中学校の同級生を中心に2007年に結成された滋賀県出身の4人組バンド、ウルトラタワーがメジャーデビューを果たす。平成生まれの若者たちならではの焦燥感と夢を綴った歌詞は、J-POPを基盤としたキャッチーなメロディと共にたくさんの共感を呼ぶものだろう。だが普遍性を持ちながらも、どこか異質な感覚を秘めているのも彼らの楽曲が持つ大きな魅力だ。そんな独自のポップセンスと伸びやかなバンドサウンドが、今回のデビューミニアルバム『太陽と月の塔』では遺憾なく発揮されている。メンバー4人が語る、人生初インタビュー。
●2007年結成ということですが、メンバー同士の付き合いはかなり長い?
大濱:中学3年の時から一緒にバンドをやっています。
平柿:7月末で結成から7年になりますね。
●男性メンバー3人は同級生なんですよね。
大濱:この3人は中学・高校と一緒だったんですけど、他にも何人か加えて中学校の学園祭に出るために前身バンドを組んだのがキッカケでした。そのバンドが終わった後に、竹内を誘って結成してから今までずっとこの4人で活動を続けています。
●竹内さんはどういう経緯で加入したんですか?
大濱:たまたまメンバーを探している時に、竹内がドラムをやっていると聞いて。家も近所やったので、練習にも集まりやすいなと思って誘いました(笑)。
竹内:近所に住んでいるので、元から顔見知りではあったんですよ。
●前身バンドでは別のドラマーがいたと。
大濱:そのバンドではドラムの他にギターも2人いて、6人編成だったんです。僕も含めて、ギターは全部で4人いましたね(笑)。
●ギターが4本のバンドって(笑)。
大濱:当時、僕はギターをたくさん重ねたいと思っていたんですよ。BUMP OF CHICKENはギターを何重にも重ねて、ちょっと変わった音色を出していたりするので、そこに影響を受けた部分はあるかな。
●学園祭では何を演奏したんですか?
大濱:スピッツとBUMP OF CHICKENの曲をカバーしました。
●音楽的なルーツはそのあたりなんでしょうか?
大濱:元々はJ-POPをずっと聴いていたんですけど、小学校の頃にスピッツを初めて聴いた時に“何か違う”感がすごくあったんです。そこから音楽にもどんどんハマっていったし、ギターを始めたのもスピッツを聴いてからで。今の僕らにもつながる部分なんですけど、スピッツの持つシンプルさと“何か違う”感は今でもテーマになっていますね。
●根本になっているルーツはJ-POP?
大濱:そうですね。今では色々と聴くようになって、昔の洋楽やインディーロックから現代音楽まで聴いたりしていて。そういう新たなものを吸収しつつも結局、自分から出てくるのはポップなメロディやわかりやすいものなんです。そこは思春期にJ-POPやスピッツを聴いてきた中で、染み込んでいるんだと思います。
●他のメンバーもルーツになっているものは近い?
寺内:中学生になって聴き始めた当初の音楽が共通しているから、ルーツ的にはほとんど一緒じゃないかな。
平柿:そこから音楽を続けていく内に、それぞれに好みは変わってきていて。でも根本のルーツにはスピッツやBUMP OF CHICKENがあって、そこはみんな一緒ですね。
竹内:私もそのあたりは一緒です。
●やりたい音楽のイメージも共有していた?
平柿:その当時からやりたい音楽のイメージが固まっていたわけではないと思うんですけど、根本のルーツは同じなので大濱が書く曲は良いなと思っていました。そこから活動を続けていく内に、今の音楽性になっていった感じですね。
●ボーカルの大濱くんが作曲をして、ギターの寺内くんが作詞を担当しているのが面白いなと思いました。
寺内:最初からずっとこの形ですね。中学校の時に作詞ブームみたいなものが、友だちの間で起こって。(インターネットの)掲示板にそれぞれ自分で書いた歌詞を投稿して、評価し合ったりしていたんですよ。そこに僕が載せていた歌詞を大濱が気に入って、曲を付け始めたのが始まりなんです。
●大濱くんは自分で歌詞を書いたりしない?
