“ヲタイリッシュデスポップバンド”という独自すぎるスタイルでジャンルを超えた活動を展開してきた、キバオブアキバが2008年の結成以来初となるフルアルバムをリリースする。これまでにBABYMETALとのスプリットCDや、TVアニメ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 』オープニングテーマへの楽曲提供などでも話題を呼んできた彼ら。“COMIN'KOBE”や“イナズマロックフェス”といった大型フェスにも出演を果たしたことで認知度は高まっているにもかかわらず、その実態は未だ謎のヴェールに包まれた部分が大きいと言えるだろう。そんなバンドに迫るべく、今回の1stフルアルバム発売を機にJUNGLE☆LIFEでは初となるインタビューが実現! ふとし(Vo.)、みつる(Ba.)、VAVA(Dr.)の3人に代表して話を訊いた。
●2008年に結成してから今回の1stフルアルバムを出すまでに、約6年もかかったわけですが…。
みつる:しかも初期に作った曲も今作にはわりと入っているので、実際はあんまり曲も増えてないっていう(笑)。僕らとしては、元々フルアルバムを出す予定はなかったんですよ。当初は新曲が5曲くらい入った作品を出すという予定が、どういうわけかアルバムを出すっていう話になって…。
ふとし:まあ、タイミングだよね。10曲も入っていて、それが全部カッコ良いバンドなんて世の中にはそんなにいないというか。メタル育ちだと、余計にそう感じてしまうんですよ。
●無駄に曲数を多くしてもしょうがないというか。
みつる:捨て曲っていうものを作りたくないんです。厳選した良いものだけにしたいから、アルバムを出すとしたら「解散の時に全曲を入れたベストアルバムにしようか」という話もしていて。結果的に今作は、ベストアルバムに近いものにはなっているかなと思います。
●何が何でもアルバムを出したかったわけではない。
みつる:たまたま今回は作ることになったというだけで、そこが目標ではなかったです。
ふとし:アルバムを出して「悔いがなくなっちゃったらどうしよう?」と思っていました。悔いがなかったら、もうやることがなくなるかもしれないですからね。
みつる:(リリース後の)反応によっては、悔いがなくなるかも…?
●かといって、逆にネットで叩かれたりしてもやる気がなくなるんじゃないですか?
ふとし:そうですね。もし叩かれたら、家に帰ります。それこそタイトル通り『YENIOL(イエニオル)』ですよ(笑)。
●ハハハ(笑)。
ふとし:そこの防御策も先に提示してあるんです。「本来は家にいるんだぞ」って(笑)。出方が難しいというか、やっぱり僕らみたいなのは表に出たら叩かれるので…。
●叩かれることが前提なんだ(笑)。
ふとし:そんなことは、2ちゃん(※2ちゃんねる)育ちの人間からしたら当然わかっていることで(笑)。単純に心が強くないんですよ。「ホメられるよりも叩かれるのが怖い」で生きてきたから。ひっそりと、ジャパニーズ忍スタイルで生きてきたんです。
●ひっそりと活動してきたと。家にいても、曲作りはできますからね。
みつる:でも僕らは曲をあまり量産するタイプではないんですよ。よくメンバー間で意見が分かれたりして時間がかかってしまうので、曲作りは苦行ですね。
VAVA:ボツ曲も結構あるんですよ。
ふとし:俺はすごく楽しかったけどなぁ。
●さっそく意見が分かれましたが(笑)。
みつる:意見を一番言うのが、この人(ふとし)なんですよ。たとえば僕が持った曲に対してふとしさんが何か言い出して、みんなが「う〜ん…」って顔をしかめながらやる。その過程では、みんなの仲が悪くなりますね(笑)。
ふとし:僕のプロデューサーごっこが始まるんです(笑)。元々、自分が音楽だけをやりたい人じゃないというのもあって。色んなことをやりたい中の1つが音楽っていう感じなんですよ。だから「インスピレーションのため」とか言って工場見学に行ったり、1人で沖縄に10日間くらい旅行に行ったりもして(笑)。
●それ、音楽と全く関係ないじゃないですか(笑)。
ふとし:そうやって逃げ道をいっぱい作りたがるので、結果的に時間がかかるっていう…。「こういうことを伝えたい」っていう気持ちも薄いし、ルーツを大切にしながら楽しく作るっていうことをやっていると必然的にダラダラしてしまうんですよね。今回はアルバムを出すということになって、初めて期限を設けて作ってみたら意外にできなくはないなって。
みつる:やればできる。ただ、それを怠けていたなっていうところです(笑)。
●工場見学や沖縄旅行で得たインスピレーションが曲になったりはしない?
