キュート&クールなルックスと強烈なキャラクターに加えて、クオリティの高い楽曲と爆発力のあるライブで唯一無二の存在感を放つ女性4人組バンド、キノコホテル。その魅力をさらに研ぎ澄ますべくライブ活動に注力していた1年半以上の期間を経て、3作目のオリジナルアルバムとなる『マリアンヌの誘惑』をリリースする。これまでのガレージ/ロックンロール的なムードは受け継ぎつつ、さらに音楽的な進化と深化を遂げた今作。変速ボッサ的なスキャットナンバーやスカ・ビートを取り入れたダンスチューンなど新たな要素も意欲的に取り入れつつ、聴く者を捉えて離さない中毒性は今まで以上に増している。いわゆるJ-POPにはありえないイビツなトゲを持ちながら、メロディはかつて聴いたような親しみやすさを持ち合わせ、あくまでも“ポップ”なのだ。今作からはメーカーを移籍し、さらには12月のツアーをもって現メンバーによる活動を終了することも発表されているが、彼女たちの進化が止まることはない。そのことを明確に予期するような今作を聴き、未知なる新次元へと誘われよ。
●前作の2ndアルバム『マリアンヌの恍惚』から1年8ヵ月ぶりの新作ということで、わりとリリース期間が空きましたよね。
マリアンヌ:単に公演で忙しくて、リリースに気持ちが向いていなかったの。リリースよりも、良いステージを多くこなしてバンドの底力を付けることの方に関心を持っていた。メジャーデビューしたことでインディーズの頃より多少は知名度も上がって、ライブをやるハコも少しずつ大きくなって動員も増えていったし、この状況でどこまで行けるか試したい気持ちが大きかったです。
●ライブを中心に考えていたと。
マリアンヌ:キノコホテルはやっぱりライブバンドだと思っています。もちろん音源もコンスタントに作っていけたらいいんだけど、それよりもまずはステージを重ねて個々のスキルをアップさせること。誰かと話し合って「こうしましょう」と決めたわけじゃなくて、ワタクシ自身の欲求として“今後どうやったらライブをたくさんの人に観てもらえるか?”そればかり考えていたわ。
●それによって、結果的にリリース期間が空いたわけですね。
マリアンヌ:人からも「リリース期間が空くと、キツいんじゃないの?」とは言われましたけど。でも、インターネット社会で情報が氾濫するこの世の中で、話題になるような良いステージを続けていれば、人は自然と集まってくるものだと思ったわけ。新譜のリリースが、ライブの動員にそこまで関わらないというか。個人的にはそう考えていました。
●でも結果として、ライブを強化することが次の作品にもつながるというか。
マリアンヌ:そうですね。ウチは曲を作ったらライブで何回もやって温めてから、レコーディングに入るようにしていて。新曲はライブでどんどん披露して、録音する頃には熟成されている。飽きちゃう場合もあるけど(笑)。キノコホテルは始めからそういう手法でやっているの。全曲新曲、というアルバムもいつかは、と思いますけどね。どうなるかはまだわからないわ。
●今作『マリアンヌの誘惑』に収録した楽曲も、ライブで練られてきたものなわけですね。
マリアンヌ:ライブでは次々に新曲を披露しているから、「最近、キノコホテルは新曲がないじゃん」とか言われるわけでもなくて。でも確かに、CDでしかキノコホテルに接していない人にとっては”久しぶり”かもしれないですね。そういう人たちは“こんなに期間が空いているのは、何かあったのかな?”と思うかもしれないけど、ただ単に気まぐれで1年8ヵ月空いただけです。私にとっては、CDをただ待っているだけのファンよりも実際に観に来てくれるファンの方が有り難いから。
●別に活動が止まっていたわけではない。
マリアンヌ:ライブが月に少ない時でも4〜5本は入ってくるので、そのリハーサルのためにスタジオに入って。たまに気まぐれで曲ができたら持っていって、みんなに覚えてもらって…という繰り返しで、特に休んでいた期間もないわよ。何度も海外逃亡を企てたけど、執事(マネージャー)が許してくれなかったわ(笑)。
●今作に収録した中には、まだライブでやっていない曲もある?
マリアンヌ:M-3「業火」だけですね。これが一番新しい曲です。トラック的には3曲目になっているけど、1曲目はノイズだけだから実質的には2曲目として捉えていて。アルバムを制作している途中で、自分が持っている曲の中で2曲目っぽいテンションのものがなかったからほぼ即席で作った曲。
●曲自体は他にもたくさんあったんですか?
