2013年4月に6thアルバム『街の14景』をリリースし、リリースツアーを大成功させたthe band apart。2012年リリースの『2012 e.p.』より日本語詞を採り入れたその音楽は、定評のあるセンシティブかつ荒々しいサウンドに更なる奥行きを加え、より豊かな表現となって音楽ファンを魅了した。そんな彼らの次の一手は、『2012 e.p.』以来となる4曲入りe.p.と映像作品の同時リリース。新たなボーダーラインを踏み越え、更なる高みを目指そうとしているthe band apartの現在点を、Dr.小暮に訊いた。
●日本語詞になったのは今回で3枚目ですが、今作の印象としてはより内面が見えてきたような気がして。表現としての日本語詞はしっくりきたんですか?
木暮:自然になってきました。いまはもう日本語っていう感じなんですよね。メンバーとの話し合いもなく、みんな自然に日本語で作るっていう。特にBa.原とVo./G.荒井はそうなんですけど、俺が英語で歌詞を書いていた頃から、メロディのツボみたいな部分は「日本語の方が乗りそうだな」という感覚が多かったんです。
●今作はタイトルに“BONGO”という言葉が入っていますが、実際に演奏されているのはコンガらしいですね。打楽器っていうのは、曲を作るきっかけというかモチベーションになったということですか?
木暮:どっちかというと録っていく中の流れでなんです。エンジニアがすごくパーカッションにハマって、いろいろ集めるようになって。
●1枚目から録っているエンジニアの方ですか?
木暮:そうです。今回、たまたま俺が作った曲がゆるいディスコみたいな感じだったので、パーカッションが入るっていういうイメージが最初にあったんです。それがきっかけで「これにも入れよう、これにも入れよう」みたいになりました。川崎の作ったM-2「The Base」とか入れる必要全くないんですけど…。
●確かにテイスト的には違いますよね。
木暮:「そこも入れていこう」みたいな(笑)。
●M-1「誰も知らないカーニバル」は原さん、「The Base」は川崎さんで、M-3「来世BOX」は小暮さん、M-4「環状の赤」は荒井さんが作った曲ということですが、それぞれが曲を作ってきたものをパッケージにするという方法も前アルバム『街の14景』からの自然な流れで?
木暮:そうですね。でも『街の14景』のときは、例えば作ってきた人間がメロディやリードギターとか全部決めていたんですけど、その方法だとちょっとバンド感が少なくなるという部分もあって。だから今回はベースラインは原に丸々投げたりとか、そういう感じで作ったんです。ちょっと混ざっているというか、それぞれが曲の原型だけ持ってきて、各々が解釈してやるという。
●the band apartは洗練されているけど荒々しい部分を残してるという、絶妙なバランス感覚を持っているという印象が強いんです。それは音楽だけじゃなくて、人柄も含めてのような気がしていて。楽曲やアレンジやライブの姿も含めて、全部共通する美学があるというか。
木暮:“バランス感覚”と言えるのかどうか分からないですけど、例えばフュージョンっぽい部分がある曲が増えていた時期もあったんですけど、それをフュージョンそのままの感じでカッチリやったらおもしろくないなっていう感覚もあるんですよ。それほどのテクニックを身につけるにはもう少し修行しなきゃダメだって頭もあるし、そこをローファイというか軽音部ノリというか、「かっこいい曲ができたけど難しいね。でも勢いでやっちゃおう」みたいな。そういう感覚がまだ生きているんですよね。
●子供心みたいな。
木暮:そういうことをやっているうちに技術も少しずつ付いて、特に最近なんかは録音もPro Toolsだからやろうと思えばすごくカッチリさせられるんですけど、あまりそういうことには興味のベクトルが向いていないというか。ちょっと縒れているくらいがいいという。ライブもしっかり弾くというよりは…川崎とか原を観ていれば分かると思うんですけど。
●分かります。ラフですよね(笑)。
木暮:そういう感じなんですよね。あまり真面目な奴は居ないし(笑)。美学というか、終わらない中二病みたいな感じ。
●だからこそ、こだわるところはすごくこだわるという。
木暮:普通に良しとされるものを、最初に良しとしないというか。いいんですけど「それに対抗した良さもあるじゃん」っていう。カウンター的な態度がどこかしらあるんだと思いますね。
●曲を作るときは、他がやっていないこととか今まで聴いたことのないものとか、そういう音楽を作りたい欲求が元になっているんですか?
木暮:あまり他との対比って考えないんですよね。この曲が売られていて、例えばネットなら自分がワンクリックするかどうか、みたいな。自分が客観的に聴いたときに買うくらいいい曲かっていう。それが理想通り行くことの方が少ないですけどね。
●今作の歌詞はそれぞれが書いたんですか?
