今年5月にシングル『ハルカヒカリ』をリリースし、ツアーを大成功させたラックライフ。人との出会いと繋がりを大切にし、バンドを一歩一歩前進させてきた彼らが、4枚目となるアルバム『正しい僕の作り方。』を完成させた。Vo./G.PONが紡ぐ人間味溢れる言葉と歌、エモーショナルかつきらびやかなバンドサウンドが一体となり、ライブハウスで得も言われない瞬間を作り出す彼らの最新アルバムは、バンドの9年間の歩みと想いがぎゅっと詰まった10曲が収録。そこには、たくさんの人たちから貰ってできた“ラックライフらしさ”が溢れている。
●このメンバーでバンドを始めて来年で10年とのことですが、バンドを始めて変わりました?
PON:めっちゃ変わりました。人としゃべれるようになりました。
●しゃべれなかったのか(笑)。
PON:というか、「しゃべろうと思わなかった」と言う方が正しいですかね。人に興味がなかったというか、友達だけでいいっていう。はじめましての人と普通にしゃべれなかったです。人見知りですね。
●それがバンドを始めて変わった?
PON:変わりましたね。まだ人見知りですけど、昔は打ち上げとか出たくなかったですもん。ウチのメンバーはドラムの大石以外みんなそんな感じだったんですけど。だからあいつ(大石)が居なかったら、僕ら全然ダメだったと思います。
●ライブのMCではいつもバカにしてるのに(笑)、大石くんは重要な役割を担っていると。
PON:そうなんです。あいつのおかげです。
●バンドを始めて人間的に変わってきたということは、今回のアルバムタイトルに表れていると思うんです。PONくんは以前のインタビューでも「ステージは唯一自分をありのまま出せる場所」と言っていましたけど、ラックライフでの経験が今の自分を形成しているという自覚があるのかなと。
PON:このタイトルは、リード曲のM-3「plain」を作っていたときに思いついたんです。もともと、「plain」は自分の両親に向けて書こうと思っていたんですよ。「plain」の歌詞に“誰かに貰った/大事な僕なら”とありますけど、最初は“あなたに貰った/大事な僕なら”としていたんです。でも、この曲を作っているときは“自分らしさって何やろうな?”と考えている時期だったんです。
●ほう。
PON:それで思ったんですけど、“自分らしさ”というのは本当はどこにも無くて、両親やじいちゃんばあちゃんにかわいがってもらって、近所には友達が居て、幼稚園や小学校には先生が居て、たくさん友達ができて、好きな子ができて…そういう自分の人生が進んでいくうちに、少しずつ色んな人からカケラをもらってPONという人間ができていったんやなって。
●なるほど。
PON:だから“自分らしさ”なんてもともと無かったんだなって。もしあったとしても少しだけで、その小さな“自分らしさ”にみんなから貰ったいろんなカケラがくっついて、今の自分ができていると気づいたんです。
●はい。
PON:そう思うと、今回のアルバムの他の曲たちも、そういうカケラを貰う瞬間だったり、カケラを渡す瞬間だったりを描いているなと。全部誰かに向けた曲だし。そう思ったら、自分はこういうことを感じながら今の自分になったんだと。だからアルバムタイトルを『正しい僕の作り方。』にしたんです。“正しい僕はこういう風に作られました”と。
●確かに今作の収録曲は、いろんな場面や出来事がモチーフになっていますけど、基本的に全部同じことを歌っているような気がして。
PON:そうなんです。だからね、タイトルなんてなんでもいいんですよ(笑)。今までリリースした作品も、全部同じといえば同じ。乱暴に言ってしまえば、どれがどのタイトルでもいいっていうか。僕らの音楽というか、僕の歌詞がそうなんですよね。全部同じで、人との繋がりを歌っている。
●なぜ“自分らしさって何だろう?”と考えていたんですか?
PON:他の人を見て“らしさ”ってわかるじゃないですか。でも自分の“らしさ”を考え始めたら、ずーっと同じ所をぐるぐるまわっているような感じなんです。“きっと俺の良さはここやし”と思っていても、しばらく経ったら“あれ? その良さって何やろ?”って、繰り返しのサイクルがずっと続いているんです。そういうサイクルの中で「plain」を作ったんですけど、みんなから貰った自分なら、少しは自信が持てるなって。
●ああ〜。
PON:俺だけの自分なら、何が良いのかもわからないし、どうやって生きていけばいいのかわからないけど、今まで出会ってきた人みんなから少しずつ貰ってできた自分なら、“あの人たちから貰った自分なら、俺は大丈夫や”と思える。
●それ、すごくいい発見ですよね。
PON:そうなんです。素敵なんです(笑)。僕たちは今まで周りの環境にすごく恵まれてきたんですよ。すごく素敵な人たちに出会ってきたから、そう考えたら自分もちょっと好きになれるなって。
●自分のことが嫌いなんですか?
