昨年9月に1stアルバム『Heaven flower』をリリースし、レコ発ツアーを大成功させたロックバンド・vez。初のアルバム、そして初の全国ツアーを経て、バンドとして大きな成長を遂げた彼らが、全国流通第2弾となるミニアルバム『Intuitionistic logic』を完成させた。全曲の作詞を担当した高木フトシが、それまで積み上げてきたものを否定するほどの覚悟で臨み、各メンバーが感性を無限にまで共鳴させて作り上げられた今作は、感覚的に響くサウンドと直感的に突き刺さる言葉が結晶化し、vezでしか成し得ない次元へと到達した。
●前作から1年も経たずに新作が完成したというのは、前作のリリースやツアーからのフィードバックや手応えが大きかったからでしょうか?
YANA:vezは今の4人になってちょうど3年目に入ったくらいなんですよ。前回フルアルバムを出して、本格的なツアーをやったのは初めてだったんですよ。やっぱりそこがバンドにとっても重要だったし、長いツアーに出て、ファイナルを迎えるまでの期間にバンドとしての成長や、一体感を得ることができたんです。
●なるほど。
YANA:普段も仲良くやってるんですけど、バンドとして1つになるっていうのは、理屈じゃない部分があるんですよね。ありきたりですけど、ツアーをしたことによってお互いの呼吸感だったり、感じるものがより深まったんです。そこは是が非でも乗り越えたかったというか、期待していた部分でもあるんです。
●前作のリリースとツアーでバンドとしてより強固なものになったと。
飯田:最初の頃はシングルを作って、会場や通販で売ったりしていたんです。で、アルバムも同じ方法で、自分たちだけでリリースすることもできたんですよね。その方が時系列がズレずに、すぐに聴かせることができるし。
●そうですね。
飯田:だけど、そうじゃない方法…全国流通だとなかなかライブを観に来れない人も聴けるし。それが大きかったですね。前回のツアーは細かいところまではまわれなかったけど、観に来れるところまでは行きたかったし。で、YANAさんが言ったように、ツアーを行く前と行った後では、同じ曲でも絶対に変わるんですよね。そういう実感を1〜2曲だけじゃなくてバンド全体で感じることができたし。もう40歳を過ぎてますけど、この年でそういうことを感じる機会があるのは素晴らしいことだなと。
●素晴らしいことですね。成長を実感できる場というか。
飯田:だから観に来てくれるやつらとかにも、“おっさんになるのも悪くねえよ”と思ってもらえたかなって。
YANA:ツアーはすごく自信に繋がったよね。だから“またすぐにツアーをやりたい”、“この熱を冷やしちゃいけない”っていう感じで、新作を作ろうということになったんです。
●今回の7曲は、ツアー後に作ったんですか?
高木:そうです。でも「ツアーに行きたいから」と言って、できた曲をそのまま順番に作品に入れることはしたくなかったんです。俺は昔からそれが嫌で。作品を作るときに偶然を期待するのは嫌だから、最初にテーマを決めてからとりかかったんです。だからすごく大変だったんですけど。
●どういうテーマだったんですか?
高木:『Heaven flower』のツアー中に「the beautiful sky」(2014年3月発売の会場/通販限定シングル『Array of planet』収録)という曲を作ったんですけど、その曲を作ったとき、できるだけシンプルな意識になったというか。
●シンプルな意識?
高木:具象的っていうか。例えば“青い空”を表現するとき、“遠い何処かで君も見ている青い空”と表現すれば、ちょっとイメージが広がるじゃないですか。でも、“青い空”は“青い空”でしかない。
●主観や悲観、楽観も入れず、物事や事象をありのまま捉えるというか。
高木:生きる上で、そういったことがたくさんあると思うんです。そういうことがたくさんありすぎるが故に、誤解とか勘違いとかが増えて、みんな不安になっているような気がして。
●ふむふむ。
高木:例えば“絆”がどうこうじゃなくて、実際に東北の人たちはもっと現実的なものの方が大事じゃないですか。だけど、“絆”は“絆”で大事なことで。そういうことが同時に心の中にあればいいんだけど、誰かが主観や悲観、楽観を入れて何かを言っちゃうと、そっちに流れるじゃないですか。
●そうですね。確かに。
高木:特にロックバンドのメッセージって、よりわかりやすい方向に流れちゃうから。俺的にはそこに違和感を感じるんですよね。だからもっと数学的とか物理的な物の見方をしたいと思ったんです。そこにあるものを、そのものとして捉える見方。よく「1+1は2じゃない、3だ」みたいな表現ってあるじゃないですか。
●観念的に。
高木:でも1+1は2じゃん。
YANA:具体的なものに対する確証があっても、イメージとか漠然としたものでいいことはいくらでも言えるし、言葉のアヤで広げることもできると思うんです。でもそれがまかり通っちゃって。“絆”ってすごく大事なことだし人間の根源的なものなのに、なんで地震が来て初めて気づくんだろう? っていう疑問ですよね。地震が起きなくても“絆”は大事だろ? っていう。
●なるほど。
YANA:フトシくんが空を見たときに、そこに対して綺麗事も美しいことも切ないことも想像はできると思うんですけど、でももっとシンプルに、空に対して描く言葉ってあるでしょ? っていう。
飯田:そんなことさえも長いものに巻かれている感じがありますよね。