大濱:最初は歌詞を書くということ自体にあまり興味がなかったんです。寺内の書く歌詞が個性的でカッコ良いと思うので、ずっとそれに曲を付けていて。でもやっぱり自分で書く必要もあるなと思った時期もあって、実際にやってみたんですけど…。
寺内:大濱の書く歌詞はめっちゃ暗いんですよ(笑)。
●暗いんだ(笑)。
大濱:絶望を歌っている感じというか…(笑)。歌詞を書きたくなる時って、やっぱり感情がどちらかに偏っている時だから。基本的に僕は感情が下向きになっていることが多いので、そういうのが歌詞にも出てしまうんです。でもいつかは発表したいと思っているので、歌詞を書くチャレンジはずっとしています。
●寺内くんはどういう意識で歌詞を書いているんですか?
寺内:僕は昔から本が好きでよく読んでいたから、他の人よりも上手に歌詞が書けたんだと思うんですよ。でも最近は映画にどっぷりハマっているので、情景が浮かんでくるような映像的な歌詞を意識していますね。映画をたくさん見たり、出かけた先で見た景色をずっと覚えておいて、そこに自分の伝えたい想いを混ぜていくという感じです。
●情景を喚起する歌詞になっている。
寺内:情景が浮かぶことによって、そのイメージや状況に近しい人たちが入ってきやすくなると思うから。歌詞のストーリーで自分の言いたいことは伝えるようにしているんですけど、今の自分自身の状況から色々と受け取ってもらいたいなというのがあって。同じような状況にいる人たちにもっと寄り添えるように、という想いで書いています。
大濱:僕自身も個人的に知っている人を思い浮かべて歌っていたりもするんですけど、やっぱり情景が浮かびやすいので歌いやすいというか。歌っている時は、歌詞の情景を思い浮かべていることが多いですね。それは曲を作る時にもちょっと関係していたりして。たとえばM-1「ハロー」は最初にサビの“ハローハロー 今、僕らは”という歌詞が寺内から送られてきた時に、メロディがすぐに浮かんだんです。その歌詞から前へ前へと進んでいく様子が見えたので、それに合わせてどんどん上がっていくメロディを作りました。
●その「ハロー」とM-5「さよなら」は自主制作盤に入っていますが、それ以外は新曲?
大濱:M-6「暇な夜、雨が降る」も結構前にできていて。M-2「RUBY SPARKS」とM-4「星降る街」は今作をリリースするにあたって作りました。僕はアップテンポな曲を作るのが苦手で、納得いくものがなかなかできなかったんです。でも今回、プロデューサーの竹内修さんと一緒に作れたので、上手く形にできたというか。
●竹内修さんと一緒に作業したことも、自分たちの中では大きかった?
大濱:そうですね。竹内さんはスピッツのディレクターをやられていることもあって、最初に会って話させてもらった時点で僕は信頼度が100%になって(笑)。「この人と一緒なら絶対に良いものができる」と思いました。そこからデモを送って感想をもらって、というのを繰り返す中でできたのが「RUBY SPARKS」と「星降る街」なんです。
●竹内さんの意見を取り入れながら、一緒に作っていったと。
大濱:「星降る街」は最初あまりにも形にできなさすぎて…。サビだけを20曲分くらい作った中で、竹内さんが見出して下さったものから広げていったんです。竹内さんがいなかったら、できていない曲ですね。
●「RUBY SPARKS」は今作のリード曲ですが、どうやって作ったんですか?
大濱:この曲はリード曲を作ろうということで、スタジオに入っていた期間にできた曲ですね。ギターで作るのが嫌になってきて、ピアノを適当に弾きながら作っていて。サビの冒頭のメロディが浮かんだ時に、「これは良いんじゃないか」と思ったんです。
●歌詞はどういうイメージで?
