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光と闇の双方向に振り切った新作ミニアルバム 新生・鴉、第二章の幕がここから開いていく

 今年3月にメンバーチェンジを経た新生・鴉が、現編成での第1弾となるニューミニアルバム『感傷形成気分はいかが』をリリースした。新ドラマー・榎本のアイデアも取り入れつつ、新たなことにも挑戦したという今作。タイトルにも表れているような強烈な毒を秘めた“闇”の部分を深めた曲もありつつ、いまだかつてないほどキャッチーに突き抜けたM-6「列車」では相反するような強い“光”も感じさせる。収録された全6曲は今までと変わらない芯を持ちながらも、その先へと進もうとする彼らの意志を示しているかのようだ。10月には東名阪でMERRYとの対バンツアーを予定するなど、意欲的に新たなフィールドを切り開いていこうとしている鴉。変化を恐れず、次なる“未知”との出会いを求めて歩き続ける3人に今の心境を訊いた。

Interview

「カッコ良いと思える変化ならどれだけ変わっても"鴉"というモノであり続けるし、そこは自分を信じているんです」

「今までも自分が予想していないことばかり起きて、そこに対応していった結果でしかないと考えたら"どれもそんなに大きなことではないな"と思えるようになったというか。だったら、そういうことをもっと派手にやってもいいんじゃないかって」

●新メンバーとして榎本くんがドラムに入ったわけですが、以前から知り合いだったんですか?

近野:秋田の後輩という感じなんですけど、彼は東京や大阪に行ったりオーストラリアに行ったりと色んなところをまわる放浪癖があって。たまたま鴉のツアーで榎本が当時やっていたバンドと対バンすることがあって、その時に観たら秋田でやっていた頃よりもパワーアップしていたんですよ。音楽的にも成長していたし、良いドラマーだなと改めて思ったので誘いました。

●加入したのはいつ頃?

近野:今年の3月からです。ドラムが榎本に変わって、最初は演奏が合わないのは当然だと思っていたんですよ。彼はとにかく派手なドラミングをするイメージがあったので、グルーヴはさておき自分たちがやりたいことにまず重点を置いてやっていこうかなと。

●自分たちがやりたいことというのは?

近野:鴉をサウンド面でもっと開けていて、激しいモノにしたいっていう想いがあって。その上で、彼に加入してもらったんです。

榎本:加入する前から、近野さんとはたまに電話で話したりしていたんです。そういう普通の会話の中で急に誘われたので、ビックリはしましたね。でも前から知っているバンドだし、音のイメージもわかるから割とすんなり入ることは出来ましたね。

●今までの"鴉"のイメージはわかっていた。

榎本:でも僕は混ざるタイプのドラマーじゃないし、パンチ系のドラムというか自分の音だけでもある意味で完結しちゃうタイプだとはずっと思っていたんです。だから、ここまで自分たちで音楽的なモノを築いてきた人たちの中に、僕が入ることでイメージを壊しちゃわないかなっていう恐怖心はあって。

近野:彼が気にしているようなことはもちろんわかっていたんですけど、ドラムに関してはバンドサウンドの中から1つ出ているような感じが俺は好きなんです。バランスが崩れる寸前みたいなところをやりたいという想いもあって。まずは榎本がパワーのあるドラムを叩くっていうことをポジティブに捉えて、あとは自分が弾くしかないっていう感じでしたね。

●そういうスリリングな感じもロックの醍醐味というか。

近野:今みたいに3人のグルーヴがちょっとずつ合ってきた時に、テンションを上げて"バコーン!"とドラムを叩かれると自分がロックンローラーになれたような妄想に浸れるんですよね。

一関:俺も昔から知っていたし、榎本がどんなドラムを叩くタイプかもわかっていたから心配はしていなくて。実際にすごくやりやすいし、意識して合わせようとしなくても同じテンポでグルーヴを転がしていけるんですよ。そのおかげで、今まで目を向けていなかった部分も見れるようになった。

●アレンジでも榎本くんが加わったことで、新しいアイデアが出たりした?