マリアンヌ:もっと曲はたくさんできていたんですけど、仕上がり具合が今ひとつだったり、自分的に納得出来なかったりして切ったものが4〜5曲はありました。だから、その代わりにすごく古い曲を入れてみたりして。
●M-7「恋のチャンスは一度だけ」は、以前からライブでやっていますよね。
マリアンヌ:これはもう4〜5年前からある曲ですね。きちんとした形でアルバムに入れたことがない曲だし、ライブでも評判が良い曲だから、そろそろ収録してあげようかな、ということで。
●今回の収録曲を選んだ基準は何だったんでしょう?
マリアンヌ:前作は“もういい加減、GSとか歌謡とかガレージとかって言われないようなオリジナリティを確立したい”と思って作ったんですけど、世間の認識はあまり変わらなくて。あの衣装の功罪は大きいわね。そこでイラ立ちとまではいかないけど、“なかなか伝わらないものなんだな”と思ったんですよね。前作はサイケ路線に走った分、余計にわかりづらくしちゃった部分があったのかもしれない。だから今回はもう少しポップな要素を取り入れて、踊れるような曲を多めにしつつ、でもそれなりにキノコホテルらしいトガッた感じも残したかったの。まさかスカの曲をやるとは思わなかったけど。
●そういうイメージに合う曲を選んでいったと。
マリアンヌ:これからキノコホテルをそっち路線にシフトしたいなと思っていて。ステージングだって結成当時に比べたら激しくなっているのに、楽曲が追いつけていなかったんですよね。「ライブだと激しいのに、音源だとおとなしくてつまんない」とか言われたりもしてちょっとムカついていたから、ライブと音源の隔たりを少しでも取っ払えたらなと。
●ライブでの魅力を作品でも表現しようとした。
マリアンヌ:キノコホテルのライブならではのワイルドさとか、その一方で妖艶な部分だったりとか。ライブだと視覚で伝わるけど、CDは音だけなのでライブ感もどこかで出していけたらという想いはあったかしら。
●そういう意味で「恋のチャンスは一度だけ」は実際にずっとやってきている曲だけに、ライブ感がより出ている曲なんじゃないですか?
マリアンヌ:そうですね。今までは少し固さがあったというか。だから音源にするには、どこか抵抗があったのかもしれない。一時期すごくライブでやっていたので自分としては飽きてしまって、しばらくやらない時期もあったんです。でも久しぶりにやってみたら、すごく良くなっていたのね。バンドの演奏力が増したんだなと思って。そうしたら、改めて録ってみたくなった。今回アルバムに入れることで完結すればいいなと思って。
●以前にライブでやっていた頃は、まだ理想の形に到達していなかったんですね。
マリアンヌ:リズム隊がね(笑)。しっくりこないというか、歌っていて何だか気持ちよくないというか。本当にちょっとしたニュアンスなんですけど、こちらのイメージを理解してもらうのにとても時間がかかった。
●そこの違和感を改善する上でも、ライブを重ねることが役立ったのでは?
マリアンヌ:ライブでやっていて「このリズム、なんかカッコ良くないんだけど」と言って、変えてもらったりはします。たとえばM-6「エロス + 独裁」は変則ボッサという感じに今はなっていますけど、最初はこんなにエキゾチックな曲じゃなかったんですよ。もう忘れましたけど、なんだか中途半端なビートでね。だから指示して変更しました。
●リズムを変えたことで、今の形になったと。
マリアンヌ:ワタクシもドラムが叩けないのに、よくこんな複雑なリズムを的確に指示できたなと今は思いますね(笑)。最初はドラムの彼女も「こんなの叩いたことないです。難しい」とか言っていたけど、そこは修行していただいて。この曲みたいにライブで何度かやっていたものを、急にリズムを変えてやり直すこともあります。単に飽きて変える場合もあるし。
●マリアンヌさんのイメージに合う形に変えていくというか。
マリアンヌ:曲を作っているのはあくまでワタクシなので、作曲者の意図を汲んでほしい。というか、与えられた楽曲をどうやって良くしていくかを考えることが、プレイヤーの義務だと思うんですよ。そこで「いや、ワタクシはこうやりたいんです」って変に我を出されても、「キノコホテルはあなた個人のスキルの発表会じゃないのよ」と。そういうやり取りは、日々ありますね。良いアイデアは採用してあげるけど。
●M-4「愛と教育」の歌詞にある“最初からやり直し”というセリフは、普段からメンバーにも言っていそうな…(笑)。
マリアンヌ:言っていますよ(笑)。「ダメダメダメダメ!! もう1回やり直して!!」って。
●実際に教育している(笑)。
マリアンヌ:ムカつくところもあるけど、ワタクシの曲を一生懸命覚えてきて精一杯プレイしてくれているわけだから。あとは自分が上手く教育して、良い方向に持っていくしかないのかなと思っていますね。
●実際にメンバーの成長も感じている?