寺内:この曲はメロディが先にあったんですけど、今までにないくらいポップな曲やなと思って。ここまでポップなメロディなら歌詞もポップにしてみようというテーマの下で、サビの“乙女”という1つの大きなワードが浮かんだんです。あと、実は『RUBY SPARKS』という同名の映画があるんですよ。それをちょうど観た直後くらいだったので、その映画のイメージにもすごく合うなと思って曲名にしました。
●映画のイメージも歌詞に通じる部分がある?
寺内:映画のヒロインからインスパイアされているんですけど、彼女のすごくパワフルな姿を歌詞にしたくて。サビで一気に弾けるようなイメージで書きましたね。
●歌詞と曲が相乗効果をもたらしている。
竹内:歌詞が乗った状態で歌っているのを聴いた時に、すごく良い曲やなと思いました。
大濱:最初は歌っていて自分でも恥ずかしくなるくらいだったんですけど、ライブでやってみると評判もすごく良かったんですよね。メロディはわかりやすさを重視しつつ、歌詞はちょっと変わっているなと思っていて。“乙女”っていうワード自体もポップではあるけど、普段はなかなか聴かないものだから。
寺内:ウルトラタワーらしい歌詞だと思いますね。ただただポップなだけではない。
●ウルトラタワーらしさという意味では、1曲目の「ハロー」は名刺代わり的な曲でもあるのかなと。
大濱:「ハロー」は高3の時にできたんですけど、普遍的な中にある異質な感じというのが本当によく表現できている曲やなと思っていて。「RUBY SPARKS」が看板としてありつつ、今作を聴く時にはやっぱり「ハロー」を最初に聴いて欲しいんですよね。一番僕らっぽい曲なのかなと。構成もすごくシンプルなんですけど、節々にちょっと変わったところが見え隠れしているんですよ。
●「ハロー」で始まって「さよなら」で終わると流れ的にきれいかなと思ったんですが、最後は「暇な夜、雨が降る」になっているのはどういう狙いで?
大濱:以前に出した自主制作盤がそういう流れになっていたので、同じにするのは避けたいなと思って。「さよなら」をラストの1曲前に持ってきて、「暇な夜、雨が降る」はエンドロール的な役割にしたらピッタリやなと思ったんです。
●そこも映画のようなイメージで考えている。
平柿:後に残る余韻みたいな意味合いの曲ですね。
大濱:全曲シングルになり得るというのはあるんですけど、やっぱり1枚のアルバムとして聴いて欲しいんです。自分でも最初から最後まで通して聴いた時に、一番感動したんですよ。
●作り終えてみて、どんな作品になったと思いますか?
平柿:作る前のコンセプトとしては「どの曲もシングルとして押し出していけるようなものにしよう」というのはあったんです。普通はリード曲もありつつ、他の曲でそのバンドの深い部分を見せたりもすると思うんですけど、今作はそうじゃなくてウルトラタワーの良いとこ取りというか。このアルバムを聴いてもらえれば、ウルトラタワーというバンドがまずわかってもらえるような作品かなと。そこからまた次のアルバムにも興味を持ってもらえれば良いなというものになりましたね。
●『太陽と月の塔』というタイトルに込めた想いとは?
大濱:“太陽と月”というのは僕らの明るい部分と陰の部分を表現していて、そのどちらも楽しんでもらえたらなという意味があるんです。あと、太陽と月はどちらも地球人にとって身近な存在なのでそういう意味も込めて、このタイトルにしました。
●太陽と月くらい身近で、誰でも知っているような存在を目指しているわけですね。
竹内:私たちの曲は若い人から年配の人まで聴きやすくて共感できるものだと思うので、幅広い年代の人たちにライブへ来てもらえるようになったら良いですね。もっと多くの人に聴いてもらって、ライブにもたくさん来てもらえるようになりたいと思います。
Interview:IMAI