そのライブを初めて観た者は、誰もが未知なる衝撃を覚えるだろう。手拍子やコール&レスポンスはもはや当然として、観客全員を床に正座させての一斉“ちゃぶ台返し”に至るまで、他所では見られない光景が展開される。しかもその場にいる全員を何故か協力的にさせてしまう、不思議なほどに強引な“巻き込み”力には舌を巻かずにいられない。そんなステージの中心に1人立っているのが、ボーカルのコムアイだ。“水曜日のカンパネラ”というユニット名義ではあるが、サウンドプロデュースのKenmochi Hidefumiとそれ以外を担当する何でも屋のDir.Fは基本的に登場せず、ステージに立つのは彼女1人。まさしく“謎”が多い存在のまま、その独自すぎる楽曲とライブが各所で話題を沸騰させ始めている。2013年3月に初めてステージに上がったところから同年10月には“MINAMI WHEEL”に出演、2014年は“BAYCAMP”や“りんご音楽祭”ほか数々のフェスに出演を果たした。自身の趣味だという落語や鹿の解体を自主企画イベントに取り入れるなど、破天荒かつ予測不可能な発想を次々と形にする中心人物、コムアイ。まだ20代前半の小柄なフワフワ系女子のどこからいったい、あれほどのパフォーマンスとアイデアが生まれるのか? 様々な謎を解き明かすべく、初のインタビューに挑んだ。
●先日(10/15)、渋谷のTSUTAYA O-nestでライブを観させて頂いたんですが、いきなり客席後方からキン肉マンのマスクをかぶって出てきたので驚きました。しかもスタッフが先導しながら紙吹雪を撒いているっていう(笑)。
コムアイ:紙吹雪を撒くのは、あの日のリハ前に買い物していて思いつきました。しかも私は直前にそういうのをやるって決めるから、周りが振りまわされることも多いんです(笑)。(迷惑をかけると)わかっちゃいるんですけど、その日に決めたほうが楽しいから…。
●瞬発的に思い付いたことをやっても、スタッフが対応してくれる?
コムアイ:「明日はこういうことをしよう」とか事前にスタッフと話し合っていたとしても、当日に対バンの人のリハを観て「こっちのほうが面白いんじゃないのか?」って全く別のことを急に思いついたりして。最近は周りに手伝ってくれる人たちが増えてきたんですけど、そういう部分を理解してくれている人しか増えていないんですよ。だから自分の手足が伸びたような感じで、人が増えるとありがちがな気苦労みたいなものは全くないですね。
●「星一徹」(『羅生門』収録)で会場中の人を全員座らせる場面でも、みんながすごく素直に従うのが不思議な光景で…。
コムアイ:ジャンプしたり手を上げるのとは違って、みんなが座っている中で1人だけ立っていると本当に目立っちゃうから、みんな座ってくれるんですよ。ちゃぶ台をひっくり返す動きは別にして、とりあえずみんな座ってくれる。その景色がすごく面白いんですよね。
●ちゃぶ台返しの時もコムアイさんがステージから降りてきて客席でやるので、お客さんも一緒にやらざるをえないっていう…。
コムアイ:ちゃぶ台返しはだいたいステージから降りてやるって決めていて。(フロアの)前のほうは面白がって盛り上がっていても、奥のほうにはあまり興味がなくて斜に構えて見ている人たちがいるじゃないですか。本当に(ライブが)良い勢いになっている時は真ん中のほうでやるんじゃなくて、周りの壁に寄りかかって観ているような人のところまで絡みに行くことが多いんですよ。こっちから行っちゃえば近くまで来た人に対応しないっていうのは、人間って普通はできないものだから。
●確かに目の前で本人にやられると一緒にやるしかない…人として(笑)。そこはちゃんと考えてやっているんですね。
コムアイ:だから全然、暴走じゃないんです(笑)。しかもそういう時って、私には「楽しいから一緒にやろうよ!」っていう気持ちしかないから。
●自分が楽しいことに、周りを上手く巻き込んでいる。
