2012年、内村友美を中心に江口亮、三井律郎、クボタケイスケ、ターキーという実力派メンバーによって結成されたla la larks。インディペンデントな姿勢をキープしつつ制作されたデモ音源「self」「さよならワルツ」は各FM局でオンエアされ、各所から注目を集め続けている。J-WAVE「TOKYO REAL-EYES」とのコラボ企画ではクラウドファンディングサービスで、開始から40日間で目標を大幅に上回る金額を達成。そんな彼らが、日本のトップクリエイターが集結して制作されたアニメ「M3〜ソノ黑キ鋼〜」のエンディングテーマを含めた新作『ego-izm』をリリースする。それにあたり今回はSchool Food Punishmentでも強力なタッグを組んでいた内村と江口の両氏に結成の経緯、今作に込めた意思を訊いた。
●結成のきっかけは何だったんですか?
内村:School Food Punishment(以下SFP)が活動休止をした時に、ライブのお誘いをいただいていたんです。それを江口さんに相談したことがきっかけでした。
江口:SFPが開店休業みたいな感じで、とはいえ音楽はやった方が良いから、ソロ名義でライブを決めたんです。その時に内村友美っていう名義も何だからっていうことで、la la larksっていうプロジェクト名を付けて。それが後に「バンドにしたらいいんじゃないか? 」っていうことになりました。
●他のメンバーもそのタイミングで集まった?
江口:その時のライブメンバーだったんです。元々一緒に仕事をしていたり、バンドの友達だったりして気心も知れていたので、1回一緒にライブをやってみて「良かったね」っていうことで結成されました。
●SFPで活動していた時、江口さんはどういう立ち位置だったんですか?
内村:プロデューサーですね。制作も著作権に関わる部分まで一緒にやってくれていて、一般的なプロデューサーよりも、もっとメンバーの近くにいてくれるような存在でした。
江口:基本的に僕のクライアントはレコード会社なんです。その会社の意図を読み取って、どうやってアーティストに伝えるかっていう。いわば通訳ですね。
●そういう意味で良い仲介役だった?
内村:ボーカルって他のメンバーよりも歌入れやキャンペーンだったり、さまざまな場面でディレクター、マネージャーと一緒にいることが多いんです。そういう人達の意図を江口さんが仲介して伝えてくれることで理解できた部分が多かったから、ずっと信頼していました。
●プロデューサーという立ち位置の江口さんとバンドを組むということで、意識の変化はありましたか?
内村:自分の中ではメンバーと同じくらいの役割をしてくれていた、お父さん兼上司みたいな感じなんですよね。それは昔も今も変わらないです。
江口:(昔より)気軽になったんじゃない?
●壁が一枚なくなったというか。
内村:「自分のバンドのことをやってもらっている」から「一緒に自分たちのことをやっている」に変わったから、その分気は楽になりましたね。作曲やデモ作り、取材もそうだと思うんですけど。プロデューサーの方に来ていただいているっていうところから…。
江口:来るのが当たり前になったと(笑)。
●なるほど(笑)。今回の『ego-izm』ですが、ハイクオリティなサウンドはもちろんなんですけど、J-POPという文脈を要素分解できる人たちが、あえて遊んで作っているという印象がありました。
江口:アニメの主題歌って、そのアニメのために曲を書くっていう命題があるので、出口が決まっているんです。あとはどれだけ濃いコラボレーションができるかっていうことだけを考えればよかったんですよね。そうなると、遊んでいるっていう感覚は仰るとおりで。目一杯遊ばせてもらいました。僕は出口が決まっているものに対して最高のコラボレーションがしたいと思っているんです。
●アニメという出口がありきだと。
江口:内村がこのアニメの3話までの脚本を読んでいる、歌詞の内容も内村が書くから予想ができる。そこで僕は「だいたいでいいから内容を聞かせて」って内村から聞くんです。作っている時はまだ1話も観ていないし、ロボットすら見ていないんですよ。でも「(このアニメに)きっと合うはず!」っていうことだけを考えて作りました。
