10-FEETの19枚目のシングル『シエラのように』。今作がリリースされた10/14より始まった“シエラのように” TOUR 2020-2021は、2部制という今までにない形で開催されることになった。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で2/26に政府からイベント自粛要請が出されて以来、多くのライブ/イベントが中止及び延期になっていく中、晩夏から秋にかけて少しずつ動き出してきたライブハウスシーン。その中で10-FEETの今回のツアーは大きなきっかけになるに違いない。少しずつ動き始めてきたライブハウスシーンを後押しするものになるに違いない。大きな期待に胸を膨らませつつ、同ツアー2箇所目のライブが開催される浜松窓枠を訪れた。(※ライブ写真は2020/10/14@京都MUSEのものです)
久しぶりにライブハウスを訪れた観客も多かったことだろう。入場時の検温や消毒、マスク着用はもちろん、大きな声を出したり、モッシュ、ダイヴは禁止。色々と制約があり、本来の形ではないかもしれないけれど、でもライブハウスでバンドが出す音を全身で浴びるのは何にも代えがたいもの。浜松窓枠のフロアには間隔をあけて印が付けられており、ソーシャルディスタンスを保ちつつ観客が入場していく。いよいよその時がきた。
客電が落ち、拍手が沸き起こる。この瞬間をどれだけ待ちわびたことか。SE終わりで客席からの拍手はひときわ大きくなり、暗闇の中でVo./G.TAKUMAがギターをゆっくりとかき鳴らす。1曲目は「その向こうへ」。拳を振り上げ、手を叩き、歌えずとも全力で3人と一緒にライブするオーディエンス。まるで熱い血液が全身を駆け巡るように、ライブの感触が身体中に行き渡る。
「SHOES」の軽快なリズムが鼓動を揺らす。心の中で叫び、サビを3人と一緒に歌う。Ba./Vo.NAOKIが鳴らす旋律は心地よく、KOUICHIが繰り出すリズムに血が騒ぐ。立て続けにTAKUMAが歌い始めたのは「あなたは今どこで誰ですか」。10-FEETらしさ満載の温かいメロディと痛快なビートに合わせ、観客は身体を揺らして小さく飛び跳ねる。コンパクトな同曲を一気に走り抜け、次にNAOKIがベースをかき鳴らして始めたのは「彗星」。TAKUMAの歌とKOUICHIのコーラスのハーモニーで魅せ、次はTAKUMAの歌とNAOKIのコーラスが交わって歌の生命力が増幅する。続けて鳴らされた新曲2曲は、新曲と思えないほどライブの馴染みが良く、会場全体の一体感が増していく。
「久しぶりのライブの人、手をあげて〜」というTAKUMAの声に会場からは多くの手があがる。「今日は色々制限あるけれど、こうやってライブできるだけで俺らすごく嬉しいです。色んな人の考え方がある中で、今日ここに来てくれている時点で伝わってるし、心の中で思い切り歌ってくれてるやろうなって伝わってる。深いところまで一緒に噛み締めて、一緒に楽しめたら…」と言葉を続けて「STONE COLD BREAK」へ。オーディエンスは力強く腕を振り上げ、ステージ上の熱に応える。声は出せないけれど、暴れることは出来ないけれど、会場の温度がだんだん上がっていく。ステージの3人だけではなく、会場に居る全員が熱くなっている。
そして「心の中でもっと!」とTAKUMAが叫んで「ハローフィクサー」へ。ステージから放たれる爆音を至近距離で浴びる快感。ライブハウスで繰り広げられる熱狂。自然と鼓動は高くなり、熱いものがこみ上げてくる。