マリアンヌ:ワタクシはいつも気分で曲を作っているから、別に何かっぽいものを狙ったりはしていなくて。今作でスカの曲が入っているのも、“キノコホテルでそういう曲調をやったらどうなるのかな?”と思っただけなの。ウチの場合、ボサノバをやっても本物のボサノバにはならないし、スカをやっても本物のスカにはならない。その胡散臭さ(笑)というかパチもん的なご愛嬌もキノコホテルの面白さの1つだから。ただ、それなりに演奏力が付いて来ないとなかなか挑戦出来ないことだとは思いますが。たとえば1stアルバムの頃ではやろうと思ってもできなかっただろうし、そういう意味では今のメンバーで4年間やってきた価値はあるのかもしれない。
●新しい要素を入れることで、幅を広げたいという気持ちも多少はあったのでは?
マリアンヌ:同じことをやっていると飽きるから、飽きちゃう前に次のことを考える。それをどうやって、キノコホテルの音として聴こえてくるようにするかを実験したいという気持ちはありますね。
●今作では実験した部分も多いんでしょうか?
マリアンヌ:そうですね。明らかに今までのキノコホテルにはなかったテイストも含まれています。かといって180度ガラッと変わってしまったわけでもないし、良い具合になっていると思いますね。ファズギターやオルガンだとかワタクシの声だとか、ただでさえアクの強い要素が結合しているバンドだから、多少変わったことをやってもそれなりにオリジナリティのあるものになるだろうという確信はどこかにあって。今までキノコホテルをただの昭和歌謡だとか思って聴いていた人はビックリするだろうけど、バンドは生き物だし変わっていくのが普通だと思っているから。
●要素としては昭和歌謡的な部分もあるけど、あくまでもキノコホテルのオリジナルなサウンドとして鳴らしている。
マリアンヌ:レトロだ昭和歌謡だと評され続けていると、そういうものがハナから好きじゃない人はキノコホテルを一生聴いてくれないでしょう。だから、一言では形容しがたい音楽性に持っていきたいというか。なんだかんだで世はとっくに平成だし、ワタクシは今を生きている人間だから、過去を振り返って歌謡曲やGSの世界に触れてもらおうなんて思ってもいないんです。キノコホテルを始めてから、そういうことを意図したことは一度もないんですよ。ただ、勝手に雑誌とかで“昭和40年代を彷彿とさせる”とか“昭和を現代に伝えるバンド”とか書かれて、まともに聴いてないくせにテキトーなこと言うんじゃないよ、と思ったりはするわね。
●ハハハハハ(笑)。
マリアンヌ:GSっぽい曲ばかり書いていた頃も当時それが好きだったからというだけで、(昔のものを)再現しようと思っていたわけじゃないから。だから、ヴィンテージ機材にも興味はなくて。そういうものってメンテナンスも大変だし、重たいし、面倒くさいじゃないですか。せっかく今は便利な世の中なんだから、現代の機材でいい。それでも昔っぽい音が出したきゃ出せるし、機材へのこだわりはないですね。それでいいと思っています。
●聴いている音楽も変わってきているんですか?
マリアンヌ:うん。だって飽きちゃうもん。ワタクシはとにかく飽きっぽいので、同じものをしつこく何回も聴くことはあまりないですね。それこそ10代の多感な時期にはあったかもしれないですけど、今はないです。音楽を全然聴かない時もあるし。自宅では静かにしている方が好き。
●聴く音楽が変わることによって、やりたい音も変わってきたりする?
