それぞれがバンド活動やデザイナー、クリエイターとしての経験を積んだ上で結成されたノンブラリ。2013年9月に1stアルバム『Lily yarn』をリリースし、ワンマンライブの成功や“Shimokitazawa SOUND CRUISING vol.2”などのライブサーキットイベントやフェスに出演するなど、着実に成長を遂げている。楽しさをコンセプトにした、温かい“家族”のような空気感を大切にする彼ら、今回のインタビューは、さまざまな活動を通して紡がれた、そんな彼らの“ひととなり”に焦点を当て、迫ってみた。
●ノンブラリはバンド経験者が集まって結成されてますが、きゅーりさんだけ一回りくらい年が離れてますよね? なぜこのメンバーで始めようと思ったんですか?
きゅーり:ちょうど前のバンド“ボブとモヒカン”を辞めてしまった時に、山口さんと鷲見さんが「新しいバンドを組もうか」って話していたみたいで、それで誘ってくれました。
山口:僕がドラマーとして所属してた事務所が(きゅーりと)一緒だったんです。テレビ番組「音燃え!」でも歌ってる姿を観ていて、「一回合わせてみたいな」って。
●誘われたとき、きゅーりさんはどう思ったんですか?
きゅーり:全然OKだったんですけど、なにせ知らない人たちでしたし、あっちゃん(山口)とも喋ったことなかったですし。不安はいっぱいありました、でもやってみようかなって。
●サカイさんが加入したのは?
サカイ:僕はその後です。Aprilというバンドを一緒にやっていたので鷲見のことは知っていて。鷲見と山口に誘われつつ、加入しつつ…という感じで。
山口:ユウスケさん(サカイ)はAprilが解散してから音楽をちょっと辞めてたんです。
●サカイさんはバンド活動と並行して、デザイナーとしてノンブラリや他のバンドのジャケット、フライヤーなどを制作されていますよね。音楽を辞めてデザイナー1本でやろうとしていた、ということですか?
サカイ:そうです。機材も全部売ってしまって…本当に音楽を断とうかなって。
山口:だから最初はサポートでお願いしていたんです。そこから徐々にうまいことメンバーに入れてやろうっていう魂胆で(笑)。
●そこまでしてメンバーに入れたかったのは、サカイさんのセンスにピンとくるものがあったから?
山口:ありましたね。「この人しかいないだろうな」って。バンドのバランスが取れるだろうなっていう。
鷲見:音楽性より人柄、みたいな。
山口:そこですね。「うまい!」とかじゃなくて、やりやすい人がいいって。
●新たに組むならやりやすい人がいいと。曲は誰が書いてるんですか?
山口:鷲見ときゅーりで書いてます。
●きゅーりさんは、自分でも曲を作れるのならソロで音楽を続ける道もあったと思うんですよ。なぜ、あえてバンドを選んだんですか?
山口:前はソロでもやってたんです。俺がそのサポートも叩いてたんですよ。でもなんか暗くてロックな、声に合ってない曲ばかり歌ってて。観ていて「面白くなさそうだな」って。「俺ならこれは絶対ないな…」とか思いながらサポートをやってたんですよね(笑)。
きゅーり:”ボブとモヒカン”を解散してから、多分、落ち込んでたんでしょうね…。それで全く曲が作れなくなってしまって。でも、いろんな事情があってソロをやらなきゃいけなくなって。その時期は、他の方に作っていただいた曲を歌っていたんです。それが自分の中では良くはなかったんですよね。“私どこに行っちゃうんだろうな?”って思いながらやっていて。その時期にちょうど、あっちゃんが「楽しいことをやろうよ!」って言ってくれて。「楽しいことをやりたいな〜」って。
●そもそも“音楽”ですもんね。
きゅーり:私が曲を作るのを、ゆっくり待ってくれそうなだなって。ノンブラリのメンバーはいろんなことをやってきた人達だったので。いろんなことをやって、いろんなことがあったけど、「楽しいことをもう1回、一から始めてみよう」っていうので集まったのが、このバンドのスタートだったんです。そこで私もやらせてもらえたらなって。
●楽しいことをやりたいというマインドが合ったと?
きゅーり:時期が良かったんでしょうね。みんないろいろ疲れてて…。
山口:大人の事情でけっこう振り回されてたから…売れる売れないで、ああだこうだ言われるっていう。
●一度音楽を離れたサカイさんとしても、楽しかったらいいかなと。
サカイ:そうですね。
●曲は2人でそれぞれ作るんですか?
鷲見:それぞれで作ることもありますけど、大体は山本から「こんなことやりたい」とか「こんなことがテーマで最近言いたいことがある」ってふんわりした、ぼんやりした景色を受け取るんです。例えば海沿いだとかそういった景色で、それに近い音というか、それに近い曲ってどういうものだろう? っていうところから作業が始まって。それでどんどん擦り合わせて構築していく感じ。
●きゅーりさんから出てくるイメージは抽象的なものが多いんですね。
山口:そうです。「砂漠の…こんな感じ」とか。
きゅーり:歌詞とメロディーが一緒に出てきた場合は弾き語りで私が作ってしまうんですけど、言葉だけが出てきてしまった場合に、そのイメージを俊くん(鷲見)に伝えて…。
●出てくる言葉って、歌詞なんですか?
