たくさんの経験とタフなマインドをライブハウスで培ってきたギターロックバンドが、待望の1stフルアルバムを完成させた。天性のセンスとピュアな感性を持つフロントマン・河内健悟は更に自由になり、バンドのアンサンブルは更に強固かつ柔軟性を高めた。心を真っ裸にした感情が溢れる歌、想いを増幅させるメロディ、オーディエンスのロック魂を否が応でも掻き立てる強固かつ変幻自在なアンサンブル。心臓をギュッと鷲掴みにして離さない、ircleの“愛”が詰まった中毒性の高い12曲。
●フルアルバムってよく考えたら初めてなんですよね。
4人:そうなんです。
仲道:結成14年にして初のフルアルバムです。
●ということは「待望の」というか、やっぱりかける想いは強かった?
ショウダ:そうですね。
河内:4月にリリースしたシングル『失敗作』と同じくらいの時期から準備をはじめたんです。去年の末くらいからかな。
ショウダ:でも1stフルアルバムといっても、特にテーマを決めていたわけではないんです。『失敗作』も同じなんですけど、曲ごとのテーマを作って、今までのircleのリード曲をもっとパワーアップさせたようなものを作ろうっていう。
●一球入魂で。
ショウダ:それで1曲ずつ仕上げていって、ある程度全体像が見えてからは振れ幅を意識したこともありましたけど。
●今回のアルバム『iしかないとか』を聴いたとき、ircleの今までの成長が全部詰まっていると感じたんです。例えば以前のインタビューで伊井くんがライブについて「そのキャパよりももっと先まで音を届けることができたと実感するライブが理想だ」と言っていましたけど、まさに今作はアンサンブルが持つエネルギーが強靭で、どこまでも届くようなインパクトがある。更に河内くんは「感情移入できないと歌いたくない」と以前言っていましたけど、今作は楽曲の中で河内くんが伸び伸びと歌っていて、“河内健悟”という人間の爆発力をひしひしと感じるんですよね。
4人:うんうん。
●それに、良くんはもともと自己主張の強いギタリストだったという話を以前聞きましたけど、今作のギターは良くんの個性も上手く活かしつつ、同時に楽曲としての完成度を高めた感があるんです。ヴォーカルもギターもすごく目立つし、フレーズ1つ1つの強度が高いんだけど、それ以上に楽曲としての完成度が高いというか。ircleというバンドの個性が確立して、バンドが持ついろんな個性がぎゅっとパッケージされた作品になっているような気がするんですよね。
ショウダ:その通り過ぎて何も言うことがないですね。
河内:うん。その通りだと思います。
●じゃあインタビュー終わりましょうか。
河内:作品作りに於いて、そういうことを固めようと思ったからなのか、環境が整ったからなのか、みんなのテンションが高まったからなのかはわかんないですけど、非常に明確に1曲1曲ちゃんと作れたんです。プリプロの段階でいろんなことが変わったりもしたんですけど、それが良かったのかな。
●曲を固めていく作業の中で、自分たち自身の個性を再確認できた?
河内:そうですね。何回も聴き直すことが今回から増えたんですよ。自分が作ったフレーズだったり歌い方だったり。だからバンドの中で“ここにいたらおもしろい”とか“ここに居なきゃだめだ”みたいな、それぞれの割り振りがレコーディングまでにできたんじゃないかな。
●録るまでにじっくり詰めることができたんでしょうか。
ショウダ:プリプロが大きかったですね。実は、僕たちまともなプリプロは今までやっていなかったんです。
●え? そうなんですか?
