その“妥協なく生きよう”という強い想いは、音のひとつひとつ、言葉の節々からビシビシと伝わってくる。メンバーそれぞれの人生を賭け、ロックンロールを体現する孤高のバンド・Yellow Studs。2003年の結成以来、不器用ながらも自らの手で掴みとり、ライブハウスという現場で培ってきた唯一無二の感性は、高い純度の感情と高次元のアンサンブルとなって聴く者の心を鮮やかに奪い去る。この時代に生まれ、自らの存在を証明するかのごとく咆哮する彼らの7枚目のアルバム『ALARM』は、怒りと別れが散りばめられた人生賛歌が鳴り響いている。
●2012年12月にリリースしたアルバム『curtain』以来となりますが、バンドのトピックスとしてはメンバーチェンジがありましたね。新しいドラムとして田中さんが加入したと。
田中:半年くらい前に入ったんですけど、実は前任のドラムの前川さんが加入するとき、僕にも声をかけていただいていて。
●あっ、そうなんですか。
田中:はい。当時、一緒にスタジオに入って合わせたりもして。でもその時は前川さんに決まって、僕は選考に漏れたんですよ。で、前川さんが活動休止されたときに太一さんから電話がかかってきて「やる? 遊びじゃないけど」と言われたので「是非!」って。でも、今もまだ僕はサポートドラムなんです。
●え? サポートなのに今日インタビューに同席してるんですか?
田中:はい(笑)。まだ試用期間というか。
太一:前任の前川が“無期限休止”っていう感じで休んでいるので、いちおうサポートという形で入ってもらって。籍は入れないけど同棲してる、みたいな感じですね。
●ダメな男みたい(笑)。
太一:もう半年経ったし、そろそろ正式メンバーになってもらおうか。
良平&植田:うん。
●あ、今加入が決まった。
田中:僕は前のバンドをやっているときから、Yellow Studsにはずっと劣等感を抱いていたんです。こんなにメンバーが一丸となってがんばって活動していて、音楽もかっこよくて、ライブもかっこよくて、そんなバンドが近くにいたら僕がバンドをやっていても勝てるわけがないって。そういう想いがずーっとあったんですよね。だから今回声をかけてもらったことが本当に嬉しくて、自分にとってもがんばりどころだなと思っていて。
植田:よく僕に言ってるけど、実際Yellow Studsに入ってどうなの?
田中:僕は28歳なんですけど、僕は今が人生でいちばん楽しいんです。
●うわ!
田中:植田さんにはよく話すんですけど、今が人生でいちばん楽しいんですよ。胸を張って「いちばん楽しい」って言えるなんて、なかなかないですよね。めちゃくちゃ楽しい。
●いいことですね。
田中:バンドマンって常に劣等感があると思うんですよ。社会的だったりとか、自分が本当にいい音楽をやれているのか自信が持てなかったり。例えば友達に「ライブ来てよ」と言って誘うにしても、自分がやっている音楽に自信がなければ、嘘になっちゃうというか迷いも出てきますよね。昔の僕はそういう劣等感があったんですけど、でも今は本当に胸を張って言える。最初に入るとき、僕は太一さんと良平くんから人生最大の屈辱を受けたんですよ。
●ん? 屈辱?
田中:良平くんからは色々と駄目出しされて「とりあえず半年様子見るわ」って。太一さんからは「田中くんのことを誰に聞いても“いい”と言う人はいない。どういうことかわかるよね?」って。
●ひどい(笑)。ひどいけど、きっとそれはメンバーとして一緒にやっていきたいという気持ちの表れですよね。
田中:そう。すごく屈辱に感じたし、悔しかったけど、でもそれは優しさでもあるんですよね。「前のドラムの方が良かった」とか言われるのも嫌だし、僕のせいでYellow Studsがかっこ悪くなるのも嫌だから、この半年間は必死でがんばって。その結果、アルバムもすごく満足がいくものになって。だから今、人生でいちばん楽しいんです。
●めっちゃいいメンバーじゃないですか!