きゅーり:歌詞だったり、つらつらと書いたメモみたいな断片だったり。それを渡して「これはどういう景色の中で思っているの?」って訊かれた時に「これは砂漠の…」とか「海沿いで…」とか、その中に出てくる景色をどんどん伝えて…。私は楽器が得意じゃないので…実はコードとかあまり分からないんです(笑)。とにかくイメージを伝えて。
●鷲見さんが翻訳してくれるというか。
きゅーり:そうです。
●きゅーりさんの世界観が全体にあって、その中にそれぞれのメンバーの主張が程よく入っていますよね。
鷲見:そうですね。
山口:セッションしても作るんです。セッションしながら「これいいじゃん」みたいな。そこでメンバーそれぞれのアイディアも入れていく。
●曲の完成はどうやって決めてるんですか?
きゅーり:その場の感覚が「これだっ!」ってなったら完成です(笑)。
山口:みんながそうなったら、だね。
鷲見:たぶん、その時はみんなの好きなものが一致してたり、とかだと思うんです。それがない時は全然できないもんね(笑)。
山口:砂漠とか全然わからない(笑)。
きゅーり:でも、それが楽しいです。私の頭の中にある景色が、この人達によって音になって出てくるのが、このバンドやってて一番楽しい事です。
●ジャケットはサカイさんが制作されていますが、持ち味というか、自分の表現したい事を意識して作るんですか?
サカイ:意識はないんですけど。このアルバムの全部の曲を聴いて、その時の歌詞をつらつらと見て…。
●なるほど、歌詞が影響してるんですね。
サカイ:歌詞だったりしますね。
山口:今回のジャケ作る時も、ずっと歌詞待ちだったもんね?
●他のバンドのジャケットやフライヤーとかも作られてますけど、それはそのバンドの歌詞からインスパイアされて?
サカイ:はい、もう歌詞がないと作れないです。
●言語を視覚化する感覚?
サカイ:そうですね。その中で重要なキーワードがあると思うので、そこをピックアップして、それをまとめていくっていう。感覚的な作業なのですごく疲れるんですよね。歌詞の内容も組み込まれていて、かつイメージができる瞬間っていうのがあるので、そこでできたらみんなに投げるという感じです。
●話を聞いていて“音楽を楽しむ”というのがこのバンドのテーマだと感じたんですが、実際にどういう部分で“楽しい”と感じますか?
鷲見:なんでも言える所は楽しいですね。他の人には言えないことも、家族くらいの感覚でメンバーには言えて。それがあるから、曲に関してもとことん詰めることができる。そこでできた曲だから「生み出せたなあ」という達成感があって。もみ合って生まれたものだから、そこでできたものって「もうこれしか無いんだな」と思って…だから曲ができた時が一番楽しいです。
山口:本当にその通りだよね。
きゅーり:そうだね。
サカイ:今までバンドやってた時って、実生活のこととかって遮断しなきゃいけなかったりして…。
山口:うん、あるね〜。
●プライベートを持ち込めないということ?
サカイ:はい。実は僕、結婚して子供もいるんですよ。以前は、そういう状況だとバンドって絶対できないものだと思っていたんですけど、ここではやらせてもらっていて、すごく心地良い場所だなと思います。
●自分の生活と直結していると。山口さん、きゅーりさんは?
山口:僕にとってのノンブラリは何事も本気でやれる場所なんです。思ってることをちゃんと伝えれば、答えがちゃんと返ってくる。だから「どこが楽しいか?」と問われたら、このバンドをやってる事自体が楽しいというか。
きゅーり:さっきも言いましたけど、私の頭の中にしかなかったものがこの人達といると音になって現れてくる瞬間が一番楽しいですね。この人達といたら、思い描いてることが現実となって返ってくる、というのを信じているので。いつも前を向いていられるというか「この人達といれば大丈夫」っていう、家みたいな感覚があるんです。「この人達と一緒にいたら私はあそこへ行ける、この人達と一緒にいたら幸せになれる」っていうのがあって、安心感があるんですよ。だから4人でいてすごく楽しい。それに対して「楽しそうだね」って言って集まって来てくれる人がいて。その楽しいがどんどん大きくなっていって、これどこまで行けるんだろう? って。頭に思い浮かべてたものが現実になっていくのが、今は一番楽しいですね。それは今までなかった感覚なんです。「この人達といれば大丈夫」って思うことは、ノンブラリを始めるまではなかったので。
●今までは、極端に言えばひとりぼっちだったと。
きゅーり:そうですね。私、曲を作るにあたっていつも根本にあるのは“ひとりぼっち”というところからなんですよ。その意識から生まれるものが全てで、それは今も変わらないんです。ただ、この人達といることで、すごく暗いところから始まったものなのに、出来上がった時は気付くとすごく明るい事を歌っている。「ひとりぼっちだよ」というところから始まって「でもさ?」というところが膨らんできて曲になるんですけど、その「でもさ?」って思えるのはこの人達のお陰なんです。
●1人だともっと暗い曲になってた。
きゅーり:うん、暗いですね(笑)。最初ってどん底だよね?
鷲見:もうすごく暗いです…(笑)。
一同:(笑)。
きゅーり:でも、この人達のお陰で、最終的には前を向けるんです。
Interview:Takeshi. Yamanaka
Assistant:馬渡司