木暮:そうです。歌詞は完璧にそれぞれが書いていますね。
●それはちょっとびっくりしました。というのは、4曲の歌詞からは共通した視点というか、価値観みたいなものを感じたんです。それは2つあって、どこかに行きたいと思っている気持ちと、必ず物事には終りがある、ということ。その2つの視点が歌詞の起点になっていると感じたんです。
木暮:なるほど。
●「来世BOX」だと“ボーダーライン どうでもいいよ とっくに踏み越えた”という部分だったり、「The Base」の“枯れた花は いつまで大事にされる 晴れた空は いつかは荒れる”とか。the band apartはメッセージをストレートに出さないバンドですけど、芯のマインドみたいなものが歌詞の節々に出ている気がしたんですよね。
木暮:もともとはすごくみんなエモーショナルっていうか、感情的な人間なんですよね。すぐに泣いてもおかしくないようなところはみんなあって。でもそれを包み隠していた時期があったんです。誰でもそうですけど、20代くらいは“タフになりたい”という気持ちが強いじゃないですか。
●強さに憧れるみたいな。
木暮:そういうところも越えて、メンバーそれぞれは微妙に違うと思うんですけど、俺の場合だと“明るい諦め”というか“基本的に期待しない”というか。「来世BOX」の歌詞も基本的には他人に期待しない。説明するのが難しいんですけどね…。
●その話はよく分かります。期待することをやめたらもっと楽になれるというか、フラットに物事を捉えることができると思うんです。「来世BOX」に“世界に花束を投げつける”という歌詞がありますけど、このフレーズが持つ雰囲気がすごく好きで。今おっしゃったような諦めもあるけれど、でも毒を吐くだけじゃなくて愛もあるという。
木暮:そういう感じですね。好きなんですけど、好きな部分ばかりじゃないですから。どちらかと言うと自分には理解できない物事とかが多いから、でもそれを自分が望むようにしようとするのは別のベクトルでパワーが要るじゃないですか。
●はい。
木暮:例えば大前提として決まっている法律があって、法律っていうものに従って生きているけど、それとは別にモラルもある。そういうモラルみたいなものを、自分の尺度で考えたら全然悪いと思わないという。禁じられているし、やってることを人に知られたらすごくヒンシュクを買うようなことがあったとして、“だけど自分の尺度としては悪いとは思わない”と思うことがけっこうあったりして。
●なるほど。
木暮:そういう中で大人数が生きているから、そこで真っ向から戦うというよりは、それはそれでちょっと諦める。でもそういう世界でもいいところ、自分が好きな部分もあるし、っていうスタンス…。
●そういう感覚を歌詞に落とし込もうという意識はあったんですか?
木暮:いや、なんとなくそうなりましたね。他人から言われて“そういうことなんだな”と自覚するというか。そういうことを、こういうファニーなゆるいディスコ調の曲で歌っていたらいいなと思ったんです。明るい諦めみたいなムードがもっと出るかなと。
●「来世BOX」はいつごろ作ったんですか?
木暮:今年に入ってからですね。録る1ヶ月くらい前。当初の予定では、4曲ともBPMを一緒にして、リズムは基本四つ打ちにして繋いじゃおうっていうコンセプトがあったんです。だけど、誰もそういう風にせず(笑)。
●え?
木暮:俺以外。
●木暮さんはちゃんと守ったのに(笑)。
木暮:そうなんです(笑)。BPMは118くらいと決めていたんですけど、何故かみんな118で作らないっていう…。
●他の3人の曲、全然そんな感じじゃないですよね。
木暮:なんでだろう?
●それが中二な感じなんですかね。
木暮:作っているときに「俺、もうちょい遅くするわ」とか「俺、もうちょい速くするわ」となってて、「おや?」って(笑)。川崎の「The Base」に至ってはなんだか分からないですからね。「BPM118って言ったよね?」みたいな(笑)。「The Base」のBPMは180ですからね。
●ハハハ(笑)。さきほどおっしゃっていましたが、「バンド感をもう少し出したい」という想いが今作に至っているわけですけど、今後の方向性としてはどう考えているんですか?
木暮:ここ最近はメンバー個別で作る感じが強くなってきていたんです。それはそれでいいんですけど、ちょっとそこに飽き始めたというか。
●飽き始めた(笑)。
木暮:あるボーダーを越えていかない部分があるというか、「思っていたより全然良くなった」みたいなことがあまりないんですよね。それぞれの設計図ができているから、そのイメージにどれだけ沿うことができるかという作業なんです。でも今後は、そのイメージを上回るところまで行きたいなと。
●俗にいうバンドマジックですね。
木暮:ネタを持っていくときもキチンと作らないで、弾き語りみたいな状態で持っていって歌も鼻歌で。それを4人で膨らませていくっていうのをやりたいなと思っています。そこは意識的に変えたいですね。俺らはそういうことをやったことがないんですけど。
●え? ないんですか?
木暮:相当前にやったかな? ほとんどないですね。
●the band apartはセッションで作っている、くらいに思っていました。
木暮:作りたいんですけどね。効率的なやり方っていうか、そういうやり方をあまり分かっていないんですよ。
●けっこうキャリアありますよね(笑)。
木暮:けっこうあります(笑)。でもまとまらないんですよね。次はそこを無理にでもまとめようかなと思っていて。「いいよ今の。いいからそれちょっと弾いていてくれ」とリーダーシップを発揮して。
●それ木暮さんのイメージに染まっちゃいますよ(笑)。
木暮:あ、そうか(笑)。
●ハハハ(笑)。楽しみにしています。ツアーはどう考えているんですか?
木暮:ライブは音作りの過渡期というか。今までフュージョンでもネオアコでも、何でも勢いでガツン! とやろうという共通認識があったんですけど、がむしゃら感だけだと表現できない曲が『街の14景』くらいから出てきて。いままではちょっとうるさい感じの音作りだったんですけど、それだとダメなシーンとかがあるんですよね。だから音作りから作り替えている感じですね。
●ライブの音作りも含めて。
木暮:歌モノをそのまま演っても、どうしても違うものになっちゃうというか、平坦になっちゃう。そうなってくるともう少し音量の幅とか、ダイナミクスが必要になってくる。でもそういう音作りにすると、今度は勢いだけではなくなってくるんですよ。勢いも出さなきゃいけないし。
●曲作りもライブも、the band apartはまさに生まれ変わろうとしていると。
木暮:成長期であってほしいんですけどね。
●中二が声変わりするくらいの(笑)。おもしろいものを追求するためにもっと成長をしたいと。
木暮:そう思ってます。
Interview:Takeshi.Yamanaka
Assistant:馬渡司