近野:M-3「春」に関しては、なぜか一関と榎本から派手なリフのアイデアがたくさん出てきたんです。3人で見せ合いっこみたいなのもちょっと恥ずかしいので、ギターはフレーズを減らしてバッキングとしての音色を活かすアレンジにしてみました。そういうのも今まではやったことがなかったですね。

●まるでメタルコアのようなアレンジになっていますが(笑)。

近野:榎本がメタルコアみたいなドラムを叩いてきたので、ギターも一音下げてドロップDチューニングにしたんです。今まではそうやってメタル好きな部分を前面に出すのが恥ずかしいと思っていたんですけど、ドラムがここまでやってくるならギターもそっちに振り切るしかなくて。「春」っていう明るいイメージのタイトルに対して、こういうサウンドというのもひねくれていていいかなって。

榎本:スタジオ作業の合間に"こういうことをやったら笑えますよね"っていう感じで試しにやってみたアイデアが全部、採用されちゃった感じです。他にもそういうアイデアから何ヶ所かフレーズが加わっていった曲はありますね。

●新しいアイデアを入れることで、今までの"鴉"というイメージを壊すことに恐れはなかった?

近野:そもそも守っていこうとすら思っていないですからね。カッコ良いと思える変化ならどれだけ変わっても"鴉"というモノであり続けるし、そこは自分を信じているんです。榎本のドラムを見ていると彼の持ち味を活かしたくなっちゃうし、たとえ今まで通りやろうとしてもちょっとずつ変わっていくモノなんですよ。

●カッコ良いと思える方向なら、変化も気にしない。

近野:それに俺が作ってきたデモを渡しても、榎本はあんまり完コピしてくれないんですよ…。

榎本:そんなことないつもりなんですけどね。

近野:デモとはフレーズがすごく変わっているので、アレンジしてくれたのかと思って訊いてみたら「こう叩いていましたよ」と言われるんです。きっと彼にはそう聞こえているんでしょうね。そういう部分で"バンドはこうやって出来ていくんだな"と今さら思ったりもするし、バンドらしさっていう部分に少しずつ近付いている気はします。

●M-6「列車」みたいに突き抜けて爽やかな曲も今まではなかったですよね。

近野:曲自体は前からあったんですよ。最初に曲が出来た時は"これを俺が歌ってしまってもいいのかな?"と思うほどのキャッチーさがあって。良い曲だなとは思っていたんですけど、当時は自分の中にある"鴉"っていうサウンドのイメージとは違う感覚があったのでしばらく置いておいたんです。

●その曲を今回収録した理由とは?

近野:5曲目までを作ったところで何となく、それだけだと面白くないなと思ったんですよ。アルバム全体を見た時に面白みがあった方が良いと思って、この曲を入れることにしました。でも既に今作を聴いた人からは、自分が意図していたイメージと違う印象を言われることが多くて…。

●というのは?

近野:"聴きやすい"って、よく言われるんですよね。確かに「列車」はそういう曲なんですけど、他の曲はそういう部分を意識していないから。歌詞にも"こういうことを言いたいんだけど、言っちゃダメだよな"っていう感じで自分の中に封印していた言葉を今回はすごく入れてあるんです。そこへの後ろめたさもありつつ、言ってやったことに対する充実感も自分ではあったりして(笑)。

●確かに"毒"を感じる歌詞は多い気がします。

近野:今回の歌詞は自分の中にある毒を抜くために、それを放出したという部分があるんですよね。今までは曲に勢いを出さなきゃいけないっていうプレッシャーを自分にかけていたので、叫びを放つような歌詞を書いていたところもあったんです。でも今回はそこにも遠慮なく自分のイメージした音に正直になって、描くように曲を作ろうと思って。だから、歌やギターについても落ち着いて録れた。

●それが歌や演奏にも出ている?

近野:今まではライブ感を意識していたから、ヘッドホンのボリュームをすごく上げて音を聴きながら歌を録っていたんです。確かにテンションは上がるんだけど、今の自分はそういう環境で歌を録る心境じゃないのかなと思って。だから今回はヘッドホンのボリュームをすごく小さくして、わざと自分の歌が聞こえるような状態でレコーディングしたんです。そしたらすごく集中出来て、本当に自分の声を聴きながら歌えたんですよね。今までは録れなかった声の輪郭みたいな部分も録れているし、音源を作るということにすごく集中出来た作品だと思います。

●M-1「幻想蝶」でささやくように歌い出す部分も、今までだったら出なかったアイデアかもしれない。

近野:もし前と同じ環境でやっていたら、今回の曲はどれも出来なかったですね。ライブで再現は出来ないんですけど、逆に音源でしか聴けないっていうプレミアム感があってもいいのかなって。それは最初から意図していたわけではなくて、レコーディング中にそういう心境に変わってきたんです。

●前作の1stフルアルバム『未知標』を作り終えた後に、次の方向性が見えていたわけではない?

