今、TwitterやSNSをキッカケに爆発的にその名を知らしめている3ピースバンド・ユビキタスから、8ヶ月振りの最新作『奇跡に触れる2つの約束』が到着! 彼らの言う“奇跡”とは何なのか、“2つの約束”とはどんなものなのか…本インタビューではメンバーの3人に、結成当初の話や今作に込めた想い、そして10月に東京・大阪の2箇所で行われる初ワンマンへの意気込みなどを訊いた。
●みなさんは2012年10月に結成されたそうですが、どういうキッカケで始められたんですか?
ヤスキ:元は各々違うバンドをやっていたんですけど、その3バンドで共同企画をする機会があったんです。そのときに、オープニングアクトとして3人で何か余興をしようということになって。
ヒロキ:この3人はよく一緒に飲みに行っていて、お酒の席で「3人でバンドをやりたいね」という話をしていたんです。
●では、そのオープニングアクトのステージが初ライブだったんですか?
ヤスキ:実はその企画が開催される前に、ヒロキが前のバンドを辞めたんですよ(笑)。だからライブはしなかったんですけど、このバンド自体は稼働していって。そこから2012年の10/21に初ライブをやりました。“自分らのやりたいことをやってるぜ”っていう感じで、すごくいいライブができたんですよ。でも2本目のライブで、全員心が折れたんです。
ニケ:“まぁイケるやろ”と思って完全にノープランで臨んだら、ノリが通用しなくて全然ウケなくて…。それがすごく悔しくて、本気で取り組むようになっていきました。
●本格的に曲作りを始めたのも、その頃からなんですか?
ヤスキ:曲に関しては最初から本気でしたね。前のバンドでもずっと作曲していたんですけど、そのときは5ピースだったので音数が多いバンドだったんですよ。そんな中でも、少ない音で表現したい歌詞やメロディーが生まれることがあって、ずっとストックしていたんです。だから3人でバンドをやることになったときに“やるなら今やな”と思って持ってきたものもありますね。
●早い段階で、バンドの方向性のイメージが湧いていた?
ヤスキ:1回目のスタジオで“こっちの方向だな”とか“こいつらじゃないとあかんな”という感覚があったので、そのときにある程度固まっていたと思います。
ニケ:スタジオは本当に楽しかったですね。2人が別のバンドでやっている姿も見ていたので“こいつのこういうところが好きだな”と思うところがあったんですよ。そのイメージと、実際スタジオで合わせたときの感覚が重なる瞬間がめちゃくちゃ気持ちよくて。
ヒロキ:初めてセッションするときって、慣れてない分どうしても緊張するんですよ。でもずっと一緒にやりたいと思っていたメンバーだったし、実際に合わせてみると変に気を遣わずに楽しめたというか。“このバンドなら、自分を出せるかもな”って思えて、鳥肌が立ちました。純粋に気持ちよかったんですよね。
●そこから2014年の1月には、ROCKBELL recordsから1stミニアルバム『リアクタンスの法則』をリリースされましたが、それにはどういった経緯があったんでしょうか?
ニケ:2012年11月に、今のプロデューサーである時乗さんに音源をお渡しできる機会があって。
ヒロキ:最初は“聴いてもらえたら嬉しいな”くらいの気持ちで渡したんですよ。そしたらすぐに時乗さんからメールが来て“ぜひライブを観たい”って言ってもらえたんです。それ以降、東京でライブをするときは基本的に観に来てくれるようになって。その頃は、まだリリースの話も全然出ていなかったんですけどね。
ヤスキ:当時はまだ“遊び感覚でやっている”という気持ちがあったので、そんな状態で話をするのは失礼だと思っていたんですよ。でも、徐々に僕らの中でもバンドに対する姿勢が変わってきて。遊び心はあるけど、遊び感覚はなくなっていったんです。そんなときに、時乗さんからお話を頂いてリリースに至りました。
●心境の変化があったんですね。今作は前作からわずか8ヶ月でリリースとなりますが、早くから2枚目を出そうと考えていたんですか?