マリアンヌ:今は、聴くものに全然左右されていないです。むしろ自分が聴きたいと思うものをやれたら理想なんですけど、それはなかなか難しい。
●今作を聴かせてもらっても“キノコホテル”でしかない音楽になっているのは、マリアンヌさんの声というのも大きいと思うんですが。
マリアンヌ:やっぱりワタクシの歌いまわしとかが最近流行っている歌手の人たちとは全然違うから、それで懐古的な印象を持っちゃう人も多いと思うんですよ。だから、今回はあえて歪ませたり…声をイジりまくってみました。ワタクシはただ素直に歌っているとレトロと言われてしまう声質なので、ギターが色んなエフェクトを使うのと同じように曲ごとに声の表情も全部変えて。それは意図してやった部分です。声も楽器の1つ、という捉え方で。
●スカ等の新しい要素を入れたのに加えて、声にエフェクトを加えることでもバラエティ豊かになっている。
マリアンヌ:ともすれば、とりとめのない感じになってしまいそうなんですけど、ミックスしながら通して聴いてみたら「1つの作品として意外とすんなり聴けるな」と思いましたね。
●今作のミックスはゆらゆら帝国などの仕事でも有名な中村宗一郎さんですが、そこでも目指すイメージを伝えているんですか?
マリアンヌ:バリバリ言いますよ。判断に迷った時には「どう思う?」と訊くし、今回は本当に中村さんと二人三脚で作ったと言っても過言ではない(笑)。
●中村さんとイメージを共有できていたからこそ、この音になったというか。
マリアンヌ:そうですね。中村さんとは、1stアルバムを一緒に作っていて。あの頃からキノコホテルはだいぶ変わりましたけど、それを経ていたことで意思の疎通が取れたんです。ワタクシが「ギターをもうちょっとヒリヒリさせたいんです」とか抽象的なことを言っても、ピッタリイメージに合うファズを用意してくれたり。1stの時にはまだお互いに探り探りでぎこちなかったんですけど、今回は世の中のニュースやメンバーの悪口(笑)とか和やかに雑談が弾んで、「あっ、そろそろ作業しないとまずいね。じゃあ始めますか」なんて具合で。だから他3人の録りが終わってワタクシと中村さんの2人での作業になってからは大変な部分もあったけど、楽しみながらできたんじゃないかしら。
●メンバーの悪口も言って、上手くガス抜きもできたし(笑)。
マリアンヌ:そうそう(笑)。無口で何も言わないエンジニアさんだと、こっちも疲れちゃうんですよね。中村さんとは人それぞれで違うであろうマッチングポイントが似ていて、すぐに察知してくれるんです。それを世の全てのエンジニアさんに求めるのは難しいことだし、なかなかそういう人には当たらないものだから。今回は中村さんじゃなかったら、途中で投げ出していたかもしれない。
●そういう過程を経たからこそ、新しいことに挑戦していたりしつつもやはりキノコホテルらしい作品になっている。
マリアンヌ:レコード会社が変わったからといって、特にイメージチェンジという感じもなくて。イメージチェンジなんか図らなくても、バンドって勝手に変わっていくものだと思うから。何より、変わらなければ飽きますし。聴き手よりも先に自分が飽きちゃう。だから、いち早く“まずいぞ。マンネリしていくぞ”ということに気付いて打開していくのが自分の役割だし、ワタクシしかそれを考える人間がいませんからね。
●今作はちゃんと自分でも飽きないものになっていますか?
マリアンヌ:そうですね。例えば20曲とか入っているくせに似た曲ばっかり、みたいなアルバムってあるでしょ(笑)。でも今作は1曲1曲それぞれが人格を持っているというか、1人の女性像を映し出しているような…。10人の女性の物語のように、女性の多面性を描いている作品ですね。
●いくつもの面を持っている女性だからこそ、男は誘惑されてしまうというか。色んな隠された面があるほうが魅力的なんですよね。
マリアンヌ:キノコホテルは「自分たちはこのジャンルしかやりません」というタイプのバンドではないし、そうありたいんです。あとはそれをどこまで広げるかというところで、やりすぎても無節操になってしまうし、さじ加減が難しいけど。
●今まで培ってきたものも活かしつつ、進化していく。
マリアンヌ:そうですね。せっかくキノコホテルというコンセプトでやってきたんだからという部分はあって。それでも進化していきたい気持ちはあるので、既存のキノコホテルとこれからのキノコホテルを絶妙に絡ませていけたらいいわね。
Interview:IMAI
Assistant:Hirase.M