近野:見えていなかったですね。何かが生まれてくるのを待っている状態だったと思います。とりあえず初心に帰ろうとは思っていたんですけど、そういう初期衝動的な部分は前作で使い果たしたところがあって。そこで一度、自分が落ちちゃったんですよ。でもそういう部分を今回は音にしていきたいなと思う部分もありました。

●落ちている自分をありのままに音で表現しようとした?

近野:その"ありのまま"っていうのが毒の部分になる時期があったのかなと。

●たとえば「幻想蝶」の歌詞に出てくるような、都会への想いや感情は自分の中にもある?

近野:最近はよく行き来しているので東京にいる意味みたいなモノは感じていますけど、憧れはないですね。俺はそもそも外に出るのが好きじゃないので。

一関:僕も周りが就職や進学で上京していくので、ちょっと興味はあったけど…というくらいですね。

●2人とも東京への憧れはほぼなかったのに比べて、榎本くんは放浪癖まであるわけですが(笑)。

近野:そういう部分が自分に欠けているとわかっているからこそ、自分とは真逆の人と一緒にやっていきたいという気持ちはあって。

●この曲に関しては言葉の端々に、エロティックな響きもある気がして。"きつく縛り上げる"とか"なりません"とか…。

近野:この曲はエロいのかもしれませんね。東京のイメージを思い浮かべた時に、夜の世界が持つ卑猥な部分もあるなと思って。

●個人的にきつく縛り上げるのが好きとかではない? (笑)。

近野:どうでしょう…? ロックバンドをやっている人間として、そういうサディスティックな部分もあるのかもしれないけど…。

●そこは秘密ということで(笑)。M-2「居場所」の"感傷形成気分はいかが"という歌い出し部分も、すごく毒のある言葉だなと思ったんですが。

近野:ケンカを売っている感じなのかもしれません。今ってネット上の書き込みとかを見ていると病んでいる人が多い気もするけど、本当に悲しんでいるのか演技しているのかは文字からだけじゃわからなくて。そこに対して"感傷を形成して気分は良いですか?"と問いかけている歌詞ですね。

●M-4「ココニアル」は「ココニナク」(シングル『風のメロディ』収録)と対になっているんですよね。

近野:どちらも喪失感を歌っているのは同じなんですけど、なくしたモノに対する解釈が違うというか。最初は「ココニナク」があるから逆の「ココニアル」もあっていいんじゃないかっていう軽い気持ちで作り始めたら上手く進んでいって、形になったという感じですね。

榎本:「ココニナク」は自分の中から実際になくなったモノのことで、「ココニアル」はそう思っていたけど振り返ってみたら自分の中にあったモノのことを歌っているのかと思ったんだけど…。

近野:…じゃあ、そういうことにしよう。

●乗っかった(笑)。

近野:「ココニナク」の後に「ココニアル」が来ることによって、"あの人はなくなっちゃったけど、自分はここにある"っていう流れになるんですよね。でも順番を逆にすると"ここにあるんだってすごく強がっているけど、結局はなくなったことへ帰って行ってしまう"っていう流れになって。順番を変えることでストーリーが変わるのは面白いと思います。

●そういう遊び心も入れてある。今回は新しいことにも色々と挑戦しているからか、作品全体としてどこか"開けている"感覚があります。

近野:正直にはなった気がしますね。歌詞で毒の部分を出したのもそういうことで、以前は少しでも前向きでいようとする姿勢がどこかにあったんですよ。だから今までの曲でも落ちるだけの暗い歌詞のモノは気に入っていなかったんですけど、それが許せるというかむしろ魅力的にすら思えてきて。「列車」みたいなキャッチーすぎる曲も許せてきたりして、どっちの方向にも正直になれたのかなと思います。

●M-5「曇りなき私」にはバイオリンやピアノも導入していますが。

近野:これも正直になれたからこそですね。前までならバイオリンのイメージが浮かんだとしても実際には入れなかったんですけど、今はそういう思い付きの重要さに気付いたというか。

●sgt.の成井(幹子)さんに参加してもらった経緯は?