コムアイ:自分が楽しくなかったら、ライブ自体も面白くならないままで終わっちゃいますからね。この前のO-nestではお客さんのエネルギーが投げ銭みたいにどんどん(ステージに)乗っかってきて、私はその上でやっている感じだったんですよ。その流れを止めないで、増幅させるのが私に見合ったステージですね。でも間違いなく、「私が一番楽しまなきゃイヤだ」と思っています(笑)。
●まず自分が楽しみたい。
コムアイ:「お客さんを楽しませるためにやっている。自分は最後に楽しめれば良い」みたいな人もいるけど、私は真逆ですね。楽しませてくれるライブも良いけど、どこか仕事っぽいなと感じて私は2回くらい見たら飽きちゃいます。
●よくできすぎて、面白みがない感じですよね。
コムアイ:すごく上手いライブにこそ、ありがちな感じというか。プロなんだなとは思いますけど、「それだけだとな…」っていう。いずれは両方できるようになりたいです。
●コムアイさんは本当に楽しそうにやっているから、観ている側も楽しくなるという面は大きいと思います。
コムアイ:本当に楽しいですからね。逆に楽しくない時も、すごく顔に出るんですよ(笑)。ライブの映像を観ると「今の瞬間、すごく寂しそうな感じになってる」っていうのがわかったり、「どうしたら良いのかな?」っていう顔をしている時があって。だからプロにはほど遠いんですけど、両方出ちゃうからこそお客さんはそういう表情まで感じられるというか。最初は戸惑いみたいなものが見えつつも、途中から本気で楽しくなってきたんだなっていうのがわかる。
●感情の動きがリアルに伝わるわけですね。
コムアイ:たぶん「これは本気なんだな」っていうものが見えると思うんですよね。それを感じてもらって、楽しんでもらえているなら良いなと。
●本気で遊んでいる感じがします。
コムアイ:本気で遊ばないと全然、意味がないから。座右の銘は「ちゃんと遊ぶ」みたいな。だから、もし楽しくなくなっちゃう時がきたら本当に困る…。
●ハハハ(笑)。“楽しい”という気持ちをずっと維持するのは何でも大変ですよね。
コムアイ:だからプロの人たちは揺らがないように、そこに頼らないんだと思うんですけど…。全部のクオリティを等しく、高く保つためには気分に頼るのは絶対生産的じゃないというか(笑)。
●良い意味での素人っぽさが魅力だと思うんです。技術的なものは練習すれば誰にでもできるけど、その人っぽさが出ているものって本人以外には絶対マネできないから。誰もコムアイさんにはなれないというか。
コムアイ:それは“コムアイ”を出しすぎているからかもしれない(笑)。
●ステージ上で何かを演じているというよりは、素のコムアイさんが出ている?
コムアイ:何か(キャラクターを)作り始めたら、絶対に保たないなと思っていて。矢沢永吉さんとか忌野清志郎さんとか、そういうキャラクターに憧れはあるんですけど、自分には無理だろうなと思うんですよね。最後まで貫く自信がないから。
●ステージ上のコムアイさんと、普段の自分は全く一緒なんですか?
コムアイ:最近は定期的にライブがあるので、元の自分との切替えとかはそんなにないです。かといって、しばらくライブをやっていないと元の自分に戻るっていうのもないですね。だから、本当に一緒なのかもしれない。
●ステージに立つと、スイッチが入ったりもしない?
コムアイ:自分にスイッチを入れることで暴走したり、ステージをググっと進められる人もいるけど、それはスターだと思うんですよ。私の場合はちょっと違う気がしていて。みんなが同じ状態になるためのシンボルみたいな感じでいたいし、その素質だったらあるんじゃないかなと思うんですよね。
●“スター”的なものではないと。
コムアイ:自分は普通の人だなと思うんです。「ステージに出ないと欲求不満になる」とかいうタイプじゃないし、「人に見られないと死ぬ」というほどの承認欲求もない。「実際に会うと、意外と普通」ってよく言われるんですけど、(内面にあるものを)抑えて生活できるタイプなんですよ。だからこそステージ上でハチ切れた瞬間みたいなものに、よりリアリティがあるんじゃないかなと思っていて。誰にでもあることだと思うんですけど、そういう破裂感に近いかなと思う。
●日常は抑えている感情がステージ上で破裂するというか。最初からそういう感覚があったんですか?
