昨年11月に発表したミニアルバム『オーロラを待っている』が好調なセールスを記録している中、ドラマチックアラスカ初のシングルがリリースされる! 経験を積み、多くのリスナーに聴かれる機会が増えたことで生じた変化が如実に表れた今作。表題曲「東京ワンダー」は、季節感のある伝わりやすい歌詞が印象的なミディアムナンバーで、これまで響かせてきた“衝動”や“勢い”溢れるアッパーチューンとはまた違う一面を見せる楽曲だ。“決意”と“覚悟”を抱き夢を追いかけて新たな歩みを始めた人々にも、内省のときが訪れる5月。折れかけた心に寄り添い支えてくれる、メッセージソングが登場した。
●ここ最近、ドラマチックアラスカの活躍はすごいですね。去年は4月の“COMIN'KOBE13”出演に始まり、6月に1stミニアルバム、11月に2ndミニアルバムをリリースして12月には“RADIO CRAZY”に出演…2013年は怒濤の1年だったんじゃないですか?
ヒジカタ:そうですね。“COMIN'KOBE”で自信を持ってライブができたんで、そこで良いスタートを切れたかなという感じです。
ニシバタ:本当に良いキッカケになりましたね。
●今年の3月には神戸で初ワンマンもありましたけど、ライブはどうでした?
ヒジカタ:公演時間が約1時間半ほどだったんですけど、そんなに長丁場でやったのが初めてで。終わったら裏で酸欠で倒れちゃって(笑)。
ニシバタ:普段は30分くらいなんで、感覚が全然違いましたね。完全に要領がわかってなかった(笑)。
マルオカ:そのぶん普段できない曲もできたし、メンバー全員が好きなthe pillowsのカバーもやったりしたんですよ。
ヒジカタ:すごく評判が良くて嬉しかったですね。ずっと来てくれているお客さんやスタッフさん、僕らに関係している人たちに、やっと返せるものがあったかなって。
●今までの成果を、形として見せることができたと。そういった経験を経て今回1stシングルをリリースされるわけですが、M-1「東京ワンダー」はこれまでと少し雰囲気が変わった気がしたんです。
ヒジカタ:自分のためにやっていた音楽が、リスナーのことを考えられるようになったというか。この曲は、“ちょっと心が折れそうな人に聴いてもらえたら”というメッセージソングになっているんです。聴いてくれる人が増えてきたり、前作でいしわたり淳治さんに歌詞のリーディングで参加してもらったことで、歌詞に関して考え方がいろいろ変わってきて。この曲は僕らのコアな部分ではないんですけど、振れ幅を見せられる変化球的なものを入れた感じですね。
マルオカ:「東京ワンダー」は歌詞のメッセージ性がいちばん大事な曲だと思ったので、全体的に歌を食わないように、かつ自分たちらしくっていうのを意識して演奏しました。今まではそういうことを考えずにやっていたというか、考える余裕がなかったんですよね。
●それが徐々に、聴いてもらう人の目線が出てきた。
ニシバタ:でもやっぱりライブにも来てほしいので、ライブのことも意識をしてフレーズを作りますね。“お客さんがノれるにはどうしたらいいか”とか、今まで曲をやってきた中で“こういう音のときは、お客さんの雰囲気はどうやったかな”っていうのを考えたりして。
●経験値が着々と積まれているんでしょうね。ちなみに、作詞作曲はどなたが?