TAKUMAは「ライブはやっぱりすごく好きで、なんとかしてまた前進させたいと思ってこういう形を取ったんです。“なんでここまでせなあかんねん?”っていう制限もあるんですけど、やっぱりみんなが感染しないように、みんなが安全に楽しめるように、今回やってます。精神的な部分でもみんなでお互い協力しあって、ロックのカルチャー全体がまた進んでいくんやと思います。時間がかかるかもしれないけど、いろいろ良くしていけたらなって思います。色んな考えがある中で、色んな人が居る中で、今日ここに来てくれてるのが嬉しいし、ありがたいです」と感謝の気持ちを告げる。
「諦めが悪いところがロックの良さです」と言って始めたのは「夢の泥舟」。ゆっくりとした幕開けにゆらゆらと身体を揺らしながら聴き入り、普段は声を出して歌う箇所は拳を振り上げてライブする。曲が終わると会場からは大きな拍手が沸き起こり、TAKUMAは「ありがとう。あと3曲…」と言ってあのリフを鳴らす。「RIVER」だ。何度も何度もライブハウスで聴いてきた同曲は、久しぶりのライブハウスで殊更に染みる。声を出せないオーディエンスの代わりにTAKUMAが拳を振り上げて叫ぶ。
そして新曲「シエラのように」。同曲は、言葉のひとつひとつが胸の奥に強く響く。切なさや寂しさ、そして温かさを歌ったこの曲をライブで聴くのは2回目だが、今まで何度も聴いてきたような不思議な感覚に包まれる。新しくて懐かしく、切なくて温かい。この曲はきっとこのツアー以降も定番になることだろう。
そしてライブは佳境に。TAKUMAが「みんなありがとう、また会おうな。また明日から元気もりもりでいこう! 落ち込んだりもしたけど、元気です僕は」と言い、再び「みんなありがとう、またな!」と最後の曲「ヒトリセカイ」へ。同曲で観客が鳴らした手拍子は今まででいちばん強くて大きく、みんなが10-FEETのライブを心から楽しんでいるのが伝わってくる。TAKUMAは客席を左右見渡し、1人1人の目を見て笑顔で「愛してるぞ! 好きやぞ!」と叫び、NAOKIは汗を輝かせながら脚を大きく開いてベースを奏で、KOUICHIは力いっぱいリズムを刻む。同曲の歌詞にあるよう、「ありがとう」と「さよなら」をひとつにしたような気持ちでライブは終了。色々な制約がある中で、限られた時間の中で、全員が全力で精一杯ライブを楽しんだ約50分。やっぱり10-FEETのライブはめちゃくちゃ楽しかった。
浜松窓枠に色とりどりのTシャツに身を包んだ観客が入場する。10-FEETの様々なツアーTシャツ、“京都大作戦”など色んなイベントTシャツ。それぞれがそれぞれの10-FEETの記憶と想い出を身にまとい、この日このライブハウスに来たのだろう。客電が落ち、SEが高らかになって拍手が沸き起こる。
本日2回目のライブ。真っ暗なステージに3人が登場し、TAKUMAが「hammer ska」でライブをスタートさせる。3人の姿がライトで照らし出され、タイトかつヘヴィな爆音が降り注ぐ。一気にフルテンションへと駆け上がるような同曲の攻撃的なサウンドに感情が掻き立てられる。今までずっと我慢してきたものが解き放たれる。密度の濃い、熱い瞬間が始まった。
「今日はもう全員、ビンビンにして帰すから。任せとけ俺らに。俺らに…任せとけ!」というTAKUMAの言葉にたくさんの拍手が返されて「蜃気楼」へ。NAOKIとKOUICHIが繰り出すビートに触れ、楽しそうに身体を揺らすオーディエンス。一緒に歌いたいのをぐっと我慢し、思い切り腕を振り上げる。みんなが思い切りライブを楽しんでいる。
TAKUMAが指差したNAOKIがリズミカルにベースを鳴らす。新曲「彗星」だ。同曲の軽快なビートで3人がテンションを上げていく。NAOKIはKOUICHIと音を合わせてジャンプし、今度はTAKUMAがKOUICHIと視線を合わせてギターをかき鳴らす。更に「あなたは今どこで誰ですか」と続け、一心不乱に鳴らす3人に会場の温度はぐんぐんと上昇する。