太一:そうなんですよ。だからさっき、正式メンバーになってもらいました。
●ハハハ(笑)。そんな新しい体制になったYellow Studsのもう1つのトピックスと言えば、この春からKIRIN『氷結ストロング』のCMにM-5「トビラ」が起用されるという…Yellow Studsってそんな政治力持ってなかったですよね?
太一:はい。自分たちでレーベル運営やってます。
●これはいったいどういうことなんですか?
太一:制作会社の人が俺たちのYoutubeを観て、すごく気に入ってくれたみたいで。それで「CM用に作ってくれませんか?」と連絡が来て。びっくりしました。
●すごいな。自己破産した植田さんのご両親はCMを観てなにか言ってました?
植田:うちの親はCMに僕たちが出演していると思っていたらしくて、CMを観て「出てないよ」って逆にがっかりしたみたいです。
一同:アハハハハハ(笑)。
●その「トビラ」が収録されている7thアルバム『ALARM』が6/18にリリースとなりますが、D.I.Yでやっているメンバーからしたら、当然ながらアルバムというのは非常に想い入れがありつつ、重要なポイントでもあると思うんです。今回はどのような作品にしようと考えたんですか?
良平:特にアルバムのコンセプトがあったわけじゃないんですけど、僕が最初に「目を覚ましたい」という感じで言ったんです。ムカついてて。
●ムカついてた?
良平:僕らは一生懸命バンドをやっているけど、いまいち売れてないじゃないですか。自分ではかっこいい音楽をやっていると思っているけど、でも売れないのがムカついてムカついて。だからみんなの目を覚ますような作品を作りたいなと思って、「アルバムタイトルは『ALARM』でどう?」みたいな話を最初にしたんです。
●まずタイトルが決まったんですね。
太一:今作はそこから膨らませていった感じなんです。最初にM-9「SNS」を作って、アルバムタイトルにハマるような感覚があって。
●おっしゃるように今作からは“怒り”と“別れ”を感じたんですが、そもそもYellow Studsはそういう感情が爆発力に繋がっているという印象がある。
太一:そうですね。最初、曲はバンバン作っていたんですけど、途中でボツにして作りなおしたんです。俺、“作ろう”と思ったらダメなんですよね。“出来ちゃった”くらいが丁度よくて。で、作っていた曲を途中で一度無しにして、また新たに作ってきて。それでできたのがM-3「秋晴れの空」とM-4「僭越ながら」、M-1「コメディ」なんです。“降りてきた”みたいなのが好きなんですよね。
●“怒り”という感情はYellow Studsのストイックで鋭いサウンドにマッチしていますよね。
太一:そうですね。俺も常に怒りは持っているんです。“なんでこんなに怒ってるんだろうな?”と自分でも思うんですけど、それを嘘がなく、純度が高いままで音楽に落とし込みたいと意識していて。例えばM-2「脱線」という曲は怒っている感情がモロに出ていると思うんですけど、今年就職で悩んで自殺した人が3000人とかいるらしいんです。そういうニュースを見て、どんな教育受けてきたんだ? と思うんですよね。教職員しかやったことない奴らが教職員をやっていて、人生の何を教えることができるんだ? って。
●はい。
太一:死ぬこと以外かすり傷くらいのマインドで生きればいいと思うんですよね。ちょっと、怒りが社会的になったのかな。売れないバンドマンなんて社会のダニみたいなもんじゃないですか。別に世の中で金をまわしているわけじゃないし。でも、もしかしたら俺らの歌がお客さんの自殺を止めているかもしれない。助かった人もいるかもしれない。もしかしたらダメになった人もいるかもしれないけど…でも、そういうところで俺らみたいな歯車も存在しているってことは、この社会では認められないですよね。金をまわして初めて認められるというか。俺たちは、金じゃないところをまわしてるんだよっていう怒りがありますね。