ヒジカタ:作詞が全部僕で、作曲はこの3人(ヒジカタ、トバ、マルオカ)で。デモを作る人もいれば、頭の中でやって来る人もいますね。それをスタジオで合わせてみて作るっていう感じです。
マルオカ:曲については、基本的に作ろうと思って作ることが多いんですよ。今回もシングルをリリースするにあたってそれぞれが曲を持ち寄った結果「東京ワンダー」の元になった曲がいちばん良い出来だったので、それをリードにしたっていう感じですね。
ヒジカタ:今作では「東京ワンダー」は僕が作ったもので、あとの2曲はベースのマルオカですね。今回は“春の曲を作りたい”と思って。
●タイミング的にもちょうど良いですよね。この時期って、新生活が落ち着いてきていろいろ考え込んじゃう頃というか、いちばんヘコむ時期じゃないですか。
ヒジカタ:本当にそうなんですよ。最初は4月にリリースしようっていう話をしていたんですけど…やっぱり5月っていうのは、ちょうど1ヶ月経って心が折れかけている人も多いんじゃないかなと思って。まさにベストタイミングっていうところでリリースさせてもらうことになったんです。
●あぁ〜、なるほど。
ヒジカタ:この曲は結構、視点が難しくて。自分が自分を鳥瞰しているというか、違う時間軸の自分を見て言葉をかけているんですよ。曲が進むに連れて互いの時間軸が近付いていって、最後には重なるっていう流れになっているんです。
●この歌詞を作るときは、最初からそういうイメージがあって書いてきたんですか?
ヒジカタ:曲によりますけど、「東京ワンダー」は最初に“こういう曲にしよう”という図面を書いてから組み立てていった感じです。今までは大まかなイメージがあって、そこから連想する言葉を降ろしてきてパズルみたいにはめていたので、感情そのままを書いていたんです。でもいしわたりさんは方法論を持って歌詞を書く人なんで、伝えたいことがありきで、伝わるように言葉を肉付けしていく感じだったんですよ。
●それもあってか、この曲はすごく歌詞が伝わりやすいなと思いました。ヒジカタさんの書かれる詞は日常を切り取った歌詞が多いですけど、その表現が独特ですよね。持って来られた歌詞を初めて読むときって、どんな感じなんですか?
ヒジカタ:文字で読まないよね、たぶん。
ニシバタ:歌っているのを聴くのが最初かな。歌録りもひとりで録っているので、ミックスが上がった段階で初めて知るって感じですね。
●じゃあ、歌詞について指摘をすることはないんですね。レコーディングではあらかじめ“こういう歌詞だからこういう音を出そう”って形じゃなくて、まっさらな気持ちで聴いて、そのときに感じたことを踏まえて出している?
ヒジカタ:それは回数を重ねながら、全員で固めていく感じです。
トバ:音に関しては「ここはこうした方が良いんじゃない?」とか「ここ、音がぶつかってる」みたいな話をしつつ、ワーワー言いながらやっていますね。
ヒジカタ:レコーディングはドラム、ベース、リズムギター、リードギターの順なんですけど、彼(トバ)はいつも不協和音を弾いて怒られるんですよ(笑)。
トバ:いちばん最後やから、合わせていかなあかんねん! 最後に音を乗っけるのって大変なんですよ。
●全体をまとめないといけませんからね。今回のレコーディングで印象に残っていることはありますか?
ヒジカタ:僕は「東京ワンダー」の間奏のリフがすごく気に入っていて。これはトバが作ったんですけど、僕ら的には聴いた瞬間「おぉ!」ってなったんですよ。でも本人はその重大さに気付いていなくて。
トバ:「え? これ?」みたいな。
ヒジカタ:もしかしたら全然違う曲になっていたかもしれないくらい、淡いバランスで見つかったもので。ここから“都会感”っていうか“メトロポリス感”みたいなものがワッと浮かんできたから、これは東京の曲にしようと思ったんです。
●あ、そこからタイトルが決まったんですね。「東京ワンダー」ではバンドの新しい一面が見られたのに対し、M-2「フレア」は今までのバンドカラーが強く出ている感じがします。
トバ:「東京ワンダー」は歌メロもギターリフも頭に残るような曲になっていると思うんですけど、「フレア」は逆にジャキッとしているというか。演奏で持っていく勢いがある、ソリッドな曲になっているんじゃないかと思います。
ヒジカタ:制作時期も収録曲の中ではいちばん古いので、それもあって昔の感じが濃く出ているのかもしれないですね。歌詞も今までみたいに、イメージから言葉を引っ張ってくるっていう方法で書いた曲なんで、自分の中で完結しているというか。自分でも説明するのが難しいです。
●すごく対照的だなと思いました。でもM-3「プレデターズ」はそのどちらとも違う、さらに異色な曲で。
ヒジカタ:自分の中で、このシングルにおける「プレデターズ」はボーナストラック的な立ち位置なんですよね。これは宇宙人の目線から現代社会を見た内容の曲なんですが、単純に今までやったことがないような遊び要素を入れたくて。
●ケータイ社会に対する風刺の利いた歌詞ですが、今までもこういう曲ってありました?
