今年4月にセルフタイトルで発表した渾身のフルアルバムを手に、5月から全国各地をツアーでまわってきたHER NAME IN BLOOD。ツアー直前にTJ(G.)が手首を負傷して離脱するという逆境の中でも、歩みを止めることなく前進し続けてきた。ツアーファイナルの渋谷TSUTAYA O-WESTに集まった大観衆は、想定外の苦難も乗り越えて各地で奮闘してきた彼らが見せる進化を期待していたはずだ。昨年の『THE BEAST』リリース時の渋谷CYCLONEワンマンから、大幅にキャパシティをアップした会場。そのステージ両側に置かれたスカルのウォールが照明により不気味に照らされて、ゾクゾクするような興奮を静かに煽っていく。
緊張感すら漂う、フロアの空気。客電が落ちると、大きなバンドロゴがプリントされたバックドロップが燃え盛る炎の映像の中に上昇してくる。そんなオープニングの様子を見ているだけでも、鼓動が早まらずにはいられない。そしてメンバーが1人ずつ順番に登場して、最後にIkepy(Vo.)が登場するとオーディエンスは一段と大きな歓声で迎え入れた。1曲目に演奏されたのは、「ZERO(FUCKED UP WORLD)」だ。いきなり全ての空間を制圧にかかるかのごとく放たれる、激重のサウンド。観客たちはモッシュピットの渦を作り出して、音に押しつぶされまいと激しく動きまわる。その相乗効果がライブ開始早々、会場全体に一体感を生み出す。
「GASOLINES」へと続く凶暴な重低音の嵐の中で、「踊ろうぜ〜!」「おまえら行けんのか〜!」と客席を煽っていくIkepy。暴力的なまでにヘヴィかつラウドなサウンドにもかかわらず、どこか観る者を力強く抱きしめるような包容力とポジティブな気持ちにさせてくれるポップさを感じられるのは彼のキャラクターによる部分が大きいだろう。プロレスラーのように鍛えあげられた強靭な肉体にレザージャケットを身にまとった姿は一見では畏怖を覚えさせそうだが、根底にある優しさを垣間見せる表情と姿勢は逆に親しみすら感じさせる。楽器隊の4人も含めて全員が心から楽しそうに爆音を奏でる姿も、魅力的なギャップを生み出しているのだ。
フロアとのコール&レスポンスやシンガロングパートでの大合唱など、サウンドを聴いただけでは想像できないような一体感をHER NAME IN BLOODは作り上げていく。個々の演奏技術が高度なのはもちろんだが、それだけでは決して創造できない音空間を出現させられるのは5人の“ライブ力”の高さに他ならない。「渋谷の火を燃やしていこうぜ〜!」というIkepyの呼びかけと共に、「UNSHAKEN FIRE」から終盤に突入する。初期の名曲「Decadence」に続いて、ラストは「HALO」でオーディエンスとの結束をガッチリ固めて本編の幕を閉じた。その結束を確かめるかのごとく「HERE WE COME」で始まったアンコールでも3曲を披露し、渋谷の夜を大炎上させた愛しき野獣たち。再び彼らが“ライブ”という場に戻ってきた時、その炎はさらに火力を増していることだろう。
TEXT:IMAI
PHOTO:Nobuya Fukawa