京都のthe coopeezから、1年半振りのニューアルバムが到着! 従来の楽曲やライブパフォーマンスにも見られた遊び心を散りばめながら、彼らの軸であるコンプレックス全開の“歌”とまっすぐに向き合った最高傑作となっている。後にも先にもなかった新しいポップの形。これぞまさに、日本語ロックの“ニューバランス”だ!
「とりあえず騙されたと思って一回全曲歌ってほしいんですよね。そしたらクセになってもらえるというか、よりわかってもらえると思う」
●今回のリリースにあたって藤本さんが書かれたブログを読ませて頂いたんですけど、「誤解をされないようなものが作りたかった」とありましたね。
藤本:今までは、なんちゃってラップの入った推し曲やライブでの激しいパフォーマンスから“奇抜なバンド”みたいな印象を持たれている節があったんです。でも、僕らがもともといちばん大事にしているのが“歌”で。ライブで無茶をしている部分はあくまでオマケですっていうことを、勇気を出して言っていこうという気持ちになったんです。今作ではそのイメージを払拭するような、シンプルな歌モノを意識して作りました。やっていること自体は変えたつもりは特にないんですけどね。
●最初から軸に置いているものはずっとブレずに“歌”なんですね。でも、なぜこのタイミングでそういった作品にしようと思ったんですか?
藤本:ある機を境にガラッと変わったわけではないんですけど…前に(山本に)「歌から逃げるな」って言われたんですよね。最初は“何やねん”って思うところもあったけど、それがバンドの本分をより良く見せるための意見だっていうのはわかったんで。“目的のためなら我慢できるな”っていう風にやっとなってきたんでしょうね。
●正直に言うと、私も最初は“良くも悪くも個性的な楽曲なのかな”って勘違いしていました。例えばM-1「イントロダクション」は、ライブで謎のコール&レスポンスをしているような声が入っているだけじゃないですか(笑)。
藤本:アルバム中いちばん悪ノリしてる部分です(笑)。
●そんなノリからM-2「途中の人」に入るとすごく良い曲で、ギャップに驚いたんです。この曲はYOKO(noodles)さんがゲストボーカルで参加されているんですよね。
藤本:「何か面白いことをやろう」ってことで、“ゲストコーラスに参加してもらったらオモロいんじゃない?”という発想からお願いしました。昔から面識があったし、YOKOさんの声が好きやったので、ダメ元でお願いしてみたらあっさり快諾してくださって。
山本:日本語か英語かパッと聴いただけじゃわからない部分が、YOKOさんの歌い回しに合いそうだなと。
●今作の曲はいつ頃から録り始めたんですか?
藤本:去年の春先くらいから“タイミングがあればすぐに出せるよう準備はしておこう”ってことで、良いと思うものから少しずつ録り貯めしていたんですよ。
山本:一曲ずつ煮詰めて“これでイケるな”っていう状態にしてから録る…というのを繰り返すんで、レコーディングが飛び飛びで長くなるという(笑)。
●そういう作り方だからこそ、捨て曲なしで全部が推し曲になるくらいの完成度になっているのでは?
山本:そうかもしれないですね。力の入れ方に、曲によって差はないというか。
藤本:僕らが世界でいちばん“良い曲”と思っていないと、威力を発揮しないですから。何と言われようと、ミリオンセラーが取れるくらいのものができたと思っています。
●確かに自分が良いと思わないものを、人が好きになってくれるとは思わないですよね。最初にできたのはどの曲なんですか?
森田:「途中の人」とM-5「テレパシー」です。
藤本:全曲推し曲ではあるんですけど、一応リード曲になっていてMVも作っている2曲ですね。
●では“アルバムコンセプトに沿っているから”といった理由ではなく“純粋に特別良いと思うもの”をリードトラックにしたと。
藤本:そうですね。アルバムそのもののテーマは特になくて、あくまで“勘違いされたくない”っていうを目標にやっていたので。
●ちなみに、曲はどういうタイミングでできるんですか?
