地元である岩手県盛岡市を拠点に活動する3ピースバンド、SWANKY DOGS。年間100本以上のペースでライブを行い、2012/13年の“いしがきミュージックフェスティバル”への出演や、前作『Raysman』リリースツアーファイナルのワンマンライブをソールドアウトさせるなど、着々とライブバンドの実力を付けてきた。なぜ彼らは敢えて盛岡から発信するのか? 待望の初フルアルバム『何もない地平線の上から』リリースを2/5に控えた3人に迫る今回インタビューでは、決して“SWANKY”ではない本当の強さを垣間見るだろう。
●活動歴は長いようですが、今年で結成何年目になるんですか?
洞口:高校生の頃から始めて、6年目ですね。このバンド以前にもそれぞれバンドをやっていて、盛岡Club Change(以下 Club Change)でライブをやっていたんですけど、大学受験や就職とかでメンバーがいなくなって、バンドをやりたいメンバーが集まって結成したのがSWANKY DOGSなんです。
●地方は特にですけど、高校を卒業したら大学に行くか就職する、という流れが多いですよね。音楽を続けるのはけっこう勇気が要ることだと思うんですが。
洞口:先のことは全然考えてなくて、自分たちがバンドやりたいから「バイトをしながらでも、バンドはやりたいな」って考えていただけだと思います。
●進学や就職とか一切せず?
洞口:一応、長谷川は専門学校に行きました。
長谷川:料理の専門学校に行ってたんですけど、それもボヤッとしていたんですよ。調理師になりたいとずっと思っていたわけではなく、「とりあえず学校に入るか」って気持ちで、そこまで考えてなかった。その学校に通いつつ、バンドをやっていて。その時も「専門行ったから、このまま就職するのかな?」とかボヤッと考えていたんです。
●他のメンバーはどうだったんですか?
洞口:「音楽で」とも考えてなかったし、就職したくないし、大学行ったって、やりたいこともないしな…って。
●当初は本気でやる感じではなかったと。
洞口:結成した当初、長谷川とは「高校卒業したら、東京に出てバンドやってみようか」という話をしていたんですよ。だから東京に出てバンドをやろうとは思ってました。典型的なバンドマンだったとは思います(笑)。
●でも今も岩手在住…ですよね。
洞口:そうですね(笑)。Club Changeでライブをやっていく中で、打ち上げに出るようになって。ライブハウスの方とかツアーバンドに「地元で頑張ってるバンドって、すごく大事なんだよね」とか「俺らの気持ちとしては、地元を盛り上げていって欲しい」という話をしてもらった時があったんです。Club Changeの黒沼さんと話した時にも「自分の生まれた街から発信したいんだよ」って言われて。せっかく盛岡で生まれて、バンドをやってきたから「こういう人達と一緒になって発信していけたらいいな」と考えるようになって。そこで、初めて「盛岡に住んで、続けよう」という体制を作ろうと思ったんです。
●わりと早い段階で「拠点を盛岡にしよう」と。
洞口:盛岡って、ライブハウスの無い時代はハードコアパンクやメタルをやっている方が多かったんですよ。そこで元々ハードコアパンクバンドをやっていた黒沼さんがClub Changeを立ち上げたんです。黒沼さん自身は「他にやる場所が無いからライブハウスを作った」とおっしゃっていたんですけど、盛岡はツアーバンドが素通りしてしまうので「いろんなバンドが来て、たくさんのバンドを観ることができる環境を作りたかった」という想いがあったみたいです。
●なるほど。
洞口:僕らは、Club Changeっていうライブハウスが盛岡にあって、高校の頃からバンドができるっていうのが当たり前の環境だったんですよ。先輩に話を聞くと「昔はそんな場所が無かったから、自分達で会場を借りて機材を持ち込んだり、飲み屋を貸し切ってやっていた」と。
●極論を言えば、Club Changeがあったからこそ、SWANKY DOGSは今も活動を続けることができているんですね。
洞口:そうですね。Club Changeがなかったらバンドをやる環境がなかったですから。
●そういう土地柄だと、バンド社会ではタテの繋がりが強かったりするんですか?
