男女ツインヴォーカルの美しいハーモニー、ノスタルジックなメロディと熱くて繊細なサウンド。2002年結成以来、様々な音楽要素を昇華し、唯一無二の音像を描き続けてきたwinnie。結成10周年を迎えた2012年、シングル『Forget me not』をリリースしてツアーを大成功させた彼らが、彼らの真骨頂といえる美メロかつキャッチーな表題曲のシングル『Crash and Burn』、そして約3年半ぶりとなる待望のアルバム『Nostalgic Evolution』を完成させた。ロックの初期衝動と美学が詰め込まれた今作は、まさに彼らにしか作り得ない2014年の名盤。作曲を担当するokuji、作詞を担当するioriに、今作に込めた想いと音楽に対するモチベーションについて訊いた。
●2012年2月にリリースしたシングル『Forget me not』のツアーファイナルを拝見したんですけど、あのライブはすごくよかった印象があって。ツアーが終わってから今作に至るまではどういう感じだったんですか?
okuji:あのタイミングは結成10周年記念でもあったんですよね。で、あのツアーが終わった後は新曲を作りつつ、バンドを見直したんですよね。
●見つめ直した?
okuji:ツアーの反省点も含め、次に進むためにバンドの根本的な部分とも向き合ったというか。それが俺の中では大きかったというか、やることの真ん中にあった。と言っても、いつもそういう感じではあるんです。制作してリリースしてツアーして、また見直すっていう。でも今回は、ずーっと気になっていたところを根本的な部分から強固にしないといけないなっていう。だから今までよりもちょっと重いというか。
●10周年を経て、バンドとしてより強くなろうと。
okuji:そうですね。メンタル的なところも含めて、ずっと気になっていたところをちゃんとしたかったんです。“もっとできるんじゃないか”と前から思っていて。
●なるほど。
okuji:新曲がポンポンできてすぐに作品をリリースしていたらバンドのモチベーションがそこに集中するからまた違ったかもしれないけど、俺は曲がなかなかできないということも重なったりして(笑)。だからツアー以降、今作に至るまでは精神的にけっこうキツかったかも。
●そうだったんですね。そういう経緯を経てリリースされるシングルとアルバムについて、7月号ではお二人にライナーノーツを書いていただきましたよね。その内容がすごく興味深くて。
okuji:なに書きましたっけ?
●okujiさんは「ノスタルジーは浸るものではなく、俺の場合は音楽をやるモチベーションとなっている」と書かれていて、ioriさんは「winnieといえば“さわやか”と形容されることが多々ありますが、私の捉え方は全く以て真逆、陰に籠り悲しさと切なさの入り交じった否定感満載」と書かれていたんです。
iori:ああ〜、そうでしたね。
●それは今作だけじゃなくて、winnieというバンドの音楽を紐解く核になる部分なのかなと思ったんです。
okuji:俺は最近そのことを自覚したんですよね。「ノスタルジーが音楽のモチベーションになっている」って。今回のアルバムタイトル『Nostalgic Evolution』という言葉を思いついたときに思ったんですけど、音楽を聴いてノスタルジーに浸ることっていっぱいあるじゃないですか。言ってみれば、新譜以外は全部そうじゃないですか。
●確かに。
okuji:それは「懐古主義だ」と言われるかもしれないけど、“懐古主義”ってすごく否定的な見方じゃないですか。でも俺は“そんなにダメなことなのかな?”と思うんです。昔のCDとかでも、買ったらそれは自分にとっての新譜じゃないですか。今の最先端のCDとは全然違わない。更に俺は自分で曲を作っているから、ノスタルジーに浸ったとしてもその気持ちを自分で表現できるんですよね。それって懐古主義(Nostalgie)じゃなくて進化(Evolution)じゃん、と思って。
●okujiさんにとって、ノスタルジーが音楽を作るエネルギーになっている。
okuji:そうですね。俺は89年のハードロックがすごく好きなんです。ロックを聴き始めたときのマジックってあるじゃないですか。俺はその1年のハードロックのCDが全部欲しいんです。世界中の。それくらいモチベーションになっている。
●その89年に受けた衝撃に負けないくらい強烈なものを今のwinnieで表現したいということ?