そして次は「ハローフィクサー」。迫りくるような音の衝撃に身体中の血が熱くなる。サビでは3人が練り上げた極上のグルーヴに酔い、オーディエンスは身体を揺らしてノリノリ。間奏のギターソロではクラップが沸き起こり、みんなで腕を振り上げながら心の中で大合唱。10-FEETと一緒にライブする楽しさを満喫する。
MCを挟み、「ツアーはこの先も続いていくし、ガイドラインもどのように変わっていくかわからないけど、ツアーを開催している間はみんなの…ロックファン、ライブファンの代表としてこの先も行ってきます!」とTAKUMAが言って「RIVER」へ。身体と記憶に染み付いた同曲、オーディエンスはそれぞれがそれぞれの心の中で大合唱していることだろう。楽しそうに身体を揺らす者、腕を振り上げる者、頭を振る者、食い入るようにステージを見つめて聴き入る者、頭上で手拍子をする者。それぞれが思い思いにライブを味わい尽くす。やはりライブハウスは自由だ。
曲が終わり、ギターをかき鳴らしながら言葉を重ねるTAKUMA。シリアスな表情で「負けない、音楽、笑うこと…勝負や」と続けてそのままの流れで「その向こうへ」に入るかと思えば、ワウペダルの不調で一時中断。そんなトラブルも「いつもやったらそのままガーッといくけど今日は隠さへん」と笑いで乗り越え、仕切り直して「なんちゅう始まり方や(笑)」と笑いながら「その向こうへ」に突入。
そんなトラブルが起こるのもライブならでは。曲が始まってしまえば会場の熱は一気に上がり、TAKUMAの歌に合わせて腕を振り上げ、身体を揺らし、飛び跳ねる。NAOKIは気持ちよさそうにベースを弾き、KOUICHIは緩急あるプレイで魅せる。
間髪入れず新曲「シエラのように」へ。一気に聴く者を飲み込んでいく不思議な吸引力を持った同曲は、最初のワンフレーズからぐっと胸を掴まれる。間奏ではTAKUMAがステージ最前まで身を乗り出し、エモーショナルなフレーズを鳴らす。
そしてTAKUMAは叫ぶように言葉を重ねる。「世界が終わってしまう前に、あなたと会えなくなる前に、いつ会えなくなるかわからんから、どんな理由で会えなくなるかわからんから、限られた時間、誰もが最後は、人間誰もが最後は死んでしまう。年取って。なぁ、みんな最後は死ぬねん寿命で。致死率100%や、だから自分で死ぬことあらへん。色んなことがあるかもしれないけど、俺はまたみんなとライブがしたいなと思ってます」と「ヒトリセカイ」へ。
想いを爆発させながら歌うTAKUMA。モニターの上でベースを鳴らすNAOKI、コーラス以外のパートもオフマイクで感情豊かに歌うKOUICHI。ステージの熱量は当然客席にも伝わっていて、オーディエンスは今まで以上に激しく強く腕を振り上げる。
「ありがとうございました。最後の曲です」とTAKUMAが曲名を全力で叫んだ「VIBES BY VIBES」。NAOKIは激しく身体を揺らし、会場のテンションがぐんぐん上がってみんなでジャンプ。3人も、観客も、残る力を振り絞って全力疾走。
「また必ず生きて会いましょう。またみんなとライブが出来たら嬉しいです。ちょっとずつ進んでいきましょう。ありがとうございました!」とTAKUMAが叫び、NAOKIとKOUICHIも客席に感謝の気持ちを告げて終演。
始まるまではコロナ禍でのライブがどのようになるのか、正直に言うと不安な気持ちがあったかもしれないが、いざライブが始まってしまえば、いざ3人がステージで音を鳴らせば、紛れもなく10-FEETのライブだった。声は出せないけれど、観客1人1人の想いは会場に充満していたし、オーディエンス1人1人が放つ熱い想いはステージの3人に伝わったに違いない。ツアーはまだ始まったばかり。新曲「シエラのように」がこのツアーでどのように成長していくのか、そして10-FEETがこのツアーでどのように成長を遂げるのか。これからの彼らが更に楽しみになる1日だった。