●そういう違和感みたいな感覚が今作の根底にあると。確かに今作は歌詞やタイトル、ジャケットも含めて、読み解けば読み解くほど今おっしゃったようなメッセージが浮き彫りになってくる。メッセージがあるからといって単にポリティカルなものにするわけではなく、音楽としての表現に昇華しているというか。
高木:音楽として形にするのは難しかったですけどね。だって俺、やれることを全部やろうと思って、3ヶ月間尋常じゃないくらい色んなことを知ろうとして勉強したんです。社会的な現象に対して、それは実際にどういうことなんだろうなって。
●なるほど。
高木:でも途中で壁にぶち当たったんですよ。プラスもマイナスも、とにかく人間の感情とかを一切抜きにして、フラットな状態の作品にしたいと思って制作に突入したんだけど、だんだん“それだけじゃないんだよな”と思い始めて、悩んでしまったんですよね。
●はい。
高木:そこでたまたま夜中にTVで志村ふくみさん(染織家/人間国宝)っていう人のドキュメンタリーを観たんです。そこで俺の全部悩みが解決されたっていうか。それで作ったのがM-7「杼」(読み:「ひ」)なんです。「この曲を最後に入れたいんだよね」とみんなに言って、今作が完成したというか。
●作品の最後に「杼」が入ることによって、聴き終えたときの印象がすごく変ると思うんです。先ほどみなさんがおっしゃっていた今作に込めたメッセージはもちろん節々から断片的に感じるんですけど、キャッチーなM-1「Sense of you」やM-2「Neon」があり、感覚に訴えかけるようなM-3「Algebra」からM-6「Molecules to separate」の流れがあり、最後に体温を感じさせる「杼」がある。メッセージがあるのに感覚的に聴けるというか。
高木:だからタイトルを『Intuitionistic logic』(直訳:直観論理)にしたんです。でも本当に大変でした。嘘は書けないし、ぶっちゃけ今まで自分がやってきたことは“こういう言い回しをした方が人の琴線に触れるだろう”とか“より伝わりやすいだろう”っていう作業だったんです。もちろん歌うときは、なるべく俺はそういうことを排除して表現として成り立たせてきたんですけど、でも今回は最初から今までのやり方を否定しているので。“ここでこういう言い回しをした方がグッとくるな”みたいな思考を排除したので、大変でした(笑)。
●そういうテーマは、サウンド面でも意識されているんですか?
飯田:いや、歌詞は全部フトちゃん(高木)が書いてるんですけど、曲を作る段階では歌詞はないし、アプローチはまた違うんですよね。今作はフトちゃんとASAKIと俺の3人がそれぞれ持ち寄った曲が入っているんですけど、俺の場合は“こういう曲があった方がおもしろいかな”というところがスタート地点で。
高木:作曲に関してはテーマとは関係ないというか、俺的には“いい曲であればなんでもいい”とすら思っていて。vezの場合、なんでもできるというか、バンドとしての表現になるんですよね。最近思うのは、vezの楽曲はいい意味でも悪い意味でもこの4人じゃないと作れない楽曲だと思うんです。
●さっき「感覚的に聴ける」と言いましたけど、今作のような楽曲は、誰か1人が強烈なリーダーシップで細かい部分まで作り込むか、もしくは4人が感覚を極限まで共有して偶然の産物的に生み出すか、そのどちらのような気がしていて。じゃないと完成にまで至らないような独特さがあると感じるんです。
YANA:やり方を限定していないんですよね。実際には、今おっしゃったようなどちらの方法も全部飲み込んで作っている感じ。でももちろん、手探りの期間はあったんですよ。フィル1つにしても、それがvezとして正解なのか違うのか。そうやって探りながらライブをやっていた期間ももちろんあって。それが、最初に言った前回のツアーで「理屈抜きにこれが正解だ」というところまで見えたんです。
●ああ〜、なるほど。
YANA:考えなくても“これがvezだな”っていう感覚を、それぞれが得ることができたタイミングだったと思うんですよね。だから色んな曲もできるようになるし、それぞれが作った曲が「これはvezじゃないな」と迷うこともなく、すっと出したものがそのままvezになっている。そういう経緯が今作に繋がっているんですよね。
飯田:そういう部分でバンドがうまく転がっている感覚があるんです。さっきフトちゃんが言ったように、良くも悪くもっていう部分で、メンバーはそれぞれ個性もあるから、下手すると迷走する可能性もあるバンドだと思うんですよ。だけどそこをみんなで話し合うわけではないんですよね。
高木:ただ、ボツにすることはたくさんあるんです。今回YANAさんも1曲作ってきたんだけど、ライブでの表現も想定した場合に、収録するまでには至らなかったんです。
●作品を重ねるごとにvezは大きく成長しているんですね。前作を作って4人の結びつきを強くして、ツアーでより前進し、今作で更に音楽の深みと密度を増したという。ツアーが更に楽しみな作品ですね。きっと前回のように、バンドが更に成長するきっかけになるだろうし。
高木:燃え尽きちゃう気もするけどね(笑)。全力を出し過ぎて。でも、全力でやるしかないっていう。
YANA:精神的にも肉体的にも全力を注ぎます。今回のツアーは、先の余裕なんてまったく残さずにやります。1+1は2だから、3のことは考えない。
一同:アハハハハハハ(笑)。
interview:Takeshi.Yamanaka