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Hermann H.&The Pacemakers

夢は再び動き始めた

195_HHPM1999年に颯爽とCDデビューし、その奔放なスタイルと圧倒的なオリジナリティが詰まったサウンドでシーンを賑わせたHermann H.&The Pacemakers。時代にフィットしようともせず、類まれなポップネスと優れたセンス、ニヒルな視点を併せ持って疾走した彼らは、多くの支持を得つつも2005年に活動を休止。「あんなバンドは二度と現れない」と数多くのリスナーを悲しませたが、2012年に見事復活を果たして昨年のベストアルバムリリースに続き、遂に3枚目となるフルアルバムを完成させた。誰もが待ち侘びていた彼らの新作は、みずみずしい鮮度で鳴り響く痛快なヘルマン・サウンド全開。リリース後は待望のツアーも決定。ずっと止まったままだった夢が、再び動き始めた。

 

 

「ヘルマンというバンドが生み出す核みたいなところには俺と平床が居て、それを爆発させるためにメンバーが居る」

●昨年6月の活動再開のタイミングから、新作を作るという発想はあったんですか?

岡本:いや、なかったです。活動再開となったときにも未だ平床は居なかったし。何しろ7年半活動してなかったし、フェスにも色々と呼んでいただいたこともあって、とりあえずライブをしまくっていたんですよ。

●ふむふむ。

岡本:で、ライブをやっているうちに“新しい作品を作ろうか”というモードになってきて。“新しい作品を作るためには絶対に平床が必要だ”と俺の中では思っていて。それで「もう1回一緒にやらないか」って声をかけたんです。

●それはいつかのライブのMCで言ってましたよね。平床さんをとりあえず飲みに誘って、Wolfと3人で飲みながら口説いたと。

平床:そうです。誘導作戦に僕がまんまとひっかかったんです。

岡本:アハハハ(笑)。

平床:それまで全然会ってなかったし、連絡も取っていなかったんですよ。だから少しずつ関係性を取り戻して飲みに行くようにもなって。音信不通だった友達とまた連絡を取るようになって、また昔の雰囲気に戻ったような感じですね。

岡本:10年くらい会ってなかったもんね。ライブを重ねていくうちに“ヘルマンを続けて行きたいな”という気持ちになったんですよ。サポートも含めてバンドの空気もすごく良くて、楽しくて。そうしたらやっぱり“新しい作品を作りたいな”という気持ちが出てきて、そのためには平床が必要だと。

●そこをちょっと掘り下げますけど、「新しい作品を作るためには平床さんが必要だ」というのは、具体的にはどういうことなんですか?

岡本:思い起こせばですけど、活動休止に俺らが入ったとき…それは政治が抜けた後だったけど…ヘルマンというバンドが何をやりたいのか完全に見失った状態で、でもスケジュールは決まっててやらなきゃいけないことがあったんです。だから言い方は悪いけど、ただこなしていく。全然クリエイティブな頭もなく、「やりたくないのにやってる」と言っちゃうとオーバーだけど、まず俺自身が誰より先にヘルマンをやりたくなくなっちゃって。もちろん新しい作品を作るなんてあり得ないし。

●なるほど。

岡本:7年半もわかんなかったんですけど、俺と平床という人間が生み出すものの第一歩目のモチベーションや価値観みたいなものが、このバンドには絶対に必要なんです。それが俺はわかっちゃったんですよね。

●ああ〜。

岡本:だから「もう1回一緒にやんねえか」って。ヘルマンというバンドが生み出す核みたいなところには俺と平床が居て、それを爆発させるためにメンバーが居る。それがマシータやTOMOTOMOclubに派生して成立するっていう。

●「俺はわかっちゃった」とサラッとおっしゃいましたけど、その自覚はすごく大きなことですね。

岡本:そうですね。

●平床さんが戻ってきたことによりバンドの雰囲気が戻った?

岡本:うん。急に戻った感じがありました。ノリみたいな部分で「あ、ヘルマンってこうだったんだよね」って。やっぱりバンドなんて長いことやっていると、色んなものを忘れていくんですよ。だいたいのバンドはそうやって解散したり活動休止したりするんだろうし。だから俺は、それを取り戻すために7年半かかったんです(笑)。「音楽ってやっぱり楽しいものだよね」というところに立ち戻るために、それだけの時間がかかった。

●なるほど。

若井:でもね、1日限りのライブのときもそうだったんですけど、全然緊張しないし、すぐに「これこれ!」っていう感覚になれたよね。

溝田:うん。楽しい。それに、ライブをやるたびにお客さんの「待ってました!」っていう気持ちもすごく伝わってきたので、その気持ちに応えたいなって。そういうこと自体が楽しいなって。

●マシータさんとTOMOTOMOclubさんは、以前は外から見ていたわけじゃないですか。2人から客観的に見て、ヘルマンはどういうバンドだと思います?