okuji:そう。2014年バージョンとして。あのときに受けた衝撃と、自分が今まで培ってきたものを融合させた音楽を作りたい。
●その「融合させたい」というところがwinnieの場合は重要な気がするんです。ノスタルジーが原動力になっているとはいえ、古臭さをまったく感じない。というか、時代に左右されない普遍性みたいなものを追求している印象があるんです。okujiさんが衝撃を受けたハードロックやメタルの要素はもちろんルーツとして入っていますけど、でもそれはあくまで味付けであってメインではない。今作のギターソロなんて、すごく潔く終わってるし。
okuji:そうそう(笑)。技術的な部分でもあれくらいが限界なんですよ。結局は自分のできる範囲でしかできないということはわかっているつもりだから、その範囲の限界まではやりたいんです。それでできたものにメタル感があったりするのは自然なことだし、逆に「言うほどメタル感ないでしょ?」ということも言いたい。
●曲を作るのはノスタルジーの昇華と自分の限界への挑戦というか。
okuji:更に、ioriが歌う前提とか、このメンバーでライブで表現する前提とかが条件として入ってくるんですよね。それは縛りみたいなことかもしれないけど、そういう前提条件がプラスされるのは、作っていてすごくおもしろいんです。
●その話に関連して、今回のアルバム『Nostalgic Evolution』を聴いていてすごく思ったんですけど、ioriさんのヴォーカルじゃないと絶対に成り立たない音楽なんですよね。それはヴォーカルだけじゃなくて、okujiさん発信のメタルやハードロックの要素とか、メンバーのいろんな背景が混り合って1つの表現になっている。それが“winnieらしさ”になっている気がするんです。ノスタルジックですけど古臭く感じないのもそうだろうし。だからwinnieをひと言で説明するのは難しいんです。「ガールズヴォーカルのバンド」というのもなんかピンとこないし、かといってメタルバンドでもないし、ギターロックとも違うし。winnieはwinnieでしかないというか。
okuji:そうですね。でも、そういうのがやりたいよな。
iori:うん。
●さっき「曲がなかなかできなかった」とおっしゃっていましたが、今作の曲作りも難航したんですか?
okuji:はい。曲を作るということはずーっと頭の中にあるんですよ。頭の中の作業だけで終わってギターを持つまでに辿り着かないこともあれば、ギターを持って「違うな」となることもあるし、録ってみてもピンとこないケースもいっぱいあったし。俺は最初、iPhoneのボイスメモで弾き語り+鼻歌でネタを録るんですけど、後から聴かないくらいのネタもいっぱいあるんです。俺の場合、そういう作業自体も曲作りに含まれるんですけど。
●そんな状態の中、アルバムの突破口になった曲はあるんですか?
okuji:できない時期が続いて悩んでいたんですよ。そんなときに、レーベルから某アイドルへの楽曲提供の話が来たんです。「やってみる?」と言われて「やります」って。それで書いたら…すぐ3曲できたんです。
●え? 今まで全然できなかったのに?
iori:フフフ(笑)。すごいでしょ(笑)。
●他人事だったらできたと。
okuji:そうなんですよ。3曲できてioriに聴かせたら、その中の1曲について「この曲は提供するな」って言われたんですよ。「これはwinnieの曲にしなきゃダメだ」って。それがM-2「over the world」なんです。
●え? マジですか。「over the world」はめっちゃwinnieらしい曲だと思ったんですけど。
okuji:そうですね。あ、でも3曲とも全然アイドルっぽくないというか、自分たちの曲にしようと思って作ったわけじゃないんですけど、でも変にアイドルに寄せたわけでもなくて。要するに、曲ができなかったのは精神的な問題だったんです(笑)。
iori:その3曲ができたとき、すごくスッキリした顔で「達成感がある!」と言ってました(笑)。
●「これ風邪薬ですよ」と言われてビタミン剤を飲んだら風邪が治ってしまったという話と同じですね。精神的な問題。
okuji:そうですね(笑)。ちょっと気持ちの角度を変えたらできた。それではっきりしたというか、自分がわかったんです。それが今作の突破口になりました。
iori:それまではみんなが“いつできるんだろう?”と思いながらも、okujiには誰も何も言えないっていう。「曲どうなってるの?」とも言えないし、たまに言うと逆ギレするし(笑)。
●腫れ物を触るみたいな(笑)。完全にメンタルが問題だ(笑)。
okuji:今回、自分を知ることができてよかったです。
●ハハハ(笑)。M-1「Crash and Burn」が先行シングルになっていますけど、この曲名はすごくokujiさんらしいと思ったんです。
okuji:やっぱりそうですよね。俺が好きなアーティストで同じタイトルの曲があったりするんですけど、オマージュっていうか。それに、歌詞はioriが書いているんですけど、俺が曲を作る段階の鼻歌で“Crash and Burn”と歌っていたので、それをそのまま採用したというか。
●でもちょっと調べてみたんですけど、“Crash and Burn”には“取り返しのつかない大失敗”という意味もあるらしいですね。
okuji:あ、そうなんですか?