ふとし:関係ない曲を作ってきて、だいたいボツになります(笑)。でも僕は多趣味なので、色んな場所をフラフラするのが好きなんですよ。水族館をまわったりもするし、博物館も美術館も好きだし…。
●…ふとしくんは意外と、家にいない?
みつる:そうなんですよ。「家におる」とか言っといて、わりと外に出ていますね。
ふとし:仕方なく家を出るというのが嫌なんですよ。だから普段は家か旅かという感じで。
●旅行は1人で行くんですか?
ふとし:完全に1人です。他人がいるとか、いったい何のための旅かわからないじゃないですか。みんな、つるみすぎなんですよ。
●バンドは一応、集団行動なわけですが…。
VAVA:たまに「沖縄に行くから今日は練習に行かへんけど、よろしく」みたいなことはありますね。
みつる:それで帰ってきたら、「なんくるないさー(※沖縄の方言で“何とかなるさ”の意)」しか言わなくなってる。
ふとし:沖縄の精神を学んで帰ってきたんです。
●一応、インスピレーションはあったと(笑)。
みつる:適当になっただけですけどね。僕らはもうあきらめているので、大丈夫なんです。
ふとし:あきらめられたら、それはそれで腹立つけどな。
一同:ハハハ(笑)
●ふとしくんはバンドのプロデューサー的な立ち位置でもある?
ふとし:性格的にそういうタイプなのかもしれない。バンドとして音楽さえ良ければ良いというわけじゃなくて、人として個性があるかどうかを自分は大事にしていて。今までに色んなコラボに誘ってもらえたのも、そういうところを見てもらえたんじゃないかなと思うんです。マスク…僕はフルフェイスのメガネと呼んでいるんですけど…それを作ったのも、自分で“ものを作りたい”っていうところからなんですよ。バンドを頑張れば頑張るほど、ものを作る人が反応してくれるから。自分も何かを作っていることで、クリエイターの皆さんと対等に話ができる。そうやってお互いリスペクトできることが楽しいというのも、バンドをやっている大きな目的の1つですね。
●コラボといえば、2012年には今や大人気を博しているBABYMETALとのスプリットシングルを出していますが。
みつる:僕らと一緒にやったことで何か新たな一面が見えて、人気が出てきたんだとしたら良いかなって。新しい可能性や側面が引き出せたんじゃないかとは思うから。僕ら自身が売れたいというよりも、そういうことのほうが嬉しいですね。
●自分たちが売れたいという気持ちはない?
ふとし:そもそも僕は、メジャーに対してアンチだから。たとえばヲタクやメタルやバンドに対しても、みんなが「これこそが◯◯◯でしょ!」って思うイメージに対してはアンチでいたいんです。1位のバンドに対しては、常に噛み付いていくっていう。それがキバオブアキバの“キバ”の部分で。そして知識やバックグラウンドや趣味を使って戦っていくのが、“アキバ”の部分なんですよ。
●“キバオブアキバ”というバンド名にはそんな意味があったんですね。
ふとし:まぁ後付けなんですけど(笑)、上手くハマったなと。“売れたい”っていうよりは、“反抗したら誰かが注目してくれるだろうな”っていう想いはありましたね。「僕らと一緒に覆そう!」というわけじゃなくて、「僕はこうやって反抗します。で、みんなはどうするの?」みたいな感じの問題提起ができたら良いかなって。
●だからこれまでも『CD付ヲタイリッシュ缶バッジセット』だったり『全部宇宙が悪い(ヲタイリッシュ手ぬぐい付き)』のような、変則的なリリースをしてきた?