河内:そういう意味で「環境が整った」と言ったんです。
●そういうことか。
ショウダ:だからそこでガシっと整理できた。ドラムも、曲の全体を見据えた上で録ることができたから。やっぱり全然違いますね。
●全然違ったんですか(笑)。
河内:プリプロなんて結構普通の話だと思うんですけどね(笑)。我々にとっては新鮮でした。
ショウダ:今までは想像しながら叩かなきゃいけなかったんですけど、今回は自分のドラムを練習してから録る、という。
伊井:確かにしっかりと時間をかけてできたよね。“生”っぽいところをレコーディングで活かしつつ、理想としていた作品になったというか。
ショウダ:今までは作品としてのテーマがあったので、いい意味でも悪い意味でも“今作はこういうテーマだから”と思って作るところがあったんです。でも今回は、1曲1曲に対してとことん追求したというか、それぞれの曲が持つベクトルを鋭くすることに主眼を置いたアレンジだったんです。だから各々の個性もちゃんと立った上で、曲としてインパクトのあるものになったんじゃないかと思います。
●なるほど。今回のリード曲はM-2「ノーリタイア」ということですが、この曲はircleがもつ変態性が出ている楽曲ですよね。ギラギラしていて、ircleの中でも決してストレートな部類ではない。河内くんによる作詞/作曲とのことですが。
河内:わけがわかんない感じでできました。ただ言葉を羅列しているだけですからね。
仲道:プリプロの後半に持ってきた曲なんですけど、きっと頭の中がしっちゃかめっちゃかだったんだと思います(笑)。
河内:サビがもともとあったんですよ。でもそこに繋がるような言葉が思い浮かばないから、別に繋げなくてもいいやと思って。
●この曲はircleの象徴のような曲だと思うんですが、河内健悟というヴォーカリストは感情がダダ漏れするところが魅力だと思っていて、その魅力が詰まっていますよね。聴いたとき、“なんだこれ”と思った。理解できない迫力がある。
河内:でも歌っている内容的にはすごく日常的だと思うんですけどね。
●は? どこが?
一同:ハハハハハ(笑)。
ショウダ:彼の基準では日常なんです(笑)。
河内:俺的にはM-6「負け犬のホームラン」の方が奇抜だと思ってるんですけど。
●いやいや、「負け犬のホームラン」は奇抜というより、コンセプチュアルという意味での珍しさだと思うんです。
河内:ああ〜、そうですね。
●対して「ノーリタイア」は精神的にいちばん尖っているというか、いちばん鋭い。だって歌詞の中で“こんな事唄いたいんじゃねーわ”って言ってますからね。
河内:書きながら“もういいやろ”ってなっちゃったんです(笑)。
●さっき言ったように、河内くんが持つ爆発力はそこだと思うんです。飾らずにありのままの感情をぶちまけたときの迫力。
ショウダ:思っててもそういうことを歌わないのが普通の人間かもしれないけど、河内の場合はそのままぶちまけるという。
●「ノーリタイア」をリード曲にしたのは?
ショウダ:全部録り終わってから決めたんですけど、最初はM-1「ライター」がリード曲の候補だったんです。聴いてもらったらわかりますけど、「ライター」はircleっぽい曲で。
●そうですね。
ショウダ:でも全曲を通して聴いたとき、いちばん耳に引っかかるのが「ノーリタイア」だったんです。やっぱりインパクトを与えたかったというのもあって。
●「ノーリタイア」はインパクトのある言葉が多くて、“泥棒は理解できるけど/殺人は理解できない”とかかなり尖った表現も多いですけど、でも根底にはリアリティがあると感じるんです。
河内:そのときに思ったことをありのまま出した感じですね。別に怒っているわけじゃなくて、自分がワーッとなっているだけの状態を肯定したというか。
●でもircleの歌詞で描かれるそういった精神性が、サウンドの爆発力とリンクしていて。その精神性とサウンドの親和性が今作は今まで以上に高いと感じるんです。
河内:確かにそうかもしれないですね。メンバーは同世代だし、個人的な想いがバンドのメッセージになっているというか。俺、ずっと弱虫の味方でありたいと思ってきて。このメンバーでずっと一緒に過ごしてるし、俺が書いた歌詞に対して“こういう方向でしょ”みたいなアレンジのベクトルが、今作では自然に出てきたんじゃないかな。それがマイナスなのかプラスなのかはわからないけど(笑)。
●一方でちょっとミドルなM-11「優」とかは、先ほど河内くんがおっしゃっていた「弱虫の味方でいたい」というマインドがいちばん色濃くストレートに出ていますよね。
