GalapagosSが、通算5作目となるニューアルバム『Seize the day』を完成させた。2011年4月に1stアルバム『Soy sauce impulse』をリリース以降、3年足らずの間に次々と作品を発表してきた彼ら。年間40本前後のツアーも継続的に実施している成果は、楽曲にもライブ感となって確実に昇華されている。そして今回の新作ではライブ感は当然アップさせながら、これまで以上に音楽的な幅を広げているようだ。初期パンク、ニューウェーブやロックンロールから“ボサコア”まで様々な要素を消化吸収しながら、独自の進化を続ける彼らの“今”を掴みとって欲しい。
●前作『Run Like Fury』はライブ感を増した作品でしたが、今回の『Seize the day』ではそれに加えて楽曲のバラエティも広がった印象があります。
写楽:今作は勢いもありつつ、それだけじゃない印象にしたいなと思っていたんです。(バンドとしての)方向を一度定めた上で、バリエーションを広げてみようかなっていう感じで曲を作っていきました。
●前作リリース時のインタビューでは次はフルアルバムを考えているとも話されていましたが、何か作品のイメージはあったんでしょうか?
写楽:最初は13曲くらい収録するつもりでいたんですけど、色々あって8曲になりましたね(笑)。感覚的には、“2度目の1stアルバム”を作ったという感じなんですよ。
●そういえば、前回も“2度目の16歳”の気持ちだということを話していましたよね。
写楽:…常に1回目は失敗しているんじゃないかな? だから、2回目に賭けようとしている(笑)。
●失敗してもリセットして、やり直すというか。そこはM-4「不安は魂を食いつくす」 のコーラスで、“創生”や“再生”と歌っているところにもつながるのかなと。
写楽:僕はファミコン世代なので、常に何かをやり直したいと思っているんです(笑)。
●前向きなのか、ダメなのか微妙なところですね(笑)。M-1「逃避GO!」の歌詞は、そういう自分のダメなところも肯定している曲かなと。
写楽:そうですね。自分が昔から聴いてきたようなCOBRAだったり、パンクバンドの「行こうぜ!」っていう感じの歌詞を自分の目線で書いてみたら、こういう感じになりました。
●「逃避GO!」の歌詞にあるように、“お酒飲んで現実逃避”したりもしているんですか?
写楽:はい。溺れています(笑)。
●お酒に溺れているって(笑)。「逃避GO!」のMVで居酒屋の机に突っ伏して寝ている姿からも、その片鱗は伺えましたけど…。
写楽:あれはすごくリアルな感じですね(笑)。
ゴキミ。:いつの間にか写楽さんが寝ているっていうのは、よくあるパターンです。
一同:ハハハ(笑)。
●もはや定番なんだ(笑)。
ゴキミ。:打ち上げで朝まで飲んでいると、(ライブの)疲れもあってお酒がよくまわるんでしょうね(笑)。でも「(それも含めて)素直で良くないですか?」って、僕は思うんですよ。
●ありのままの姿も全部認めて、歌ってしまおうと。
写楽:自分というものについて、あまりカッコつけないというか。曲によっては「映画っぽい歌詞にしよう」とか考えたりするけど、ストレートな部分も出そうかなと。そもそも“お酒飲んで”という歌詞なんて、GalapagosSをやっていなかったら書けなかった。昔はお酒を飲むと声が出なくなると思っていたから、全く飲まなかったんですよ。でもGalapagosSを始めた後にお酒を飲んでライブをしてみたら意外と声が出るので、「まあ、良いかな」っていう感じで(笑)。
●写楽さんは、ここ数年で一気にバンドマンらしい行為に目覚めた感じがしますよね(笑)。
写楽:たぶん、同世代のバンドマンの中で僕が一番楽しんでいると思います(笑)。「早くギターの音を出したい!」みたいな。
●まさに初期衝動というか。
ゴキミ。:僕も最近GalapagosSのライブでは、10代の時に近い感覚でやっているんです。貴重な時間を割いて観に来てくれる人がいて、自分たちも時間を割いてやっているわけだから、せっかくのステージを楽しもうっていう。純粋にロックを楽しむ、という気持ちですね。
新太郎:自分にまだ実力がない時は決められたことをキッチリやるっていうことを続けてきたんですけど、最近は好きな時に好きなようにやっちゃおうっていうプレイスタイルになってきて。何か一周りして、楽しくなってきているんですよね。そういう意味で毎回、新鮮にライブをやれています。
●今回、新太郎さんが作ったニューウェーブ調のM-2「寿限無」は、バンドにとっても新鮮だったのでは?
新太郎:今回は(今までと)全然違うものを出してやろうと思って。GalapagosSでもやれるんだけど、あえて今までやらなかったことを試してみようということで作りました。
●新太郎さんはM-7「西へ東へ」も作曲されていますが、こちらは前作収録の「煉獄ロック」に通じるロックンロール系の曲ですね。
新太郎:(前作の)当時はルースターズにハマッていたんですけど、その後に(ローリング・)ストーンズにもハマったんですよ。たぶん、その影響ですね(笑)。
●その時のマイブームが曲に出ている(笑)。新太郎さんが作曲した2曲は、写楽さんの曲と色が違うのも面白いところかなと。
新太郎:そういうものが欲しいなって、自分でも思っていたんです。
●写楽さん作曲のM-3「今を生きる」にはボサノバ的な要素が入っていますが、これは前作でも提唱していた“ボサコア”でしょうか?