ふとし:単純に、自分たちが選択肢を増やすっていうのは楽しいことだから。世界が無限にパラレルワールドとして分岐していく中で、僕らがものを作ったことで新たに分岐する世界が増えるというのは面白いなって。何かをやれば何かが残る可能性も高くなるわけなので、なるべくボケるようにはしています。
みつる:あ、ボケてたんや(笑)。
●結論としては、ボケだったと(笑)。
ふとし:ツッコミ待ちなところはあるよね。
みつる:意外に誰もツッコんでくれない(笑)。僕らに対しては「ツッコんだら負け」みたいな空気が出ているんですよ。僕らは常に待っているんですけどね。
●ツッコんで欲しかったのか…。
ふとし:かと言って、あんまりホメても負けた感じがするっていう…八方塞がりですね(笑)。
みつる:僕らは変な存在だと思うんですけど、意外にそっとされていると思うんです。アンチも絶対にいるはずなんですよね。でも「こいつらを叩いたら負け」みたいな空気がたぶん出ていて…。
●自分たちでそういう空気を作っている部分もあるのでは?
みつる:そういう曲も結構ありますからね。たとえばBBSで叩かれた時に備えた曲とか…。
●M-5「Party @The BBS」ですね。
ふとし:叩かれるのをわかった上で、この曲を作っているというか。「その祭り(※炎上)には、かつて俺も参加していたんだよ? お前らは俺らで今盛り上がっているけど、かつての俺たちは先人として先にそういうことをやっていたんだからな!」っていう。
みつる:先手先手ですね。でもそれを文字にして残すと、ちょっと語弊が…(笑)。
●もう遅いですよ(笑)。話を聞いていると、実はすごく考えた上で歌詞を書いている感じがします。
ふとし:そうですね。僕は色んな偉人伝を読むのが好きなんです。小説とか小難しいものは読まないんですけど、わかりやすいスティーブ・ジョブズの本とかを読んでいて。
●小説が小難しいっていうのはどうかと…。
ふとし:微妙に知能が低いんです。
●ハハハハハ(爆笑)。
ふとし:多趣味なのに、ところどころで知能が低い(笑)。たまに幼児帰りが起こるっていう。そのへんが音楽にも現れているのかもしれないですね。
みつる:時期によってハマっているものが違うんですよ。しかもハマったら、すぐ人にも薦めてくる。この前はイングヴェイ・マルムスティーンの自伝を薦めていたのに、今回はスティーブ・ジョブズっていう感じで。基本的に自分が買った本を薦めてくるんです。
●自伝が好きな理由とは?
ふとし:生き様が面白いというか、やっぱり何かを成し遂げた人は面白いところが多いんですよ。何かを成し遂げてきた人は、だいたい何かのヲタクだったという側面もあって。キバオブアキバが“ヲタイリッシュデスポップバンド”と名乗っているのは、そういう部分もありますね。ちゃんと自分のルーツにある好きなものを、楽しくキレイに活かしていくっていう意味合いがあるんです。
●音楽のルーツ的にも幅広いんでしょうか?
みつる:元々がメタルのサークルに所属していたメンバーで結成したバンドなので芯にあるのはメタルなんですけど、その中にも色々と入っていて。僕たちの曲はいわゆる王道のメタル的な部分もありつつ、色んなバックグラウンドから少しずつ引っ張ってきているのが強みになっているかなと。メンバーの守備範囲もちょっとずつズレているので、それが上手いこと曲に出ているかなという気はします。
●メンバーのルーツは微妙に違うと。
VAVA:僕もルーツを辿ればメタルなんですけど、途中からドラムの講師を始めたこともあって色んなジャンルを吸収してきたんですよ。それによって、ふとしさんの中にある色んな世界やエッセンスを具現化できるようになれたら良いなっていう…。
ふとし:ホジホジ…(※ハナクソをほじり出す)。
●VAVAくんが良いことを言っている横で、ハナクソをほじっていますが…。
VAVA:何なんですか…?
