ずっと自分たちを育て、応援し続けてくれた長崎に恩返しをしたいという3人の想いから、バンド史上最大規模のワンマンライブ“10-FEET野外ワンマンライブ2019 in 稲佐山”が長崎市稲佐山公園野外ステージで開催されることになった。というわけで、今月号ではその模様をレポートする。
現地では朝から雨が降ったり止んだりを繰り返していたが、開演時間が迫る頃の稲佐山には雲の合間からうっすらと陽の光も差し込むようになってきた。この分ならなんとかなりそうだ。続々と観客が詰めかけた稲佐山公園野外ステージ、開演前のBGMに歓喜したオーディエンスはノリノリ。まだライブは始まっていないのに、会場のテンションは高い。
開演予定時間を少し過ぎた頃、BGMが鳴り止んでDJ YUYAがよく通る声で挨拶。10-FEETが初めてフェスに出演したのは2001年の“Sky Jamboree”、そしてフェスで初の大トリを務めたのが2006年の“Sky Jamboree”。みんなにとっても10-FEETにとってもここがホーム、みんなの「おかえり!」のコールを合図に記念すべきワンマンライブが始まった。
カウントダウン映像とSEを経て3人がステージに姿を現す頃には、オーディエンスが高く頭上に掲げた10-FEETタオルが客席エリアを埋め尽くす。想いをひとつにした会場の熱気はすでに最高潮、皆それぞれが思い思いの感情を露わにし、その気持ちを高ぶらせて叫ぶオーディエンスの前で、Vo./G.TAKUMAがギターを鳴らす。1曲目の「火とリズム」のビートが地面を揺らし、オーディエンスの歌声が空に突き抜ける。会場の熱気は凄まじく、既にダイバーが乱発。何年も前から何度も経験してきた10-FEETのライブの“あの”感覚、鼓動が急速に速くなって血が熱くなる“あの”感覚が身を包む。叫び出したくなるほどの衝動と興奮に包まれる。
続くは「STONE COLD BREAK」。イントロから早くもオーディエンスのテンションはMAX、ステージ前には巨大なサークルモッシュが発生し、ステージの3人は容赦なくモッシュ、ダイヴ、コール&レスポンス必至のキラーチューン「JUST A FALSE! JUST A HOLE!」を繰り出してくる。“心の底から思い切り楽しんでやる”という気迫がステージ上と客席の両方に充満する最高の空間だ。
「1st ALBUMからやります」とコール&レスポンスから始まった「EVERY」で稲佐山が笑顔に包まれる。凄まじく迫力ある音圧が襲いかってくる「JUNGLES」では観客が大きな声でTAKUMAと一緒に歌い、まるで10-FEETの3人と会場を埋め尽くすオーディエンス全員ががっちりとスクラムを組んだかのような、鉄壁の一体感。10-FEETのライブは3人とオーディエンス全員で作り上げる…今まで何度も目撃し、そして胸を打たれた“ライブの奇跡”を目の当たりにする。
MCではTAKUMAの「ダイヴしてきた客がポケットからシーチキンマヨネーズの海苔巻きを落とした瞬間を目撃した」という話で盛り上がった後、NAOKIが「super stomper」のイントロを鳴らし始める。そこでTAKUMAが「(ダイバー海苔巻き落とし事件で)出鼻くじかれたからやっぱり俺らだけじゃ無理や! 誰か助けてくれ!」と叫び、MAN WITH A MISSIONのTokyo TanakaとJean-Ken Johnnyがステージに登場して割れんばかりの大歓声。オーディエンスは腕を振り上げてジャンプ。オオカミの助けを得て更にパワーアップした10-FEETが稲佐山を巨大なライブハウスにする。「my pet theroy」に身を任せて思う存分楽しんだ後、汗だくのオーディエンスはそれでも未だ足りないと「2%」で拳をあげて全力で暴れまくり、Ba./Vo.NAOKIの「稲佐山ありがとう!」という声に大きな声で応える。涙を流しながら笑っているような、ライブでしか見たことがない最高の笑顔が客席を埋め尽くす。
TAKUMAが感謝の気持ちを告げ、「1 size FITS ALL」「Freedom」と百戦錬磨のライブチューンがオーディエンスの感情をむき出しにさせる。筆者は以前、とあるアーティストから「ライブ中に稲佐山のステージから観る景色は最高だ」という話を聞いたことがあるのだが、きっと10-FEETの3人は今、その最高の景色を目にしてテンションが高くなっているのだろう。曲を重ねる毎にメンバーは演奏の手に、そして声に、その表情に、どんどんと熱が入っていく。
長崎への、そして“Sky Jamboree”への想いを伝え、TAKUMAとNAOKIが感謝の気持ちを告げてDr./Cho.KOUICHIのMCで笑わせた後、「KOUICHIのMCでは無理やから助けてもらおう!」と東京スカパラダイスオーケストラのホーン隊を呼び込んで「HONE SKA」。軽快なビートと気持ちを高ぶらせるホーンの音色、クラップに包まれた最高にハッピーなひととき。続けて強力な編成のまま「hammer ska」へ突入。アグレッシヴな同曲は厚く太く重く突き刺さり、ホーンのソロセクションでも魅せに魅せまくる。さっきMAN WITH A MISSIONとのコラボで歓喜したかと思えば、今度はスカパラとの贅沢極まりないコラボ。とんでもない瞬間の連続に興奮しっぱなしだ。