コムアイ:最初はどちらかというと「スターをやらないといけない」っていう意識が強かったんですよ。だから自分には絶対にライブ出演は無理だなと思っていたんです。でもライブを始めてから、考えが2転3転して。今はステージに立つっていうことと、自分のキャラクターとか元々持っているものを上手くハマるようにチューニングできた感覚があります。ステージに初めて立ってから1年ちょっと経つんですけど、そうなるまでに時間が結構かかりましたね。
●「まだ1年ちょっとしか経っていない」と言うほうが普通だと思うんですが(笑)。
コムアイ:でも(ライブの)場数が本当に多かったので…(※2014年10月までの段階で約120本)。
●そこまでライブをやっている人は、最近はバンドでも珍しい気がします。
コムアイ:バンドは機材も全部持って行くと考えたら、本当に大変ですよね。水曜日のカンパネラは最初から、ライブでは音楽を流す機器とマイク1本だけっていうスタンスだったんですよ。
●それでいて、全くチープに見えないところがすごい。
コムアイ:すごく際どいところですよね。トラックだけをバックに私がライブをするっていうのが決まった時、最初は「できない!」と思って。“ニセモノ”として、アイドルなのにアイドル然としてやらないみたいなのが本当に恥ずかしいと思っていたんですよ。
●最初は恥じらいがあった。
コムアイ:でもニセモノはニセモノなんですよね。曲も詞も自分で書いていないけど、私のライブを観た人は「どひゃ〜!」っていう感じだと思うんですよ。他人が書いたものを歌わされているっていうスタイルでは全然ない。いない人のせいにしてライブが進んでいくと、みんなも「あれ?」ってなっちゃうじゃないですか。だから「新しい曲ができました。聴いて下さい」っていう感じで、自分が作ったかのようにどんどん進めるようにして。
●自分で作ったわけじゃないけど、“水曜日のカンパネラ”の曲ではあるわけですよね。
コムアイ:みんなも誰が作っているか知っているし、わざわざそこを意識しなくても、楽しければ良いんですよね。終わった後に「(本人が詞曲を作っているわけじゃないけれど)だから、何?」ってみんなに思ってもらえるようなライブじゃないと、どっちにしてもダメだから。それができるかどうかっていう勝負はずっと変わらないんじゃないかな。自分で作っているかどうかよりも、本当に楽しませられているかっていうところが大事で。
●歌詞も自分で書いているわけじゃないのに、まるでコムアイさん本人の言葉のように感じられます。
コムアイ:その中に微妙な「やらされ感」みたいなのが出ることも面白いと思うんですけど、すごく微妙なバランスで成り立っていて。これからはたぶん、(曲や歌詞に)もっと口出しをしちゃうんじゃないかなとは思っているんですよ。私がやりたいことをやったほうが絶対に良いと思うんですけど、やらされている面白さというのもあるから自分でどこまでハンドリングしても大丈夫なのかがまだわからない。やっぱり面白いままでいたいから、難しいところなんです。
●自分の意志を反映したいと思うようになったのは、何か理由が?
コムアイ:諦めなくなったんです。前は「自分で曲を作っているわけじゃないし、音楽もよくわからないから、出てきたものをやるのが一番良いんだろうな」と思っていたんですよ。でもライブをやっていく中で自信が出てきたというのと、あとは色んな音楽を聴くようになったというのがあって…。あ、ここから「私が水曜日のカンパネラを始めた理由が3つあって…」という話になっちゃうんですけど。
●どうぞ(笑)。
コムアイ:1つめは「有名になりたい」っていうところで。「私が有名だったらもっと正しいことを伝えられるのに」っていう、正義感みたいなものがあったんです。今となってはちょっと揺らいでいる部分なんですけど(笑)、その時はちょうど合致したんですよね。音楽には特に興味がなかったけど、面白いかもなと思ったから。
●音楽に興味はなかったんだ(笑)。
コムアイ:それで2つめは、他のメンバー2人が絶対に途中で降りないだろうなと思ったことで。Kenmochi(Hidefumi)さんとDir.Fさんはもし私が抜けて女の子がいなくなったとしても、水曜日のカンパネラを続行するだろうなと確信したんです。活動を続けていくうちにようやく確信できたんですけど、最初は大人がどれくらい本気なのかがわからなかったんですよ。