ヒジカタ:「リダイアル」(1stミニアルバム『ドラマチックアラスカ』収録)もそうでしたね。ただちょっと伝わり難かったというか、それこそ自分の中で完結していたところがあって。今回はもう少しわかりやすくなるよう挑戦しました。
●すごくわかりやすかったです。そういった変化も、表現力が増したからこそなんでしょうね。ところで「フレア」や「プレデターズ」というタイトルもそうですけど、随所に星や宇宙に関わる言葉が入ってますよね。お好きなんですか?
ヒジカタ:好きです! 前作の「星になる」っていう曲も、そういう要素が好きでできた曲なんですよ。
●そういう好みが出ているから“このフレーズはこの人っぽいな”とか“このバンドにしかできない曲だな”と見えるものになるのかなと。
ヒジカタ:あぁ〜、ありますね。というか、それがないとダメな気がする。最近すごく思うんですけど、単に演奏するだけなら誰でもできるじゃないですか。だから作る側が“その人たちにしかできないこと”をやらないといけないんですよ。
●みなさんにとって“これは自分たちにしかできないな”っていう強みは何ですか?
ヒジカタ:僕らはいつもテーマとして、売れ線にも寄り過ぎず、でもすごく聴き難いオルタナティブでもないっていうギリギリのラインを狙っていて。それは得意かなって思いますね。
●確かに。すっと耳に入ってくる曲だけど、いわゆる“どっかで聴いたことあるような曲だな”という感じではないですよね。聴きやすいのに初めて聴くような真新しさがある。
ニシバタ:曲を作っているときにも「僕らっぽい」みたいな言葉がよく出てきますね。具体的なものじゃないですけど「こうした方が僕らっぽい」とか「それはよくあるフレーズやん」とか言い合っています。
●あえてコアから外した楽曲でも、その個性はしっかり出ているように思います。7月には次のミニアルバムのリリースも決まっているそうですが。
ヒジカタ:7曲入りのミニアルバムなんですけど、次回作は作詞にすごく自信があって。もう一度僕らのコアな部分に戻したというか、ストレートなところを見せられるアルバムになっていると思います。
●原点を意識した作品になっていると。5月には神戸・東京で“ニッポンワンダーツアー”がありますけど、どんなライブにしたいですか?
ヒジカタ:今回は対バンがかなりアツい感じになっているんで、競り負けないように僕らもしっかり頑張りたいですね。アルバムで全国を回ることも発表してますし、まずはここで観に来て頂いて、その後の全国ツアーに繋げたいと思っています。
マルオカ:サウンドの面でもこれまでとはちょっと違う、良い意味でポップなところもある曲なので、その辺りも楽しんで頂けるんじゃないかな。
ニシバタ:やっぱりライブに来てほしいので、CDを聴いて、ライブでも一緒に盛り上がれたら嬉しいです。
トバ:すごく良い音源に仕上がっているし、ライブメインでずっと頑張ってきているバンドなんで、ぜひCDを買ってライブにも遊びに来てください。これからもドラマチックアラスカを宜しくお願いします。
Interview:森下恭子