ニケ:前作のレコーディング中にはもう「2枚目も出そうか! どんな曲にする?」みたいな話をしていましたね。
ヤスキ:僕らもテンションが上がっちゃって、1枚目をリリースする前から楽曲を作り始めて(笑)。
●アハハ(笑)。でも、いいレコーディングができたからこそ、それだけモチベーションも上がったのでは?
ヤスキ:そうですね。曲のできあがりもかなり早かったです。多めに制作したので、今作に入らなかった曲もあったくらいなんですよ。
●リード曲はM-3「パラレルワード」ですが、アルバム制作もこの曲ありきで進めていた?
ヤスキ:逆に、この曲がいちばん最後に完成しました。メロディーは早い段階であったんですけど、そこに乗せたい言葉がなかなか出てこなくて何度も書き直したんです。しっくりくる言葉が出てくるキッカケになったのが、そのときたまたま読んでいた乙一さんの『箱庭図書館』で。その小説の中に出てくる平行世界のお話を見て“俺の書きたい世界はこれだ”と思ったんですよ。
●「書きたい世界」というのは、具体的にどんな世界でしょうか。
ヤスキ:なんだったかな…僕、自分の書いた曲でも1ヶ月後には誰の曲かわからなくなっちゃうんですよ。
●え、どういうことですか?
ヤスキ:作っているときはその瞬間に書きたいことを書いているんですけど、後から読み返すと“こういうことを言いたかったのかな?”っていう捉え方の変化があって。
●時間が経つと、第三者の目線になるんですね。作詞作曲は、すべてヤスキさんが行っているんですか?
ヤスキ:そうですね。メロディー先行である程度世界観をイメージしてから歌詞を作って、まとまったらメンバーに聴かせるっていうスタンスです。まだ自分でもできあがっていないと思っている時点で持っていくと、“やっぱりここは変えよう”っていうことの繰り返しになるから、アレンジがいつまでも終わらなくて。
●自分が納得できる形を作ってから曲を持っていくと。歌詞について、他のメンバーからアドバイスすることもあるんですか?
ニケ:特に言わないですね。逆に、出された歌詞を見て“そういうイメージの曲にしよう”っていう意識になります。ユビキタスでは、ドラム、ギター、ベースの順に音を作るから、僕は最後なんですよ。
●珍しいですね。普通はリズム隊を先に作ることが多いと思いますが。
ヤスキ:曲を作るときに、ドラムの音はイメージが湧きやすいんですけど、ベースは全然出て来なくて。僕もヒロキもあまりベースには詳しくないし、割と任せきりなんですよ(笑)。
ニケ:だからベースは、歌詞を元に音を作っていくんです。あとはヤスキの歌い回しが好きなので、それが映えるようには考えていて。
●「パラレルワード」でも、韻を踏んだ歌い回しが出てきますよね。
ヤスキ:その辺りは結構意識しています。前にやっていたバンドはリフレインで構成した楽曲が多かったので、自分のやってきたことを活かしつつ新しいものを作りたいんですよね。
●リフレインと言うと、M-2「アマノジャク」の“いない いない いない訳ないじゃないか”という歌詞の部分も印象的でした。今作は全体的にポップなギターロックが多いですが、「アマノジャク」は激しいサウンドになっていますね。
ニケ:これは、ライブを意識して制作したんです。ベースパートがすごく盛り上がるんですよ。
ヒロキ:何ヶ月か前からライブでも演奏するようになったんですけど、今ではすっかり欠かせない曲になりました。
●そうなんですね。逆に昔からあった曲も入っているんですか?
ヤスキ:「飛行機雲」は、サビ以外の歌詞は3年前くらいからあったんですよ。家で曲を作っているときにこの曲のことを思い出したので、サビを今の自分の言葉に直して仕上げたんです。
●昔作ったものに、今の感性を乗せるのは難しいのでは?
ヤスキ:僕はそういう作り方が結構好きですね。なんせ1ヶ月後には誰が書いたのかわからなくなるので(笑)。
●あ、なるほど(笑)! もしかして、新曲でも作詞期間が1ヶ月以上かかったら、作っている最中にそういう感覚が味わえるんじゃないですか?