藤本:だいたい嫌なことがあったらできます。
●ちょっと凹んでいたり、ネガティブになっているときことできやすい?
藤本:発信源がそういうところから来ることが多くて。あまり想像でものを書いたりできないタイプなんで、歌詞に関してはほぼ体験談を元にひねり出す形ですね。たぶん、僕が物語っぽく書くと説得力がなくなると思うんです。
●でも、実体験だからこそ伝わる現実味がありますよね。「途中の人」に出てくる“身に覚えあるだろ? 見捨てられないまんま 助けられないまんま”っていう歌詞も、すごくズシンときて。
藤本:ちょうど作った頃に“俺ってすっげえ中途半端なやつだな”っていう想いがあったので(笑)。僕の中では今までで最短じゃないかっていうくらい短い歌詞なんです。
●かなり短いですよね。約4行しかないという…(笑)。
山本:曲をコンパクトにまとめようっていう意識もあったんだろうね。
藤本:昔は“能書きたれ”やったんですよね。前のアルバムより進歩させなあかんという気持ちがあって、それがわかりやすい形で出たのがこの曲やと思います。メロディーも構成もシンプルやし、ある程度聴いている側に委ねる感じになったかもしれない。
●聴いて楽しむだけじゃなくて、歌詞カードを見て“こういう歌詞だったんだ”って気付く楽しみもありますよね。言葉遊びが好きなんですか?
山本:韻をわかりやすく踏むような歌詞が、徐々に増えてきました。
藤本:発想は常々変わらないんですけど、表現力が付いてきたのかもしれない。言葉をゴリ押しで乗せるんじゃなくて、できるだけ自然な感じでできたら良いなと思います。
●音に乗る言葉だから、すっと耳に入ってきますよね。もうひとつのリード曲、M-5「テレパシー」はどうやってできたんですか?
藤本:確か、“こういうリズムの曲を作りたい”っていうところから始まったと思います。
山本:僕はデモを聴いて気に入った曲を過剰に持ち上げるんですけど(笑)、「テレパシー」は本当に良い曲だなと思って。こういう曲が出てきたのは久し振りなので、今までとは違う一面が見せられるなという想いが強かったですね。
小川:何年かこのメンバーでやってきたからか、音のイメージをみんなが共有できるようになったというか。“こういう音が良い”っていう感覚が近くなってきたんですけど、まさにこの曲はそうでした。
森田:デモの音を聴いたときは、正直結構悩んだんですけどね。ドラムの路線を自分の中でなかなか上手く変換できなかったりして。その分音色に関してもリズムの出し方に関してもこだわりを持っているので、そこが良いって言ってもらえると嬉しいです。
小川:どの曲も前作に比べてしっかり事前にイメージをしていたんですけど、この曲はギターも一回録った音が気に入らなくて、後日録り直したんですよ。結果的には上手く落とし込めたと思います。
●かなり試行錯誤されたんですね。他にもレコーディングに苦戦した曲はありましたか?
森田:「モノマネ」はスタジオで毎回泣きそうになってました。最初の方はずっと“どうしよう”って思ってましたもん(笑)。
藤本:サビが最初に浮かんで、そこから他の部分を後付けしていったんですけど、Aメロのアレンジについては苦戦しました。デモは普通の8ビートだったんですけど、“これじゃちょっとなぁ…”って感じになって。
山本:僕も彼(藤本)もパワーポップがすごく好きなんですよ。でも得意な分意識しないと乱発しちゃうから、こういう曲は逆に結構気を遣うんですよね。安易にやっちゃうとありがちになっちゃう。
●あぁ〜、なるほど。
小川:確かこの曲はベースラインが決まってから、ドラムを決めた気がする。
森田:何パターンか叩いて“どれがいちばんインディー感があるか”を探しながら。最終的には楽しい感じになったんで良かったですね。
山本:一曲の中で変なバランスになったんで満足です。
一同:アハハハ!