PON:もともとめっちゃ嫌いやったんですよ。でもやっぱりステージに立つようになってから…人に認められてからですかね…自分で自分の判断はできないから、誰かに認めてもらってから“俺ってこれでいいんや。じゃあちょっと好きかも”みたいな。
●なぜ自分が嫌いだったんですか?
PON:別に誇れるものもないし、たいして何かが秀でているわけでもないし、普通の人やし、上手いこともできないし。あまり好きじゃないんですよね。でも誰かに認めてもらってから、僕の歌で人生が変わるような人も居るし、その人にとって自分がそういう風になれているのなら…っていう。
●音楽で聴いた人の人生が変わることはしばしばあることですけど、本当にすごいことだと思うんです。そもそもアーティストは“その人の人生を変えたい”という意図で曲を作っているわけではなく、自分を表現しているだけの音楽かもしれないのに、それが聴いた人の人生を変えることがある。それはすごいことだと思う。
PON:すごいことですよね。それに怯えたこともあるんです。音楽でその人の人生が変わるのは、良い方向に限った話ばかりじゃないだろうし。自分を追い込んでいるような歌詞を書いた曲があったんですけど、その曲を歌うことが怖くなってしまって。そういう時期もありました。
●それはどうやって乗り越えたんですか?
PON:“きっと大丈夫だ”と思ったんです。それ以上に俺がポジティブにさせてあげればいいんだって。
●なるほど。あとひとつ気になったんですけど、今作のM-2「sing man」では歌うことが題材になっていますけど、PONくんが歌うようになったのはいつ頃なんですか?
PON:歌うことが好きになったのは小学校4年生くらいです。もともと歌うことは好きだったんですけど、歌手になりたいと思うようになったのがその時期で。
●歌うことは、自分にとってどういうことなんですか?
PON:うーん、歌うことは歌うことでしかないかな。他の何にも例えられない。歌うことがいちばん好きですね。ライブとかだと、歌いながらすごく色んなことを思い出すこともあれば、何も考えずに真っ白になって歌うこともあるんですよね。
●ライブで歌うのと、レコーディングで歌うのは全然違うんですか?
PON:全然違いますね。レコーディングで歌うのはめっちゃ楽しい。人が書いた歌でもなんでも歌いたいんですよ。たぶん僕は“歌う”という行為が好きなんです。
●へぇ〜。
PON:バンドで自分の言葉で気持ちを込めて歌うことももちろん好きなんですけど、それ以前に“歌う”という行為が好きなんです。だから歌録りもめちゃくちゃ楽しいし、できるなら何本でも録りたい。レコーディングも「もういいよ」って言われるんですけど、「え? もう?」と思っちゃう。
●本当に歌うことが好きなんですね。今作の歌詞で描かれていることは、さっきおっしゃっていたように色んな人との出会いや繋がりが中心になっていますが、M-7「パラボラ」やM-10「フールズ」に象徴されるように、音楽的な振れ幅も印象的だったんです。特に「フールズ」はパーティー感のあるロックンロール的な雰囲気があって、今までにない曲調ですよね。
PON:「フールズ」は全部僕のアイディアなんです。イントロのギターリフをまず思いついて、そこから自分で“どうなるんやろうな?”と思いつつ鼻歌で歌っていたらサビまでできて。要はこれも鼻歌からなんですけど、なんとなく思いついたフレーズがきっかけなんですよね。
●ギターが印象的な「パラボラ」は?