ふとし:んー、具現化してくれたら良いなって。フォフォフォ。これからも具現化よろしくね。
VAVA:この人、本当に言うだけなんで…(笑)。
●ハハハ(笑)。とにかく色んなバックボーンがあると。
ふとし:メンバーも色んなバンドを観てきているし、共通で聴いているものも多いから。「◯◯っぽいの」と言ったら、パッと反応してくれるのはありがたいですね。
みつる:共通項になっているバンドはあって、そこから各自の好きなものが枝分かれしていっている感じなんですよ。共通項でつながっているので、「◯◯っぽい音を入れて」と言われてもすぐに引き出しから出せる。やっぱりメタルでつながっているから、やりやすいんですよね。
●ちなみに、共通して好きなバンドは?
みつる:メタリカですね。
ふとし:あと、アイアン・メイデン。
●意外と、正統派なんですね…。
みつる:というか、売れているバンドが好きですもん。
ふとし:やっぱり売れているバンドは伝説を持っているから、追っかけるだけで面白い。メタルの良さって、スケールの大きさだと思っていて。他のジャンルのバンドには絶対できないことをやっちゃったりする。たぶん自殺したくらいでは、メタル界では全く伝説にならないんですよ。たとえば、コウモリを食べたりとか…。
VAVA:お城に住んでいたりとかね。
●バカバカしいくらいの伝説がたくさんある。
みつる:バカを本気でやっている感じというか。“それで一生やっていく”って決めているあたりがすごくカッコ良いんですよ。メタルで売れている人たちって、そこを貫いている人たちだと思う。そういうバンドが好きですね。
ふとし:何だかんだで、各ジャンルの有名どころは押さえてあるっていう感じですね。リンキン・パークとかもすごく好きだから。
●有名なものもちゃんと聴いていると。
ふとし:マニアックな部分にも触れるけど、みんなが好きなバンドも好きだし、魅力を感じています。
みつる:ただ僕らは根がアンチなので、それを「めっちゃ好きです」というふうには出していないだけなんです。
●そういうものも聴いているから、ちゃんとポップさやキャッチーさのある曲になっているのかなと。
ふとし:そうですね。ヘヴィだけど良いものとか、逆に聴きにくいものというのも既に才能のある先人たちが全てやってきたことだから。そこに自分たちが一工夫できるのであれば、バランス感覚かなというのはあって。やっぱりフックは大事だなと思っています。
みつる:曲作りをしていても一聴してガツンと来るものがなければ、そこそこクオリティが高くてもボツになることが多いですね。やっぱりどこかにパンチがなければというのがあるというか。それはポップな部分やヘヴィな部分であったり色々あると思うんですけど、絶対にそこの工夫は盛り込むようにはしています。
●だからリスナーの耳に引っかかるものになっている。
みつる:でも求められているところに対して、合わせに行っている感じではないんです。僕たちが聴きたいものというか、「こんなバンドがいたら良いな」という感覚で作っていて。「こうやったら面白いんじゃないか」というところから、「他にこんなことをやっているバンドはいないな」という目線で考えたりもします。
ふとし:70〜90年代から2000年代まで、自分たちはひと通り全部聴いてきているから。メタルは70年代後半〜80年代くらいが一番良い時代だったと思うんですけど、そこを吸収しているから2000年代にしか作れないメタルを作りやすいというのもあるかな。
●サウンドはもとより、歌詞の世界観もキバオブアキバ以外にはない独自性を感じます。
みつる:リリックの一貫性はあるというか。色んなタイプの歌詞があるんですけど、どこか一貫性がある。そこはふとしさんがずっと書いているものなので、僕らが書くとキバオブアキバにはならないんです。象徴的なものだと思うし、他のバンドにはない歌詞だと思いますね。曲や楽器的な部分だけじゃなく、そこも含めてトータルで今の音楽性になっているんですよ。
●今の時代ならではのテーマが特徴的ですよね。
ふとし:たとえばインターネットっていうのは、2000年代以降で急速に発達したものですからね。自分が元々インターネットばかりしている人間なので、そこに関連する単語や“アニメ”みたいな今使うべき単語は大事にしています。「いつの時代にもできたでしょ?」っていうものはあまり好きじゃないし、自分が今その文化の中にいるから作れるというのもありますね。
●そういう発想からM-1「Animation With You」やM-6「Oh, My Parsonal Computer Is Dead!!!」のような曲が生まれている。
ふとし:しかも、そういう曲って子どもにまで伝わるんですよ。ライブにたまたま子どもを連れてきていたお母さんから、「あなた方の曲だけは歌詞がわかって良かったみたいです」とか言われると「よっしゃ!」ってなりますね。その子が将来、社長になって俺を迎えに来てくれるかもしれないし…(笑)。
●あ、そこまで期待するんだ(笑)。
ふとし:“みんなのうた”的なものは好きなんですよ。その時代時代の文化風俗を上手く取り入れていたりするので、自分たちも“今の時代”を捉えたいなという気持ちはありますね。
●実際、今の時代を象徴する“ヲタク文化”みたいなものにも触れてきたんですか?