●変なバランスなのが良いんですか(笑)。
藤本:できるだけリズムや曲のテンポ感が被らないようにっていうのは意識していますね。自分の中でクセになっているテンポばかり作ると、怒られるんですよ。
山本:「つまらん!」って言います(笑)。
●アハハ(笑)。
山本:アルバム全体で見ると、M-7「K&K」とM-4「皮一枚でつながって」が入っていることで良い振れ幅を持っているというか、奥行きを出してくれているような気がします。
●ところで「K&K」というタイトルはどういう意味なんですか?
藤本:単純に「変わる&変わらない」っていうところから頭文字を取っただけなんですよね。もともと仮で付けていたタイトルだったんですけど、“気になるしこのまま行くか”みたいな。
●印象第一というか。
藤本:ただ素直に表すんじゃなくて、そういう部分でも面白さを大事にしたいなと思って。落書きで描いた絵の方が清書したより案外良かったりするじゃないですか。
●あぁ〜、あります!
藤本:真面目に書き直したら、良いと思っていたところがなくなっていたりするし。曲はちゃんと中身があるんで、タイトルは思いつきで付けたものを入れてもアリかなと思って。パンチ力こそないけど、聴けば聴くほどハマるタイプの曲で、これがまた泣けるんですよ。
●前曲(M-6「大人の階段」)が勢いのある曲ですし、そのギャップも印象的でした。
小川:メインリフはもともとデモ音源にも入っていたんですけど、そっから自分なりにアレンジしていったんです。個人的には全曲の中でいちばん、アレンジが上手く表現できたんじゃないかなと思っています。オーラスの感じとか、自分で聴いても泣けるんですよね。演奏的にもいちばん気を遣うというか、結構シビアなんですよ。
●音からしてグッと来る感じがありました。そしてM-10「グレートアドベンチャー」ですが、ラストに相応しい曲ですよね。
山本:彼の曲はサビがちゃんと終止するというか、Aメロで飛ばしていてもサビではいちばん安定するところに上手く落ち付くんですよね。でもこれは突っ切ったまま終わるような曲で、そういうのが過去にはあまりなかったなと思って。一見ストレートなんだけど、今までと違う面も含まれているそのバランスがまさしく『newbalance』かなと。
森田:今、すごいどや顔だった(笑)!
一同:アハハハハ!
●アルバムを通して聴いてみると、藤本さんの歌詞って、言っていることは割とネガティブな部分も多いじゃないですか。でもそれを明るい曲調に乗せると、すごく前向きな感じがあったんです。スカッとするというか。
藤本:あまり深くは考えていないんですけど…よく「そのままのあなたで良いですよ」とか言うじゃないですか。でも僕はそこで良いって言っちゃうと、一生弱いままだという想いがあって。強くなれないとしても弱いままで良いとは思いたくないから“こんちくしょう!”と思うし、そういう想いをなくしたら、人は死んだも同然のような気がするんです。
●悔しさがあるからこそ成長があるんですね。
藤本:とりあえず、まずは騙されたと思って一回全曲歌ってほしいんですよね。そしたらクセになってもらえるというか、よりわかってもらえるはずなので。
森田:歌うと曲が自分のフィルターを通るじゃないですか。そうすることで見えてくる魅力も絶対にあると思うんですよ。
●自分の歌みたいに感じたりしますよね。“あれ、これ私のこと?”みたいな。
森田:そうそう! それをすごく感じる。そういうバンドってアツいし、カッコいいじゃないですか。
山本:僕がなんでバンドをやっているかというと、中学生・高校生のときにカッコいいと思って夢中になったバンドがあって“自分もやってみたい”と思ったからなんです。だから曲を作るときはいつも、あの頃の自分が夢中になれるかっていうのがジャッジになっているところがあって。この作品も誰かに夢中になってほしいし、夢中になってくれるような切り口はいっぱい作ったと思うので、ぜひ聴いてほしいです。
●いつか「the coopeezを聴いてバンドを始めました」っていう子たちが出てくるかもしれませんね。
Interview:森下恭子