PON:スタジオで、僕の横でイコマがめっちゃオシャレなコード進行を弾いてたんですよ。「それめっちゃいいな」って言ったら、イコマが「これ秦基博のコード進行」って。「それやろ!」って。
●ハハハ(笑)。「パラボラ」もそうなんですけど、今回のアルバムはギターの音色がすごく気持ちいいし、ギターのベースやリズムとの絡み方が気持ちいいんですよね。決して前に出てくるわけではないんですけど、キラキラしたギターが印象的なアルバムだなと。
PON:あの人、キラキラギタリストなんですよ。僕はどっちかというと暑苦しい感じの、ペンタトニックスケールでチョーキングしているようなソロがめっちゃ好きなんですよ。思いつくのも大体そんな感じで。曲を作っているとき、“ここでチョーキングが入ったらめっちゃ気持ちいいな”とか思いつつ、それはメンバーに言わずにデモを聴かせるんですね。
●はい。
PON:そしたらイコマは、まったく想像もつかなかったようなキラキラしたギターを弾き始めるんです。“そうきたか!”ってびっくりすることがよくあります。
●やっぱりバンドなんですね。決してワンマンバンドではなくて、メンバーそれぞれが表現している。控えめなんだけどベースもすごく主張してるし。
PON:アレンジはみんなでスタジオに入って、その時の感覚を形にしていく作業なんです。というか、僕らの曲作りは無茶振りなんですよ。歌メロを聴かせもせずに「こういう曲をやりたい」と言って、コード進行をメモってもらって「せーの!」でやる。だからどんなメロディが鳴るのかもみんなはわかってないんです。
●あ、そこまでか。
PON:とりあえず合わせて、1発目から歌ってみて、みんながどう乗っかってくるか。だから無茶振りなんです。
●そういう曲作りのときのセッション感がライブの爆発力に繋がっているのか。
PON:かもしれないですね。でもセッション感といえば、今回はM-5「僕と月の話」がすごく苦労して。この曲は「どれだけセッション感を抑えられるか」が勝負だったので。
●確かに。
PON:僕ら何かと全力でやっちゃうんですよ。我慢できないんです。でもこの曲は「抑えよう」と。いつも全力でやって、声もバーッと出していたからこそ、「僕と月の話」は不安になったんです。「こんなに熱を帯びなくてもいいの?」っていう。
●確かに「僕と月の話」はテンションが全然違いますよね。
PON:ひとりごとですよね。歌詞のまんまなんですけど、安威川(PONの地元を流れる川/PONの原点)で月を見ながら、思ったことをポロポロと。その場で思ったことをただ歌にしただけなんですけど、その感じがすごく上手く形になったなと。
●ライブで盛り上がるとか、曲としての答えをハッキリ出すとか、メッセージを込める、とかではなくて、そのときの感情をそのまま形にした曲。
PON:そうです。すごく言葉が届く曲になったなと。それこそ“歌”というより“言葉”。歌うというよりしゃべることに近い感覚。無理してないんです。
●確かに無理してない。
PON:「ワーッ!!」って騒ぐのって、ちょっと無理をするというか、ちょっとネジが外れたときに生まれるテンションじゃないですか。そうじゃなくて、日常のPONらしい曲になったんじゃないかなと思います。
●そういう意味では、M-1「雨空」も普段のPONくんの想いが表現されている曲ですよね。この曲でアルバムが幕を開けるというのはちょっと意外だったんですけど。
PON:アルバム1曲目からいきなり雨が降ってますからね(笑)。地元の道路沿いをチャリを押して歩いていたときがあったんですけど、雨が止んで太陽の光が射して、パッと下を向いたら水たまりがあって…歌詞のまんまなんですね(笑)。自分的にはすごく異質な歌詞なんですよ。すごくボヤッとしているけど、景色は見えるっていう。
●明確に答えを出している曲ではないけど、答えに繋がる情景が描かれているというか。
PON:そうですね。答えを出さなくてもいいと思えたというか、それもアリやなと思ったんです。挫けそうなときに聴いてもらえたらなって。
●「自分的にはすごく異質な歌詞」とおっしゃいましたけど、今まではこういう歌詞はナシだと思っていたんですか?
PON:書こうと思わなかったです。こういう歌詞は“何が言いたいねん!”と思っちゃうタイプなんですけど、でもそういう中間色な感情も受け入れることができたというか。サウンドはラックライフっぽいんですけど、でも歌詞はラックライフっぽくなくて。
●あとシングルでリリースしたM-9「ハルカヒカリ」がアルバムに入ることで、改めてこの曲の強さみたいなものを実感できたんですよね。「ハルカヒカリ」では“誰もが小さな闇を抱えて生きているんじゃないか”と歌っていますけど、この曲で歌っていることがアルバムの他の曲に繋がっている。
PON:そうですね。それは僕もめっちゃ思いました。5月に「ハルカヒカリ」をシングルで出して、レコ発をやって。どの曲もそうなんですけど、作ったときと、ツアーが終わったときとでは曲の年齢が変わるっていうか、曲についての思い出が増えるんですよね。特に「ハルカヒカリ」は、僕も曲も成長できた実感があったんです。シングルのツアーは、その過程がすごく大事だったなという実感があって。
●ああ〜。
PON:人の目を見て歌うこととか、自分の想いをさらけ出して歌うことって、こんなに大切なことだったんだなと。そういう意味でも、この曲の意味みたいなものが、アルバムに入ることによってよりハッキリしたなって。
●なるほど。
PON:この曲はライブハウスで出会った人たち1人1人に向けて書いたんですけど、ライブで演ったらすごくいい雰囲気になるんですよね。“音楽ってすごいな〜”と自分ながら思って。この曲の後半はメンバーみんなで歌うところがありますけど、いつかお客さんとも一緒に歌うことができたらいいなと思っていて。合唱コンクールばりの気持ちで歌ってもらえたらなって。いつかそうなるのを夢見てます。
●リリース後の東名阪ワンマンツアーが楽しみになるアルバムができましたね。
PON:すごく楽しみです。いいアルバムができたから、このツアーはお客さんにも自分にも、ちゃんと向き合えるライブにしたいですね。
interview:Takeshi.Yamanaka