●知らなかったんか(笑)。“Crash and Burn”は直訳的にはすごくokujiさんぽいけど、でもその意味や歌詞の内容はioriさんらしくて、それがすごくおもしろいと思ったんです。
iori:okujiが曲を作ってきたときに“Crash and Burn”というフレーズがあって、そこから自分なりに膨らませたんです。
●この曲だけじゃなくて他の曲の歌詞も、すごく豊かな表現が多くて。日本語訳が付いているわけじゃないですけど、曲を聴きながら歌詞の意味を読み解くのがすごく楽しいアルバムだったんです。
iori:おお〜。そう思ってもらえると嬉しいですね。
●ioriさんのライナーノーツには「陰に籠り悲しさと切なさの入り交じった否定感満載」と書いてありましたけど、単にネガティブなことを歌っているわけじゃなくて、すごく味わい深い。比喩表現も多いですよね。
iori:詩的なんだろうなとは思います。okujiのデモの段階で言葉が入っていることもあるし、「こういう言い方は嫌だ」とか「歌いにくい」と言われることもあるから、それを全部満たした上で自分なりの表現にすることにすごく時間がかかるんです。
●なるほど。縛りがいっぱいある。
okuji:英語詞を見てもらっているアドバイザーがいるんですけど、その人が「その縛りがすごくいい」って言ってたよ。「その段階でキャッチーになってる」って。
iori:あ、そうなの?
●ライナーノーツで書かれていたように、ioriさんが歌詞で表現したいことはずっとブレていないんですか?
iori:はい。ずっと同じようなことを歌っています。「がんばろう!」とか「楽しい!」みたいなものは好きじゃないんですよ(笑)。
●その言葉だけ聞くとネガティブに受け取られるかもしれないですけど、でも喜怒哀楽の“哀”の部分を愛でているようなioriさんの歌詞はすごく味わい深いし、サウンドが持っているノスタルジー感にも繋がっている気がして。
iori:聴くのも悲しい曲が好きなんですよね。やっぱり切ない曲とかが好きだし、歌詞も暗いものが好き。だから意識してそういう表現をしているというより、自然にそうなっちゃうんですよね。
●例えばM-9「refrain」という曲がありますけど、“refrain”という言葉は音楽的には“繰り返し”という意味で使われることが多いじゃないですか。でも調べてみると、“refrain”には“断つ”とか“強い意志で気持ちを抑える”という意味があるらしくて。それをこの曲の歌詞に当てはめてみたら、曲が持っていたイメージが倍増されるというか。そういうおもしろさがすごくある。
iori:ありがとうございます(笑)。
●だからさっき「好み」とおっしゃいましたけど、実はioriさんなりの美学がすごくあるんじゃないかなと。
iori:私、「これ何のことを歌ってるの?」とか歌詞の内容を訊かれるのがいちばん嫌なんですよ。“もう訊かんといて”って思う。だって説明できひんもん(笑)。こないだ「Crash and Burn」のPVを撮っているときもみんなから「この歌詞どういう意味なんですか?」って訊かれてめっちゃ嫌やったんです。メイクさんからも「どういう意味なんですか?」って訊かれて、「はぁ(笑)」って逃げました(笑)。
一同:アハハハハハハ(爆笑)。
●説明できないというか、きっと本心は“アーティスト自身が歌詞を説明するのは野暮だ”と思っているんでしょうね。だから説明するのが嫌なんだと思う。
iori:はぁ(笑)。
●あ、逃げられた。
okuji:俺的には歌詞の内容は重要ではなくて、例えばM-4「dreaming dreaming」とかは“dreaming dreaming”というフレーズだけですげぇいいですもん。そういうもんなんですよ。俺、別に歌詞とかじゃないから。
●そうなのか(笑)。「dreaming dreaming」なんて、タイトルから受け取るニュアンスと、歌詞の内容とのギャップがたまらないと思うんですけどね。タイトルからはすごくキラキラしたイメージを受けるけど、歌詞の内容を見ると喪失感しかないという。この喪失感とかすごく好きです。
iori:そうなんですよ(笑)。ギャップが好きなんです。たまんない。
●ですよね。たまらない。
okuji:そうなんですか? 俺は全然わかんないけど。
●おもしろいバンドだな(笑)。
interview:Takeshi.Yamanaka