●曲の節々から感じるギリギリの緊張感や爆発力は、そういう想いが根底にあるからなんでしょうね。前回のインタビューで太一さんがおっしゃっていましたけど、Yellow Studsは音楽性もライブのスタイルも、ずっとライブハウスで培ってきていて。どんな音楽が人の心を打つか、どういう言葉が人に突き刺さるか、手探りで見つけてきて…それはすごくピュアなものだと思うんですけど、そういうYellow Studsの核みたいなものが今作には溢れていると思う。
太一:だと嬉しいですけどね。今作は、そうやって今まで俺たちが培ってきたものを詰め込んだつもりですけど。
良平:僕らは売れてないですけど、せめてお客さんを喜ばせたいから、そこに関しては妥協したくないんですよね。ムカつくんですよ、本当に。アルバムを作っていて、思い通りに作れない自分にもムカつくし。頭の中でギターを何回も投げてました。ちゃんと「聴いて」と言えるものにしたかったから。僕も太一と同じでちょっと自信をなくしていましたけど、今作を完成させたことによって、少しは自分のこだわりが様になったのかなって。その分、ストレスがかかりますけど。
●いいバンドだな(笑)。
太一:売れ線の曲はできなくはないんですよ。作ってみようと思って作ることもあるんですけど、俺の中で感動がまったくないんです。四つ打ちとかもやってみるんですけど、納得がいかない。
田中:四つ打ちをやってはみるけど、ピンとこないんですよね。
●そういう音に対する誠実さはすごく大事だと思います。あと、今作でダントツに響いたのが「秋晴れの空」だったんです。Yellow Studsにしてはテンポが遅めですけど、名曲だと思います。
太一:これ、ばあちゃんの曲なんです。
●あっ、マジですか。そういうこと聞いたらちょっと泣きそうになるな…。
太一:うちの両親は共働きだったから、俺は小さいころからばあちゃんに世話してもらってて。子供の頃に俺はピアノを習ってて、ばあちゃんはよく褒めてくれていたんです。
●はい。
太一:大きくなって俺がグレてた時期があったんですけど、そのことでばあちゃんにすごく心配かけていたんです。心配をかけたままばあちゃんは病気で亡くなってしまったんですよ。良平とかには「世間に迷惑をかけてる太一も一緒に連れて行く」とか言っていたらしくて。
良平:うん。言ってた。
●あ、なるほど。
太一:それが今でもずっと残ってて、ばあちゃんに「まだピアノやってるよ」って言いたかったんですよね。「秋晴れの空」はそういう歌です。
●め、めっちゃいい話だ! なぜこのタイミングでそのことを曲にしようと?
太一:死ぬって思ったんです。ちょうどレコーディングしているとき、極度のストレスからくる心臓神経症、過呼吸、しびれ、胃痛、全部が襲ってきて倒れたんです。
●あらら。
太一:お恥ずかしい話ですが、そこで死をイメージしちゃったんですよね。で、“だったらいつ死んでもいいや”と思えるところまでがんばろうと思って今作を作ったんです。だから俺の中でずーっと残っているばあちゃんのことは歌にせずにはいられなかったというか。グレてた時期、おかんにも「産まなきゃよかった」と言われたことがあったんですよ。前のインタビューで「俺は親に褒められたいから音楽をやっている」と言いましたけど、俺が音楽をやっている理由でもあるんですよね。俺が悪かった頃の罪滅ぼしというか。
●なるほど。
植田:太一は僕が知り合った当初、本当に狂犬だったんです。ちょっと目を離したらすぐケンカしてるという。居酒屋のバイトで知り合ったんですけど、気がついたら居酒屋の客とケンカしてるし。
●ガチの狂犬ですね(笑)。
太一:人が好きじゃなかったんです。でもバンドと出会って、このメンバーと出会って変わりましたね。グレてた時期もあったけど、バイトを始めて友達ができて、そこで出会った友達とYellow Studsを組んで、それで仲間が増えていったんです。
●なにこのドラマチックなバンド…。
一同:アハハハハハ(笑)。
interview:Takeshi.Yamanaka