ふとし:僕はどちらかというと、色んなヲタクの人から話を聞くのが好きなんです。何かにハマっている人から「俺はここが良いと思うねん!」という話を聞くのがすごく面白い。「そんなところまで見ているの!?」って思うし、「そういう目線もあるのか」っていうことにも気付けるというか。そういうところから色んなものができていく過程が面白いだけで、“ヲタクがバンドをやっている”というのとはちょっと違うんですよ。
●ヲタクの人から聞いた話を歌詞に活かしている。
ふとし:すごく活かされています。そういう人は一緒に話していても面白いし、そこでヲタクの面白さを教えてもらったところもあって。“ヲタク”という形じゃなくても、「みんな好奇心は絶対あるし、知りたいことはもっとあるでしょ?」っていうのが根本の理念ではありますね。
●M-2「はかせをめざせ」は、そういったことを歌った曲ですよね。
みつる:みんなも「昔はそういうことしてたでしょ?」っていう。
ふとし:だから、そこを変に否定する必要はないというか。“大人”を強要されることに対する反抗心も、最近は感じていて。「お前らの言う“正しい大人”には絶対にならんからな!!」っていう想いはありますね。
●決まりきった型に押し込められるということに抵抗がある。
みつる:実際、僕らも何か1つの考えを押し付けるようなことはこれまでにしてきていないんです。
ふとし:「恋愛をしている人が偉い」とか「頑張ることが偉い」みたいな価値観の世界では、僕らは奴隷なんですよ。あまり感情が抱けない人間からしたら、「それはどうなの?」っていう。色んな選択肢があるわけで、「1つのものだけが正義」っていうのは違うと思うんです。別の正義とか別の正しさを自分たちが提示できたらなというのはありますね。アーティストってそういうところがあるものなので、実は普通のことをやっているだけかもしれないですけど。
●歌詞で歌われているようなことは、誰しも一度は思ったことがあるような感覚も多い気がします。「こういうことを誰かに言って欲しかった」というものもあるんじゃないかなと…。
ふとし:そう言われると「代弁者」みたいな感じがして、カッコ良いですよね…。
みつる:だったら、もうちょっとそういうレスポンスがあってもいいんじゃないかっていう(笑)。
●ハハハ(笑)。
ふとし:意外と「みんな、そう思っていないのか?」っていう(笑)。「お前ら、博士を目指していたんじゃなかったの?」って。
みつる:でもみんな何かしらに興味を持って、それをとことんやってみたいという気持ちはあると思うんですよ。たまたま“博士”っていう言葉が出ているだけで、そこに限定されているわけではなくて。
●とことん突き詰めるという意味では、M-3「The Power And The Museum」はコレクター心理を歌った曲なわけですが。
ふとし:こういうことも「みんな経験あるよね?」っていう。
●集めたものを置く場所を確保するために“いっそ国一個くれ”とは普通思わないですけどね(笑)。
ふとし:ハハハ(笑)。でもそのほうが話は早いかなと思って。お金じゃなくて、権力が欲しいっていうことを強調したかったんですよ。普通、お金では国は買えないから。そして自分にとって都合の良い国があればいいんだけど、そういうわけにはいかないから「じゃあ、どうしたらいいか?」という問題提起が裏の意味としてはあって。
●実は大きなテーマにつながっている。
みつる:僕たちの歌詞を見ているとスケール感が小さいようでいて、実は意外と大きなことも言っちゃっているし、考えているんです。
ふとし:そうそう。でも自分ではやりたくないんですよね。誰かをそそのかしたいんです(笑)。
●ハハハ(笑)。誰かが代わりにやってくれと。
ふとし:M-8「全部宇宙が悪い」という曲を聴いて本当に「宇宙が気に食わないな」と思って、将来的にロケットに乗って飛び立つ子がいても良いと思うんですよ。その時にその子が「昔、そういう曲を聴いたことがあるんですよね。誰かの曲かは知らないんですけど」と言ってくれたら嬉しいなと。そうなるためには、大きいことを言っておきたい。逆に小さくても、自分の思ったことは言っておきたいっていう感じなんです。
●ちなみに、アーティスト写真でマスクを付けている理由は何なんですか?