●サビの入り口の部分も凝っている感じがしました。
江口:アニメって画があるじゃないですか。その画に対して「ジャジャジャーン」ってキメを作って、コラボレーションをしやすいきっかけにするんです。そうしたらアニメもその部分でちゃんと「ジャジャジャーン」って音と画がリンクしていて、「ちゃんと伝わった〜」みたいな(笑)。
●ははは(笑)。
江口:アニメはそういうことができるんですよね。制作している人達は僕らの顔も人間性も知らないけど、あの人達も「このアニメに対して!」って一生懸命作っている。僕らも「このアニメに対して!」って作るから、集約されていく感じがものすごく良いんですよね。
●なるほど、共通のゴールがあるから。
江口:たぶんライブバンドは曲を演奏するごとに明確じゃないものを明確にしていくんですよね。でもアニメは「これが正解!」っていうものが最初から明確にあると思っていて。ドラゴンボールの曲もイメージはずっと変わらないじゃないですか。みんな明確なんです。その出口に対して自分が明確な意志を音で示していって、どんどんそこに提案したいというか、コラボレーションを濃くしたいんです。
●作詞は内村さんが作られている?
内村:江口さんと一緒にですね。
●どうやって一緒に作るんですか?
内村:最初に私が書いてくると江口さんに「違う!」って言われるので「そっか…」って書き直すんです(笑)。
江口:それで、8割くらい作った後でディレクターに見せて、意見をもらって。また9割5分くらいまで作っていって、それで100%にしていくみたいな感じです。
●内容的に内村さんのキャラクターが出ている印象がありました。
内村:“思春期の葛藤”っていうキーワードをもらったので、過渡期の感じというか、そういう設定ではありました。
江口:その設定の中で、内村が持っているものとかアイデアを一生懸命コラボしているんでしょうね。
●だから“らしく”もあるし、作品に沿ったものでもあるんですね。
内村:フィクションを書くのがあまり得意じゃないんですよね。だいたい何かとコラボをする時は、自分の中にテーマとハモる部分を見つけて、3〜4割は自分の内面の何かを混ぜて出す感じです。
●その3割はどこに出ていると感じますか?
内村:自分が聴いていて耳が痛くなるのは【自信を疑え】っていうところで。ポイントは自分自身じゃなくて「自信」を疑うというところ。そこが一番自分の内面がが濃く出たところです。
●「自身」ではなく「自信」と。
内村:「自分がこうだと思ったことを疑わないと変われない」という意味合いで書いたんです。“白と黒”、“裏表”とか、どっちが良いものか悪いものかは人によって違うし、いろんな見方があるわけじゃないですか。この曲は結局【捨てられないエゴイズム】で終わるわけですけど、もがいている主人公が光を見いだせる部分っていうのがほしくて、それがこの1文だったというか。自分に対しても言い聞かせている部分なんですよね。
●歌詞の雰囲気として自分を省みていることが多いというか。
内村:私、頭で考えるばかりで動きがついてこないんですよ。考えて、やってみて、間違えて、学んでの繰り返しじゃなくて、ずっと考えているというか。「これだ!」って思うんだけど、それじゃなかったり。そういう計算違いが多いんです。だから【自信を疑え】と(笑)。
●【過ちから答えを導けるはず】と。
内村:昔から自分が選んだもの、考えているものとか、自分の歌に対しての自己評価がすごく高かったんです。それで怒られたこともなかったし、むしろ褒められたことの方が多かったりするから、自分はこれで良いんだっていうことをずっと思ってきたんですね。デビュー前そんな自信満々だった時に、SFPを担当していた当時のディレクターの方と江口さんに「お前、そのままじゃダメだよ」って言ってもらって。「私がダメなはずがないっ!」ってなるんだけど、そこから「(私は)本当にダメだ」って気付くんです。