マシータ:特定の誰かが強烈なリーダーシップを発揮するわけではないんですけど、でも誰かが欠けるとバランスが崩れるバンドだなって。なんか、このバンド独特のノリだったりバランスがあるんです。だから政治が抜けたときは、そのバランスが崩れちゃったんでしょうね。政治は作詞を担当していますけど、作詞だけじゃなくて、バンドのノリの部分。そこで「何か足らないな」っていうことに気付いちゃった。

岡本:うん。お客さんも気付いてたんでしょうね。

●確かに、なんとなくそういう感じは伝わってきていました。

岡本:ですよね。でも、それでもお客さんは居てくれて。

マシータ:1日限りの復活ライブのとき、入場SEが鳴った瞬間にものすごい歓声というか怒号がわき起こって、1曲目のイントロが鳴っただけで更に大きな歓声に包まれて、ステージが揺れたんです。アンコールに政治がサプライズで出てきたときなんて、もう腰を抜かすほどお客さんは喜んでくれていて。俺、びっくりしたんですよ。みんなの中でヘルマンがトラウマティックな存在になっているだなって。

TOMOTOMOclub:そうだよね。1日限りのライブのとき、僕は演奏しながら“またやればいいのに”ってずっと思ってたんです。

一同:アハハハ(笑)。

TOMOTOMOclub:“こんなにかっこいいんだから、またやりゃあいいじゃん”って。

●マシータさんがおっしゃっていた“独特のノリ”は、後にも先にもヘルマン以外では作れないと思うんです。だからこそ、活動再会したときのお客さんの喜びも半端なかっただろうし。

岡本:自分のことですけど、なかなかないですよね。いろんなものが入れ替わって、浄化されて。そのために7年半かかって、平床とまた一緒にやるために10年かかったんだろうなと思います。

●ヘルマンというバンドは他にないオリジナリティがあると僕はずっと思ってきたんですけど、そういう自覚はあったんですか?

岡本:ないです。今も昔も俺が弾き語りみたいな感じで作って、そこに平床が歌詞を乗せるという作り方なんですけど、自分たち的には奇をてらったり変わったことをやろうという意識はなくて。

マシータ:岡本が言ってたんですけど、メロディやリフに関するこだわりが強いんです。奇をてらうわけじゃなくて、今まで聴いたことがなくてキャッチーなものを作っているというか。

岡本:単純に、自分にしかないものを作ろうとしているんですけど、その中でいちばん大事なのはメロディなんです。ただ踊らせるだけじゃダメで、踊れる上に絶対に残るもの。何をやってもいいけど、そのこだわりだけは絶対に失いたくないと思って作ってます。

●それにヘルマンは時代性を完全に無視してますよね。

岡本:ガン無視ですね。

一同:アハハハ(笑)。

●でもそれがオリジナリティに繋がっていて。今作はどういう経緯で作ったんですか?

平床:僕が岡本の家に行って、酒を飲みながら2人きりで曲を作り始めたんです。

●相変わらず好きですね、酒。

平床:酒は大事ですからね。酒がなかったら戻っていなかったです。

一同:ハハハ(笑)。

平床:そうやって2人で去年の春くらいから作り始めて…結構時間がかかったよね。

岡本:うん。そういう気分になるのを待ってたというか。

●待ってた?

岡本:空気感というか、ノリというか。またこのメンバーで録るわけで、またこのメンバーでライブをやるわけで、“何がフィットするんだ?”っていうところを探していたというか。考えるわけでもないんですけど、無理なく生み出すというか。フィットするもの…マシータはどういうドラムで、TOMO(TOMOTOMOclub)はどういうベースで、政治はどういうギターで、溝田はどういうキーボードで、俺はどういう…というのをぐるぐるとイメージして、全部を消化することに時間がかかったんです。

●フィットするもの?

岡本:「何がヘルマンにフィットするのか?」という問いは音楽性の話ではなくて、「みんなが“ヘヘヘ”って笑うものは何なのか?」という感じ。

●あっ、そういうことか。確かに昔からこのバンドはみんなが「へへへ」と笑ってますね。ちょっと人を食っている感じ。

岡本:そう。ヘルマンの音楽やライブは、俺らにとってもファンにとっても生活みたいなもんなんですよ。音楽はひねくれているかもしれないけど、どこにでも転がっている日常を音楽で体現しているだけ。

●なるほどね。

岡本:音楽がどうのとか歌がどうのとかいうのは、たぶん俺らの核ではないんです。俺らが「へへへ」って笑うものを賑やかにしてくれるのが音楽でありライブなんです。ほら、人間って暗くなろうと思ったら結構暗くなれるし、パーッとやろうと思えばすぐになれるじゃないですか。難しいようで、意外とみんなそういう気分に持っていくのは得意だと思うんです。そういうものをひっくるめて音楽でやるのがヘルマンというバンドっていうか。

●なるほど。そういう感覚を大事にしつつ、岡本さんと平床さんの2人でコネコネ作っていったと。

岡本:そうですね。俺個人のストックという意味では曲は大量にあったんですけど、今作に限って言えば、平床が歌詞を書いてこのメンバーで演奏する、という前提でイチから作ったものばかりですね。