●メンバーの本気度がわからなかった。
コムアイ:やっていることは遊びみたいなものだから。お金になるはずがないことに、どれだけ大人が必死になるのかっていう部分があまり信用できなくて。「急に私だけポイっと捨てられて、ポシャっちゃうんじゃないのか?」と思っていたんですよ。でも1枚目のアルバム(『クロールと逆上がり』)を出した時に「この人たちは絶対辞めないな」と確信できたから、そこに私がちょこんと乗るんだったら良いなと思ったんですよね。
●ちょこんと乗るんですね(笑)。
コムアイ:そして最後の1つの理由が、Kenmochiさんに音楽を教えてもらうっていうことで。私、スーパーカーも知らなかったんですよ。他にもボアダムスとか、OOIOO(※ボアダムスのヨシミを中心としたバンド)のライブを観に行った時は「水曜日のカンパネラをやっていて良かったな」って本当に思いました。
●音楽の素晴らしさを知ったというか。
コムアイ:本当にすごい音楽がたくさんあるんだなと思いました。私は元々ディグったりはしないので音楽のジャンルとか体系も全然つかめないし、「これとあれとそれは好き」みたいな“点”の聴き方だったんですよね。でもKenmochiさんは超雑食で体系もできている人だから、色々教えてもらったら面白いなと思って。水曜日のカンパネラを辞めるまでに私が本当に色んな音楽を吸収できたら、やった価値があるなと思ったんです。それは活動を続ける動機になっているし、今でも活力になっている気がします。
●自分からディグったりはしなくても、色んなものを吸収するのは好きなんでしょうね。
コムアイ:吸収力はすごく良いと思います。周りまで持ってきてくれたらちゃんと読むし、漁るんですよ。すごく好奇心があって、色んなものを見たいんですよね。
●そうやって吸収してきたからこそ、進化し続けているんでしょうね。初期の作品から順に聴いていくと、どんどんコムアイさんが自由になっている感じがします。
コムアイ:Kenmochiさんの中でも、私の“声”を使えるんじゃないかと思う瞬間があったらしいんです。だから3枚目(『シネマジャック』)から4枚目(『私を鬼ヶ島に連れてって』)に掛けては、私の声が前面に出ているんですよ。今回の『私を鬼ヶ島に連れてって』は曲名が全て人の名前なので、それぞれのキャラクターが際立つように仕上げられていて。
●曲名になっている主人公のキャラクターが1曲1曲で明確に出ている。
コムアイ:1曲ごとに人格がバラバラで、年齢設定とかもバラバラなんですよね。だから今回は今までで一番、演じている感じがしたんですよ。全曲、自分が歌っている感じがしないというか。
●それぞれのキャラクターになりきって歌っているわけですね。
コムアイ:どの曲も演じている感じがしますね。みんなが知っている“桃太郎”とは違うんだけど、水曜日のカンパネラの中でのM-1「桃太郎」はキャラクターの設定が私たち3人の中でちゃんとあって。それを演じていくっていう感じでした。
●一般的なイメージ通りのキャラクターとは違う。
コムアイ:M-8「ドラキュラ」もかわいい感じの、3頭身のドラキュラっていうイメージですからね(笑)。いわゆる“ドラキュラ伯爵”のイメージではないんです。子どもが列車の窓から顔を出して、楽しそうに手を振っている感じというか。
●そういうイメージは、コムアイさんの少年っぽい声に合っている気がします。
コムアイ:少年ですからね。ゲッターズ飯田さんに占ってもらった時に、「小学生で止まっています。根っからの少年ですね」って言われました(笑)。
●ハハハ(笑)。そういう人だから周りも面白がって、コムアイさんの個性を活かす方向で進むんでしょうね。
コムアイ:本当にそうだと良いなと思いますね。(自分のキャラクターが)Kenmochiさんが曲を作るのにも刺激になったら嬉しいです。でも自分の中ではまだ全然ダメだなと思っていて。何かが起きるのをみんな待っているのに、全然それに応えられていないっていうか。「私がやりたかったことって、もっと面白いことだった気がする」っていつも思います。
●「もっと面白いことを」っていう貪欲さがある。リリース後は初のツアーもありますが、そこで新たに得られることもあるんじゃないですか?
コムアイ:本当にまだやったことがないものなので、頭を使わなきゃいけないなって(笑)。でも、そういうのって楽しいですよね。
Interview:IMAI
Assistant:馬渡司