江口:その感じが「ego-izm」の歌詞に出ていますね。どっち側にいても出せない。両方あるから出せる歌詞というか。
●そういうせめぎ合いから生まれると。
内村:最近若いバンドの子と話す機会が多いんですけど、思っていることが昔の自分にそっくりなんですよ。「私が私が」って言いたくなっちゃうのも私自身がそうだったからすごく分かる。でもそれで上手くいかなかったことを沢山経験してきたから「気持ちはすごく分かるんだけど、私はそれで良いことは何一つなかったけどね」って言ってあげられる。
●引っ張っていく側として俯瞰できるようになった。
内村:自分が受け入れ難かったりしたことは受け入れやすいように言ってあげたい。でもそれだけじゃダメだと思うから、厳しいことは言わなきゃいけないけど、伝え方は間違えてはいけないと思うし。ダメな自分を「なんとかまともに!」っていう動きをしてきたことで、思春期の葛藤も、社会人の葛藤もわかるから、少しは俯瞰できるようになったのかなと思っています。そうやって過ごしてきた今の私が言えることが「ego-izm」なのかなって。
●壁を乗り越える時の障害と、その光と影に焦点を当てているというか。
江口:たぶんそれは、越えようとした人にしか分からないし、越えていない人には影の部分しか見えないし、内村も内村でSFPの時にいろんなことがあったおかげでこういう歌詞を書けたんだなとは思います。
内村:ここ数年、自分の歌詞を作る上で元になるものってこういう自分を見つめ直す内容が多いですね。いままでの歌詞は所謂よく分からない歌詞だったんです。言葉の響きとか、メロディとのマッチングだけで書いていて、特に意味がない歌詞。それを好きだと言ってくれる人もいるけど、自分が色々考えるようになってからは、歌詞の内容も比例していくというか。
江口:歌詞を作って、自分で聴いているだけだったら何でもいいと思うんですよ。ただ今回はテーマがあって、その中での音楽っていうのは自分のやりたいことをやるだけじゃダメなんです。自分のやりたいことを他者ともっと共感しつつも、もっと違うもの、良いものにするっていうことが大事なので。
●そうやって作られた今作、作詞作曲はバンド名義にされていますよね。
江口:だいたいは僕が曲を作って、内村が歌詞を作っているんですけど、バンドでそれをやっちゃうと僕は良くないと思っていて。わざわざそういう風にしていくと「バンドじゃなくてもいいじゃん」ってなっちゃう。逆に全部が人数割りだから、頑張っていない奴が入るなら「お前がんばれよ」って言う話で、頑張っている奴が得するんじゃなくて、頑張っていないやつを上げていった方がバンドとしてパワーアップしていくだろうなと思うんです。だいたいバンドをひと通りやった後の人の集まりなので、そこはあっさり意味を分かってもらっています。だからこそ思いやりは強いですね。
●個々でそれぞれが活動されていることや、今回のお話からも感じるんですけど、メンバーの皆さんが同じ方向を向いている気がするんです。
江口:音楽をいかにして辞めないで済むかっていう方向は確実に一緒ですね。メンバー全員、今までふるいに掛けられても落ちなかった人たちだから、音楽を辞めなくてもいい運は持っているんです。それをどれだけ結託してふるいの網目から落ちずに済むか。これは自論ですけど、愛してくれる人の数がそのふるいの網目を細かくするんです。だからふるいから落ちなくなると思うんですよ。
●なるほど。
江口:でも、いざという時にこういうアグレッシブな音源を作れる人間じゃないと「アイツも丸くなったな」で終わっちゃうじゃないですか。だからこういう時にジェットコースターみたいなことを平気でやらせてもらえるアニメっていう世界が僕は大好きなんです。クリエイターの方の顔も観たことないし何十人でやっているかは知らないけど、毎週毎週ちゃんとやっている彼らの本気に負けたくないって思うんですよ。人の本気と本気が掛け算を起こすと思うから、そういうところが良い作品を産み落としていくと信じたいです。
Interview:西田真司