マシータ:レコーディングの過程でも感じたんですけど、このバンドはとにかく思いついたものをぶち込むんですよ。とにかくぶち込んで“これどうやって処理するのかな?”って心配になるくらい。絶妙なバランスを持ったこのバンドのメンバーそれぞれが、とにかく思いつくものをバーッと書き連ねて、やりたい順番で並べて、政治がみんなの気持ちを代弁しながら歌詞を乗っけていって作ったアルバム。

岡本:もちろんダメなら使わないけど、「これをやってくれ」みたいな注文もしないんです。好きにやってくれって。

●それがヘルマンの雰囲気に繋がっていると。

岡本:そう。整合性とか考えて作ってなかったし。昔からそうなんですけど、俺たちは出来た順に入れていただけで、今回もそういう感じで作ったんです。

マシータ:そういうものがたくさんの人に刺さってきたというのは、すごいことだよね。

●感覚に近い音楽だし、感覚の鮮度が高いと。

岡本:整理されている音楽もいいと思うんだけど、俺たちは…なんていうのかな…いい意味でバタバタしてるんです(笑)。長くやっていると、音に気を遣えるようになっちゃうんですよね。

●経験で培ったそういう気遣いが邪魔することもあると思うんです。昔はさておき、今のヘルマンがそういう鮮度を持ち続けていることはすごいことだなと。

岡本:メンバーはみんないろいろと経験もあるし、俺なんかも他のアーティストの現場とかもやっていて、そういう技術や経験が必要な場面ももちろんあるんです。でもロックバンドにはそんなものが全然必要ないっていうか。

●なるほど。ちなみに、若井さんはレコーディングはどうだったんですか?

若井:飯が美味かったです。

一同:アハハハハハハハ(笑)。

岡本:ほとんど居なかったよね(笑)。

平床:合宿が出来るスタジオでレコーディングしたんですけど、若井は仕事が終わってから作業の終わったスタジオに来て、酒飲んで寝て、朝メンバーに駅まで送ってもらって出勤するっていう。

若井:いいレコーディングだったな。

●ハハハ(笑)。溝田さんは?

溝田:私は子育て中だったので、ほぼ宅録状態です。

●あっ、そうか。時期的に産休中でしたもんね。

平床:僕がPCを溝田の家に持って行って、OKテイクを走らせながらその場で溝田にキーボードを弾いてもらって。

マシータ:育児ママでもレコーディングできるっていう。

●すごい!

岡本:別にその場でアンプ繋いでギター鳴らす必要もないし。なんとかなったね。

溝田:弾いて、授乳して、弾いて、授乳して。普通の家だから“ご近所さんにうるさくないかな?”って内心ひやひやしながら(笑)。

平床:サポートの細萱あゆ子さん(frills, THE BEACHES)に弾いてもらった曲も2曲あるんですけど、あゆ子さんにも溝田の家に来てもらって。だからキーボードは全部宅録です。

溝田:いい経験になりました。

●あと、今作の歌詞についてちょっと気になった部分があるんですが、“夢”という言葉がよく出てきていて。

平床:あ、マジっすか。そんなに出てきます?

●10曲中6曲の歌詞に出てます。

平床:そうなんですね。無意識だし、無自覚でした。

●このバンドの独特な雰囲気…「へへへ」と笑っているところとか、人を食った感じとか、ニヒルな視点とか…が随所に出ているアルバムだと思うんですけど、その中でちょっと熱い部分やパーソナリティが見えるのがいいなと思ったんです。“夢”という言葉は、その象徴というか。

平床:そこは大事なところだと思っていて。言葉をヘルマンらしいフォーマットに落とし込むことがすごく大事だし、絶妙な部分を突くっていうか。突き放しているんだけどどこかで寄り添っていたり絶対的にポップじゃないといけないとか。

●うんうん。

平床:このバンドには絶対に抜けちゃいけない骨組みがあって。それは久しぶりにヘルマンをやって気付いた部分なんです。そこに落とし込まないと、メッセージがこのバンドっぽくならない。どんなに社会派なことを歌っていても、どれだけくだらないことを歌う曲でも、ヘルマンらしさを出すポイントがあるんです。それを思い出しました。

●聴いたときに「そうそう、この感じ」と思いました。とてもヘルマンらしい、痛快なアルバムになりましたね。2/20からの約10年ぶりのツアーも楽しみです。

岡本:作品を作っててもライブをやってても、余計なことを考えずにやった方がいいと思っていて。色んな今までの経験で知っちゃっているというのもあるけど、考えても意味ないんですよね。だからツアーは“無”でやろうかなと思ってます。

若井:せっかくだからツアーはたくさんの人に観に来てほしいですね。Wolfという変なパートも観に来て欲しいです。

TOMOTOMOclub:ツアータイトルが“DANCE 'EM ALL”となっているように、片っ端から踊らせたいですね。

マシータ:ツアータイトルはTOMOが考えたんだよね。

岡本:俺も平床も、「ツアータイトル考えろ」って言われてもちゃんと考えて来ないからね(笑)。

一同:ハハハハ(笑)。

●溝田さんは、どういうツアーにしたいですか?

溝田:私は個人的な話なんですけど産休でしばらくライブができなかったので、今回のツアーはライブも打ち上げも爆発しようと思います。

一同:怖ぇー!!

interview:Takeshi.Yamanaka

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