河内:「優」は、実は結構昔からある曲なんです。もともとはアコースティックのアレンジで、それをバンドアレンジにしてライブでしかやっていなかったんです。最初は良がサビのメロディを持ってきて、その後に震災が起きたときに俺が書き足したんです。
●この曲、ベースとドラムのアレンジが素晴らしいですよね。
ショウダ:苦労しました。震災後、ライブが自粛モードになったじゃないですか。その頃にアンプラグドのイベントで河内がやっていて。すごくいい曲なんですけど、いかんせん長いんですよね。それをバンドアレンジにしたとき、どうにか冗長にならずに聴かせたいなと思って。
伊井:想定内のベタなバラードになってしまったら眠いだけじゃないですか。だったら場面展開を作って、1番と2番をガチッと分けた方がいいかなと思ったんです。それにガッツリとバンドのアレンジにしても、河内の声は負けないだろうなと思ったので、全員がフルテンでやっているミドルにした方が映えるなと。そういうイメージでアレンジしたんです。
●それってライブハウスで培ってきた感覚ですよね。
ショウダ:そうですね。音源を作る上でも必ずそこは意識しているというか。ライブでやらない曲って俺たちはあまり作らないかもしれないんですけど、ライブを基準にして、どういう展開でどれくらいの尺にしたらおもしろいか、みたいな視点で作ることが多いです。
●なるほど。あと今作の特徴として、コーラスが多いですよね。M-5「GO」もそうだし、M-12「地球が生まれた日」なんかは“これ誰が歌ってるんだろう?”とびっくりして。
河内:「地球が生まれた日」のコーラスは、レコーディングは俺が歌ったんですけど、ライブでは3人に歌ってもらおうかなと。
ショウダ:コーラスも、やっぱりプリプロが大きかったんです。今まではレコーディング当日にその場で「じゃあコーラス入れてみようか」とやっていたけど、今回はプリプロの段階で固めることができたんです。
●曲の完成度という部分でコーラスも満足いくものができたと。あとアレンジでいいなと思ったのがM-7「ウイスキーグラス」なんです。ギターとベースの絡みがたまんない。
伊井:「ウイスキーグラス」は表現に苦労しました。
仲道:急に老けますからね。
●そうそう(笑)。「負け犬のホームラン」で高校野球のこと歌ってると思ったら、次の曲で急にウイスキーグラス片手に黄昏れているという(笑)。すごく雰囲気のある曲で。
伊井:最近は俺、こういう感じの曲が好きなんですよね。“フルアルバムだったらこういう曲があってもおもしろいかな?” というアイディアで作り始めたんですけど、なかなかニュアンスが難しくて。ガシガシとしかやったことがなかったので、引き算の部分で難しかった。引くというか、ベースでリズムを作りつつ、メロディも作るっていう。
●色々と話を聞いてきましたけど、フルアルバムということもあって、ircleというバンドが持ついろんな個性と、今まで培ってきたものが全部詰まっている作品になったんですね。
4人:そうですね。
●リリース直後から約2ヶ月にわたってツアーが控えていますが、ライブが真骨頂のircleからすると今回のツアーは楽しみですね。何しろ新曲がたくさんあるから、今までの経験を踏まえつつ、新しい側面も観ることができるだろうし。
河内:緊張感ありますね。今回はたくさんいい曲が入ったアルバムになったと思うので、今までよりたくさんの人に聴いてほしいです。
伊井:レコ発からファイナルまで、きっとライブの雰囲気も変わっていくと思うんです。そこも見どころだと思うし、それが自分自身楽しみですね。
●ケイトくんはどういうツアーにしたいですか?
ショウダ:今までは音源を超えるライブが想定できていたんですけど、今回のアルバムはライブ感を込めることもできたし、かつサウンド面でもすごくいい1枚ができちゃったので、ツアーに対する期待値も上がっていると思うんです。
●うん。ライブ行きたくなるもん。
ショウダ:だから1本1本、その期待値を超えるライブにしたいですね。
●良くんは?
仲道:アルバムで幅を出せた分、ライブでどうなるか自分たち自身でもまだ想像がついていないんです。でも今までよりももっと、音楽的にも楽しいライブができる予感があるというか。自分自身もそうだし、お客さんも今まで楽しいだろうなと想像していて。1本1本のライブをやっていく中で、過去のライブが自分たちとっていいプレッシャーになるようなツアーにしたいですね。それくらい、集中して、ファイナルに向かって行けたらいいなと思います。
interview:Takeshi.Yamanaka