長谷川:強いですね。地方ならではといいますか。
洞口:体育会系どころの話じゃないと思います(笑)。僕らが打ち上げに出るようになる頃には酒の飲み方とか、注ぎ方とかを教え込んでいただきましたし、他のことも全部叩き込まれた感じですね。
●バンドの活動スタンスやマインドは盛岡の地で育まれたと。
洞口:僕らは歌ものギターロックをやっているんですが、精神的な部分はパンクというか、先輩たちのそういうマインドが根付いていると思います。「気合で行くところは気合で行かなきゃいけない」とか、そういうところは持ってますね。
●バンドを続けているうちに「東京へ行ったほうがいいんじゃないか?」みたいな、迷いは生じなかったんですか?
洞口:それは全然なかったです。むしろ盛岡にいることによって、今の実力では一緒にできないような人達と対バンできるっていうのがあって。そういうことを20歳くらいから経験して「これは地方の方がチャンスあるぞ」って。
●いろんなチャンスに恵まれたと。
洞口:しかも、そういった先輩たちからいろんな話が聞けたんです。「これは盛岡にいたほうがチャンスなんじゃないか?」って。それは今でも思っています。東京に行ったら、ジャンルで分けられたりするような環境になっちゃう気がするんですよ。音楽的なジャンルに分けられることなく、バンドをやってるだけでいろんな人に会えるっていうのは、僕たちの場合は盛岡じゃないとできないんじゃないかなって。バンドの活動をしていく中で、「先輩たちもこうやってバンドをやってきたんだな」って思います。
●今作は、そういう背景の中で満を持して発売される音源なんですね。
洞口:まさにそうですね。それも良いタイミングが重なってくれたというか。
●作曲は誰が担当してるんですか?
洞口:基本的には、僕が弾き語りで持って行って歌詞を後から乗せるか、スタジオでみんなとジャムりながらいい感じになってきたら「曲にしようか」と固めていくか。そのどちらかですね。
●曲を聴いた感想としては、スタンダードなロックの楽曲に、丁寧に言葉を乗せて歌っているなと思ったんです。その辺りは意識して作っているんですか?
洞口:僕らは小難しい事ができないんですよ。最近のバンドは変わった事もやったりして、変化球を投げるような人も多いですよね。でも、盛岡は直球しか投げないような人しかいないので(笑)。歌詞や曲の作り方はそういう環境の影響もあったと思います。
●自分たちの育ってきた環境の考え方や気質を脈々と受け継いできた、と。
洞口:そうですね。それはあるんじゃないかな。
●自分たちが一番影響を受けている音楽ってどういうところなんですか?
洞口:僕がもともと好きなのは、母親が聴いていた影響でオフコースやTULIPなんです。ニューミュージックと呼ばれる辺りを聴いていて。あとはFIELD OF VIEWが好きで、小さい頃に聴いていたりとか。いわゆるJ-POPのメロディーからの影響が強いですね。最初にバンドを組んだ時はHi-STANDARDのコピーから始めて、そういうメロディックなところを通りつつ、形としてはロックがやりたいと思って。そうしていく中で出会ったのがLOST IN TIMEとか、LUNKHEADなんです。あの人たちの、心に刺さるような日本語の歌詞に出会った時に「こういう歌詞を書きたいな」と思って。そのいう感じで、やりたいことが全部混ざったのが今のスタイルですね。
長谷川:僕はもともとELLEGARDENが好きで。中学、高校とメロコアあたりを聴いてましたね。
川村:僕は青春パンクとか、パンクばかり聴いてました。
洞口:(川村は)GOING STEADYとかsum41とかBlink-182とかを聴いていて。SWANKY DOGSの楽曲は、全員の音楽のルーツから外れてないというか。
●そうですね、通じるところがありますね。
洞口:だから僕が作曲して持って行っても、違和感なくバンドの曲としてできるんです。
●今作の選曲はどのようにして選んだんですか?
洞口:ずっと昔からやってる曲も何十曲かあったんですけど、アルバムを作るときに今までの曲は全部入れない事にしました。なので、アルバムを作る事になってから作曲したもので構成されてるんです。3〜4ヶ月くらいで30曲くらい作って、その中から選びました。
●3ヶ月で30曲? すごいな。
洞口:1ヵ月に10曲ずつくらい作ってましたね。
●もともと曲を書くのは早いんですか?
洞口:いや、全然。なので、めちゃめちゃ頑張りました。「頑張った」なんて言ったら怒られるかもしれないけど(笑)。
●今までそんなペースで作ったことは?
