんですよ。
●『生命のワルツ』は今回のツアーファイナル2daysの初日にリリースされる感じですが、これにはどういう意味が?
菅原:今年のまとめという感じですね。今回はベストアルバムのツアーなので、まずはそっちを楽しんで欲しいなって。『生命のワルツ』はツアーをまわるにあたって新曲が全くないのも寂しいなと思ったので、先に配信で出して聴いてもらおう(※配信では9/10にリリース)ということでした。ツアーでもガンガン演奏して、それを経た上でリリースできたら美しいなっていう。
●だから、このタイミングになったと。
菅原:「10周年、ありがとう!」という感じのまとめですね。
●10周年というのは自分たちの中でも1つの区切りだったりする?
菅原:そこは自分も含めて、他のメンバーも気にしていないんじゃないかな。でも「バンドが結成10周年というところで何もしないのもな…」っていうところで、「やっぱり祝わないと」って思ったんですよね。「祝わずにいられるか! めでたい!」っていう(笑)。
●来年以降でやりたいことというのも見えてきているんですか?
菅原:新曲とは言っても、今回の3曲はどれも今年の前半には完成させていたんですよね。ここ2年間は9周年と10周年でお祝いごとばかりやっていたので、次はまずアルバムに向けて新しい曲を作りたいなと。その中で、色んなことを試してみたいなと考えています。
●今回のシングルが次のアルバムを予感させる…というわけではない?
菅原:それは全くないですね(笑)。毎年アルバムを出そうと思えば出せるんですけど、前に出したものを自分たちでもすごく良いなと思っているし、まだ聴き尽くされてもいないと思うから。もっともっと聴いてもらいたいなと思っているうちは、まだ次は出さなくてもいいかなっていう。まずは新しいものを作るために、俺たちも色々と実験したいなっていう気持ちが今は強いですね。
●その実験の結果が次のアルバムにもつながっていくんでしょうね。
菅原:アルバムになるかどうかもまだわからないですけどね。でも何か新しいものを形にしたいなっていう気持ちはあるので、「11年目もやるぞ!」っていう感じです。
Interview:IMAI