ヤスキ:そういうときもあります。昔は一気に書かないと気が済まなかったんですけど、最近では今日書いた歌詞を次の日に読んでみて、出来がよければまた書き足して…みたいな作り方になっていて。だから1曲ずつ完結させるんじゃなく、1~2ヶ月くらいのスパンで何曲かを同時進行で作っていって、最終的には同時にできあがるっていう感じなんですよ。1曲1曲見える景色が違うから、それをパッと切り替えていく瞬間が楽しいんですよね。
●すごく器用な方なんですね。
ヤスキ:気持ちを切り替えるのは得意ですね。むしろ落ち込んでいるときにしかハッピーな曲が書けないし、逆にめっちゃ暗い曲を書いているときは楽しいときなんです。
●じゃあ「アマノジャク」ってもしかして…。
ヤスキ:僕のことですね(笑)。
●アハハハ! 今作は全体的にハッピーな曲が多いですけど、実はすごく凹んでいたとか?
ヤスキ:今作については、そうとも言い切れないですね。初めましての人にもわかりやすく届けられる楽曲をイメージしたので、結構ポップなんです。前作はどちらかというと幻想的でふわっとした雰囲気だったので、今作は全体的に“人間っぽさ”を大事にしていて。
●「人間っぽさ」と言えば、“心”がキーワードになっている曲が多いように感じました。
ヤスキ:テーマとしてあったわけではないんですけど、M-8「発明品」という曲はコンセプトが“心”だったんですよ。この曲は心臓をイメージしてるんですが、最終的にアルバムの落としどころをここに持っていきたかったという気持ちがありました。他にもM-1「イコール」では、初めて歌詞で“好き”っていう言葉を使ったんですよ。こういう真っ直ぐでリアルな言葉を言うのが苦手なんで、勇気が要りましたね。
●曲を聴いていると、表現したいものやメッセージは伝わってくるけど、それを無理やり押し付つけている感じではないんですよね。
ヤスキ:それはかなり意識していますね。“この人にこう聴いてほしい”という想いではなくて、聴く人によって形が変わる楽曲でいたいんですよ。誰の形にも合うような曲にしているから、押し付けがましくはないかなと思います。
●そうだったんですね。今作の『奇跡に触れる2つの約束』というタイトルには、どういう意図が込められているんでしょうか?
ヤスキ:仲のいい友達同士でしゃべっていると「そんなことができたら奇跡みたいだよな」っていうような話になったりするじゃないですか。その“奇跡”なんですよ。
●ノリでしゃべっていた夢みたいなことが、本当に実現するということが“奇跡”だと。
ヤスキ:例えば僕らの場合「すごく大きいステージでやりたいよな」とか。そして、そのためにバンド内で2つの約束をしたんです。
●その約束とは?
ヤスキ:実はすごく単純で、ひとつは“お互いにわかりあう”こと。もうひとつは“最高のライブをしよう”という、ただそれだけなんですよね。3人の心のコンディションがすごくいい状態でライブができれば、“奇跡”が見られるんじゃないかと思って。
●この作品は“これで奇跡を起こしていくぞ”という意志表明なんですね。また10月には東京・大阪で結成2周年を記念したワンマンがありますが、タイトルも初ライブから経った日数にちなんで、それぞれ“730-4”“730±0”になっていますよね。
ヤスキ:そうなんです! この3人でライブをするときは30分のステージが多いので、2時間でバンドがどう化けるのか楽しみです。
●ワンマンで何かやってみたいことはありますか?
ヒロキ:僕は「BECK」っていう音楽漫画が好きなんですけど、その中でメンバーが客席に向かってTシャツを投げ込むシーンがあるんですよ。それをやってみたいです。僕らのことを全然知らない人たちに渡っても“いらないなぁ…”って思われるかもしれないけど、ワンマンなら欲しがってくれる人がいるんじゃないかなと。
ヤスキ:それ、めっちゃ面白そう! ただライブをするんじゃなくて、面白い演出をしたくていろいろ考えているんですよ。いつもと違う特別な何かを出せたらいいなと思っています。
Interview:森下恭子