川村:ないですね。
洞口:早くても、月2〜3曲できればいい方です。
長谷川:だから自分たちで決めたことだけど、すごいプレッシャーだったよね。逆にそういうプレッシャーがないと俺らやっていけないのかもしれない(笑)。
洞口:それだけ作らなかったら、こんなアルバムにはならなかったとは思います。作っている時は何も考えられず、必死にやってただけですけど(笑)。
●今作は小田和奏くん(ex.No Regret Life)に録ってもらったそうですね。
洞口:はい、ガッチリついてもらって。青森県の弘前Mag-Netっていうライブハウスでレコーディングをしました。
●え? 弘前Mag-Net?
洞口:色々なレコーディングスタジオも候補にあったんですけど、生々しいところだったり、勢いも含めて録ることができるだろうと思って、前からお世話になっている弘前Mag-Netを使わせてもらったんです。
●弘前Mag-Netはよく出るライブハウスなんですか?
洞口:そうですね、よくライブはやってます。今回、弘前Mag-NetのPAさんもエンジニアをやってくださって。僕らのことも前から知ってもらっているので「じゃあお願いしよう」と。
●要するに、愛情を持ってくれている人たちに手伝ってもらったと。
洞口:そうですね。まる5日間で全12曲録ったんですけど、その間はずっとライブハウス泊りでした(笑)。
●音もしっかりしてますよね。
洞口:いいクオリティでやっていただけたと思います。和奏さん発信のアイデアで、現場のエンジニアさんも初めて経験する録り方とかもあったみたいなんですけど。
●今作をライブハウスでレコーディングして、バンド自体も年間100本くらいのペースでライブをするとのことですけど、バンドをやる上でも曲を作る上でも“ライブ”というものが重要な要素なんですか?
洞口:そうですね。もともとのきっかけは、ライブがやりたくてバンドを始めたというのがあって。ステージの上での高揚感だったり、覚醒する瞬間を知ってしまったんですよね。だから曲を作るときも、ライブでの伝わり方を意識してアレンジを考えたりとか。
長谷川:僕はもともとELLEGARDENとかを聴いてきたというのもあって、ちょっとでもアクセントを入れたいんです。“ここでコーラスを入れたら、普段盛り上がらない人達が手を上げてくれるんじゃないのかな?”とかっていうのを前提にアレンジを考えたりします。
●ライブが前提になっていると。
長谷川:CDももちろん大事なんですけれど、ライブを観た時に「おっ!」ってなって好きになってもらった方が僕らにとっても嬉しいので、大前提にはライブがありますね。
川村:例えば自分がライブを観に行って、ライブがかっこよければ“CD欲しいな!”って思うし、だから自分でやるバンドではそこを目指したいなっていうのがありますね。
●そういう想いで作った楽曲や、盛岡で育まれたマインドがぎゅっと詰まった今作のリリースツアーは、どういうものにしたいですか?
洞口:ライブって、アルバムの中のものが凝縮されて、鋭くなって出てくる瞬間だと思っていて。今回、初めてまわる場所もあるんですけれども、観てくれた人たちに、僕らの言いたいことが伝わってくれれば成功だと思っているんです。そういうツアーにしたいですね。
長谷川:洞口の歌を届けたいというのと、僕はドラムを叩くしかないので、演奏をぐっと洗練させて、次の音源を出すときにはまた違ったアプローチが出来るような、次に繋がるツアーにしたいです。だからそのためには気合いですね。気合いのツアーです。
●ハハハ(笑)。
川村:ツアーは、CDを買っていただいた方々に感謝の気持ちを伝えるために、会いに行きたいです。
長谷川:うん。根本はそうですね、いろんな方々にお世話になったので。感謝を伝えるツアーにしたいです。
●確かに、話を聞いているとSWANKY DOGSはすごく周りから愛されてる感じがする。
長谷川:そこがなかったら何もできない、と言っても過言ではないですね。それは、感謝の気持ちを持ってないと伝わらないと思うので。
●いろんな人に力を貸してもらえるというのは、言い方を変えればバンドに惹き付ける魅力があるからだと思うんですよ。これからそれをどんどん大きくしていくことが、恩返しになるんでしょうね。
洞口:そうですね。そういう人達の気持ちも背負ってるというか、持ってまわらなきゃいけないツアーですね。プレッシャーは半端ないですけど(笑)。
Interview:Takeshi. Yamanaka
Assistant:馬渡司