「懐かしい曲いこか!」と「HEY!」で盛り上げ、コール&レスポンスではTAKUMAが「忘れたい嫌なこと、怒り、苦しみ悲しみ、妬み僻み、すっかりここに置いていこうぜ! 想いを込めろ!」と叫び、オーディエンスによる大きな大きなコールがこだまする。
「過去は変えられへんけれども、その意味合いをどういう風にしていくかは、お前ら次第、俺ら次第やな」と歌い始めた「風」は、心の奥底まで深く染み込んでいき、続けて鳴らされた「LITTLE MORE THAN BEFORE」のエモーショナルなメロディはとてつもなく心を震わせ、そして事前に募ったリクエストで1位だったという「ライオン」で泣かせる。攻撃的なライブチューンも、そしてぎゅっと鷲掴みにするミドルチューンも、もちろん楽しい曲もエモーショナルな曲も、10-FEETというバンドが持つ多面的な魅力を存分に味わい尽くす。やっぱりワンマンは特別だ。
ライブは後半戦に差し掛かり、KOUICHIの独唱で笑わせてからのダイバー続出「goes on」で稲佐山が揺れ、盟友・ROTTENGRAFFTYのNOBUYAとN∀OKIが加わった「AND HUG」ではとっくにピークに達していた興奮が更に最高値を塗り替える(※このときにN∀OKIが着ていたTシャツは10-FEETと一緒にやった鹿児島フェスティバル'97のイベントTシャツで、彼の10-FEETへの想いに胸を打たれて更にグッとくる)。
この日は普段あまり演らない曲も多数披露されたが、個人的に印象深かったのは「SEASIDE CHAIR」。切ないメロディとコーラスワーク、その切なさを吹き飛ばすような疾走感のあるサビ。10-FEETの“らしさ”が詰まった同曲に心がぐっと締め付けられる。
涼しく心地よい風が丘を吹き抜ける中、ライブが佳境に入った瞬間に始まった「1sec.」では無数のサークルが起き、叫ぶ者、腕を振り上げる者、飛び跳ねる者、ステージ前で宙を舞う者、モッシュやダイブでステージに向かってくる者など、会場を包む熱が上がり、埋め尽くす感情の濃度が限界を超える。TAKUMAが大きく息を吸って始めた「アンテナラスト」をみんなと一緒に歌い、空が薄暗くなってきた中で鳴らされた「SEE YOU」。人間味あふれるメロディが照明に映える。大自然の中で響く極上のサウンド。
TAKUMAがマイクを通さずに客とコール&レスポンスをした後、「心を上手に育てろ! 自分次第や! 純粋さも感受性も自分次第や! いろんなことに心がどんどん鈍感になっていきます! 嬉しいことにも感動にも悲しいことにも! でも自分次第! 今日は気分がのらへんとか今日は気持ちが落ち込んでいるとか、きっと心じゃなくて自分で頭で選んでるんや。そう思えるくらい強くなれたらいいなと思います。調子悪い日も天から降ってくるんじゃなくて! 自分で選んでる、そう思いたい! 負けへんぞ!」と叫んで始めた「太陽4号」。間髪入れずに鳴らされ、Dragon AshのKjが加わってステージ上とオーディエンスの心がひとつになり、客席を埋め尽くす無数のライトが壮観だった「RIVER」。
「ワンマンライブ、あともうちょっとになったけど、俺ら、もっと取り乱したい。もっと冷静じゃなくなりたい。もっと! もっと!」と始めた「蜃気楼」でTAKUMAは感情をあらわにし、「もっと! もっと!」と自らを鼓舞するように叫んだ「VIBES BY VIBES」で3人は気持ちをむき出しにする。オーディエンスは様々な感情を溢れさせ、ステージ上も客席も興奮がひしめく最高の連続。我先にとステージ前に身を投じるオーディエンス、拳をかかげ、笑顔で拍手をおくる観客に向けて、TAKUMAは大きな声で「ありがとう!」と言い「アンコールの時間、今日もらってるんやけど、その時間もここから続けてやります」と(もともと本編最後の予定だった)「ヒトリセカイ」で燃やし尽くす。
そして本編とアンコールの時間を省き、「あと4曲で終わりやで。俺もっと取り乱したいし」とTAKUMAが言い、7/24にリリースされることが発表になった新曲「ハローフィクサー」を初披露。洗練されたイントロ、エグいほどゴリゴリな展開から到達する予想外のキャッチーかつメロウなサビ。初めて聴いた瞬間に、心の奥にくっきりと感触が残る。彼らはまた名曲を生み出した…今まで何度も経験してきた、10-FEETの新曲に触れたときのワクワク感が充満する。
「鬱憤たまってるヤツ。トラウマ引きずってるヤツ、前に進みたいヤツ、抜け出したいヤツ、ストレスがたまってるヤツ、今から俺らが代わりに叫んでやるから見とけ!」とTAKUMAが叫び、そこにROTTENGRAFFTYの2人が加わって最強の布陣で「その向こうへ」。
残ってる燃料のすべてを燃やせとばかりに「あと2曲」と叫び「DO YOU LIKE…?」、そして最後は「CHERRY BLOSSOM」。数えきれないほどのタオルが空を舞い、会場の至るところに笑顔が溢れる最高の大団円かと思いきや、「お前らすげぇからおまけ」と予定になかった「back to the sunset」をその場で追加。残る体力を振り絞るようにみんなで歌い、暴れ尽くし、楽しみ尽くして終幕。
とにかく10-FEETの3人も、稲佐山に集まったオーディエンスも、全員が全員めちゃくちゃ楽しそうだった。とても贅沢で、ずっと興奮し続けて、ずっとテンションが高く、何度も胸が熱くなり、終始笑顔に溢れた特別なワンマン。次は“京都大作戦”。そして待望の新作『ハローフィクサー』。今年の夏も、10-FEETで熱くなりそうだ。
TEXT:Takeshi.Yamanaka