ふとし:変身願望ですね。「人じゃないものになりたい」っていう想いがあるから。“人間”っていう縛りがつまらんなと思っていたので、とりあえず仮面を付ければ一時的にそこを回避できるなっていう。それは歴史的にも見られることで、鎧を無駄に飾ったりとかもそうだし、当然の願望なんですよ。でもみんなが意外とやらないので、僕がやりましたっていうだけです。
●ふとしくんは仮面ライダーが好きだそうですが、それも関係している?
ふとし:ずっと好きなんですよ。だから、科学的に変身なんて不可能だと知った時は絶望しましたね。やっぱり思春期に至って科学とかを勉強してしまうと、「どう考えても瞬間的にスーツを着たり、風の力だけでエネルギーを起こして変身とか不可能だよな」っていうことの絶望感から逃げられなくて…。そうなった時にせめてヒーローに近づけるのは何かと考えたら、バンドかなっていうところから音楽にハマっていったんです。
●そこがバンドを始めるキッカケにもなった。
ふとし:だから見た目が派手なマリリン・マンソンやメタルが好きになったし、現実離れしていて「本当に人間かよ?」って思えるようなバンドに強く惹かれたんです。現実逃避ですね。“大人になりたくない”を突き詰めた感じで…。
●でもそのまま大人になってしまったという…。
ふとし:とにかく「これをやらなきゃ大人じゃないでしょ?」みたいなものは、絶対にやりたくないんです。だから、車の免許も取っていないし…。
みつる:それは早く取って。
ふとし:嫌や! 免許取ったら大人やもん!
みつる:いやいやいや、大人がいないと遠征もできへんやろ!
●ハハハ(笑)。ツアーがしたいという気持ちはないんですか?
ふとし:ないです!
●はっきり言いましたね(笑)。
ふとし:「バンドマンだから、ライブが大好きなんでしょう?」みたいな前提もすごく嫌で。「いやいや、家でCDを聴いているほうが100倍楽しいから!」って言いたい。
みつる:僕らはどちらかというと家で音楽を聴いてきたタイプなので、元からライブによく行く人間ではないんですよ。だから、そういう文化の下で育っていないというか。僕らにとっては1つの表現の方法として、ライブというものがあるんです。
●ライブがメインの目的ではない。
ふとし:色んな楽しみ方があるから。「これが楽しくないなんて、おかしい!」みたいな大人づらは絶対にしたくないんですよ。でも楽しんでくれている人がいることは全く否定しない。
みつる:それはすごくありがたいし、僕らも楽しませる工夫はしなきゃいけないなとは思っています。でも僕たちはライブがやりたくて、バンドをやっているわけではないから。
VAVA:バンド結成当時は「3ヶ月に1回くらいライブをして、楽しく続けられたら良いよね〜」くらいの感じで。実際にそれくらいの頻度でしか、ライブもやっていなかったですからね。
●ある意味、バンドとしての新しい在り方を1つ提示しているとも言えますよね。
みつる:自分らが好きなことをやった結果、そうなったというのが近いですね。自分たちのペースで良い。
ふとし:自分の好きなペースでやって、悪いことは何もないから。ライブが楽しい人たちはどんどんやったら良いと思うんです。でも“楽しい”と思うレベルはちゃんと調整しなきゃいけないし、自分たちでマネジメントをしていかなきゃいけないなと思うだけで。もしインターネットがこの世になかったら、ツアーをしていたかもしれないですけどね。でも今はインターネットを使えば、各国の皆さんの言っていることもやっていることもわかるから。そこに距離の遠さを全然感じていないので、“家におる”というところはあります。
Interview:IMAI
Assistant:馬渡司