近野:知り合いにバイオリンを弾ける人がいなかったので、ディレクターに紹介してもらったんです。そこからsgt.の音楽も聴いて、今まで知らなかった新しい世界も広がりましたね。

●リリース後にMERRYとのWレコ発ツアーをするというのも、新しい世界を広げる試みの1つなのかなと。

近野:ライブを誰かと一緒にやるんだったら、まず外側から見た時に面白くないとダメだなと思って。最初にMERRYのガラ(Vo.)さんが僕らのライブを観てくれて"一緒にやりたい"と言ってくれていると聞いた時もうれしかったし、そこから僕らもライブを観させてもらったらすごくカッコ良かったんですよね。確かにバンドとしての系統は違うかもしれないけど、だからこそ"一緒にやったら、どうなるんだろう?"っていう面白さがある。

●榎本くんを入れたこともそうですけど、タイプが違うモノと交わることで起きる変化を恐れなくなったのでは?

近野:恐れないというよりも、"変化した"とあまり思わなくなったんですよね。今までも自分が予想していないことばかり起きて、そこに対応していった結果でしかないと考えたら"どれもそんなに大きなことではないな"と思えるようになったというか。だったら、そういうことをもっと派手にやってもいいんじゃないかって。

●自然とそういう気持ちになれたことが今作にも表れている。

近野:スケジュール的な余裕もあったし、それによって細かいところも1つ1つ詰められたというのはありますね。榎本は後から入ったので、そんな余裕はなかったでしょうけど。

●収録曲はどれも前作のリリース以降に作ったんですか?

近野:前からあった曲もありますけど、「居場所」「春」「曇りなき私」が前作以降に作った最新の曲ですね。この3曲に関しては自分の中であまりデモの段階で作り込まず、全てアコギから作っているんですよ。だから「居場所」では、初めてスタジオでアレンジを考えながらやったりもして。

●初めてのアレンジ方法も取り入れている。

近野:そういうやり方だと出来ないっていうのだと悔しいから、自分のアレンジ能力に対する挑戦的な部分もあって。そうやって他の2人に任せられる部分が増えたら、自分自身も楽になるし。

一関:デモの段階でアレンジされている曲でも、前から自分なりにフレーズを変えたりはしていたんですよ。そこよりも今回は榎本が入ったことで、バンドとして1つになろうっていうことを僕は特に意識していましたね。

●メンバーも変わったところで、今までに作ってきた"鴉"というイメージを良い意味で壊していくような気持ちも今回はあったのかなと。

近野:壊すというよりは、今までやったことがないモノに挑んでいくというか。たとえば今作の前半2曲はミドルテンポのビートなんですけど、こういう今までにやったことがないモノから単純に手を付けたくなるところはあって。"鴉はこうです!"っていうような状態がやがて訪れると考えたら怖いんですよ。だから今も次のネタを絶賛探し中ですね。

●まず今作からまた新たな1歩を踏み出したと。

一関:歌詞に注目するも良し、新メンバーが加わったリズム隊の絡みに注目するも良し、とにかく今作を聴いて新しい"鴉"を感じてもらえたらうれしいです。そして、MERRYとのWレコ発ツアーにもぜひとも足を運んでください!

榎本:以前、MERRYのライブを観に行った時に「伊勢佐木町ブルース」(青江三奈)をカバーしていたんですよ。単にメタリックな部分だけじゃなくて、そういう和メロ的な部分でも重なるところがあるのを感じて気に入ってくれたんだなと思うとうれしくて。そこも含めて両バンドの間にどんな化学反応が起こるのかを楽しみにして、観に来てほしいですね。

近野:自分たちでもどんなライブになるのか、すごく楽しみです。今作は自分の中にあるモノを吐き出すだけ吐き出して作り上げた分、俺の思い入れとリスナーの印象にズレが生じる可能性が高いと思うんです。どちらかと言えば、今までは自分の狙いが的中している場合の方が多かったと思うから。リスナーの反応がどうなるかわからないっていうのは、自分の中では久々の感覚で楽しみなんですよ。そういう意味でも、注目の作品になったんじゃないかな。

Interview:IMAI

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