写楽:今まで何作か作ってきたボサコアの中で一番、ボサコア感が出ていると思います。…やっと見えてきましたね。
●ボサコアが形になってきたというか。
新太郎:使うコードがどんどん増えていますもんね。
写楽:新しいコードを覚えると、すぐ使いたくなるんです(笑)。いずれはボサコアというジャンルとして確立されて、その第一人者になれたら良いなと…(笑)。
●それが目標なんだ(笑)。バンド内にも、ボサコアが根付いている?
ゴキミ。:まあ、朝昼晩とご飯を食べるようにボサコアっすね(笑)。
一同:ハハハ(笑)。
●それはウソでしょ(笑)。でもバンドにとって、1つの大きな特徴にはなるんじゃないですか?
ゴキミ。:「今を生きる」は、アルバムの中でも「これがGalapagosSだよね」っていう曲じゃないかと思います。それくらいボサコアが中心になってきているんだっていう…(笑)。
●ボサコアはさておき(笑)、ゴキミ。さんもM-5「星の道標」の作曲と歌を担当していますよね。
ゴキミ。:前々作〜前作の流れで「ストレートにやっても良いんだ」と思って、当たり前のことをストレートに詰め込んだ曲ですね。自分はきれいなメロディが好きなので、聴きやすくて覚えやすいメロディが良いなと思って作りました。
●メンバー個々で作る曲の色も違うわけですが、バンドに持っていく時に躊躇したりはしないんですか?
ゴキミ。:共通の意識として「この曲は、このバンドの色じゃない」とは思わないようにしているので躊躇はしないですね。そう思っちゃうと、つまらないから。
新太郎:フレーズを指定して「これでお願いします」みたいなことは、あまりやらないようにしているんですよ。それぞれの解釈でやって最終的に擦り合わせるので、どんな曲を持ってきてもGalapagosSっぽくなるというか。それが大きいんでしょうね。
写楽:自分が全く通っていないジャンルの曲だと、どういうギターを弾いたら良いのか正解がわからないんですよ。「どうなるんだろう?」って思うことはありますけどね(笑)。
●どんな曲でもGalapagosSらしくなるのは写楽さんの特徴的な歌声も大きいと思いますが、今回は曲ごとに歌い方の違いも感じました。
写楽: 自分の(そのままの)声だと合わないなと感じた曲もあったので、色々と考えて工夫しました。たとえば「今を生きる」では、男らしい感じで歌ったりして。
●初期に比べると、オートチューンやヴォコーダーも減っていますよね。
写楽:今回はヴォコーダーを入れ忘れたんです(笑)。
●そんな理由!? (笑)。
写楽:いや、ヴォコーダーの役割を自分の中で決めているんですけど、今回は使うべきところがあまりなかったというのもありますね。
●M-8「太陽はひとりぼっち」のラストで、“時に愛は不毛で静寂でかけがえの無い様で”というところにはヴォコーダーが使われていますよね。
写楽:そこはゴキミ。くんが歌っているんです。そういうところで、色を変えたいなっていう部分もあって使いました。ゴキミ。くんに、“愛”とか言わせて良いのかちょっと迷ったけど(笑)。
●愛からは縁遠いキャラだと(笑)。
写楽:いやいや(笑)。この曲の中で一番甘い部分をあえて言ってもらうのは、ゴキミ。くんのキャラ的にどうなんだろうかと。
ゴキミ。:こんな僕ですが…(笑)。良いところをもらえたなと思っています。
●前々作の『Slowly But Surely』(ちょっとずつだけど進んでいる)から前作『Run Like Fury』(すごい勢いで走る)へと徐々に加速していたところで、今回のタイトルを『Seize the day』(今を生きる)としたのにはどんな意味が?
写楽:加速している中でも、しっかり地に足を付けたいと思っていて。“どっしりと構えながら、ちゃんと今を見て生きよう”みたいなイメージですね。
ゴキミ。:もし過去の作品と似たようなことをやっていたとしても“今ならこれだけのものにできる”というのがあるし、そこがバンド力というか。たとえば僕らが60歳までGalapagosSをやっていたとして、「全然弾けていないんだけど、それも良い」「歯がなくて何を歌っているのかわからないけれど、それも良い」みたいな(笑)。
●その時点での自分たちが表現できていれば良い。
ゴキミ。:それが“今”っていうことじゃないかなと。バンドっていうのは、“今”できることを出していければ良いんじゃないかなと思うんですよ。
●バンドとしてのあり方にもつながる部分ですよね。
ゴキミ。:それ(バンド)が僕らの人生でもあるし、自分が生きていくための支えというか。その存在がないと、(人生に)張りがないんですよね。僕はボロボロになるまで、やり続けたいんです。たとえ歳を取ったことで粗悪なものになってしまっても、それはそれで良いんじゃないかと。進化も良いし、退化も良いと僕は思うから。
新太郎:周りがどう見ているかは別として、本人はずっと進化しているつもりですからね。
●写楽さんも同感ですか?
写楽:僕は今年でまだ17歳なので…(笑)。
一同:ハハハ(笑)。
●その設定はいったん置いてもらって(笑)、バンドとしての進化は感じています?
写楽:僕はいつも「こういう曲も作れるようになったよ! 聴いて聴いて!」っていう感じなんですよね。でも単純に、バンドの一体感が増したというのはあるかな。あと、初期の作品では曲を幅広くしようとして、とっ散らかっていた部分もあったんですよ。でも今回は1枚のアルバムとしてまとめられた上に、幅も広げられる力が付いたというか。そういう意味でも、自分たちがすごく進んでいるなとは感じています。
Interview:IMAI
Assistant:馬渡司